未分類6杯, M.S.SProject, 非日常

会場に着いて思ったことは、まるで祭りのようだなぁ、ということだった。

九段下駅から徒歩数分で辿り着く日本武道館。改札を出て歩を進めるにつれ、般若の面をキーホールダーの如くぶら下げた人や、メンバーのぬいぐるみや缶バッジをつけた人々が己と同じ方向へ進むさまが目に入るようになる。ここまでは良く見る光景だが、流れに乗ってさくさく歩いて門をくぐった先は普段と異なる様相だ。祭りのように人がごった返し、物販用のテントが連なる先には長蛇の列。テントには「物販の整理券の配布は終了しました」との文字があり、親類縁者関係者仕事先から贈られた花輪の数々の前にも人が集まっていて、拡声器を持った係員があちこちで誘導の声かけをしている。おおおおおお……!

あぁ、そうか、武道館ってのはただのライブではなく、祭りなのだ。祭りなのか! 見渡せばこれまでに観た二回のライブよりも年齢層が広いようで、自分と同年代、それ以上の方々も多く見受けられた。武道館という特別な会場でやるなら是非と意気込んで来た人、せっかくだから都合をつけてどうにか来たいと思った人、いろいろな人がこの場に集まったのだろう。武道館という地の特別さを感じた一シーンであった。

座席は二階席の南西エリアで、売店でコーラを購入してよいよいと席に着いた。荷物を置くのも一工夫いる狭さで、人が行き来するのも一苦労。この広い会場いっぱいに人がぎゅんぎゅんに詰められて、巨大な日の丸の旗の下に設えられたステージに注がれる熱視線の熱量たるや。前回の反省を踏まえ余裕を持って着席した自分は、コーラを傾けながら周囲の興奮に何とはなしに耳を傾けていた。

程なくして暗転し、歓声とともに灯がともるスクリーン。ファンタジーな装いの四人が映り、正体不明の魔王を退治するためにだらだらと旅に出る。途中eoheohがおかしなテンションになって、擬音を駆使してセグウェイに肩車で四人乗りする描写を声だけでしていて、そのテンションとセグウェイ四人乗りの異常さがおかしくてゲラゲラ笑った。

映像が終わるとM.S.S. Projectのメンバーが登場! さてついに! 前回の公演で購入したペンライトをここで振ろうじゃないか! 袋からは取り出してあり、電池も確認済み。動作も家で数度チェックした。よっしゃーペンライトを振るぞ! と思ったものの己の手は止まった。

四人、突出して目立っている人がいない場面では何色を振れば良いんだ……?

例えばKIKKUN-MK-IIのテーマでは黄色にするのはわかる。FB777が歌っているときに青にするのもわかる。しかしこういうこれと言って何もない場面では何色にしとけば良いのだろうか。いわゆる「推し」がいる人であれば通常時には常にその色にしておけば愛と応援をアピールできてよろしいだろう。ペンライトにはそういった使い方もあるはずだ。しかし自分は……赤か? それともここは光の三原色を混ぜて全員カラーを白、と解釈すべきか……?

迷った挙句両隣の人の中間色にした。調和がとれて満足である。

そして満足している間に毎度の如く魔王を倒すためにゲーム実況を開始する宣言がされ、わーっと盛り上がる会場。ここでペンライトを振ろう、と思いつつまた手が止まる。

これって……縦に振るのか? 横に振るのか?

今までずっと盛り上がるときは拳を突き上げることしかして来なかったため、「何かを振る」ことで興奮を表現しようとすると体が混乱するらしい。言ってみれば、自分の体には「興奮」の表現として「ペンライトを振る」動作がプログラミングされていないため、エラーが発生するのである。縦に振ろうが横に振ろうがどっちだって良いじゃないかと今となってみれば思うのだが、エラーの結果自分は「え? え?」と混乱しながら眼下のペンライトの動きを確認していた。横だった。

そんな中で催されたゲーム実況。一つ目はカードゲームの「ナンジャモンジャ」で、単純明快で面白かった。ポップな化け物が描かれたカードをめくり、出た化け物に名前をつける。そして新しいカードをめくったときに既に名前をつけられた化け物が出た場合は、その名前を叫び、一番早かった人がカードを取得できる。カードの枚数が一番多い人が勝ち、というルールだ。これ、自分で作ることも出来そうだしやってみたい。

そうして名づけられた名前は「ライオン丸」「みるからに馬鹿」「うちのおかん」「バブルボンバー」「すね毛がすごい」「小さい方が本体」「バイバイ」などなど。あとうろ覚えなところで「キューティーピンキー」か「プリティーピンキー」、「ブルーサウザンドなんちゃら」「足長男」「もじゃお」と、黄緑色の化け物には白色要素が無いのに「ホワイト」が名前に含められていた。

このゲームは以前にもプレイしたことがあるようで、隣の席の男性がちょくちょくと改名前の名前を呟いていた。

次のゲームはビデオゲームで、M.S.S. Projectがテーマのゲームのようである。詳細は知らないが、小説とコラボしていたことを考えればゲームとのコラボも不思議ではない、と納得しつつステージを観ていると、きっくんに何かを囁かれたあろまほっとが口に含んだ水を勢いよくぶはあと吐き出してびっくりした。わざとやったようだが、何だ? 何か元ネタがあるのか? 衣装びっちゃびちゃだが良いのか???

タオルで拭くこともなくプレイを開始するあたりが潔い。ちなみにコントローラーも水で濡れていたようだ。すごい。勢いが。

ゲームは固定された画面の中で、M.S.S. Projectのメンバーを模したキャラクターが殴り合いをしつつポイント集めをし、ポイントが多い人が勝ち、といった内容だった。何回死んでも良いらしく、死ぬたびにキャラクターの肉片のようなものが画面外から四散されるが、次の瞬間には蘇って殴り合いを再開していた。

ゲームが終わったらメンバーはステージから退場。幕間に流される映像のテーマは「武道館のファンタジー」。なんと今回、eoheoh、FB777、あろまほっとの三人がネタ被りをし、三人とも頭部が武道館の怪人ないしはロボットを描いていた。そんな中で「ブドウ●カーン」という、頭部がブドウで逆日の丸カラーの怪人を描いたきっくんは一線を画していて見事だった。

さて、映像が終わりステージがしんと静まれば……ステージの前方と後方を区切る壁が門を開くように動き、現れるサポートミュージシャン。そして何とステージ中央、何も無い床からKIKKUN-MK-IIがせり上がり、登場する演出が! おおおおお! これは格好良い!

興奮しつつ、これは黄色にせねば! とペンライトを操作するも不慣れゆえうまく動かせない。そしてわちゃわちゃしていたらいつの間にか全員ステージに現れていた。振り回すべきペンライトに振り回されてどうするのだ、自分。

ちなみにペンライトの操作に慣れたのは本編後半に差し掛かった頃だった。そんなこともあり、曲順の記憶はあやふやであるがご容赦を。

一曲目は「Over Road」で、ソリッドなギターが格好良くも気持ち良い。そして二曲目はお約束の「踊れ!」のシャウトとともに始まる「ENMA DANCE」で、大人気「ボーダーランズのテーマ」へと続く。

「ボーダーランズのテーマ」ではステージの上手と下手に設置された櫓のようなものにあろまほっととeoheohがそれぞれ乗り、人力で押される櫓はアリーナ席に作られた通路を進み、大興奮の客席。二人は水蒸気を噴射する銃を構えそれを噴射していて、その様子が何かに似ていると思ったがすぐにわかった。除草剤を撒く仕草だ!

しかし撒かれるのは除草剤ではなく水蒸気。良いなーあれ、あの席の人嬉しかろうなぁ。通路の真ん中では櫓と櫓がくっつき、あろまほっととeoheohは柵を乗り越え乗り換える。ここでまたわーっと歓声が起こり、櫓はゆるゆると元来た道へと戻っていく。黒いジャンパーを着て真面目に櫓を押す人と周囲の空気の対比も面白かった。

四曲目ではちょっと珍しいことが。照明がワントーン暗くなり、サポートベーシストにスポットライトがあたる。一、二、と数を数えるように奏でられるベースソロ、そしてスポットライトはその隣のドラマーを照らし、激しいドラミングが終わるや否や、パッと灯りがついて始まったのは「幾四音-Ixion-」! このアレンジは面白い! 無機質なイントロから始まるイメージが強いだけに意外性があって楽しかった。また、この曲のときにだけ、ペンライトをピンク色に変える人がちらほらいるのも印象的だった。「幾四音-Ixion-」のイメージの由来する何かがあるのか、それともサポートミュージシャンに向けたものなのか。わからないが綺麗だった。

そして今まで思い思いの色で振られていたペンライトが一色に染まる瞬間! 「THE BLUE」だ! この一体感は気持ち良い。今回初めて二階席でM.S.S. Projectのライブを観たので、これまでペンライトによる絶景は後方を振り返らないと見られなかったが、実際目にするとすごい。オーケンが「大槻ケンヂと絶望少女達」の企画でアニメロサマーフェスティバルに出たとき、サイリウムの海の美しい景色を筋肉少女帯のメンバーとファンにも見せたいと思ったそうで、数年後筋肉少女帯でのアニサマ出演が叶い、それを実現できたとき喜んでいた話を思い出した。これか。この景色か。

初音ミクによる現実味のない早口の歌唱が非現実感を盛り上げて尚一層心地良い。暗い海の底から明るい光が差し込む水面を見上げているようだった。

非現実感を味わったあとはFB777が大活躍の「M.S.S.PiruPiruTUNE」! 別の曲でも思ったが、歌、上達してるよなぁ……。初めて観たライブにあった初々しさが徐々に削ぎ落とされて、自信を持って楽しく歌っているように見えて、それがまた素敵なのだ。アンコールの新曲メドレーの「WAKASAGI」でもそうだったが、あらゆるものから解放された歌のおにいさんのような清清しさがある。のびのび歌っていて気持ち良さそうだ。

ゾンビ曲「Phew!」ではあろまほっととeoheohが前回と同様にストーリーを演じるパフォーマンスを披露。狩りのシーンであろまほっとは普通に狩りをしていたが、eoheohはきっくんやベーシストに矢を放つ仕草をし、きっくんは倒れ、eoheohはその肉を喰らっていた。怖い。

この曲のキーボードソロのとき、キーボーディストの周りにメンバーが集まってその指先を眺めているシーンもあって、それが微笑ましかった。あのあたりの音色美しいよなぁ。ゾンビっぽくないよなぁ……。

ちょっと記憶が曖昧なのだが、「KIKKUNのテーマ」のときだったかな? キーボーディストがキーボードを弾きながら楽しそうに拳を振り上げていた姿が印象に残っている。バンドによってサポートミュージシャンの役割の度合いは違うが、自分はこんな風に、ステージにいる皆が楽しそうにしているのを見るのが好きなので何だか嬉しくなってしまった。

「KIKKUNのテーマ」は言うまでもなく盛り上がった。始まる気配がした途端ポツポツとペンライトの色が黄色に変わっていき、あっという間に黄色に塗り上げられる! そんな中でちょこちょこと黄色以外のカラーを固持する人もいて、徹底したこだわりを感じつつ、ふと、自分のペンライトが何色なのかわからない人もいるかもしれない、とも思った。

と言うのは昨日、日記に色覚異常を持つ友人の話を書いたばかりゆえの連想もある。ペンライトのボタンは三つで、「電源」と「色の確定」を指示する四角のボタンと、その左右に色を順繰りに変化させる三角のボタンがついているだけで、色の名称は表示されないのだ。色は全部で十二種類で、濃淡により見分けがつきにくいものもあってややこしい。色の見分けができなくても、今何色が表示されているかわかるペンライトがあったら良いな、と思った。

そして思うのは、この美しい青や黄色の景色もかの友人には別の景色に見えるだろうと言うことで。ライブの帰り道、今まで友人から聞いた話をもとにその景色を何とはなしに想像したのであった。

閑話休題。「KIKKUNのテーマ」が始まる前に、きっくんよりコールの練習タイムが設けられる。その間ずっとリズムを刻み続けるドラマーの仕事たるや! 日常で大声で叫ぶ機会はなかなか無いので、「きっくん! きっくん!」と大声を出してペンライトを振るのは実に楽しい。また、きっくんだけでなくメンバーのコールも行った。「きくえおきくえお!」「あろえびあろえび!」と楽しく叫びつつ、カップリング名称みたいだな、と思った。

特に格好良いと思ったのは「Glory Soul」! 舞台音楽のような曲調で、まるで今にもミュージカルが始まりそうで心が躍る。M.S.S. Projectのメンバー全員が上手と下手に分かれて先ほどの櫓に乗り、KIKKUN-MK-IIとFB777は楽器を担ぎ、あろまほっととeoheohは剣を持って殺陣を演じるパフォーマンス! おお、前回にはない動きも取り入れられている!

しかしこの櫓結構揺れるらしく、酔いそうになったとステージに戻ったKIKKUN-MK-IIは語っていた。

本編最後は「M.S.S.Phantasia」で締め。メンバーがステージからいなくなり、客席から湧き起こるアンコール。これがすごかった。ちゃんと「アンコール!」と叫んでいるのだ。と言うのも自分が行くライブでは「アンコール!」というコールはほとんど無く、手拍子だけでアンコールを要望することが多いのである。こんなアンコールらしいアンコールを聞いたのは久しぶりのような、もしかしたら初めてかもしれないような……。

そうして始まったアンコール一曲目は予想外! 新曲メドレーだった。KIKKUN-MK-IIから始まり、あろまほっとにバトンタッチし、eohoehへと繋がってそれぞれがソロを歌う! あろまほっとはよく通る声だが歌いなれていない様子が感じられ初々しく、eoheohは密閉空間から出しているとは思えない歌声が響いてきてびっくりした。「息もできないくらい」と高らかに歌ったときは「そりゃなあ」と思ったが、息ができているからすごい。

メドレーラストはFB777の「WAKASAGI」。さきにも書いたがすごく気持ち良さそうだった。

最後の最後は明るく楽しく「We are MSSP!」でおしまい。射出された色とりどりのテープが目線の高さまで飛び上がり、一度中空でわだかまった後、キラキラと光を反射させながら下りていく色のかたまりの美しさったら。下から見上げるのも良いが、こうして同じ高さから見下ろすのも美しい。

終演後もしばらくメンバーはステージに残ってくれた。恐らく一番武道館への憧れが強かったであろうきっくんは特にステージを去りがたいのか、ここでも、またその前の場面でも一つ一つ吐き出すようにしながら言葉を語っていた。そこには照れ隠しも混ざりつつ、隠し切れない喜びも滲み出ていて、故に言葉がまとまらず、まとまらない欠片がそのままにポロポロと漏れ出しているようだった。

外に出れば日はすっかり落ちていて、時計を見れば二十一時前。開演時間を思うと、何と長くこの空間に滞在したのだろう! 興奮冷めやらぬ人々がそこかしこで輪を作り感想を語り合う中、祭りの余韻を感じつつ九段下駅へと向かう。あぁ、楽しかった。

しかし最後の最後。うっかり道を間違えて反対方向へと進み、街灯が少なくやけに暗い車道の脇をほてほてと歩いていたら目の前にぼうと浮かぶ般若の面! ぎょっとして目を見開くとリュックサックにキーホールダーの如く般若の面をぶら下げた女性が闇の中で立ち止まり、携帯電話をいじっていた。びっくりした。怖かった。いつか都市伝説が生まれるかもしれない。



未分類100曲ライブ, 6杯, 水戸華之介, 非日常

五日間で百曲を歌う、水戸さんの100曲ライブ第一夜。この100曲ライブも今年でついに五年目とのことで、当初は毎年恒例にするつもりはなかったが、大変であるにも関わらず終わればまたやりたくなるとのこと。このシリーズが始まったとき、大好きな水戸さんの曲を百曲堪能出来ることに非常に興奮し、参戦してみれば間近で水戸さんを観られる喜びで爆発し、先の約束が何も無いにも関わらず、来年も楽しみだな、と思ったものだ。その希望が叶えられてついに五年目。当たり前のように開催されることがとても嬉しい。

厚手の外套に身を包み、凍えるような寒さの中開場の時を待つ第一夜から二週間置いて第二夜、第三夜と徐々に外気がほころんでいき、最後の第五夜には淡い色合いの薄手の上着を人々は身にまとう。列に並ぶ人々は知らない人間ばかりだが、五年目ともなれば見覚えのある人達も多く、いつの間にか彼ら彼女らと過ごすこの時間に春の訪れを感じるようになっていた。

今回のゲストは人間椅子の和嶋慎治、通称ワジーである。以前のワジー回は渋めの選曲が多く、重くシリアスな印象だった。アルバムで言えば「ヨキコトキク」的と言えば良いだろうか。また今日のライブも水戸さん曰く、男っぽいと言うか愚痴っぽい曲ばかりになってしまったとのこと。

しかし今日はシリアスの比重が高めながらもパッと盛り上がる曲もあり、以前自分が参戦したときとはまた空気が違って面白かった。前回は聴き手も心して臨まなければならない緊張感があったが、そのあたりが軽くなっていて気軽に楽しむことができた。この空気の変化の由縁は選曲と水戸さんのテンションによるものだろう。

と言うのも水戸さんは現在新譜のレコーディング中で、レコーディングモードのままライブに臨んでいるため妙なテンションになってしまっているそうだ。水戸さんとワジー曰くレコーディングは今この世に無いものを新しく創る作業なので、ひらめきが生まれるたびに「自分は天才か!?」と興奮し、ライブとは全然違う心理状態になるそうだ。そのためレコーディングモードの水戸さんは普段であればMCもキリの良いところでまとめて次の曲に移るという風に自分をコントロール出来るのだが、今はそれが出来ないためワジーに任せるといった形になっていた。

とするとまぁ、水戸さんもワジーもお喋りだから曲と曲の合間に喋る喋る。重い曲の後に楽しい話題が発生したり、ふざけあった直後にシリアスな曲が始まったりと非常に空気がゆるゆるで、ゆるーい寒天の中を漂っているような楽しさがあった。

そんな中で印象的だったのは、水戸さんが三十年ぶりに知人と再会し思い出話に興じた流れで語られたこと。三十年前にベルリンの壁が壊された、でもまた壁が作られるのか、と。その小さく短い言葉がいやに耳に残った。

そうして始まったのは「人間のバラード」。水戸華之介&3-10Chainの曲である。

この後にもアメリカ大統領選の話題になり、そのときはワジーにより陰謀論と絡めてキャッチーに語られた。話を聞きつつ思ったのは、安寧に生きられると思っていられる瞬間は本当にラッキーで、ともすればそれは瞬間として簡単に切り取られてしまうかもしれないことである。

かと思えば、陰謀論を語ったワジーは秘密を暴露した者として始末されるかもしれない! 額に赤い光が点されたらまずい! 撃たれる! 狙われている! と悪ふざけ。ワジーが近付けば「巻き添えになる」と離れようとする水戸さん、そんな水戸さんにギターを弾きながらぐいぐい接近して死なばもろともを狙うワジー。男子高校生の休み時間のような光景が繰り広げられ、ゲラゲラ笑ったのだった。

一曲目は「夜と男と運命の魔の手」と、格好良くかつ痺れる選曲。意外かつ嬉しかったのは「猫とろくでなし」。屑の曲なのでてっきり吉田一休回でやるものと思っていたら、まさかワジーバージョンが聴けるとは! 原曲よりも緩やかに歌われていて、あたたかくも寂しい気持ちになった。あぁ、この曲大好きだ。

いろんな意味で衝撃だったのは「飛蝗」である。この曲が出来た経緯を全然知らなかっただけにびっくりした。水戸さんが長年出演していたラジオ「土曜ワラッター」の企画で生まれたもので、ある人かグループに対し「使ってください」といきなり送りつけられた曲を水戸さんが拾って形にしたものらしい。よってあまり時間をかけずに作ったものだが、ワジーはすごく良いと絶賛していた。そういった経緯もあり、3-10Chainのセットリストにあえて入れるのも……と言うことでなかなか出番が無いと水戸さんは語っていたが、いや飛蝗好きなのでやってくださいお願いします。

「ずっと愚痴しか言ってない」「何だこの曲」と水戸さんが笑っていたのは「眺めの良い場所」。愚痴を経て最後に逆転があるかと思いきや何も無い! とのことで、改めてじっくり聴いてみると確かにその通りだった。でもこの情けない感じ好きなんだよな。

本編最後は「グライダー、虹へ」で、アンコールはかつてトリビュートに参加した際にカバーしたブルーハーツの「情熱の薔薇」と「パンを一切れ」。「パンを一切れ」の水戸さんの声の伸びやかさの美しさったら無かった。そして二十面ダイスにより選ばれた本当に最後の一曲は「グライダー、虹へ」。

重さとゆるさの波を漂う楽しいライブをカチッと固めるのはやはりワジーの安定感に他ならない。水戸さんのテンションに引っ張られたのかワジーも若干テンションがおかしく、同じ箇所を何度も弾いてしまうミスが数回ありつつも、「それでも大丈夫」と思わせてくれるしっかりとした土台の重さ。水戸さんとのコーラスも美しく、澄田さんとはまた違った味わいがあって心地良かった。

あと、水戸さんもワジーも自分の新譜やその予定があるにも関わらず、内田さんの新譜を熱心に宣伝していたのが面白かった。「あのピコピコへの真摯さはすごい」「筋少のカバーなのに筋少のフレーズが少ない」「筋少である必要があるのか?」「頭がおかしい人が作ったアルバム」「怖かった」「筋少のライブや店頭で売ってると思うので是非買ってみてください」と二人して熱心に喋るのである。そんな内田さんが出演するのは第三夜。ちょうど一ヵ月後の三月の頭。また少し暖かくなるだろう。次回もまた楽しみである。



日記録6杯, 日常

2017年1月3日(火) 緑茶カウント:6杯

小学校からの友人が迷いながら「お年賀に」と渡してくれたお線香。友人の家はお寺であり、生粋のお坊さんである。対する我が家は神道の家系で、ずっと神主のお世話になっている。我が家のお墓にはお線香をあげるスペースはない。榊の枝を振り、お米とお塩を供える祭壇と神様を祭る神棚だけ。しかし迷いながら、「調べたけれどもわからなかったんだ」と言いながら我が家のためにと渡してくれたお線香。こんなにありがたいものはないだろう。友人に礼を言いお線香を受け取った。外箱からもかすかに良い香りが漂っていた。

友人は今度結婚し地元を離れる。自然会う機会は減るだろう。友人は離れた土地に住む。そしてこの土地には空き家空き部屋空き店舗が少しずつ少しずつ増えていく。寂しいと思うが己はこの土地から十年も前に離れており、感傷を抱くのは年に二回だ。誠に勝手な話である。だってこの土地に己は何も責任を持たないから。たまに帰って寂しさを感じるだけだから。よって身勝手と知っている。しかし寂しい。友人は語ってくれる。3月のライオンのアニメ、今も主人公はつらい境遇にいるが、これからさらにしんどい展開が待っていると。さらにその辛さを襲うのは作中の数少ない癒しである貴重な三姉妹の家であると。マジかよマジかよマジかよ!!!

「マジ勘弁してくれ」「しかしそうなんだ」と言葉を交わし帰路に着く。友人は今度結婚する。次回会うのは式場だろう。小学校一年生、六歳からの友人はすっかり大きく育った。お線香の香りを嗅ぎながら駆け回った時代を思う。あぁ。会えて良かった。

その後も続けよう。交流を。必ずや。



日記録6杯, 日常

2017年1月2日(月) 緑茶カウント:6杯

笑え笑え笑え。ここで笑えば一生楽に生きられる、言わばここが己の登竜門だ、と思うものの笑えず居間に気まずい空気が流れる三十歳。笑いたい。笑いたいのに笑えない。

家族と観る正月番組。流れるお笑いの方々。コント、漫才、自虐ネタ多種多様。その中でどうしても笑えないのは下ネタと、三十歳を超えて一人で生きている女性の言わされているような自虐ネタに、セクハラにあったと思われる人を自意識過剰と断定し、笑いに転ずるネタ。特に最後の一つ。決してそんなことはないのだが、「不細工」と世間から認定され、自らその立場を狙っている芸人が、男性に色目を使われ傷つき、傍らの女友達が庇うことで滑稽さを演出するネタ。これを己は笑えるだろうか。これを笑ってしまった途端、容姿に自信がないながらも、本当に困っている女性を窮地に追いやることになるまいか。これは本当に笑ってしまって良いネタなのか? まるで、美人以外は自意識過剰で、救われる必然がないと語っているようだぜ。

笑うとは難しい。年配のキャリアを積んだ芸人による若い女性タレントへのセクハラめいた芸。起こる笑い。彼女達は何を思ってここに座っているのか己にはわからない。仕事とわりきっているのか、芸人をリスペクトして楽しみながら混ざっているのか、嫌々やっているのかわからない。しかし彼女達はきっと大人と称され愛されるだろう。だが自分は困惑し、笑えず画面を睨むのである。

笑え笑え笑え。あけっぴろげな下ネタも、性器の話も何もかも笑え。その瞬間きっと自分は楽になれるのだ。その瞬間周囲の人々にほっとしながら招き入れられるのだ。わかっている。きちんとわかっている。しかし未だ笑えない。だって、楽しくないから。

笑え笑え笑え。念じつつ笑えない画面により感じる距離。これが世間との距離なのか。苦さと共に味わう正月の悲しさである。笑え。



未分類6杯, 筋肉少女帯, 非日常

毎年恒例クリスマスイブイブライブ。筋少の楽曲を全身に浴び、多幸感に包まれて息をつく気持ち良さ。オーケンがMCで「変化を求めていない観客」「安定を求めているよね」とニコニコ語っていたように、確かに己はこのライブに大きな変化球を望んではいない。約束されたいつもの楽しさを、期待通りに受け取れることが何より嬉しいのである。オーケンにクリスマスをネタにいじられ、アンコールではおいちゃんとふーみんがトナカイとサンタの装いで現れてお菓子を撒き、終演後に鳴り響くクリスマスソングを背にドリンクカウンターへと向かう。定番曲中心のセットリストは実家に帰って来たかのようなしっくり感があり、かと思えば珍しくも嬉しいレア曲もあって、ただただ純粋に「あぁ、楽しかった」と口元が緩むのである。

そして今夜のセットリストがこちら。何てったって一曲目が「イワンのばか」。そのうえ最後は「サンフランシスコ」で締めだなんて、もうたまらないにも程がある。


イワンのばか
君よ!俺で変われ!

俺の罪
カーネーション・リインカーネーション
時は来た

アウェー イン ザ ライフ
レセプター(受容体)
ロシアンルーレット・マイライフ

ベティー・ブルーって呼んでよね
S5040
SAN FRANCISCO(エピローグ)

人から箱男
混ぜるな危険
ゾロ目
踊るダメ人間
トゥルー・ロマンス

~アンコール~
元祖高木ブー伝説
機械
サンフランシスコ


個人的な目玉は「レセプター(受容体)」「S5040」「SAN FRANCISCO(エピローグ)」「トゥルー・ロマンス」に、「元祖高木ブー伝説」。「S5040」はアルバム発売ツアーでは演奏されず、今回初披露となった曲である。みょんみょんみょんみょん……と怪しげな音が空間に広がり、椅子に座ったオーケンが静かに歌いだす。おいちゃん、オーケン、うっちー、エディ、長谷川さんの五人での編成で珍しく橘高さんがステージにいない。ベースの存在感が一層濃く、どこか得体の知れないところに連れて行かれそうな空気が濃密に漂う。

曲の後半で橘高さんのいない上手にアコースティックギターが設置され、ふらりと青い闇の中に橘高さんが現れる。ギターの前に立ち、じっと微動だにせずギターを爪弾くタイミングを待つ横顔が実に美しかった。

そして静かに曲が終わると、オーケンがぼそりとある一節を呟いた。瞬間、ざわつく会場。椅子を立ったオーケンはステージを去り、空間に響くのはやわらかなギターとピアノの音色。そこに優しく叩かれるドラムが重なり、始まったのは「SAN FRANCISCO(エピローグ)」。

この曲は活動休止前、最後に発売されたベストアルバムの終わりに収録されている。やわらかくあたたかな音色だが、かつてはこの「エピローグ」に心を掻き乱された人もいたことだろう。今これをただ純粋に美しい曲として聴き入ることができるのは実に幸せだ。エピローグがプロローグに繋がってくれて本当に良かった。

また、一回終わると見せかけて、演奏がピタッと止んで無音になった後、ドンッと一斉に曲が再開した演出が実に格好良く、心が痺れた。終わりと見せかけて終わらない。エピローグがエピローグのまま終わらない。

特にテーマとして銘打たれてはいなかったが、「再生」を感じさせられるライブだったと思う。定番曲で固められたセットリストには、「かつての定番曲」もあり、「アウェーインザライフ」「ロシアンルーレット・マイライフ」「元祖高木ブー伝説」は久しくライブで聴いておらず、懐かしさを感じつつ「あぁ、これこれこの感じ」とかつての感覚が蘇る。「カーネーション・リインカーネーション」は輪廻転生を歌い、「トゥルー・ロマンス」では村人に祝福されながら、死んだ男がゾンビとなって恋人のもとに戻ってくる。MCではオーケンが、来年だけではなく、来世も来々世も来々々世も会いましょうと気が遠くなるほど先での再会まで約束してくれた。そして、終わらなかったエピローグ。

一年間、楽しいことや辛いこと、いろいろなことがあっても、ぐるぐる回って回って回って回ってこの12月23日にさえ辿り着ければ、また来年へと向けて歩み出せる。来年もきっと、この日を迎えられるはずと思えるからこそ乗り切れる。その決して言葉に表されていない約束を信じられるからこそ、その約束が果たされたとき心の底から歓喜して、全身が喜びに満ち溢れるのである。

今日のライブは前から二番目で観られたため、広い視界を手に入れることが出来た。場所は内田さんの前で、おいちゃんふーみんが投げたお菓子を取ることは出来なかったものの、ステージから身を乗り出してギターソロを弾く橘高さんの汗の粒がポタリと頬に落ち、力強い臨場感と迫力に圧倒され非常に興奮した。あれは……ドキドキした……。

MCはのほほんとしつつブラックなネタもそこかしこで披露された。特に面白かったのはオーケンが内田さんに、告知の紙を丸めてナイフに見立てて襲い掛かってきてほしい、とステージでいきなり小芝居を要求するシーン。事前の打ち合わせがなく驚く内田さんに、「ごめん、今ここで打ち合わせさせて!」とステージで頼むオーケン。その後オーケンの要求は叶えられ、律儀に襲い掛かる内田さんの一つ一つのアクションに橘高さんがギターで効果音をつけるのが実に漫画的で面白かった。

内田さん関連ではソロの話も面白かった。打ち込みのソロアルバムの発売が決まった内田さん。そのデモをオーケンが楽屋で聴いていたところ、いきなりドアがバーンと開かれ、「こんなのはダメだー!」とラジカセをバーンと開き、プリプリ怒りながらCDを回収していったと言う。内田さんはきちんとした完成品を聴かせたかったため、デモを聴かれて混乱してその行動に出たそうなのだが、オーケンは内田さんに怒られたのは中学ぶりくらいだったらしく、非常に怖かったと語っていた。

「俺の罪」の曲に入る前のMCも印象的だった。「俺の罪」を気に入っている長谷川さん、てっきりオーケンはドラムが大変じゃないから好きなのだろうと思っていたが、長谷川さんは「俺の罪」の歌詞が好きだったとのこと。このことをオーケンが非常に喜んでいて、至るところで「歌詞が良いからね!」と自画自賛しながらおどけていた。

クリスマスの話題から、昔のライブでは盛り上がっているときにキスをしているカップルがいた話に。オーケンがおいちゃんに「そういうお客さんいたよね?」と話を振ると、狼狽するおいちゃん。「米! 米! 米! 米! って盛り上がっているときにちゅーってしてるんだよう」と語るオーケン。日本の米で盛り上がってキスするってすごいな。そして「今日そういうお客さんいますか~」と目の上に手をかざして探す真似をするオーケンとおいちゃん。今日の空間にはいたのだろうか。

エディとのMCも面白かった。最近行われた特撮のライブは開演時間が早く、終演後にサザエさんが見られそうな時間帯だったそうだ。そこでオーケン、ライブ前に番組表をチェックすると「穴子さんのバイオリン」という話が予定されていて、それをMCで披露したら受けたという。エディも気に入り、気になったので終演後にサザエさんを実際に見てみたら、楽しい話かと思いきや暗く悲しい話だったそうで、エディはショックを受けたらしい。そしてサザエさんやムーミンなどのほんわかしたアニメでたまに暗い話が差し込まれるのがすごく嫌だ、と幼少時の思い出を交えつつ力説していた。

開演時、おいちゃん、オーケン、ふーみんが赤い衣装に身を包んでいて、少なからずクリスマスを意識していることが感じられ、嬉しかった。そんな中で内田さんだけが黒い衣装で、さらに真っ黒のフードを頭に被って怪しげな雰囲気。メンバーの中で内田さんが一番クリスマスから遠いところに身を置いているように思う。

何の曲だったか忘れてしまったが、内田さんがモニターに腰掛けながらベースを弾くシーンがあり、それが実に格好良かった。橘高さんもその隣に並んでギターを弾いてくれて嬉しかったなぁ。

アルバムを発売してまだ一年しか経っていないのにオーケンがもう「時は来た」の存在を忘れていたことに笑った。しかし曲中での語りは顕在で、これをクリスマス直前に聴けるってたまらないな、とにやにやしてしまった。時は来た、打ち壊せ、目にもの言わせ! 集まったものの敵の正体がわからず、途方に暮れるカルト達の間抜けさ。煮詰めた恨みと怒りの行く先はいったいどこに向かうのか。大丈夫、それはここで発散・昇華されるのである。

時は来た。また来年も時は来る。再びここに集う日を待ちながらしばし余韻に浸れば良い。そうしたら、ほてほて、ほてほてと歩き出そう。次に向けて。