内田雄一郎『SWITCHED ON KING-SHOW』発売記念インストアイベント (2017年2月12日)

いやあ危なかった。家でだらだらしながら整骨院に行く準備をしていて気付く。そうだ! 今日は内田さんのインストアイベントの日だ! だらだらしている場合ではない、ってんで、一日の予定とルートを決めてさくさく整骨院に向かったのが十三時頃か。それから少々の買い物を終えて家に帰り、曲の感想を手紙にしたためて再度家を出た。目指すはタワーレコード錦糸町店。

ガタンゴトンと電車に揺られながら内田さんのアルバムを聴き返す。筋肉少女帯のベーシスト・内田雄一郎による筋肉少女帯のテクノカバーアルバムがピコピコビヨンビヨンフワフワと耳を震わす。今日はその発売記念イベントであり、内田さんのトークの後にはサイン会が開かれる。もともと予定していた楽しみをうっかり忘れかけていたおかげで降って湧いた楽しみに感じる愉快さ。先週の水戸さんの100曲ライブでも、水戸さんとワジーは自分達の活動や新譜もそっちのけで内田さんのアルバムについて熱心に語り、宣伝していた。同じミュージシャンが衝撃を受け、語らずにはいられなくなる作品の、その生まれた由縁を今日聴けるかもしれない、と思うとわくわくする。

そうして会場に着いたのがイベントの三十分前か。タワーレコードの入り口に足を踏み入れようとしたそのとき、目の前にビートサーファーズの三浦さんが立っていて、己の横をすっと通り過ぎた影はどこか見慣れた背格好。あ、と思ってその背中を見れば今日の主役、内田さんその人であった。ほぼ同時に会場入りすることになろうとは。偶然とはいえちょっと嬉しい。

ステージの前には既にたくさんの人が並んでいて、もっと早く来れば良かったなと思いつつもそれなりに視界は良好であった。イベントが始まる前から内田さんはひょいひょいとステージに姿を現し、機材の設置や調整を行っていて、またひょいひょいと既に消える。そんな様子を眺めつつ待つこと三十分。十八時になりステージに現れた内田さんは着替えを済ませ、何とジャケットと同じ格好に! おおー! 格好良い!

ステージにはパソコンと内田さん愛用のiPad。iPadに画像を映し、トークとともに画像を切り替え、ちょっとしたスライドショーのような楽しさがあった。このアルバムがどうしてこうなったか、と元ネタの解説がメインで、偏った音楽しか知らない自分にはとても新鮮だった。まずジャケットは1968年にリリースされた「Switched on Bach」のパロディをしようとしたが、結果的に今のデザインになったこと。「Switched on Bach」にジャケットに写っているバッハのおじさんこそが作者のカルロスその人かと思いきや、全然違う人だったこと。そしてカルロスが性別適合手術を越え女性に戻ったとき、「あのバッハのおじさんが!?」と内田さんは衝撃を受けたことが語られた。

この話を聞きつつ、もしかして平沢進のアルバム「Switched-On Lotus」のタイトルもそこから来ているのかなぁ、と思った。

ちなみに「Switched on Bach」のセカンドではバッハのおじさんは宇宙に行っているので、「SWITCHED ON KING-SHOW」もセカンドが出たら宇宙に行っているかもしれないそうだ。次回作がますます楽しみである。

元ネタ解説では主に「イワンのばか」について語られた。イントロはELPの「タルカス」とイエスの「危機」を同時に流すイメージで作られたとのことで、それぞれのイントロと、一緒に流したバージョンも聴かせてくれた。ここで内田さん、「自分だったら三十分聴いていられるけど……」というようなことを語って笑いながらスイッチを切った。内田さん、本当に好きなんだなぁ。

また、メタルですごく盛り上がるところをふにゃんふにゃんした感じにしたら面白いんじゃないか、ということでクラフトワークのMIXを元にアレンジしたそうで、このあたり、是非橘高さんの感想を聴きたいところである。

メタルと言えば、筋少のアルバムを取り込むとドドンと「METAL」と分類されるそうで、「SWITCHED ON KING-SHOW」は何に分類されるのだろうと思いつつ取り込んだら「POP」と表示されたそうだ。そこで内田さん「これからはポップミュージシャンとして生きて行きます」と冗談めかして語っていた。

そして楽しい時間は過ぎ、トークライブは終了。いったん内田さんはステージからいなくなり、会場の準備が整い戻ってきたと思ったら……黒い帽子に黒いマスクの黒尽くめ! 何故か目元しか露出していないという徹底振りである。しかしいつもの眼鏡は外されていたので目元に限って言えば若干露出が増していた。何故だろう。緊張していたのだろうか。

手紙を渡し、サインをしてもらいつつ内田さんと会話出来たのが嬉しかった。あぁ、ドキドキしたけどちゃんと話せて良かった! 握手をしてもらってその場を離れ、ふわふわしつつ反芻したのは「こういうのが楽しいお年頃」という内田さんの言葉。良いなぁ。いくつになっても新たな楽しいことを見つけ、遊べる心持ちは実に良い。そうして出来上がったものが同業者さえ驚かせる衝撃の一作という面白さ。筋肉少女帯の内田さんにはいつも安定感と安心感がある。しかしそれだけではない衝撃的なスパイスをぶっこんでくるバランス感。これこそが彼の魅力なのだろうな、とつくづく思った。次回作も楽しみである。