ハチミツと常識と
2017年4月15日(土) 緑茶カウント:2杯
先日、ハチミツを与えられた乳児が死亡する痛ましい事件が起こった。それからあちらこちらで見かけたのは、ハチミツを乳児に与えたら危ないのは常識であるという言葉であった。実物を手にしたことはないが、母子手帳にも書いてあるらしい。そして我が家の台所に置かれているハチミツのパッケージにもきちんと注意書きがされていて、己は人の親ではないが、その知識は持っていた。ただ己の知識は大分曖昧で、乳児どころか小学校中学年あたりであってもハチミツを与えてはいけないと思っていた。そんな不確かな知識である。
知識はあるに越したことはない。しかしふと思った。ハチミツを乳児に与えてはいけない。己はそれを知っている。とはいえ、それをどこで知り得たか覚えていない。いったいどこから知ったのだろうか。思い返してみれば、己が持つ赤子や乳児に関する知識の多くは亡き母が所有していた育児エッセイ漫画が元であるように思う。育児エッセイ漫画に限らず、家には様々な本と漫画があり、己はそれを読んで育った。ハチミツもそれらの本から得た知識なのかもしれない。
そうであればきっと、更新された情報もあるだろう。己が信じる常識も、今では非常識と伝えられているかもしれない。己は人の親ではない。子を持つ予定もなければ、結婚の予定もなく、その気もない。しかし去年から今年にかけて、友人達に子供が生まれており、赤子を抱いた友人夫婦と席を共にする場面もあった。で、あれば。知識は更新するに越したことはない。
そこで手に取った育児本。小児科医森戸やすみさんの「小児科医ママの『育児の不安』解決BOOK‐間違った助言や迷信に悩まされないために」を読んで、さいたま市が無料配布している「祖父母手帳」と、小児科医森戸やすみさんの「孫育てでもう悩まない! 祖父母&親世代の常識ってこんなにちがう? 祖父母手帳」を読んだ。
これらの本はそもそも、以前には常識と信じられていたが、研究の結果新たな事実がわかり、常識であったことが常識でなかったことが明らかにされる本である。よって本来であればこの本を読む前に、より基礎的な育児知識を得られる本を読むのが自然であろう。だが、これらの本を読むことでいくつかの思い込みが打破された。つまり、育児に関わったことのない人間にも思い込みは備わっているのである。
己の持っていた思い込みを紹介しよう。それは「授乳中に薬は飲めない」「授乳中のお母さんが油物やケーキを食べると乳腺炎になりやすくなるので控えた方が良い」「授乳中のお母さんは絶対に珈琲を飲んではいけない」「お母さんの食べたものが母乳の味に影響する」というものであった。これらはどれも、本の中で否定されている。
一般的な抗生剤、胃腸薬、風邪薬、抗ヒスタミン剤であれば我慢しないで使って良い。動物性脂肪が原因で乳腺炎になることは医学的に証明されていない。珈琲は一日五杯までなら問題ない。母乳には成分を維持する保障機能(恒常性)があるので、栄養が不足してもダイレクトに影響することはない。
特に最後は目から鱗であった。それは、母乳は血液から作られるという半端な知識があったからかもしれない。健康診断を受ける前には食事を摂る時間に気をつけ、アルコールを摂取しないよう心がけ、きちんと睡眠を摂ろうとする。そういった事前準備の必要性を理解していたからこそ、母乳にも同じことが求められると曲解していたのかもしれない。
かと思えば、誤解を抱くも何もなく、初めて知った知識もあった。ほうほう、昔は離乳食の前に果汁を与えていたのか。フォローアップミルクなんて初めて聞いたなぁ。離乳食として焼いた肉を与えろなんて話が流布していたのか。どれもこれも新鮮である。
繰り返すが己は人の親ではない。その予定もなく、その気もない。しかし親となった友人に接する機会はいくらでも考えられ、その交流の中でもしかしたら、口には出さないまでも、更新されない知識をもとに己は謝った認識を彼ら彼女らに抱いていたかもしれない。例えばそれは喫茶店で赤子を抱きながら、軽やかにカップを傾ける奥さんを見たときに。彼の人は何も悪くないのに。
明日は我が身と言ったら、思い過ごしにも程があると笑う人もあるかもしれない。だが、思った。知るに越したことはないと。そのうえで知らないこともあるはずだと。だから己は、他人の子供に無闇に触らず、食べ物も玩具も親に断りなく与えないようにしよう。そうした気遣いによって、足りない知識が補填される日も来るかもしれないだろうから。
知るに越したことはない。しかし知りえないこともあろう。それを意識し、心がけていきたい。あくまでも他者である故に。