日記録2杯, 日常

2017年5月26日(金) 緑茶カウント:2杯

とある下り坂に面したこじんまりとしたイタリアンレストラン。ドアーにはめられたガラスから中を覗くと店内にはカウンターとテーブルが二つ。いつ見ても満席で、興味を覚えつつもドアーを叩くことなく通り過ぎていた。そしてある日その店は閉店、否、移転した。壁には移転先の地図とこれまでの感謝の言葉が書かれた貼り紙が一枚。あぁ、ついぞ機会を得ることなく遠くに行ってしまったか、と若干の寂しさを抱きつつ通過したのは幾月前か。そう、確かにあのとき己は地図をよく見なかった。

駅から自宅までの道、それのまた違うルート。気まぐれに歩いた別の道にその店はあった。何と。遠くに行くどころか近くに来ていたとは。軒先は美しい観葉植物で彩られ、ドアーの奥には広々とした空間が広がり、暖かな色合いの光で染められている。これも何かの縁だろう。ちょうど腹も空いている。そうしてついに自分はそのドアーを押し、店内に踏み入ったのだ。

入り口のドアーも、観葉植物も、足元のタイルも、傘建ても、店を構成する一つ一つに気が配られていて、内装も凝った調度品が置かれ、美しい。布でできたランプに、回転する照明。あの小さな店の主はここに移る際、きっと喜びと希望をこの店に詰め込んだのだろう。理想の店を作るべく、あらゆるものにこだわりを発揮したのだろう。そのこだわりの一つが手書きのメニュー表かもしれない。

かもしれない。が、読めない。
いや、読める。ギリギリ読める。読めるが、非常に読みにくい。

それはミミズがのたうったような字で、文字と文字が奇妙に繋がり、変形し、文字から図形へと変化していて、意味を読み取ることが難しい代物であった。それが美しい和紙のメニュー表全体にバラバラと散らばっていて、さらにはカウンターの真上の壁に設置せられた巨大な黒板にも同種のミミズがのたうっていて、布でできたランプや回転する証明が作る美しい空気に堂々と勝負を仕掛けてきているのである。のたうつミミズが。

何だこれ、と衝撃に狼狽するも他の客は楽しげに店員と会話をしていて、再びまじまじとメニュー表を眺めるもやはりそこにはミミズがのたうっていて、黒板にものたうっていて、念のため断っておくとそれは英語やイタリア語の筆記体でも何でもなく、純粋な日本語の偏やつくりが自由奔放に跳ね回る、というか悶え苦しんでいるような有様で、しげしげと眺めるにやはりこれは妙だよなと再認識し、何でこの字が野放しになってんだ、誰か指摘しないのかと疑問を抱きつつ、何とか読み取ってチーズの盛り合わせとソーセージのソテーを食べてビールを呑み、不思議な空間を後にした。

のたうつミミズ、のたうつミミズ。味は普通。味は普通だった。味は、普通だった。味は。



日記録2杯, 日常

2017年4月15日(土) 緑茶カウント:2杯

先日、ハチミツを与えられた乳児が死亡する痛ましい事件が起こった。それからあちらこちらで見かけたのは、ハチミツを乳児に与えたら危ないのは常識であるという言葉であった。実物を手にしたことはないが、母子手帳にも書いてあるらしい。そして我が家の台所に置かれているハチミツのパッケージにもきちんと注意書きがされていて、己は人の親ではないが、その知識は持っていた。ただ己の知識は大分曖昧で、乳児どころか小学校中学年あたりであってもハチミツを与えてはいけないと思っていた。そんな不確かな知識である。

知識はあるに越したことはない。しかしふと思った。ハチミツを乳児に与えてはいけない。己はそれを知っている。とはいえ、それをどこで知り得たか覚えていない。いったいどこから知ったのだろうか。思い返してみれば、己が持つ赤子や乳児に関する知識の多くは亡き母が所有していた育児エッセイ漫画が元であるように思う。育児エッセイ漫画に限らず、家には様々な本と漫画があり、己はそれを読んで育った。ハチミツもそれらの本から得た知識なのかもしれない。

そうであればきっと、更新された情報もあるだろう。己が信じる常識も、今では非常識と伝えられているかもしれない。己は人の親ではない。子を持つ予定もなければ、結婚の予定もなく、その気もない。しかし去年から今年にかけて、友人達に子供が生まれており、赤子を抱いた友人夫婦と席を共にする場面もあった。で、あれば。知識は更新するに越したことはない。

そこで手に取った育児本。小児科医森戸やすみさんの「小児科医ママの『育児の不安』解決BOOK‐間違った助言や迷信に悩まされないために」を読んで、さいたま市が無料配布している「祖父母手帳」と、小児科医森戸やすみさんの「孫育てでもう悩まない! 祖父母&親世代の常識ってこんなにちがう? 祖父母手帳を読んだ。

これらの本はそもそも、以前には常識と信じられていたが、研究の結果新たな事実がわかり、常識であったことが常識でなかったことが明らかにされる本である。よって本来であればこの本を読む前に、より基礎的な育児知識を得られる本を読むのが自然であろう。だが、これらの本を読むことでいくつかの思い込みが打破された。つまり、育児に関わったことのない人間にも思い込みは備わっているのである。

己の持っていた思い込みを紹介しよう。それは「授乳中に薬は飲めない」「授乳中のお母さんが油物やケーキを食べると乳腺炎になりやすくなるので控えた方が良い」「授乳中のお母さんは絶対に珈琲を飲んではいけない」「お母さんの食べたものが母乳の味に影響する」というものであった。これらはどれも、本の中で否定されている。

一般的な抗生剤、胃腸薬、風邪薬、抗ヒスタミン剤であれば我慢しないで使って良い。動物性脂肪が原因で乳腺炎になることは医学的に証明されていない。珈琲は一日五杯までなら問題ない。母乳には成分を維持する保障機能(恒常性)があるので、栄養が不足してもダイレクトに影響することはない。

特に最後は目から鱗であった。それは、母乳は血液から作られるという半端な知識があったからかもしれない。健康診断を受ける前には食事を摂る時間に気をつけ、アルコールを摂取しないよう心がけ、きちんと睡眠を摂ろうとする。そういった事前準備の必要性を理解していたからこそ、母乳にも同じことが求められると曲解していたのかもしれない。

かと思えば、誤解を抱くも何もなく、初めて知った知識もあった。ほうほう、昔は離乳食の前に果汁を与えていたのか。フォローアップミルクなんて初めて聞いたなぁ。離乳食として焼いた肉を与えろなんて話が流布していたのか。どれもこれも新鮮である。

繰り返すが己は人の親ではない。その予定もなく、その気もない。しかし親となった友人に接する機会はいくらでも考えられ、その交流の中でもしかしたら、口には出さないまでも、更新されない知識をもとに己は謝った認識を彼ら彼女らに抱いていたかもしれない。例えばそれは喫茶店で赤子を抱きながら、軽やかにカップを傾ける奥さんを見たときに。彼の人は何も悪くないのに。

明日は我が身と言ったら、思い過ごしにも程があると笑う人もあるかもしれない。だが、思った。知るに越したことはないと。そのうえで知らないこともあるはずだと。だから己は、他人の子供に無闇に触らず、食べ物も玩具も親に断りなく与えないようにしよう。そうした気遣いによって、足りない知識が補填される日も来るかもしれないだろうから。

知るに越したことはない。しかし知りえないこともあろう。それを意識し、心がけていきたい。あくまでも他者である故に。



日記録14周年企画, 2杯, 日常,

2017年3月5日(日) 緑茶カウント:2杯

去年の夏頃だっただろうか。手軽に野菜を食べたい欲求を満たすため、ピクルス作りを始めたのは。なるべくまた板も包丁も出したくない、だけど新鮮な野菜を食べたい。ではどうすれば良かろうか、と考えた末辿り着いたのが保存の利くピクルスだった。ピクルスならまとめて作ってしまえば、あとはビンから出して皿に並べるだけ。楽である。

それから毎週のようにピクルスを作る日々。ところがレシピをもとに作ってみるものの、日数の経過とともに酸味が強くなりすぎて食べるのが苦痛になったり、味が好みでなかったりとなかなか難しい。個人的にディルの利いているピクルスは好みでなく、甘すぎるのも好きではない。サッパリとした酸味の利いたピクルスが理想だ。

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ああでもないこうでもないといろいろなスパイスを試した。ブラックペッパー、鷹の爪、吉野産ぶどう山椒、セロリの種子、ピクリングスパイス、マスタードシード、コリアンダーシード、タラゴン。これらの多くはピクルスのために買ったものだ。しかしなかなか難しく、ピンとくる味に近付いたと思うもののまだ遠い。何かが違う、と思う日々が過ぎた。

そうしてピクルス作りを始めて早数ヶ月。やっと追い求めていた理想の味を構成するレシピに辿り着いた。それがこの三つである。

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ブラックペッパー、鷹の爪、にんにく、以上。シンプルである。すごくシンプルである。正直この三つで良いのであれば自前の品で事足りた。己は随分と回り道をしたらしい。どうすんだあの吉野産ぶどう山椒にマスタードシード。使うあてが全くないぞ。

まぁ、なんだ。紆余曲折あったものの、ようやくまな板も包丁も使わずビンから取り出すだけで野菜を食べられる生活を手に入れた。そんなわけでその理想の味をここに書き記しておこう。

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■ピクルス液のレシピ
穀物酢(ミツカン) …200ml
水 …180ml
砂糖 …大さじ2
塩 …小さじ2
鷹の爪 …1つ
にんにく …1欠片
ブラックペッパー …10粒くらい

(1)小鍋に上記の材料を全部入れて火をつけて、一煮立ちしたら火を止めて荒熱をとる。
(2)保存容器に切った野菜を入れる。
(3)野菜の入った保存容器にピクルス液を注ぐ。
(4)そのまま冷蔵庫へ。一晩経ったらできあがり。

使っている容器は無印良品のソーダガラス密閉ビン1000ml。今回詰め込んだ野菜はきゅうり3本、セロリ1本、赤パプリカ1つ、黄パプリカ1つ、ヤングコーン6本、うずらの水煮いくつか。うずらは今回初めて入れたので美味しいかどうかはわからないが、卵のピクルスもあるそうなので多分悪いことはないだろう。ほか、人参やブロッコリーも美味しい。

ちなみにこのピクルス、満員電車もかくやとばかりにぎゅんぎゅんに詰め込んでいるので、ゆったり入れると上記の材料は入りきらない。テトリスを遊ぶが如くぎゅんぎゅんに詰めて欲しい。ぎゅんぎゅんに。

日持ちは五日程度かな。早めに食べきるのがよろしかろうと思う。さぁ、君も手軽なピクルスライフを手に入れようぜ。楽だよ!

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■参考にしたレシピ
消費、保存、常備に 夏野菜の簡単ピクルス
おつまみにもいける常備菜。ブロッコリーのピクルス



未分類2杯, インストアイベント, 内田雄一郎, 非日常

いやあ危なかった。家でだらだらしながら整骨院に行く準備をしていて気付く。そうだ! 今日は内田さんのインストアイベントの日だ! だらだらしている場合ではない、ってんで、一日の予定とルートを決めてさくさく整骨院に向かったのが十三時頃か。それから少々の買い物を終えて家に帰り、曲の感想を手紙にしたためて再度家を出た。目指すはタワーレコード錦糸町店。

ガタンゴトンと電車に揺られながら内田さんのアルバムを聴き返す。筋肉少女帯のベーシスト・内田雄一郎による筋肉少女帯のテクノカバーアルバムがピコピコビヨンビヨンフワフワと耳を震わす。今日はその発売記念イベントであり、内田さんのトークの後にはサイン会が開かれる。もともと予定していた楽しみをうっかり忘れかけていたおかげで降って湧いた楽しみに感じる愉快さ。先週の水戸さんの100曲ライブでも、水戸さんとワジーは自分達の活動や新譜もそっちのけで内田さんのアルバムについて熱心に語り、宣伝していた。同じミュージシャンが衝撃を受け、語らずにはいられなくなる作品の、その生まれた由縁を今日聴けるかもしれない、と思うとわくわくする。

そうして会場に着いたのがイベントの三十分前か。タワーレコードの入り口に足を踏み入れようとしたそのとき、目の前にビートサーファーズの三浦さんが立っていて、己の横をすっと通り過ぎた影はどこか見慣れた背格好。あ、と思ってその背中を見れば今日の主役、内田さんその人であった。ほぼ同時に会場入りすることになろうとは。偶然とはいえちょっと嬉しい。

ステージの前には既にたくさんの人が並んでいて、もっと早く来れば良かったなと思いつつもそれなりに視界は良好であった。イベントが始まる前から内田さんはひょいひょいとステージに姿を現し、機材の設置や調整を行っていて、またひょいひょいと既に消える。そんな様子を眺めつつ待つこと三十分。十八時になりステージに現れた内田さんは着替えを済ませ、何とジャケットと同じ格好に! おおー! 格好良い!

ステージにはパソコンと内田さん愛用のiPad。iPadに画像を映し、トークとともに画像を切り替え、ちょっとしたスライドショーのような楽しさがあった。このアルバムがどうしてこうなったか、と元ネタの解説がメインで、偏った音楽しか知らない自分にはとても新鮮だった。まずジャケットは1968年にリリースされた「Switched on Bach」のパロディをしようとしたが、結果的に今のデザインになったこと。「Switched on Bach」にジャケットに写っているバッハのおじさんこそが作者のカルロスその人かと思いきや、全然違う人だったこと。そしてカルロスが性別適合手術を越え女性に戻ったとき、「あのバッハのおじさんが!?」と内田さんは衝撃を受けたことが語られた。

この話を聞きつつ、もしかして平沢進のアルバム「Switched-On Lotus」のタイトルもそこから来ているのかなぁ、と思った。

ちなみに「Switched on Bach」のセカンドではバッハのおじさんは宇宙に行っているので、「SWITCHED ON KING-SHOW」もセカンドが出たら宇宙に行っているかもしれないそうだ。次回作がますます楽しみである。

元ネタ解説では主に「イワンのばか」について語られた。イントロはELPの「タルカス」とイエスの「危機」を同時に流すイメージで作られたとのことで、それぞれのイントロと、一緒に流したバージョンも聴かせてくれた。ここで内田さん、「自分だったら三十分聴いていられるけど……」というようなことを語って笑いながらスイッチを切った。内田さん、本当に好きなんだなぁ。

また、メタルですごく盛り上がるところをふにゃんふにゃんした感じにしたら面白いんじゃないか、ということでクラフトワークのMIXを元にアレンジしたそうで、このあたり、是非橘高さんの感想を聴きたいところである。

メタルと言えば、筋少のアルバムを取り込むとドドンと「METAL」と分類されるそうで、「SWITCHED ON KING-SHOW」は何に分類されるのだろうと思いつつ取り込んだら「POP」と表示されたそうだ。そこで内田さん「これからはポップミュージシャンとして生きて行きます」と冗談めかして語っていた。

そして楽しい時間は過ぎ、トークライブは終了。いったん内田さんはステージからいなくなり、会場の準備が整い戻ってきたと思ったら……黒い帽子に黒いマスクの黒尽くめ! 何故か目元しか露出していないという徹底振りである。しかしいつもの眼鏡は外されていたので目元に限って言えば若干露出が増していた。何故だろう。緊張していたのだろうか。

手紙を渡し、サインをしてもらいつつ内田さんと会話出来たのが嬉しかった。あぁ、ドキドキしたけどちゃんと話せて良かった! 握手をしてもらってその場を離れ、ふわふわしつつ反芻したのは「こういうのが楽しいお年頃」という内田さんの言葉。良いなぁ。いくつになっても新たな楽しいことを見つけ、遊べる心持ちは実に良い。そうして出来上がったものが同業者さえ驚かせる衝撃の一作という面白さ。筋肉少女帯の内田さんにはいつも安定感と安心感がある。しかしそれだけではない衝撃的なスパイスをぶっこんでくるバランス感。これこそが彼の魅力なのだろうな、とつくづく思った。次回作も楽しみである。



日記録2杯, 日常

2016年11月12日(土) 緑茶カウント:2杯

太ったのだ。不規則な生活が原因で太ったのだ。よって十一月より、どんなに疲れていても必ず日に二十分間筋トレをするという目標を掲げ、毎日毎日えっちらおっちらダンベルを上げ下げしている。そして今日は大学の友人達との呑み会の日。連日の疲労により起床したのは十五時半。あぁよく寝た、とあくびをしつつ、呑み会と筋トレというこの日の予定を両立させるため、起き抜けにダンベルを振り回し、呑み会に行ったのであった。

楽しかった。

帰宅後、頭はガンガン痛んでいた。無理もない。起きて最初に摂った水分がアルコールなのだ。体に良いわけがない。しかし楽しかった。ビールをガンガンに呑んで、まったり過ごし、特筆することもないあれやこれやを語っただけの時間。気の安らげるまたとない時間。頭はガンガンに痛んでいたが、とにかく楽しく、リフレッシュできた。

さー、これでまた頑張れる。可能であればこういった時間が年内にあと一回でもとれれば良いのだが、とりたいものだ。とれるように頑張ろう。粛々と。