M.S.S Project ~光と闇のファンタジア~ FINAL at 日本武道館 (2017年2月18日)

会場に着いて思ったことは、まるで祭りのようだなぁ、ということだった。

九段下駅から徒歩数分で辿り着く日本武道館。改札を出て歩を進めるにつれ、般若の面をキーホールダーの如くぶら下げた人や、メンバーのぬいぐるみや缶バッジをつけた人々が己と同じ方向へ進むさまが目に入るようになる。ここまでは良く見る光景だが、流れに乗ってさくさく歩いて門をくぐった先は普段と異なる様相だ。祭りのように人がごった返し、物販用のテントが連なる先には長蛇の列。テントには「物販の整理券の配布は終了しました」との文字があり、親類縁者関係者仕事先から贈られた花輪の数々の前にも人が集まっていて、拡声器を持った係員があちこちで誘導の声かけをしている。おおおおおお……!

あぁ、そうか、武道館ってのはただのライブではなく、祭りなのだ。祭りなのか! 見渡せばこれまでに観た二回のライブよりも年齢層が広いようで、自分と同年代、それ以上の方々も多く見受けられた。武道館という特別な会場でやるなら是非と意気込んで来た人、せっかくだから都合をつけてどうにか来たいと思った人、いろいろな人がこの場に集まったのだろう。武道館という地の特別さを感じた一シーンであった。

座席は二階席の南西エリアで、売店でコーラを購入してよいよいと席に着いた。荷物を置くのも一工夫いる狭さで、人が行き来するのも一苦労。この広い会場いっぱいに人がぎゅんぎゅんに詰められて、巨大な日の丸の旗の下に設えられたステージに注がれる熱視線の熱量たるや。前回の反省を踏まえ余裕を持って着席した自分は、コーラを傾けながら周囲の興奮に何とはなしに耳を傾けていた。

程なくして暗転し、歓声とともに灯がともるスクリーン。ファンタジーな装いの四人が映り、正体不明の魔王を退治するためにだらだらと旅に出る。途中eoheohがおかしなテンションになって、擬音を駆使してセグウェイに肩車で四人乗りする描写を声だけでしていて、そのテンションとセグウェイ四人乗りの異常さがおかしくてゲラゲラ笑った。

映像が終わるとM.S.S. Projectのメンバーが登場! さてついに! 前回の公演で購入したペンライトをここで振ろうじゃないか! 袋からは取り出してあり、電池も確認済み。動作も家で数度チェックした。よっしゃーペンライトを振るぞ! と思ったものの己の手は止まった。

四人、突出して目立っている人がいない場面では何色を振れば良いんだ……?

例えばKIKKUN-MK-IIのテーマでは黄色にするのはわかる。FB777が歌っているときに青にするのもわかる。しかしこういうこれと言って何もない場面では何色にしとけば良いのだろうか。いわゆる「推し」がいる人であれば通常時には常にその色にしておけば愛と応援をアピールできてよろしいだろう。ペンライトにはそういった使い方もあるはずだ。しかし自分は……赤か? それともここは光の三原色を混ぜて全員カラーを白、と解釈すべきか……?

迷った挙句両隣の人の中間色にした。調和がとれて満足である。

そして満足している間に毎度の如く魔王を倒すためにゲーム実況を開始する宣言がされ、わーっと盛り上がる会場。ここでペンライトを振ろう、と思いつつまた手が止まる。

これって……縦に振るのか? 横に振るのか?

今までずっと盛り上がるときは拳を突き上げることしかして来なかったため、「何かを振る」ことで興奮を表現しようとすると体が混乱するらしい。言ってみれば、自分の体には「興奮」の表現として「ペンライトを振る」動作がプログラミングされていないため、エラーが発生するのである。縦に振ろうが横に振ろうがどっちだって良いじゃないかと今となってみれば思うのだが、エラーの結果自分は「え? え?」と混乱しながら眼下のペンライトの動きを確認していた。横だった。

そんな中で催されたゲーム実況。一つ目はカードゲームの「ナンジャモンジャ」で、単純明快で面白かった。ポップな化け物が描かれたカードをめくり、出た化け物に名前をつける。そして新しいカードをめくったときに既に名前をつけられた化け物が出た場合は、その名前を叫び、一番早かった人がカードを取得できる。カードの枚数が一番多い人が勝ち、というルールだ。これ、自分で作ることも出来そうだしやってみたい。

そうして名づけられた名前は「ライオン丸」「みるからに馬鹿」「うちのおかん」「バブルボンバー」「すね毛がすごい」「小さい方が本体」「バイバイ」などなど。あとうろ覚えなところで「キューティーピンキー」か「プリティーピンキー」、「ブルーサウザンドなんちゃら」「足長男」「もじゃお」と、黄緑色の化け物には白色要素が無いのに「ホワイト」が名前に含められていた。

このゲームは以前にもプレイしたことがあるようで、隣の席の男性がちょくちょくと改名前の名前を呟いていた。

次のゲームはビデオゲームで、M.S.S. Projectがテーマのゲームのようである。詳細は知らないが、小説とコラボしていたことを考えればゲームとのコラボも不思議ではない、と納得しつつステージを観ていると、きっくんに何かを囁かれたあろまほっとが口に含んだ水を勢いよくぶはあと吐き出してびっくりした。わざとやったようだが、何だ? 何か元ネタがあるのか? 衣装びっちゃびちゃだが良いのか???

タオルで拭くこともなくプレイを開始するあたりが潔い。ちなみにコントローラーも水で濡れていたようだ。すごい。勢いが。

ゲームは固定された画面の中で、M.S.S. Projectのメンバーを模したキャラクターが殴り合いをしつつポイント集めをし、ポイントが多い人が勝ち、といった内容だった。何回死んでも良いらしく、死ぬたびにキャラクターの肉片のようなものが画面外から四散されるが、次の瞬間には蘇って殴り合いを再開していた。

ゲームが終わったらメンバーはステージから退場。幕間に流される映像のテーマは「武道館のファンタジー」。なんと今回、eoheoh、FB777、あろまほっとの三人がネタ被りをし、三人とも頭部が武道館の怪人ないしはロボットを描いていた。そんな中で「ブドウ●カーン」という、頭部がブドウで逆日の丸カラーの怪人を描いたきっくんは一線を画していて見事だった。

さて、映像が終わりステージがしんと静まれば……ステージの前方と後方を区切る壁が門を開くように動き、現れるサポートミュージシャン。そして何とステージ中央、何も無い床からKIKKUN-MK-IIがせり上がり、登場する演出が! おおおおお! これは格好良い!

興奮しつつ、これは黄色にせねば! とペンライトを操作するも不慣れゆえうまく動かせない。そしてわちゃわちゃしていたらいつの間にか全員ステージに現れていた。振り回すべきペンライトに振り回されてどうするのだ、自分。

ちなみにペンライトの操作に慣れたのは本編後半に差し掛かった頃だった。そんなこともあり、曲順の記憶はあやふやであるがご容赦を。

一曲目は「Over Road」で、ソリッドなギターが格好良くも気持ち良い。そして二曲目はお約束の「踊れ!」のシャウトとともに始まる「ENMA DANCE」で、大人気「ボーダーランズのテーマ」へと続く。

「ボーダーランズのテーマ」ではステージの上手と下手に設置された櫓のようなものにあろまほっととeoheohがそれぞれ乗り、人力で押される櫓はアリーナ席に作られた通路を進み、大興奮の客席。二人は水蒸気を噴射する銃を構えそれを噴射していて、その様子が何かに似ていると思ったがすぐにわかった。除草剤を撒く仕草だ!

しかし撒かれるのは除草剤ではなく水蒸気。良いなーあれ、あの席の人嬉しかろうなぁ。通路の真ん中では櫓と櫓がくっつき、あろまほっととeoheohは柵を乗り越え乗り換える。ここでまたわーっと歓声が起こり、櫓はゆるゆると元来た道へと戻っていく。黒いジャンパーを着て真面目に櫓を押す人と周囲の空気の対比も面白かった。

四曲目ではちょっと珍しいことが。照明がワントーン暗くなり、サポートベーシストにスポットライトがあたる。一、二、と数を数えるように奏でられるベースソロ、そしてスポットライトはその隣のドラマーを照らし、激しいドラミングが終わるや否や、パッと灯りがついて始まったのは「幾四音-Ixion-」! このアレンジは面白い! 無機質なイントロから始まるイメージが強いだけに意外性があって楽しかった。また、この曲のときにだけ、ペンライトをピンク色に変える人がちらほらいるのも印象的だった。「幾四音-Ixion-」のイメージの由来する何かがあるのか、それともサポートミュージシャンに向けたものなのか。わからないが綺麗だった。

そして今まで思い思いの色で振られていたペンライトが一色に染まる瞬間! 「THE BLUE」だ! この一体感は気持ち良い。今回初めて二階席でM.S.S. Projectのライブを観たので、これまでペンライトによる絶景は後方を振り返らないと見られなかったが、実際目にするとすごい。オーケンが「大槻ケンヂと絶望少女達」の企画でアニメロサマーフェスティバルに出たとき、サイリウムの海の美しい景色を筋肉少女帯のメンバーとファンにも見せたいと思ったそうで、数年後筋肉少女帯でのアニサマ出演が叶い、それを実現できたとき喜んでいた話を思い出した。これか。この景色か。

初音ミクによる現実味のない早口の歌唱が非現実感を盛り上げて尚一層心地良い。暗い海の底から明るい光が差し込む水面を見上げているようだった。

非現実感を味わったあとはFB777が大活躍の「M.S.S.PiruPiruTUNE」! 別の曲でも思ったが、歌、上達してるよなぁ……。初めて観たライブにあった初々しさが徐々に削ぎ落とされて、自信を持って楽しく歌っているように見えて、それがまた素敵なのだ。アンコールの新曲メドレーの「WAKASAGI」でもそうだったが、あらゆるものから解放された歌のおにいさんのような清清しさがある。のびのび歌っていて気持ち良さそうだ。

ゾンビ曲「Phew!」ではあろまほっととeoheohが前回と同様にストーリーを演じるパフォーマンスを披露。狩りのシーンであろまほっとは普通に狩りをしていたが、eoheohはきっくんやベーシストに矢を放つ仕草をし、きっくんは倒れ、eoheohはその肉を喰らっていた。怖い。

この曲のキーボードソロのとき、キーボーディストの周りにメンバーが集まってその指先を眺めているシーンもあって、それが微笑ましかった。あのあたりの音色美しいよなぁ。ゾンビっぽくないよなぁ……。

ちょっと記憶が曖昧なのだが、「KIKKUNのテーマ」のときだったかな? キーボーディストがキーボードを弾きながら楽しそうに拳を振り上げていた姿が印象に残っている。バンドによってサポートミュージシャンの役割の度合いは違うが、自分はこんな風に、ステージにいる皆が楽しそうにしているのを見るのが好きなので何だか嬉しくなってしまった。

「KIKKUNのテーマ」は言うまでもなく盛り上がった。始まる気配がした途端ポツポツとペンライトの色が黄色に変わっていき、あっという間に黄色に塗り上げられる! そんな中でちょこちょこと黄色以外のカラーを固持する人もいて、徹底したこだわりを感じつつ、ふと、自分のペンライトが何色なのかわからない人もいるかもしれない、とも思った。

と言うのは昨日、日記に色覚異常を持つ友人の話を書いたばかりゆえの連想もある。ペンライトのボタンは三つで、「電源」と「色の確定」を指示する四角のボタンと、その左右に色を順繰りに変化させる三角のボタンがついているだけで、色の名称は表示されないのだ。色は全部で十二種類で、濃淡により見分けがつきにくいものもあってややこしい。色の見分けができなくても、今何色が表示されているかわかるペンライトがあったら良いな、と思った。

そして思うのは、この美しい青や黄色の景色もかの友人には別の景色に見えるだろうと言うことで。ライブの帰り道、今まで友人から聞いた話をもとにその景色を何とはなしに想像したのであった。

閑話休題。「KIKKUNのテーマ」が始まる前に、きっくんよりコールの練習タイムが設けられる。その間ずっとリズムを刻み続けるドラマーの仕事たるや! 日常で大声で叫ぶ機会はなかなか無いので、「きっくん! きっくん!」と大声を出してペンライトを振るのは実に楽しい。また、きっくんだけでなくメンバーのコールも行った。「きくえおきくえお!」「あろえびあろえび!」と楽しく叫びつつ、カップリング名称みたいだな、と思った。

特に格好良いと思ったのは「Glory Soul」! 舞台音楽のような曲調で、まるで今にもミュージカルが始まりそうで心が躍る。M.S.S. Projectのメンバー全員が上手と下手に分かれて先ほどの櫓に乗り、KIKKUN-MK-IIとFB777は楽器を担ぎ、あろまほっととeoheohは剣を持って殺陣を演じるパフォーマンス! おお、前回にはない動きも取り入れられている!

しかしこの櫓結構揺れるらしく、酔いそうになったとステージに戻ったKIKKUN-MK-IIは語っていた。

本編最後は「M.S.S.Phantasia」で締め。メンバーがステージからいなくなり、客席から湧き起こるアンコール。これがすごかった。ちゃんと「アンコール!」と叫んでいるのだ。と言うのも自分が行くライブでは「アンコール!」というコールはほとんど無く、手拍子だけでアンコールを要望することが多いのである。こんなアンコールらしいアンコールを聞いたのは久しぶりのような、もしかしたら初めてかもしれないような……。

そうして始まったアンコール一曲目は予想外! 新曲メドレーだった。KIKKUN-MK-IIから始まり、あろまほっとにバトンタッチし、eohoehへと繋がってそれぞれがソロを歌う! あろまほっとはよく通る声だが歌いなれていない様子が感じられ初々しく、eoheohは密閉空間から出しているとは思えない歌声が響いてきてびっくりした。「息もできないくらい」と高らかに歌ったときは「そりゃなあ」と思ったが、息ができているからすごい。

メドレーラストはFB777の「WAKASAGI」。さきにも書いたがすごく気持ち良さそうだった。

最後の最後は明るく楽しく「We are MSSP!」でおしまい。射出された色とりどりのテープが目線の高さまで飛び上がり、一度中空でわだかまった後、キラキラと光を反射させながら下りていく色のかたまりの美しさったら。下から見上げるのも良いが、こうして同じ高さから見下ろすのも美しい。

終演後もしばらくメンバーはステージに残ってくれた。恐らく一番武道館への憧れが強かったであろうきっくんは特にステージを去りがたいのか、ここでも、またその前の場面でも一つ一つ吐き出すようにしながら言葉を語っていた。そこには照れ隠しも混ざりつつ、隠し切れない喜びも滲み出ていて、故に言葉がまとまらず、まとまらない欠片がそのままにポロポロと漏れ出しているようだった。

外に出れば日はすっかり落ちていて、時計を見れば二十一時前。開演時間を思うと、何と長くこの空間に滞在したのだろう! 興奮冷めやらぬ人々がそこかしこで輪を作り感想を語り合う中、祭りの余韻を感じつつ九段下駅へと向かう。あぁ、楽しかった。

しかし最後の最後。うっかり道を間違えて反対方向へと進み、街灯が少なくやけに暗い車道の脇をほてほてと歩いていたら目の前にぼうと浮かぶ般若の面! ぎょっとして目を見開くとリュックサックにキーホールダーの如く般若の面をぶら下げた女性が闇の中で立ち止まり、携帯電話をいじっていた。びっくりした。怖かった。いつか都市伝説が生まれるかもしれない。



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