タイトルなし/筋肉少女帯 (2016年12月23日)
毎年恒例クリスマスイブイブライブ。筋少の楽曲を全身に浴び、多幸感に包まれて息をつく気持ち良さ。オーケンがMCで「変化を求めていない観客」「安定を求めているよね」とニコニコ語っていたように、確かに己はこのライブに大きな変化球を望んではいない。約束されたいつもの楽しさを、期待通りに受け取れることが何より嬉しいのである。オーケンにクリスマスをネタにいじられ、アンコールではおいちゃんとふーみんがトナカイとサンタの装いで現れてお菓子を撒き、終演後に鳴り響くクリスマスソングを背にドリンクカウンターへと向かう。定番曲中心のセットリストは実家に帰って来たかのようなしっくり感があり、かと思えば珍しくも嬉しいレア曲もあって、ただただ純粋に「あぁ、楽しかった」と口元が緩むのである。
そして今夜のセットリストがこちら。何てったって一曲目が「イワンのばか」。そのうえ最後は「サンフランシスコ」で締めだなんて、もうたまらないにも程がある。
イワンのばか
君よ!俺で変われ!
俺の罪
カーネーション・リインカーネーション
時は来た
アウェー イン ザ ライフ
レセプター(受容体)
ロシアンルーレット・マイライフ
ベティー・ブルーって呼んでよね
S5040
SAN FRANCISCO(エピローグ)
人から箱男
混ぜるな危険
ゾロ目
踊るダメ人間
トゥルー・ロマンス
~アンコール~
元祖高木ブー伝説
機械
サンフランシスコ
個人的な目玉は「レセプター(受容体)」「S5040」「SAN FRANCISCO(エピローグ)」「トゥルー・ロマンス」に、「元祖高木ブー伝説」。「S5040」はアルバム発売ツアーでは演奏されず、今回初披露となった曲である。みょんみょんみょんみょん……と怪しげな音が空間に広がり、椅子に座ったオーケンが静かに歌いだす。おいちゃん、オーケン、うっちー、エディ、長谷川さんの五人での編成で珍しく橘高さんがステージにいない。ベースの存在感が一層濃く、どこか得体の知れないところに連れて行かれそうな空気が濃密に漂う。
曲の後半で橘高さんのいない上手にアコースティックギターが設置され、ふらりと青い闇の中に橘高さんが現れる。ギターの前に立ち、じっと微動だにせずギターを爪弾くタイミングを待つ横顔が実に美しかった。
そして静かに曲が終わると、オーケンがぼそりとある一節を呟いた。瞬間、ざわつく会場。椅子を立ったオーケンはステージを去り、空間に響くのはやわらかなギターとピアノの音色。そこに優しく叩かれるドラムが重なり、始まったのは「SAN FRANCISCO(エピローグ)」。
この曲は活動休止前、最後に発売されたベストアルバムの終わりに収録されている。やわらかくあたたかな音色だが、かつてはこの「エピローグ」に心を掻き乱された人もいたことだろう。今これをただ純粋に美しい曲として聴き入ることができるのは実に幸せだ。エピローグがプロローグに繋がってくれて本当に良かった。
また、一回終わると見せかけて、演奏がピタッと止んで無音になった後、ドンッと一斉に曲が再開した演出が実に格好良く、心が痺れた。終わりと見せかけて終わらない。エピローグがエピローグのまま終わらない。
特にテーマとして銘打たれてはいなかったが、「再生」を感じさせられるライブだったと思う。定番曲で固められたセットリストには、「かつての定番曲」もあり、「アウェーインザライフ」「ロシアンルーレット・マイライフ」「元祖高木ブー伝説」は久しくライブで聴いておらず、懐かしさを感じつつ「あぁ、これこれこの感じ」とかつての感覚が蘇る。「カーネーション・リインカーネーション」は輪廻転生を歌い、「トゥルー・ロマンス」では村人に祝福されながら、死んだ男がゾンビとなって恋人のもとに戻ってくる。MCではオーケンが、来年だけではなく、来世も来々世も来々々世も会いましょうと気が遠くなるほど先での再会まで約束してくれた。そして、終わらなかったエピローグ。
一年間、楽しいことや辛いこと、いろいろなことがあっても、ぐるぐる回って回って回って回ってこの12月23日にさえ辿り着ければ、また来年へと向けて歩み出せる。来年もきっと、この日を迎えられるはずと思えるからこそ乗り切れる。その決して言葉に表されていない約束を信じられるからこそ、その約束が果たされたとき心の底から歓喜して、全身が喜びに満ち溢れるのである。
今日のライブは前から二番目で観られたため、広い視界を手に入れることが出来た。場所は内田さんの前で、おいちゃんふーみんが投げたお菓子を取ることは出来なかったものの、ステージから身を乗り出してギターソロを弾く橘高さんの汗の粒がポタリと頬に落ち、力強い臨場感と迫力に圧倒され非常に興奮した。あれは……ドキドキした……。
MCはのほほんとしつつブラックなネタもそこかしこで披露された。特に面白かったのはオーケンが内田さんに、告知の紙を丸めてナイフに見立てて襲い掛かってきてほしい、とステージでいきなり小芝居を要求するシーン。事前の打ち合わせがなく驚く内田さんに、「ごめん、今ここで打ち合わせさせて!」とステージで頼むオーケン。その後オーケンの要求は叶えられ、律儀に襲い掛かる内田さんの一つ一つのアクションに橘高さんがギターで効果音をつけるのが実に漫画的で面白かった。
内田さん関連ではソロの話も面白かった。打ち込みのソロアルバムの発売が決まった内田さん。そのデモをオーケンが楽屋で聴いていたところ、いきなりドアがバーンと開かれ、「こんなのはダメだー!」とラジカセをバーンと開き、プリプリ怒りながらCDを回収していったと言う。内田さんはきちんとした完成品を聴かせたかったため、デモを聴かれて混乱してその行動に出たそうなのだが、オーケンは内田さんに怒られたのは中学ぶりくらいだったらしく、非常に怖かったと語っていた。
「俺の罪」の曲に入る前のMCも印象的だった。「俺の罪」を気に入っている長谷川さん、てっきりオーケンはドラムが大変じゃないから好きなのだろうと思っていたが、長谷川さんは「俺の罪」の歌詞が好きだったとのこと。このことをオーケンが非常に喜んでいて、至るところで「歌詞が良いからね!」と自画自賛しながらおどけていた。
クリスマスの話題から、昔のライブでは盛り上がっているときにキスをしているカップルがいた話に。オーケンがおいちゃんに「そういうお客さんいたよね?」と話を振ると、狼狽するおいちゃん。「米! 米! 米! 米! って盛り上がっているときにちゅーってしてるんだよう」と語るオーケン。日本の米で盛り上がってキスするってすごいな。そして「今日そういうお客さんいますか~」と目の上に手をかざして探す真似をするオーケンとおいちゃん。今日の空間にはいたのだろうか。
エディとのMCも面白かった。最近行われた特撮のライブは開演時間が早く、終演後にサザエさんが見られそうな時間帯だったそうだ。そこでオーケン、ライブ前に番組表をチェックすると「穴子さんのバイオリン」という話が予定されていて、それをMCで披露したら受けたという。エディも気に入り、気になったので終演後にサザエさんを実際に見てみたら、楽しい話かと思いきや暗く悲しい話だったそうで、エディはショックを受けたらしい。そしてサザエさんやムーミンなどのほんわかしたアニメでたまに暗い話が差し込まれるのがすごく嫌だ、と幼少時の思い出を交えつつ力説していた。
開演時、おいちゃん、オーケン、ふーみんが赤い衣装に身を包んでいて、少なからずクリスマスを意識していることが感じられ、嬉しかった。そんな中で内田さんだけが黒い衣装で、さらに真っ黒のフードを頭に被って怪しげな雰囲気。メンバーの中で内田さんが一番クリスマスから遠いところに身を置いているように思う。
何の曲だったか忘れてしまったが、内田さんがモニターに腰掛けながらベースを弾くシーンがあり、それが実に格好良かった。橘高さんもその隣に並んでギターを弾いてくれて嬉しかったなぁ。
アルバムを発売してまだ一年しか経っていないのにオーケンがもう「時は来た」の存在を忘れていたことに笑った。しかし曲中での語りは顕在で、これをクリスマス直前に聴けるってたまらないな、とにやにやしてしまった。時は来た、打ち壊せ、目にもの言わせ! 集まったものの敵の正体がわからず、途方に暮れるカルト達の間抜けさ。煮詰めた恨みと怒りの行く先はいったいどこに向かうのか。大丈夫、それはここで発散・昇華されるのである。
時は来た。また来年も時は来る。再びここに集う日を待ちながらしばし余韻に浸れば良い。そうしたら、ほてほて、ほてほてと歩き出そう。次に向けて。