未分類NESS, ケンヂ浩司, 非日常

NESSとケンヂ浩司の対バンを観て来た。場所は高円寺HIGH。中野を散歩している最中に高円寺に迷い込んだことはあったが、高円寺の駅に降りたのは今回が初めてである。駅の外ではザ・スターリンのTシャツを着ているおじさんを十分間で二人も見かけた。なるほど、話の通りロックな雰囲気の大人が多い街である。

今回のライブの一番の目当てはケンヂ浩司の浩司こと石川さんだ。石川浩司、通称たまのランニング。自分はこの石川さんに大きな「興味」と「好意」を持っているのだが、石川さんのライブを観たことは今までに一度も無かった。何と無く、行き難かったのである。何故なら自分は、本命のライブに行けていないからだ。

母がたまのファンだったため、自分は幼稚園の頃からたまを聴いていた。常日頃家の中でたまがかかっていたわけでは無かったが、自然と耳にし、親しんでいた。しかしずっと熱心に聴いていたわけではなく、意識することはほとんど無かった。だが、中学の頃だろうか。何がきっかけだったか忘れたが、家にあったたまのアルバム「さんだる」を聴き、それから少しずつ興味を持ち始め、いつしか自らアルバムを購入してたまの音楽を聴くようになったのである。

大学に入ってからはライブに通うようになった。筋肉少女帯、水戸華之介、ブラック菩薩、電車、平沢進、人間椅子。だが、たまを観ることは叶わなかった。既に解散してしまっていたからだ。

自分が筋少を知ったとき、筋少は凍結状態で、オーケンは特撮で活動していた。そのときも自分は特撮のライブには行けなかった。本命を観られていないがために、他を観る気が起きなかったからである。同じように、元たまのメンバーのライブも、興味を持ちつつも抵抗感を拭うことが出来ず、一歩足を踏み出せないでいた。

そんな些細な抵抗感なんざもうどうでも良いじゃないか、と心の底から思えたライブだった。
あぁ、自分はもっとこの石川さんという人を観に行った方が良いに違いない。

このライブに行こうと思えたのはオーケンが関わっていたからだった。自分が好きなオーケンと石川さんの組み合わせ。いったいどんなステージを見せてくれるのか好奇心を抑えられない。さらに対バン相手はNESS。興味を抱きつつもまだ一度も観ていなかったバンドである。この機を逃す手は無いだろう。

石川さんはすごかった。

ステージで自由気ままに振舞っているように見えるが、きちんとステージとして成り立つように振舞っている。狂気と正気の境目を綱渡りしつつ、コミカルな面を見せてくれるが、そのコミカルの背後にはゾッとするものが潜んでいて、「自分はもしかして、危ういものを見ているのでは無いだろうか」と思わされる。そのバランスが秀逸なのだ。ただの悪ふざけでは無い。

ユニットを組んでいるオーケンが「怖い」と言っていたのも頷ける。ライブはケンヂ浩司が先手で、最初にステージに出てきたのはオーケンだけだった。そしてアコギを抱いてFOKとして一曲二曲三曲と一人で弾き語る。一曲目は「ミルクは人肌が良い」というような歌詞の曲で、二曲目は「香菜、頭を良くしてあげよう」、そして三曲目の「あのさぁ」の途中でケンヂ浩司の片割れ浩司を呼び込み、メンバーがステージに揃う!

ここでMC。オーケン曰く、このライブは以前、FOKでツアーをした際に、ゲストをたくさん呼び、石川さんにも来ていただいたときの様子を再現しようという趣旨のもの。自分はそれには行けなかったのだが、何やらオーケン的にはだいぶショッキングだったらしい。またこのライブ、今日この日が来るまで何をやるか石川さんは全く知らされていなかったそうだ。メールで詳細を尋ねても返信が来ず、そのまま当日を迎えてしまったらしい。大槻さんちゃんと返信してください。だが、石川さん的には特に問題は無かったらしい。頼もしいことである。

次は石川さんの番ということで、オーケンはステージの隅に座り込み、ポカリスエットを飲み始める。飲む前に石川さんにお伺いを立てていた。「ポカリ飲んでても良いですか?」石川さん、何を飲んで食べてもOK、という内容のことを答え、ポカリを飲んだならお腹がパンパンになっただろう、ということで一曲目は「おなかパンパン」。ライブで初めて聴く石川さんの曲は「おなかパンパン」かー、と、一人感慨深くなりつつも、この曲、怖いので自分はあまり聴かないようにしているのである。実際ライブで聴いてみたらやはり、怖かった。

続いて「はげあたま~」と歌の間で区切りを入れる曲では、石川さんが自分の口を両手でパンパン叩くことで声の調子を変えながら歌い、合間合間ににっこり笑って「はげあたま~」とオーケンに向かって囁き、ステージの隅でうずくまるオーケンが泣きそうな顔をしながら逃げようとする、というステージが繰り広げられた。これに関し石川さんは、「今回は、照れる大槻くんを眺めて楽しむライブということで」というようなことを語っていたが、「照れてるんじゃないんですよ! 怖いんですよぉ!」とオーケンが反論していた。実際、怖いと思う。

「真面目な曲も」ということで「オンリーユー」がキーワードになる曲を石川さんが歌い、この後は二人でセッションという形になったのかな? やや、記憶が曖昧である。曲は「がんばったがダメ」「人として軸がブレている」「踊るダメ人間」「死んでゆく牛はモー」など。「がんばったがダメ」ではオーケンと石川さんが二人して犬の鳴き真似を演じた。「踊るダメ人間」は観客に一緒に歌ってくださいと言って「ダメダメ~パパパヤ~」の部分を任せていたが、ワンマン以外のライブでこれをやるのはなかなか度胸があるなぁ、と感心した。石川さんもオリジナルの合いの手を入れてくれ、それが見事に曲にマッチ。終わりには「オレはダメ人間をやればいいんだろ?」と言って笑わせてくれた。

オーケンはアコギを置き、エレキギターを持ち出して激しく掻き鳴らす。こんな激しい曲もやるのか! と戸惑いを感じつつ、何が来るかと身構えてみれば「死んでゆく牛はモー」。いったいいつの間にこの曲はこんなノイズになったのだろう…と唖然としつつ、石川さんの奇声のような笑い声による合いの手と、爆音のギターの重なり合いは非常に怪しく、もしかするとこれは今回のライブで一番好きだったかもしれない。

時間が過ぎるのは早いもので、ついに最後の曲。オーケン、「皆さんも知ってる曲です、良かったら一緒に歌ってくださーい!」と言ってすすめるも知らないわーこれ何の曲だー。いや、以前ものほほん学校か何かで聴いた覚えがあって、そのときも一緒に歌ってくださいと言われた気はするが…知らない…。ただ、合唱する箇所は同じフレーズの繰り返しのようだったので、その場で覚えて対応した。

ケンヂ浩司がステージを去り、照明が落ちて次のNESS用のステージの準備が始められる。これがなかなか時間がかかった。テクノは色々時間がかかるのだろうか…と思いつつ待ち続け、ようやく灯りが点り、先程までの空気を一変する音楽がその場に満ち溢れる。空気が全く違うものになった。

しかし、NESSの三浦さんは石川さんにだいぶショックを受けていたようで、その後のMCでは「全てを持っていかれた」といった内容のことを語っていた。また、三浦さんは本日お誕生日だったらしく、サプライズでケーキがステージに持ち込まれ観客全員でハッピーバースデーを合唱。三浦さんは蝋燭の炎を吹き消すも、どうせ領収書は俺宛だ、そのくせ結局食べるのは女性スタッフなんだ、としょっぱいことを語っていた。

MCでは内田さんの近況も語られた。内田さんの家は非常に暑く、夏場は室温が三十四度にまで達するらしい。しかしエアコンは使えず、古すぎるため買い換えるためには室外機を取り替えなければならず、だが、室外機をどかすには木の枝が邪魔をしていて、その木は内田家の水道管にも粗相を仕出かし、といったカオスな有様である故に、熱でコンピューターが壊れてしまうことを防ぐためにも夏場は仕事を休み、九百五十円で買った折りたたみ椅子を出して庭で涼んでいるらしい。誰か内田さんの家の木をどうにかしてあげてください。

NESSの音楽は格好良かった。テクノについては詳しくないが、大人が余裕を持って、趣味を全開にしてやっているテクノ、といった印象を受けた。だが、その直前の石川さんがあまりにも強烈だったため、正直あまり覚えていない。あぁ、そうだ! やはり生ドラムは良いな、と思ったのだった。テクノと言うと自分の引き出しからは平沢進、P-MODELしか出てこないのだが、昨今の平沢さんはライブでも楽器はギターとその他特殊な楽器くらいしか使わず、事前に作成している音源を流しているのである。それはそれとして面白いが、生音のドラムで聴きたいな、と思うことも多々あるのだ。そして今回改めてそれを思ったのである。

ところですごくどうでも良い話だが、NESSのドラムの河塚さん、河塚さんとわかっていてもついつい河豚さんと読んでしまう。ふぐさん。違うとわかっているのにだ。ちなみに河塚さんはピンクのシャツを着ていた。

アンコールではケンヂ浩司とNESSでのセッション。NESSだけでも一杯一杯なステージにマイクが二本追加され、さらに石川さんのパーカッションセットがドン! だいぶ窮屈になっていたのか、内田さんのベースのネックにオーケンがぶつかりそうになっていた。

アンコールの曲のタイトルは知らないが、テクノノイズとも言うべきか。大音響の中でオーケンが何かをシャウトし続け、石川さんはパーカッションを放棄して、ガムテープで自らの顔面、胸、腹部、下腹部をぐるぐる巻きにするというパフォーマンスを始め、さらにはパーカッションセットを分解し、分解したタンバリンなどをガムテープで自身の体にくっつけ、格子状の部品を高々と掲げ上げてそれに頭を通し、尚分解し、部品の一部で河塚さんのドラムセットのシンバルを叩き、もう石川さんしか見えない。ちなみにこのときオーケンが叫んでいた言葉、自分の位置からは音響の関係か、何を言っているのか聞き取れなかったのだが、聞いた話によるとひたすら石川さんが着ていたシャツに背中に書かれた謎の文字「ケルン」について言及していたらしい。もっと意味のある凝った内容の詩を叫んでいるのかと思っていたので、これにはずっこけそうになった。

そうしてセッションは終わったわけだが、ちょっと面白い話として、終わった直後にオーケンが内田さんに対し、「僕は君とこういうのがやりたかったんだよぉ!」と、当時「ノイズ」をやりたかったのに上手く伝わらず「ロック」になってしまったことを今になって伝えようとしていたが、内田さん、「ノイズまんが道やったじゃん」とあっさりスルーしていた。この「ノイズをやりたかったが上手く伝わらず、今の筋少という形になった」という話はオーケンの著作でも読んで知っていたが、いやぁ、上手く伝わらなくて良かったんじゃないかな、と思うね、自分は。ノイズがどうと言うよりも、今の筋少が好きだからさ。

今でこそ落ち着いたが終演後は石川さんのことで頭が一杯で、ドリンクとチケットを引き換えてもらっていないことに気付きつつも、まぁいいか、とライブハウスを後にして興奮の内容をTwitterに叩き付ける作業に没頭した。物販では勢いで石川さんの本を購入。帯はオーケンが書いている。願わくは、年に一度、数年に一度でも良いので、またこのケンヂ浩司のユニットでやってもらいたいなぁ。あぁ、楽しかった。本当に。