日記録0杯, M.S.SProject, 平沢進, 日常, 筋肉少女帯

2017年4月2日(日) 緑茶カウント:0杯

サイト創設十四周年を迎えてアンケートを実施し、いただいた回答を眺める中でふと気付いた。今でこそ日記サイトとして定着しているが、そもそも始まりはイラストの公開を目的にしていたはずで、オリジナルイラストや当時はまっていた漫画の絵の他に趣味で描いていた昆虫のイラストを公開していたが、もしや今は己が昆虫を描いていたことを知らない人の方が多いのではないか? と。

と言うことは。本来メインコンテンツだったものを今公開したら、それだけでエイプリルフールとして成り立つのではないか? 結構びっくりされるんじゃないか?

という思いつきのもと企画を決めた。架空の人物が採集した架空の昆虫を紹介するサイトにしよう、ということで昆虫のモチーフを音楽に決め、誰をどの昆虫にするかを考え、絵に起こし、設定を考え、サイトを作った。架空のサイトの管理人は散歩と音楽が好きな人間ということで「Mr.Walkman」と命名。もちろん携帯音楽プレーヤーが名前の由来である。

思いついたは良いが、間違いなく今までの企画で一番大変だった。昆虫の絵に時間と労力がかかるのである。まずコピー用紙にあれこれデザインを考えつつ昆虫の絵を描き、いったんそれをコピーする。そしてコピーした紙の裏を鉛筆で黒く塗りつぶし、水彩用の紙に乗せて上から線をなぞってトレースする。トレースした線を若干整えたら下塗り。徐々に色を重ねて完成。

企画を思いついたのが二月末。線画が出来たのが三月十日あたりで、以後休日はライブに行く以外はひたすら机に向かって色塗りをする日々が続いた。そうして絵が完成したのが三月三十一日の二十一時。そこから急いで絵をスキャンして、トリミングして、色調補正して原画の色合いに近付け、ダカダカとキーボードを叩いてサイトを作った。流石に日付が回って即公開は出来ず、二時間遅刻したがまぁ頑張った。頑張ったよ……!

あとはそれぞれの絵や設定について語っていこうかな。
ちなみに各画像をクリックすると嘘サイトの該当ページに飛ぶ。よろしければ。




オオヒビワレクワガタオオヒビワレクワガタ(モチーフ:大槻ケンヂ)
獲物をがっつり捕らえてムシャムシャする虫は違うな、ということで、格好良くて強そうな見た目をしているけど主食は樹液なクワガタをチョイス。オーケンの顔面のヒビを描きたかったので、大顎と足でヒビを表現した。格闘観戦が好き、という設定はプロレスや道場見学を趣味としているところから。



ウチダモノカミキリウチダモノカキミリ(モチーフ:内田雄一郎)
内田さんは難しかった。黒い触角は内田さんの髪の毛を表現し、黒の紋はサングラス、背中の紋は内田さんの物販「ウチダモノ」に。「地に響くような低い声で鳴く」設定はベースの音を表した。



タイヨウオイスズメバチタイヨウオイスズメバチ(モチーフ:本城聡章)
おいちゃんも難しかった。おいちゃんと言うと自分はドピンクのスーツのイメージが強いのだが、常にその衣装を着ているわけではないので共通認識にはなりえないのである。悩んだ結果、おいちゃんの衣装に多い原色と黒の組み合わせをチョイス。また、腹部の黒と白の配色はおいちゃんのギターをイメージ。
「タイヨウ」はおいちゃんの太陽のように眩しい笑顔から。



レースシロタテカマキリレースシロタテカマキリ(モチーフ:橘高文彦)
図鑑らしく、上からのショットで統一したかったものの、カマキリを上から描いてもつまらないのでレースシロタテカマキリは横から描いた。
イメージはすぐに湧いたものの、レースを描くのに苦戦。三百円ショップや靴下専門店を回り、網タイツや黒レースの靴下を探し回った挙句、東急ハンズの手芸コーナーで黒レース単体を購入して事なきを得た。



ヒラサワスズメガヒラサワスズメガ(モチーフ:平沢進)
ヒラサワといえば黒尽くめの衣装。とはいえ、ただ真っ黒じゃつまらないな、ということで、進化と変化を続ける彼の様相を表したいと思い、芋虫をチョイス。スズメガにしたのは名前が似ていることと、自分自身がスズメガスキーだから。
「幼形成熟幼虫」の設定は楽曲「幼形成熟BOX」が発想のもと。「MODEL ROOM」「ENOLA」「BIG BROTHER」はそれぞれのアルバムジャケットのデザインをモチーフにしている。「STEALTH MAJOR」が黒味がかった赤なのは、黒では隠れきれない情熱と溢れる魅力を表現した。



シッコクノダテンシモドキシッコクノダテンシモドキ(モチーフ:KIKKUN-MK-II)
漆黒の堕天使的存在ということは、漆黒の堕天使のような存在ということだろう、と解釈。そこでまず、「シッコクノダテンシ」という架空の毒蛾が存在することにして、その擬態をしている設定にした。
翅の色合いはKIKKUN-MK-IIのギターから。黄色の紋はギターのつまみをイメージしている。



ウェイウェイピルピルゼミウェイウェイピルピルゼミ(モチーフ:FB777)
「ぴるぴるちゅーん」という歌声が頭に残っていて、それがいつの間にかセミの鳴き声に変化したのですぐにセミに決定した。黒の紋はサングラス、その下の白は口と十字架をイメージ。また、翅はジャケットのつもりで描いた。



ハンニャアカアリハンニャアカアリ(モチーフ:あろまほっと)
「あろまさんぽ」から、よく歩く昆虫が良いな、ということでアリをチョイス。「あろまさんぽ」で日本全国を旅しているなら巣とは無縁だろう、ということで設定を練った。こういう設定を考えているときが一番楽しい。
般若はあえてうっすら見える程度に留めた。実際にこのアリがいたら何らかの伝承が生まれているかもしれない。



エオエオトンボエオエオトンボ(モチーフ:eoheoh)
告白すると、実はずっと前から「eoheohさんをモチーフにしてトンボを描きたい……」と思っていた。あの人を見るたびにトンボを連想していた。よってここで描けて満足である。
ちなみに今回一番苦労したのがエオエオトンボの翅である。すごく大変だった……。



以上。他にも水戸華之介モチーフの「ミトハナバッタ」、町田康モチーフの「マチダマチゾウムシ」といった構想があったが間に合わなかった。しかし久方ぶりに虫を全力で描けたので楽しかった。また時間を作って虫の絵も描いていきたいものである。

ところで今回の「MR.WALKMANの昆虫図録」で、エイプリルフール企画を始めてから十年目になったようだ。我ながらよく続けているものだ。来年も余裕があればやりたいものだ。


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更新履歴

エイプリルフールということで、トップページのリンクを踏むと嘘サイトに飛ぶ仕掛けにしていましたが、日付が変わったので元に戻しました。
今年は「音楽をモチーフとした架空の昆虫紹介サイト」というテーマで「Mr.Walkmanの昆虫図録」というものを作りました。楽しかったものの今までで一番大変でした。

「Mr.Walkmanの昆虫図録」の跡地はこちら。
あとがきはこちら。


過去のエイプリルフール跡地はこちら。
※古いものは特に、正常に表示されない可能性があります。ご了承ください。
2016年「アニメだよ!筋少さん松り」
2015年「筋肉少女帯の歌詞世界の品々を販売する通販ショップ」
2014年「炊き込みご飯が食卓の主流になりますように」
2013年「鬼畜botの部屋」
2012年「おなかをすかせたおとこのこ」
2011年「リア充でサイボーグなアキヒトの超★日常」
2010年「湯飲み専用通販ショップ・湯飲み屋本舗」
2009年「創作詩サイト・プレディカドール」
2008年「スーパーフラフープを応援する会」
2007年「巫女萌えサイト・絡み巫女」



未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

いつか遠足三部作をライブで観てみたいものだとぼんやり夢見ていた自分に教えたい。2017年にその夢が叶うよ、と。
そのうえで思う。あぁ、まさか2017年に、猫のテブクロのライブが観られるなんて、と。

完全再現と言うことで、トレードマークの金髪を黒く染めた橘高さん。今では度の合わなくなった円いサングラスをかけた内田さん。白の手袋を指にはめ、神父を彷彿とさせるかつての衣装に身を包んだオーケン。しかし当時そのままではない。内田さんの髪はまっすぐに伸び、オーケンは短くも美しい銀髪だ。橘高さんは炭水化物の制限を自身に課して頑張っている。発売から二十八年の月日が経ち、メンバーは年齢と経験を重ねた。そしてこの会場にはかつてを知る人と、知らない人が集まって皆一様にステージを見つめている。

「猫のテブクロ」はエディの脱退によりツインギターバンドとなった筋肉少女帯のデビュー作とも言える代物で、カバー以外のほとんどを内田さんが作曲した筋少の中でも異色のアルバムである。新たな筋少として活動を進めるうえでの試行錯誤がこの一枚に詰まっていることが感じられ、その試行錯誤を乗り越えた結果が今の筋肉少女帯である。そしてそれを体言するかのように、一曲目から怒涛のメタル「イワンのばか」に始まり、カーネーション・リインカーネーションに繋がる攻めの姿勢!

あぁ、やはり今は1989年ではない、2017年なのだ!! ますます嬉しくなって噛み締めてしまう。

MCの後のブロックでは意外なところで「みんなの歌」と「吉原炎上」。「吉原炎上」がここで聴けたのは嬉しい。最近の曲だがともすれば忘れられているのではないか、と危惧していたところである。これの「女衒も天仰ぐ」ってところの歌い方がたまらなく好きなんだよなぁ。

「吉原炎上」の後、橘高さんがボーカルをとる宣言をし、オーケンがステージからはけていく。とすると、「おわかりいただけただろうか」か「小さな恋のメロディ」かな……と予想を立てつつ見守っていると、予想だにせぬ一曲が始まり歓声と奇声が湧き起こった。

まさかの「俺の罪」である。橘高さんが。あのメタルの橘高さんが、俺の罪!!

しかも! 内田さんパートにて、内田さんが「歌うよ歌うよ~」とアピールしていたら……下手から聴こえる声! 驚くそぶりを見せる内田さんの視線の先には……マイクを握り分厚いボーカルを響かせるおいちゃん!!

これはびっくりした。とてもびっくりした。そして面白かった……。あの「俺の罪」の歌詞を歌う橘高さんは実にキュートであった……ギャップがあるだけに破壊力がすごかった。

ちなみにこの後、「俺の罪」の歌詞が大好きな長谷川さんにオーケンが「大槻内田版と橘高本城版……どっちが……」と問いかけるシーンがあった。長谷川さんは恐らく「どっちが好き?」といった質問が来ることを予想していたのだろう。ところが、来たのは「どっちの方が罪深い?」という質問で、長谷川さんはずっこけるようなそぶりをし、ドラムスティックで上手と下手を指し、橘高さんが喜び、「喜ぶんだ!?」とオーケンが驚いたのであった。

ステージに戻ってきたオーケンは白手袋をはめ、かつての衣装に身を包んでいた。そしてオーケンにより「猫のテブクロ」部分がこれより始まることが宣言されたのである。部分。部分。

まずは「星と黒ネコ」。短いながらも存在感のある一曲だ。
静かなアコースティックギターの調べに息を呑んでいると、持ち出されるは拡声器。

今までに何度となくライブで耳にした「これでいいのだ」は、初めて観る「これでいいのだ」だった。近年タオル回し曲としての役割を担っている「これでいいのだ」。間奏部分ではコールアンドレスポンスでガンガンにボルテージを上げていくのが常である。それは間違いなく楽しいが、「これでいいのだ」という楽曲が持つ物語性が失われてきたことも事実であった。あの冤罪で収監された男が、やるせなさの中で自問自答をし、ようやく「だがしかし」まで辿り着く。

自分はもしかしたら、初めて本当の「これでいいのだ」を観たのかもしれない。間奏で設置されたキーボードを、背を丸めて弾く内田さんの横で詩を読み上げるオーケンの声。それはかつてのライブ映像で観た景色に似ていて、あぁ、これを今観られるのか、と改めて感慨深く思った。嬉しかった。

「星の夜のボート」にじっくりと耳を傾け、待ちわびた遠足三部作! あぁ、これを聴けるなんて、聴けるなんて思わなかったなぁ! 「最期の遠足」を初めてライブで観たのは「どこへでも行ける切手」の初期曲限定ライブだったと思う。しかしあれはDVDに収録されなかったのだ。今改めてこの場で観られるのが実に嬉しい。あの攻撃的なギターの音色とブラックな歌詞の組み合わせがたまらない。

「月とテブクロ」の静かに展開して爆発する感じはこのアルバムの総括としてふさわしい。「黒ネコの爪を折る」の箇所ではオーケンの癖が強く出ていて、そこだけが少し気になった。

しっとり終わったかと思えばここからまた「週替わりの奇跡の神話」「くるくる少女」「釈迦」と続いてぎゅんぎゅん詰めの中盛り上がり、本編ラストは「愛の讃歌」。ここでオーケン、歌いながらオーディエンスの方に手を伸ばして握手をしてくれるのだが……このとき、手を伸ばしたら、指先と指先が触れた。指先と、指先が、触れた。

瞬間、そのわずかな接触から電撃と歓喜が走りぬけ、心臓がBPM180を記録し、恋に落ちる錯覚をしそうになった。嬉しかった。嬉しかった!!

さらにアンコール一曲目はまさかの「詩人オウムの世界」。「猫のテブクロ」完全再現だけでも嬉しいのに、これをやってくれるなんて! この曲の情景描写の美しさがたまらなく好きで、紫の蝶が空を覆い尽くす妖しさに何度魅せられたことだろうか。ここでもしっかり語ってくれてもうありがたいったら。

面白かったのは「犬はワンワンと吠え、猫はニャーニャーと鳴き」の箇所で、「猫はワンワンと吠え」と言い間違えたオーケンが、「あれ?」と一瞬不思議そうな表情を見せ、次に何の動物の名前を出せば良いか迷っていた場面である。結果、猫は二回登場した。

最後はサンフランシスコで締め。MCでは、アルバム一曲続けてやると昔のことを思い出すね、と昔話に花を咲かせたり、不意に声をかけられた内田さんが「アタシ」という一人称を使ったところ、オーケンが「二十年来の幼馴染の一人称が変わる瞬間!」とびっくりして、その後何かにつけては「アタシ」「アタシ」と自ら称してネタにしていた場面もあった。

興味深かったのは橘高さんが金髪にしたのはオーケンの言葉がきっかけだったこと。「橘高君金髪似合うんじゃない?」とオーケンに言われた橘高さんは、当時バンドに入ったばかりだったので、バンドリーダーがそう言うなら、と金髪にしたのだと言う。無論それは要素の一つであり、ずっと金髪にこだわり続けたのには他の思いもあってのことだと思うが、あの橘高さんの美しい金髪はそうして生まれたのか、としみじみしたのも事実である。オーケンがその発言を覚えていないのもまた良いな、と思った。

あぁ、それにしても。この楽しいライブを明後日また観られるなんて。今回はチケットの整理番号が九十番台だったのでかなり前の方に行けたので、次回はちょっと後ろに下がって観てみようか。と言いつつ、また前に突っ込んでしまうかもしれないが。ふふふ。



イワンのばか
カーネーション・リインカーネーション

みんなの歌
吉原炎上

俺の罪(橘高さん・おいちゃんボーカルver)

星と黒ネコ
これでいいのだ
日本印度化計画

星の夜のボート

Picnic at Fire Mountain 〜Dream on James, You’re Winning〜
Go! Go! Go! Hiking Bus 〜Casino Royale〜, 〜The Longest Day〜
最期の遠足

月とテブクロ

週替わりの奇跡の神話
くるくる少女

釈迦
愛の讃歌

~アンコール~
詩人オウムの世界
サンフランシスコ


日記録0杯

2017年3月15日(水) 緑茶カウント:0杯

出会いは小学校一年生。親しくなったのは四年からか。一度も同じクラスになったことはなかったものの、公文をきっかけに仲良くなり、以来中学、高校、大学、そしてその後もちょくちょく約束をとりつけては遊んでいた間柄。同じ町内、全力疾走すれば二分の家に住んでいた幼馴染に、ついに子供ができた。今日。

乾杯! と言葉に出さず祝杯を挙げている六畳一間の住人は、今にやにやと笑っている。

去年から今年にかけて急に友人の出産報告が増え、幼馴染は三人目。しかし違うのはこれまでの二人、出会いが大学であったこと。互いに育ちきってから出会っただけに子供が生まれてもさほど違和感はなかったが、あのランドセルを背負っていたあいつが、と思うと感慨もひとしおである。同じように歳を重ねたにも関わらず、まるで親戚のおじさんのようにしみじみしてしまうのだ。あぁ、良かったなぁ。嬉しいなぁ。

そして思い出すのはつい先日の年上の友人からの告白。彼女は三十代半ばで既婚、子供はおらず、バリバリ働いている。自分はずっと彼女は子供を持たない選択を自ら望んでしているのだと思っていたが、ふとこぼした言葉により真実を知った。彼女は子供を望んでいたが、旦那さんが望んでいなかったため、夫婦の話し合いの結果子供を持たない選択をしたのだと言う。無論そこにはいろいろあって、子供を諦める代わりに彼女の希望も叶えられたのだが。その後しばらく自分は考え込む日が増えたのである。

自分自身は子供を持ちたいと思ったこともなければ、結婚したいとも思わない。そして周囲から多少の圧力はあるものの、身近な人には認めてもらえているので、それなりに気楽に楽しく思うがままに生きている。あぁ、こんな生き方が許される時代に生まれることができて良かったなぁと幸福を噛み締める日々。だからこそ、不意に親しいあの人が、そんな決断をせざるを得なかったことを知って動揺したのだろう。それはやはり、自分の好きな人には皆、望み通りに楽しく生きて欲しいという自分勝手な願望があるからだ。彼女の告白を聞いたときの酒の味はいかがだっただろうか。思いを馳せると、寂しくなる。

あぁ、今日のビールの何と美味しいことよ。父親になった友人はこれから様々な経験を積むだろう。己もまた違った経験をするだろう。同じ町内に住み、同じ小学校に通い、公文でふざけ合った我々がこのように違う生き方をしているのは面白いものだ。いつか二十年後、彼の幼子が成人したときに一息ついた友人と盃を交わしながら過去を振り返りたい。それはきっと幾層もの味が混ざった美酒に違いないのである。



日記録14周年企画, 4杯, 日常

2017年3月12日(日) 緑茶カウント:4杯

指先に捉えられるペン先の動きとセットになった、ペンをくるりと回転させる動作。そうしてペンの頭につけられたゴムが小刻みにノートを往復し、本来消えないはずのものを消す。身の回りにも愛用者が多く、勧められたこともある。とても便利だよ、君も使いたまえよと。

鉛筆と消しゴムの関係性とは違い、書いたものが削り取られるのではなく、摩擦熱によってインクが透明に変化するらしい。PILOTのフリクション・ボールペンを初めて目にしたのはテレビのCMだっただろうか。すごいもんだなぁ、と感銘を受けたことを覚えている。こいつぁ便利に違いないと驚き、試しに一度使ってみたいと思ったものだ。しかしあれから十年近く経過しただろうに、己はこれまで一度もフリクションを手にしたことがない。そのことを今まで特別意識したことはなかったが、ふと改めて考えてみたところ、どうしても手に取れない理由が見えた。

怖いのだ。

例えるならば開けやすい金庫のようで。ボールペンの持つ「消えない」特性を翻す逸品に、己はかすかな不安を抱いているらしい。消えないものが消える便利さの先にある夢、それは美しいノート、気軽に書ける安心感。しかし自分が見る夢は。

使いどころを間違えさえしなければ便利な代物だとわかりつつ、今日も消えないボールペンを握り紙面に滑らす。それは決して重要書類ではなく、もっと気軽なものに違いないのだが、どうしても消えるペンを握ることができない。ただいつか、あれを使ってみたいとも思っていて、それはあのボールペンを気軽に使える自分になりたいという願望にも近しいかもしれず、うっすらと夢見ているのである。