未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

「チケットが優先的にとれる制度」という立ち位置から始まった「ハイストレンジネス・チケットメンバーズ」。三月には発足記念イベントが開催され、いつからか特別デザインのチケットの発行が当たり前のものとなり、ついに会員限定ライブが決定。たった一年の間に、だんだんと「チケットが優先的にとれる制度」から「ファンクラブ的なもの」に変化しつつあり、ファンクラブを欲していたファンとしては嬉しくてたまらない。

この変化については橘高さんより語られた。曰く、筋肉少女帯を再始動する際にファンクラブをどうするか、という問題があった。そして当時至った結論は、橘高さん以外は四十を越えていることだし、いったん保留にして時機を見て考えましょうというもの。そして年月を経てファンからもファンクラブを望む声が届けられるようになったので、ではまずチケットをとりやすくしましょう、ということで「ハイストレンジネス・チケットメンバーズ」がスタートしたそうだ。

そう、実はもともとファンクラブを想定して作られたものだったのだ。

一年間続けて、会員限定イベントもライブも行うことができた。これからはもっと特別なこともやっていきたい、という意欲的な言葉にわくわくしてしまう。オーケンは「橘高さんはいつも十二月二十三日にドライブをしてますが、我々だってやりますよ!」と冗談か本気かわからない発言をし、ミート&グリートもやりたいね、といった発言も飛び出した。

嬉しいなぁ。何が嬉しいって、再結成当初は「もう四十だし」と言っていたメンバーが、十年の歳月を重ねてファンクラブに対し意欲的になってくれていることだ。ファンに望まれていること、期待されていることをメンバーが感じてくれているのである。この十年をともに積み重ねられたことがたまらなく嬉しい。

ライブはサンフランシスコから始まり釈迦で締める贅沢な構成。ド定番はもちろんレア曲もあり、フリーダムなMCに黄色い声が上がるサプライズまであって、最高に楽しかった。この空間を出ることが惜しくてならず、終演後にフロアに流された「トゥルー・ロマンス」を口ずさみながら熱に浮かされつつフロアをうろついていた。

今日は内田さんのマイク前あたりに立っていて、始まりは前から六列目くらいにいたが、後半には四列目に立っていた。「サンフランシスコ」が起爆剤となり、ぐわっと盛り上がったもののこの時はまだジャンプをする余裕があったが、最後の「釈迦」でもしジャンプが必要になっていたら飛び跳ねられたかわからない。それでも必死で両手を上げてモンキーダンスをした。楽しかった……!

サンフランシスコのベースソロではおいちゃんと橘高さんがニコニコしながら内田さんを挟んで「注目注目!」と言わんばかりに手をひらひらさせていて、あぁ、幸せな景色だなぁ……としみじみ思った。「バトル野郎~100万人の兄貴~」は何と言っても手振りが楽しい! そしてこのとき、橘高さんがピックシャワーを降らせてくれ、それがちょうど己の真上で、見上げると白いピックがハラハラと落ちてきて……何だろう、何かしらのご褒美をいただいた気分になった。

曲の後半でオーケンがオーディエンスにマイクを向け、合唱を誘うシーンもあった。しかしオーディエンスの歌詞が曖昧だったようで、曲が終わった後にオーケンが「今日は煮込まれたお客さんばかりだから歌詞が完璧かと思ったら……」「いきなり振った俺が悪かった……」と寂しそうに言って笑いが起こった。

ここからのMCが長かった。そしてフリーダムで素晴らしかった。今日のライブは本来は無いはずのものだった、といきなり衝撃の告白をするオーケン。曰く、ハイストレンジネス・チケットメンバーズで会費を集めて計画倒産ならぬ計画解散をし、会費を持ち逃げして筋少メンバー全員で熱海で余生を過ごす予定だったそうだ。「新幹線の座席を二つ並べてみかんを食べて……」と細かな描写も抜かりない。そしてオーディエンスは会費を払って、チケット代を振り込んで、チケットを受け取って、ご飯を食べて会場まで来て、チケットを見せてドリンク代を……払ったところでライブがなくなったことをスタッフに知らされ、そのときには筋少メンバーは熱海行きの新幹線の中。なんと恐ろしい完全犯罪なのだろうか。

しかしライブは開催された。何故か。思ったほどお金が集まらなかったから。というオチで爆笑。

ではどうするかと考えたところで、もっとライブをやって集金した方が良いのでは? という結論に至り、そこから物販で販売しているトートバッグを「集金袋」と呼びだし、筋少を聴いている人間の家まで集金に行く様子がオーケンによって演じられる。「通報があったんですよ!」「いいえ筋肉少女帯なんて聴いてないです」「ワダチ歌ってたでしょ! ドンドンドンドンドン!」と玄関ドアをしきりに叩く真似がおかしくてゲラッゲラ笑った。いいな集金されたい。

「これから十年二十年、搾り取っていきますからねー!」という言葉はもはや愛情として受け取ってよかろう。これから先十年二十年、まだまだ搾り取っていただけるならありがたいことこのうえない。ずっとついていきますとも。

そんなわけでまだ二曲しか演奏していないにも関わらずフリーダムに話しまくるオーケンなのだが、どうやらメンバーに止めて欲しかったらしく、「止めてよ! 止めてよ!」と何度も催促していておかしかった。

この後か前か記憶が定かでないが、オーケンが仮想通貨の「筋肉コイン」を作り、それはハイストレンジネスの会員だけが買えてハイストレンジネスの会員だけが使える、これからどんどん高騰して暴落することはない、と語る横でおいちゃんが「いつ暴落するの?」「いつ暴落するの?」とやたらと暴落させたがっていたのも面白かった。

長い長いトークの後は最上魁星の台詞「ファンキーファンキー鬼ファンキー!」を高らかに叫んで……「暴いておやりよドルバッキー」! 二十三日のライブに続いてまた聴けるとは! 嬉しい!!

「ハニートラップの恋」ではライトがピンクと紫になり、妖しい色合いで美しい。「バンバンババンバン!」と指をピストルの形にして宙を撃つ楽しさったら。続いて「わけあり物件」ではライトが暗い色合いに変化して折りたたみとヘドバンで盛り上がる。そうそう、立ち位置によって聴こえ方が違っただけかもしれないのだが、今日は序盤はわりと音の大きさが控えめで、筋少にしては珍しいなと思ったのだった。ただ、後半にはいつも通りの爆音に聴こえたので、同じ日の同じライブであるにも関わらず不思議な懐かしさとしっくり感を抱いたのだった。

MCを挟み、冒頭に書いた「ハイストレンジネス・チケットメンバーズ」の話からガッと盛り上がると、「俺の歌を聴いてくれ!!」とシャウトする橘高さん。オーケンがステージからいなくなり、ステージ中央に橘高さんのマイクが置かれると……「小さな恋のメロディ」! 橘高さんの力強い歌声とメキメキ弾かれるギターがたまらなく格好良い。あの情感のこもったメロディメロディと繰り返す声も好きなんだよなぁ。

橘高さんの歌唱が終わるとステージが暗くなり、青のライトがぼぉっと光る。ステージからはオーケンだけでなくおいちゃんうっちーふーみんも去り、エディのピアノだけが静かに流れる。奏でられる調べは聴き慣れないもので、何の曲だかわからない。

何が始まるのだろう……と聴き入っていると上手から一人現れたのは内田さん。肩に物販の集金袋……ならぬトートバッグを下げ、もぞもぞと上着を脱ごうとしてうまくいかなかったり、トートバッグの中のものを出そうとして出せなかったりと四苦八苦。その間もエディはピアノを弾き続け……ついに取り出したるiPhone! と、いうことは……!!

始まるであろうものにわくわくしていると、「サングラスをかけていると顔認証ができない!」とショックを受ける内田さん。何とかロックは外せたが今度は目当てのアプリが出てこない! その頃にはおいちゃんと橘高さんもステージに戻ってきていて、あれこれ試す内田さんを突っ込みながら楽しそうに眺めていた。

ずっとピアノを弾き続けているエディにお礼を挟みつつ、ようやくフランス語のアプリを起動。「ハイストレンジネス」「空手バカボン」をフランス語に変換して笑いを誘い、いよいよタイトルコール。「北極星の二人」!

一輪のバラの花を振り楽しそうに歌う内田さん。バラの花は生花ではなくちょっとハイテクなもので、花の部分が光る仕組みになっていた。うんうん、この曲は内田さんにしか歌えないよなぁ。

と言いつつ、おいちゃんが歌っても結構はまりそうだ……と妄想する。内田のラブソングではなく本城のラブソングになってしまうが。

さて、この二曲が続いたということは次は本城のラブソングこと「LIVE HOUSE」か、と思いきや意外な一曲「これでいいのだ」。「これでいいのだ」も好きだが、好きなのだが! せっかくなら「LIVE HOUSE」も聴きたかったなぁ。

「これでいいのだ」の後のMCでオーケンが内田さんにメンバー紹介をして欲しいと言い出し、内田さんにメンバー紹介の仕方をレクチャー。メンバーに振る話のお題を先に決めておいて、メンバーの名前をコールしたらお題について喋ってもらい、最後にメンバーの名前をもう一度コールして締める。ふむふむと頷く内田さんに、メンバーに語ってほしいことはあるかと尋ねるオーケン。内田さんは特に思いつかないとのことだったので、オーケンが用意していたお題「夢中になって観たライブやコンサート」に。このとき、「皆さん筋肉少女帯を夢中で観ているんでしょ?」とオーケンがオーディエンスに振り、その問いかけが妙に嬉しかった。そうですそうです、夢中に観ていますとも今まさに!

おいちゃんは子供の頃に見た「フィンガー5」、橘高さんはラウドネスの前身である「レイジー」。そして内田さんはサポートメンバーの紹介に移ろうとしたが、オーケンが「俺は!?」とまだ紹介されていないと主張し、メンバー紹介をねだっていた。そんなにメンバー紹介されたかったのか……そうかオーケンはいつも紹介する側だもんなぁ。ちなみにオーケンが夢中で観たライブは「カルメン・マキ」とのこと。ライブハウスに出演する前に勉強のために観に行き、オーケンが興奮して帰ってきたとを内田さんが語っていた。

この後には内田さんが夢中で観たライブの話になったのだが、内田さんが話し出した途端オーケンが「それ俺も行った?」と確認していて、あぁ、良いなぁ一緒に行くことが前提なのだな、としみじみした。ちなみにそのチケットはオーケン経由でオーケンの友人から購入したものだそうだ。

「予想できない曲」という触れ込みで始まったのは「じーさんはいい塩梅」。メンバー全員が楽器を置いてマイクを持ち、横一列に並んでにこにこしながら歌う姿が微笑ましい。橘高さんのちょっとクイーンっぽさのあるギターも素敵なんだよなぁ。

今回のレア曲は「冬の風鈴」。これが聴けて嬉しかった。涼を運ぶガラスの風鈴があたたかさの象徴として鳴る、じんわりと切ない歌。これはさぁ、本当、「しかし」に全てが詰まっているんだよなぁ。この曲をまた、今のオーケンの歌声で聴けたことがたまらない。

しっとりと「冬の風鈴」が終わり、「サイコキラーズ・ラブ」へ。このさ、おいちゃんと橘高さんのコーラスが重なっていくところがもう本当に好きで、CDも好きなんだが生で聴くとまたグッと来るものがあって、美しいんだよなぁ。そしてこの曲の目玉と言えばオーケンの力強いシャウト。この瞬間を聴くたびに、いつも背中がゾワッとする。

内田さんの次はおいちゃんがメンバー紹介を担当し、エディと長谷川さんを紹介しつつ話を振る。お題はさっきと同じ「夢中になって観たライブやコンサート」なのだが、エディが「アイドルとかは観ないから……」と言うもおいちゃんとオーケンが搾り出そうと執拗に食い下がり、「何だ君達は!?」とエディを慄かせていた。

そんなエディは「夢中にならないと聴こえないコンサート」を観に行ったことがあるそうで、現代音楽のピアノコンサートなのだが、ものすごく小さな音で演奏するため集中しないと聴こえず、しかも隣の客が寝てしまってその様子にエディが笑いそうになり、こらえるのに必死だったと言う。

長谷川さんが子供の頃夢中になって観たのはKISSのライブで、マイクを渡され困惑しつつ当時の思い出を語ってくれた。

メンバー紹介が終わったら曲に移るんだよ、とオーケンに促されるおいちゃん。どうしようか迷う姿にオーケンが自分がやろうと手を差し伸べた……ところで「あいつがやってきたー!!」と叫ぶおいちゃん! 驚きつつわたわたするオーケン! 始まる耳慣れたイントロ! ということで今日はおいちゃんの呼び込みによりお祭り野郎イワンがやってきた。

「仲直りのテーマ」から「オーケントレイン」に続き、「ディオネア・フューチャー」! 「オーケントレイン」はほとんど歌詞が完璧で、語りまでバッチリやってくれて嬉しかった。「シュポシュポ~」などのコールがすごく楽しい。「ディオネア・フューチャー」では今回もエディがマイクを持って前まで来てくれ、ド迫力のコーラスで脳Wi-Fi! たまらなかった!!

そうして本編は終了し、アンコールが始まったのだが……

メンバー全員が揃いの浴衣で登場した。
おサル音頭が始まった。
橘高さんがにこにこしながらクックロビン音頭を踊った。
エディと長谷川さんまで浴衣で現れた。

すごかった。このときの黄色い歓声と言ったら。いやーすごい、貴重なものを観た。まず、メンバー全員が同じ衣装を着ている姿を観ることが滅多にない中で、しかも浴衣。びっくりした。そして似合ってた。

「おサル音頭」が終わるとメンバーはその場で浴衣を脱いで下に着込んでいたいつもの衣装に戻ったのだが、おいちゃんは帯を引っ張られて「あーれー」とくるくる回り、橘高さんも真似をしてくるくるしようとしたものの、回る方向を間違えて巻き取る形になりオーケンに突っ込まれていた。

アンコール二曲目は久しぶりの「ムツオさん」で、ウッ、ハー! と大盛り上がり。そして最後の最後は釈迦で大暴れして終了。終わってからも橘高さんとおいちゃんと内田さんは長々とステージに残ってくれ、橘高さんは「ハイストレンジネス! ハイストレンジネス!」と叫びながら最前のお客と握手をしていた。

最後に内田さんがステージから立ち去ると、パチパチと自然と拍手が起こった。自分も拍手をしていた。きっとこの場にいる人々がいつもとは違う何かを受け取った証なのだろう。それは今日この瞬間の楽しさと、先への期待が一緒になったものかもしれない。デビュー三十周年という記念の年に、十年二十年これからも搾り取るという嬉しい言葉。まだまだ先があると思える幸福。

とてつもなく奇妙な事例(ハイストレンジネス)と名づけられた我々に見せてくれる未来は何だろう。今から楽しみで、たまらない。


サンフランシスコ
バトル野郎~100万人の兄貴~

暴いておやりよドルバッキー
ハニートラップの恋
わけあり物件

小さな恋のメロディ(ふーみんボーカル)
北極星の二人~内田のラブソング~(うっちーボーカル)
これでいいのだ

じーさんはいい塩梅
冬の風鈴
サイコキラーズ・ラブ

イワンのばか
仲直りのテーマ
オーケントレイン
ディオネア・フューチャー

~アンコール~
おサル音頭(メンバー全員浴衣で登場!)
ムツオさん
釈迦

180121_0017



未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

クリスマスを前にすると決まってカップルへの呪詛を聞く機会が増える。ある人は交際相手のいない自分をネタにする自虐ネタとして冗談交じりに、ある人は他者から無遠慮にクリスマスの予定を聞かれ笑われることへの不快感を走らせながら、またある人はカップルに呪詛を吐くことそのものをエンターテイメントとして楽しんで、とパターンは様々だ。同じく交際相手のいない自分はそれらの呪詛を傍で聞きクリスマスの予定を問われるも、いつも他人事のように思っていた。何でそんなに呪詛を吐くのだろうとすら思った。それはクリスマスを一緒に過ごす交際相手がいなくとも、己にとっては何のダメージもなかったからである。

しかしふと、十二月二十三日の祝日が今後、天皇陛下の退位とともに平日になる可能性があると聞いたときに、もしかしたらこの毎年恒例の楽しみがなくなるかもしれないと思ったときに、何とも言えない喪失感を抱いたのである。

そして思い出したのだ。クリスマスの予定を聞かれるたびに自分は決まって「筋肉少女帯のライブに行きます」と笑顔で答えていたことを。この毎年恒例のライブこそが自分のクリスマスとありがたく受け取り、ずっとそれを堪能してきたことを。

この楽しみが今後、なくなってしまうかもしれない。

クリスマスという大きなイベントに、何の予定もない虚無感。クリスマスソングが流れ、イルミネーションが輝く街並みに、手を取り合って楽しそうに浮かれ歩く人々。そんな華やいだ空気の中で自分だけが何の予定もなく、いつも通りの日常が淡々と流れている。それは交際相手の有無に関わらず、寂しさを感じても不思議でないことだろう。

そうか。筋肉少女帯のおかげで寂しさを感じる隙がなかっただけかもしれない。筋肉少女帯のおかげでたまたま恵まれていただけなのかもしれない。とすると、クリスマスを前に呪詛を吐く人々に対して己が何かを思うことなどできないよなぁ。

そんなことを考えながら、ゴトゴト電車に揺られ恵比寿へ向かう。財布の中にはツリーとオーナメントで可愛らしくデザインされた、いかにもクリスマスらしいデザインのチケット。しかしクリスマスとはどこにも明記されておらず、ライブタイトルすらない。だがこの日は会場に集うファンなら誰しも知る特別な夜で、いつものライブにはない様々な趣向が用意されている。筋少物販では数量限定の福袋が販売され、橘高さんの物販では終演後に橘高さんとドライブに行ける抽選会のチケットが配布される。開演前にはクリスマスソングが流れ、アンコールではおいちゃんと橘高さんが赤い帽子とリボン、ケープをそれぞれつけてサンタクロースに扮し、お菓子や飴を撒いてくれる。パッと空中に浮かぶ色とりどりのキャンディーに、わっと興奮して手を伸ばす人々。同じように手を伸ばしながら、その光景があまりにも幸せで楽しくて、たまらない気持ちにさせられるのだ。

オープニングSEはまさかの「イワンのばか」。ポコポコとイントロが始まり、「えっ、いきなりイワン?」とどよめくもメンバーはまだステージにおらず、録音された歌声だけが流される。これはどんな風に盛り上がれば良いのだろう……と困惑しつつ拳を振り上げているとメンバーが登場。ぎゅんぎゅんに圧縮され、人の頭に視界が遮られながらも必死に手を伸ばしオーケンの第一声を待てば……「お客様は、神様です!」 オーディエンス・イズ・ゴッドだ!

まだ新しい曲なのにもう懐かしさを感じてしまうのは、それだけ新譜「Future!」を聴き込んでいるからだろう。あぁ、それにしても嬉しい! 今日この日にこの曲をやってもらうと、何だかものすごく甘やかされている気がしてしまう。

セットリストは新旧織り交ぜたバリエーション豊かなもので、一回のライブでこんなに色々聴けて良いのだろうか……と贅沢さに頭がくらくらしそうになる。バッキーバッキードルバッキー! と拳を振り上げる「暴いておやりよドルバッキー」に、スタンドマイクの妖しさが際立つ「僕の宗教へようこそ」、特にこの二曲は「またライブで聴きたいな」と渇望していたものだ。あぁ、嬉しい、嬉しい!!

「カーネーション・リインカーネーション」の後のMCの終わりで、仮面ライダーの最上魁星の台詞をもじって「ファンキーファンキー、鬼ファンキー!」と高らかに演者であるオーケン本人のコールによって「暴いておやりよドルバッキー」が始まったときはニヤニヤしてしまった。最上魁星役、素晴らしかったなぁ。

「週替わりの奇跡の神話」では、最後に高らかと歌い上げる「不変の」の声が出なくて苦しんでいた頃が嘘のように、見事な声を響かせてくれた。オーケンが咽喉の手術を受けたのは去年の五月。回復してくれてしみじみ嬉しい。

「枕投げ営業」に入る前では、「枕、枕、枕、枕、枕……!!」と、枕とシャウトしまくり、こんなに言わなくて良いよね、と自ら突っ込むシーンも。「飛び散るそばがら~」は何度聴いても気持ちが良いし、「がんばるねあたし!!」を聴けば何度だって勇気付けられる。この曲、本当に大好きだ。

特別な一夜ということで、マイクを握ったおいちゃんによる「LIVE HOUSE」の熱唱も! おいちゃんの笑顔と分厚い歌声によって、わぁっと空間が華やぎ、オーケンとはまた別の色に染められる色彩の変化が目に楽しい。

「僕の宗教へようこそ」は中間の語りもバッチリで、オーケンの語りが大好きな自分としてはもう嬉しくてたまらない。うっかりアンテナを屋根の上に立てかける箇所を飛ばしかけ、どうにか軌道修正しきちんとアンテナを立てたあたりは見事だった。そしてこの曲の見所、オペラを歌ってくれるエディ! エディは定位置から移動しておいちゃんとオーケンの間に立ち、ぐっとマイクを握って高らかに雄雄しくバリトンを歌う。格好良い!

エディはオープニングSEの「イワンのばか」でもステージを走って横切ってオーディエンスを驚かせてくれ、「ディオネア・フューチャー」では橘高さん前まで降りてきて、オーディエンスに身を乗り出しながら「無意識! 電波! メッセージ! 脳Wi-Fi!!」と野太いコーラスを聴かせ存分に煽ってくれた。こんなにエディが前に出てきてくれることは珍しいのだ、そりゃもう興奮しないわけがない。まさかエディをこんなに近くで観られるなんて……。

ちなみに終演後に橘高さんの抽選会の列に並んでいたら、エディがふつーに出てきて颯爽と列の横を歩いて去って行ってびっくりした。一瞬脳が追いつかなかったがエディだった。びっくりした。びっくりした。

「俺の罪」はこの曲が大好きな長谷川さんへのクリスマスプレゼントとして演奏されるも、演奏するのはやはり長谷川さんというオチが楽しい。「いつもツーバスをたくさん踏ませてごめんなさい!!」というオーケンの謝罪に大笑いした。

今日はあえて「Future!」の曲は外してくるのかな? と思っていたところで「エニグマ」をやってくれて非常に嬉しかった。そうだよそうそう、今日この日に「トコイトコイ」と呪いの言葉を合唱する楽しさったら! スタンドマイクに寄りかかるように歌うオーケンに、グッと眉根を寄せて真剣そのものの表情でギターを弾く橘高さんの格好良さったら。張り詰める緊張感と、どんどん展開していく音楽の目まぐるしさ。渦に飲み込まれそうになる感覚が心地良くてたまらない。

がっつり盛り上がった後にしっとり始まったのは「夕焼け原風景」。あぁ、これも好きなんだよなぁ。まさかやってくれるとは思わなかっただけにプレゼントをもらった気分だ。優しいギターの音色に感じる郷愁と、よその家から漏れる晩御飯のにおいを嗅いだような、懐かしくも寂しい感覚。やわらかなオーケンの歌声も大好きだ。

そしてここから怒涛の展開。「T2」「オーケントレイン」「ツアーファイナル」「ディオネア・フューチャー」でオーディエンスも爆発し、もみくちゃになり半ばわけがわからなくなりつつも拳を振り上げる。「T2」のハンドクラップの陽気な楽しさに、「オーケントレイン」のどこか可愛らしいコール。あぁ、そうだ! 「ツアーファイナル」で内田さんのベースの存在感が際立つシーンがあって、そこを弾く内田さんの指の動きを見るのが大好きなのに、視界が阻まれて見えなくて残念に思ったんだ。惜しかったなぁ。

アンコールでおいちゃんと橘高さんがお菓子を撒いてくれ、ハッピーな空気になった直後に一転して「労働者M」が始まるあたり、何かこう、夢から現実へ力ずくで引き戻されて辛かった……。「労働者M」は格好良い曲なのだが、曲なのだが! アンコールでは聴きたくない曲である。曲を始める前に「久しぶりに家で聴いたら変な曲だなと思った」と笑うオーケンはキュートだったが。キュートだったが。

これも久しぶり、「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」! 植物に襲われて全人類が危機に晒されているにも関わらず、明るく多幸感に満ち溢れているのは、世界がどうなろうともこの歌の少女は確かに幸せを掴んだからだろう。世界がどんなに希望に満ち溢れていても、自分自身がそれを掴めていなければ幸福になりえないのと同様に。

最後の「サンフランシスコ」では、ぎゅんぎゅんに圧迫されつつも、ここで飛ばなきゃ終われない! と必死になって床を蹴って飛び上がった。青と赤の照明の中、スポットライトを浴びてベースを響かせる内田さんの見せ場は何度観ても惹き付けられる。格好良いなぁ。

印象的だったのは、橘高さんとエディのバトルの最中、上手の、ちょうど己の目の前に立ったオーケンが二人の演奏を眺めつつ、突然にこーっと楽しそうに笑ったことだった。それはもう、自然とこぼれてしまった笑みのようで、何だかとても嬉しくなった。

MCでは、エディが熱く仮面ライダーの感想を語る場面も。オーケンを知っているだけにオーケンを応援してしまったが、ちびっこにとっては憎い敵だよね、と話す。また、最後に変身して強くなったライダーに対して物申すエディが微笑ましかった。

ファンが作った今年一年の筋少ライブ一覧をまとめた紙を手に、この一年の振り返りを行うシーンも。しかしメンバーはほとんどライブの記憶が無いらしく、このままでは朝御飯に何を食べたか思い出せなくなる、翌年には朝御飯を食べたかどうか思い出せなくなる、さらに翌年には朝御飯を二回食べてしまうようになる! と畳み掛けるトークで抱腹絶倒。良い話をしているようで何も言っていないMCを演じる様子も面白かった。

かと思えば前回のライブのMCを引き継いだトークも。若い頃ツアーで博多に行ったときに、オーケンと内田さんの近所の地名と同じ「野方行き」と書かれたバスを見たと話すオーケンに、野方じゃなくて若宮だよと訂正した内田さん。このときオーケンは違うと思いつつもそのまま進行したが、家に帰ってから調べたところ「野方」という地名もあり、博多に「野方行きのバス」はあるが「若宮行きのバス」はない事実を突き止める。オーケンはコミカルかつ大げさな表情で、冗談めかしながら「あのとき本当はもうムカムカしていて、ブッチーンってなりそうだったけど、大人だから我慢したんだ!」と血管が切れる仕草までしつつ内田さんに力説。笑いつつ半ば圧倒されつつも「若宮行きのバスはない」という事実を突きつけられた内田さんは「ブッチーン!」と同じように血管が切れる仕草でオーバーに怒る真似をしていて、その様子が非常に面白くもあり微笑ましくもあり、五十代になってもこんな風に遊びあえる友人ってのは良いものだなぁ、としみじみ思った。

オーケンとおいちゃんがライブで徳島に行った話も面白かった。その会場の楽屋は普通のマンションの一室のようで、風呂もあればトイレもあるのだが、何故か電気だけ無いそうで、豆電球だけがぽっかりついているもののほぼ暗闇だったそうだ。その真っ暗闇の中一時間近く、おいちゃんは一人で出番を待たなければならなくなったそうで、あまりゲームをしないため詳しくないが、まるでバイオハザードのようだった、と語っていた。……すごい楽屋があるものだなぁ……。

毎年恒例の橘高さんのドライブに触れ、抽選に参加する男性ファンに言及するシーンも。ドライブ中の選曲は何か、ドライブ中に何を話すのかと尋ねるオーケンに、車内では自分の曲を流し、ロックの話をするよと答える橘高さん。そこへオーケンがそれではダメだ、と突っ込んでもっとムーディーにするよう熱く語れば、「ロックの話をしちゃいけないのぉ!?」と橘高さんが困惑していて面白かった。

この抽選会には自分も参加した。残念ながら当たらなかったが、なかなか面白い体験ができた。終演後スタッフの誘導を受けて列に並び、入ったのはさっきまで爆音が鳴り響き、オーディエンスが踊り狂っていた場所のちょっと手前の空間。あの熱気と興奮が嘘のようにシーンとした場所に、ガラガラーン、ボトッ、ガラガラーン、ボトッという音だけが寂しく響く。見れば列の先頭では福引のガラガラが回されていて、脇にはベルを置き当たりの玉が出るのを待つスタッフ。まるで商店街の一角だが、自分を含め商店街ではあまり見かけない人々が列を成している。金髪の人、黒ドレスの人、汗だくで髪がボサボサになっている人。彼ら彼女らがあのガラガラを回している。不思議な光景だった。

ガラガラを回して階段を上ればここにはまだライブの余韻が残っていて、飲み物を片手にライブの感想を語らう人、余韻に浸りながら煙草をふかす人、ドリンクカウンターに並ぶ人が大勢いる。夢の世界から商店街を経由して夢と現実の間に戻ったような心地がした。

さぁ、ここからまた現実に戻るのだ。しかしまた一月に会員限定ライブ、三月にもワンマンライブが予定されている。さらにその先の一年後の今日にはきっと特別な非日常が待っているのだろう。では、その先の十二月二十三日はどうだろう。

わからないが、ずっと続いて欲しいと思う。きっとこの日が心の支えになっている人は、大勢いるに違いないのだから。
それはもちろん、自分も含めて。


オーディエンス・イズ・ゴッド
カーネーション・リインカーネーション

暴いておやりよドルバッキー
週替わりの奇跡の神話
香菜、頭をよくしてあげよう

枕投げ営業
LIVE HOUSE(おいちゃんボーカル)
僕の宗教へようこそ

俺の罪(内田さんボーカル)
エニグマ
夕焼け原風景

T2
オーケントレイン
ツアーファイナル
ディオネア・フューチャー

~アンコール~
労働者M
トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
サンフランシスコ

171224_0134



未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

あぁ、最高に楽しかった。

明日はオーケンが参加しているプロジェクト「ROOTS66」によるおそ松さんのエンディングテーマ「レッツゴー!ムッツゴー!~6色の虹~」の発売記念インストアイベントがある。内容はトーク、そして握手会。登壇するのはオーケンと怒髪天の増子さん。違うイベントではあるが、ライブの翌日握手会に行ける機会なんぞ滅多にない。せっかくなので今日のライブの感想はオーケンへの手紙にしたためよう。

そのうえで、ここに書き記しておきたいこと。ニューアルバム「Future!」発売記念ライブのツアーファイナルを迎えた今日。発売から毎日、一ヶ月以上もの間一つのアルバムを聴き続ける日々を送るほど夢中になっているこの曲を、一つのライブで全て聴けるのはきっと今日が最後だろう。故に全力で盛り上がり、全力で楽しんだ。のっけからオーディエンスを波に乗せる「オーケントレイン」「ディオネア・フューチャー」で高々と天に向けて一本指を立て、「脳Wi-Fi!!」と大声で叫ぶ気持ち良さ。かと思えば懐かしの一曲「新興宗教オレ教」ではうっちーの妖しいベースが地を這うように響き、赤と紫のライトがステージを色濃く染める。

今日のライブはニコ生のカメラが入っているとのことで、一月に放送されるそうだ。オーケンはニコ生を意識した軽快かつ抱腹絶倒のトークを繰り広げ、通常のライブよりもさらにサービスが入っていたように思う。名古屋のライブで新幹線のチケットを失くし、自費で現地に向かったエピソードを語ったときの、新幹線代「いちまん、いっせん、きゅうじゅうえん!!!!」のシャウトの格好良さと美しさの迫力と言ったら。一万一千九十円に使うにはもったいないほど素晴らしいシャウトだった。あんなに格好良い一万一千九十円を聞くことは今後二度と無いだろう。

「エニグマ」ではトコイトコイと妖しく盛り上がり、「奇術師」はエディのピアノから始まるライブならではのアレンジ。途中途中、橘高さんのギターの調子が心配になる場面もありつつも、しっとりと聴き入る時間がとてつもなく気持ち良かった。

特筆すべきは「サイコキラーズ・ラブ」。オーケンがね、冒頭を噛み締めるように、語るように歌ってくれて、それがとても胸に響いたんだ。目の前にいる大事な人に、こんな悲しい人がいるんだよ、と一所懸命伝えようとしているような。そんな語り口だったのだ。

今日はオーケンの声が絶好調で、「へー筋肉少女帯のライブをニコ生でやるのか。よう知らんけど観てみようかしら」と観た人がズキュンと一目惚れしてしまうのではなかろうか、とその後の人生を心配してしまうほど格好良かった。アイメイクも普段よりも濃い目で実に美しかった。

久しぶりの「バトル野郎~100万人の兄貴~」を楽しみつつ、「T2」で大爆発。この盛り上がりはすごい。個人的に、釈迦やサンフランシスコと同等の盛り上がりだったのではなかろうか、と思う。新曲とは思えない爆発力で、全力で「異議なし!!!」と叫び、大暴れできて非常に楽しかった。

アンコールでは「人間嫌いの歌」を。「告白」を歌ったその日にこれを歌ってくれる筋肉少女帯が大好きだ。「3歳の花嫁」で涙腺を刺激されつつ、最後は「釈迦」で爆発して終了。おいちゃんのペットボトルシャワーによる冷たい水飛沫とおいちゃんの笑顔を存分に浴びたとき、肺の中身の空気が全て入れ替わったような心地がした。

今日のライブのMCは特に、爆笑ポイントが盛りだくさんだったのだが、中でもすごく好きだなと思ったのはエディの話。エディはオーケンが出演している仮面ライダーの映画を初日に観に行ってくれたそうだ。自ら前売り券を買い、劇場に赴き、「すごく良かったよ!」と熱くオーケンを絶賛するエディ。さらに、劇中であと少しというところでオーケン演じるカイザーの野望が潰えたことを惜しみつつ、もし野望が叶ったらきっとすごく寂しいよと語り、後の世界には内田さんもおいちゃんも橘高さんも長谷川さんもいないことを切々と訴える。

もうたまらない。作り手からしたら、こんなにありがたい話はないだろう。エディは朗読CDにしろ仮面ライダーの映画にしろ、自分でお金を出してがっつり堪能して全力で感想を言って力強く褒め称えてくれる。こんな友人を持てるなんてどんなに幸せなことだろう。エディ、素晴らしいなぁ。

そして今日のライブの全てが終わり、余韻に浸りながら外へ向かおうかとしていたときのこと。「とれましたか? 良かったら」と見ず知らずの人が、笑顔で己に橘高さんのピックを差し出してくれたのだ。びっくりした。神様かと思った。きっとその人は複数枚手に入れることができたと予測できるが、まさかこんな風に全く知らない人から優しくしてもらえるとは夢にも思っていなかっただけに感動した。

手のひらにはピックが一つ。嬉しかった。嬉しかった。己もいつか同じようなことがあったら誰かにピックを差し出そう。最高のツアーファイナルがさらに彩られた瞬間だった。



日記録2杯, アルバム感想, 日常, 筋肉少女帯

2017年12月3日(日) 緑茶カウント:2杯

発売日から毎日毎日、憑かれたように聴き続けたのは筋肉少女帯の新譜「Future!」。「新人」も「シーズン2」も「蔦からまるQの惑星」も、「THE SHOW MUST GO ON」も「おまけのいちにち(闘いの日々)」も、それぞれ特別なアルバムであったが、中でもこの「Future!」は抜きん出た存在である。

その由縁は「告白」の存在が大きい。

実を言うとまず一回目に「Future!」を聴いたとき、「オーケントレイン」「ディオネア・フューチャー」の二曲がピンと来ず、「人から箱男」を聴きながら己は不安を抱いていた。ずっと好きだった筋肉少女帯。ずっとぐっと来ていた筋肉少女帯に、ついに「何か違う」としっくり来ない感覚を抱く日が来たのかと。それは怖くもあり寂しくもあり、悲しい予感であった。

若干ではあるが、発売前から「Future!」という明るく前向きなタイトルに違和感を抱いてた。自分はまだここにいるのに先を越されてしまったような不安感があった。「ゾロ目」で何度も何度も過去をやり直そうと、巻き戻そうとしていた死ぬ物狂いの執着を見せ付けられ、その力強さに励まされていたのに、それを提示していた人が過去を振りきり未来へ向かってしまう後姿を眺める寂しさ。一本指立てて目指す先にまでまだ頭を切り替えられない悲しさ。その先を明るく見つめることが今の自分にはまだできない、と感じさせられる苦しさ。故に、パッカリと口を開けて獲物を待ち構えるハエトリソウ・ディオネアの色鮮やかなジャケットデザインから、その指し示される「Future!」に、どこか不穏なものがあって欲しい、と願う気持ちがあった。

その寂しさの、悲しさの、苦しさによる霧がパッと晴れたのが「告白」だった。

筋少初のテクノサウンド、という今までの筋少には無い異色の一曲は、「世間」や「普通」がわからない人間を歌った曲だ。これを聴き、歌詞を読んだ瞬間の衝撃は忘れられない。誰もいない部屋で、「ありがとうオーケン」という一言が零れ落ちた。

自分は決して誰も愛していないわけではないし、その場をしのぐために感謝の言葉を紡ぐこともない。しかし、「告白」に描かれる人物そのままではないが、いくらでも身に覚えがある。空気を読んで調子を合わせて迎合しきった結果、上手に化けた結果仲間意識を持たれてしまい苦しみに苛まれる経験なんぞ何回あったかしれやしない。大切に思う人はいる。大事に思う人もいる。友人もいる。ただしいつまで経っても性愛がピンと来ず、必要性も感じない。男性も女性もそれぞれ違って、それぞれ異性であるように思う。だが、自分の世界に同性はいない。故に距離感を間違えて傷つけてしまったこともある。何でこうなってしまったのだろうなぁ、と悲しむこともある。

それを歌ってくれた気がした。この歌詞そのままに歌われているわけではないが、そういった、世間一般の感覚とのズレを抱いて生きている人々を歌ってくれているような気がした。このとき、「Future!」の捉え方がガラリと変わった。

この「人間モドキ」にも、過去に苛まれ悪夢を見る者にも、何かをやらかしてしまって許されざる者にも、悔いが残ってやりきれない者にも未来があって、それがどんな未来かわからないし、希望があるかもわからないけど先を目指そうと。でも、未練を断ち切れない人を無理矢理連れて行くことはしないと。そう歌っているのである。

目指す先が希望であるとは決して断言されていない。もしかしたら絶望かもしれない。絶望の果て、来世でようやくニコニコ暮らせるかもしれない。でも、それもわからない。

それでも未来を目指そうと言う力強さ。未来を信じろと言う心強さ。それは「オーケントレイン」から「ディオネア・フューチャー」へ引き継がれている。そしてまた、「ディオネア・フューチャー」によって描かれる未来のあたたかさと、そこに至るまでの辛さが描かれる。ディオネアの、ハエトリソウの、あのトラバサミのような口に包まれ、ドロドロに溶かされ、栄養となって吸収され、つぼみとなり、ようやく白い小さな花を咲かせるまでの未来。どんなに恋しい過去も、しんどい現在も飲み込んで、ドロドロに溶かし消化する時間を持って初めて白い花へと咲くことができる。そこに至るには時間がかかる。故に無意識をもって、電波によって、メッセージを送って、脳Wi-Fiを使って何度も何度もおせっかいを言い切る。「信じろ!」と。そのうえで進んでようやくだ、と。そうしてあたたかな未来を見つけたら、ギュッと抱きしめて放すなよ、と。

自分は決して絶望していない。日々の暮らしをコツコツと重ね、ライブに行き、好きな音楽を聴き、本を読んで絵を描いて、時に忙しさに眩暈を覚えながらも平穏に暮らしている。少しの運動と地味ながらも品数のある夕飯。好きなときに観られるDVDに好きなときに聴ける音楽。たまの外食に、のどかな時間。幸福だが、パートナーがいない、子供がいない点を持って、不幸と決め付け哀れみの眼差しを送る人間もいる。そういった眼差しを受けるにつけ、参ったなぁ面倒くさいなぁ、と嫌気が差す。

まるでね、そういった独り身の人間には何も未来がないような、ただここからだらだら生きて死ぬだけだ、とでも言いたげな、そんな空気を感じていたのさ、プレッシャーをかけつつ哀れみの眼差しを送る人間に。

でも、どんな人間にも、人間モドキにも未来はある、と断言してくれたのがこの「Future!」なのだよ。

「オーケントレイン」で己が一等好きなのは「とらわれちゃイヤさ」という歌詞である。「とらわれちゃダメ」ではなく「とらわれちゃイヤ」。「ダメ」は単に否定するだけだが、「イヤ」には過去に囚われている人を見つめて、「そのままじゃイヤだな、解放されてほしいな」という思いが乗っている。その気持ちを乗せて歌ってくれているのである。

「ハニートラップの恋」は何と言っても最後の二行に全てが集約されている。ここに至るまで、ハニートラップの女が今まで普通に恋をできなかったこと、その果てに死ぬ悲しさが描かれる。だが、この女にはヒモの男がいたのだ。うっとりとハニートラップを仕掛けた男と最期の恋を楽しみながらも、もともと彼女にはヒモ関係の男がいた。そして、このヒモの男が彼女と相手の男を撃ち殺して泣くのである。

何が悲しいって、このヒモの男にとって彼女は大切な人間だったが、彼女にとっては何でもない存在だったってことなのだ。それを思い知らされる寂しさと悲しさ。何だよこれ。ヒューヒューワーワー言っている場合ではない。

「3歳の花嫁」は力技で感動させられる曲である。これはすごい。最後まで聴いたところで父親への印象が覆ることはないのに、空に向かってちっちゃな手をひらひら振る女の子の愛らしさで涙腺が刺激されるのである。

「結婚式」という人生の中でも大きなイベントを父親と開くことになって、将来黒歴史にならないだろうか、大丈夫だろうかと不安が募る。この父親の愛は本物だ。本気で娘を大事に思っている。だからこそ、愛情表現のズレ方が怖い。いくら愛娘の願いを叶えるためとはいえ普通結婚式を挙げることなぞしないだろう。

だからきっと、この父親も世間一般の感覚とはズレた人間モドキなのだ。でも、娘のことは本気で愛しているのだ。

ふと思ったのは招待リストに逃げた嫁を入れようか悩むシーン。普通なら「おいふざけんな」と言いたくなるところであるが、この結婚式をきっかけに自分の余命を伝え、愛娘の今後を託そうとしたのではないか……とも考えられる。そう思うと、ちょっと切ない。

「エニグマ」はアルバムの発売前に公開されたため、発売前からエンドレスリピートしていた一曲だ。これについて己がすごいなと思ったのは「ガストンの身にもなってみろ!」という歌詞。これの由来は「美女と野獣」で、ガストンは村に全く別の価値観が投入されたことによって、最終的には命を落とす役回りであると言う。あると言う、と伝聞形式なのはアニメ「美女と野獣」を観たのが二十年近く前でほとんど内容を覚えていないからである。すまぬ。

ただ覚えていないながらもその説明を聞いて思うことは、オーケンは決してガストン系の人間ではないのにガストンに思いを馳せられる人であるということ。自分が今まで生きてきた世界に全く別の価値観を投入されたら対応できるか? 考えを変えられるか? もし自分がその立場だったらどうだろうか? という自問自答がここにある。

自分の大切なものを守るのはたやすい。感情移入しているからだ。しかし、自分がどうでもいい、興味がない、と思っているものを守るのは難しい。自分の場合はまず煙草に喫煙所、コンビニの成人向け雑誌も卑猥な雑誌もいらない。だが、あくまでも自分がいらないだけで、必要としている人もいる。そこに意識を向けるにはエネルギーが必要で、それを常々痛感している。

そういった「自分と違うもの」へ思いを馳せることもできる人なのだ、オーケンは。

「告白」については前にも語ったが、もう一つ語りたいのは最後のシーン。「ボクの告白は以上さ 紅茶が冷めちゃったね」「そうか君も同じなのか」で、舞台が喫茶店のテーブルであることがわかる。ここでさ、「そうか君も同じなのか」と言っているけれど、「君」はきっと、勢いに押されて「うん、うん、わかるよ。私もそういうことあるよ」と同調してしまっただけで、彼との同類ではない気がするんだ。

同じように「同類ではないのではないか」と感じるのが「サイコキラーズ・ラブ」。「サイコキラーズ・ラブ」はアルバム発売前にライブで演奏されラジオで流されと、耳にする機会が多い曲で、聴くたびにじっくり考え、聴く前からも既に聞いた人々の評判を聞いて期待に胸を膨らませていた。それはもう、実在のサイコキラーについて自ら調べるほどに! そうして調べて、思ったことがあった。

この歌で描かれているのは、サイコキラーじゃないのではないかな、と。

この曲は、人間モドキの女とサイコキラーの男の物語のように思う。虫や鳥や猫や犬や人を手にかけた男と、世間一般とのズレを抱く女が出会って、全てが一致しないながらも共鳴した。女は愛も恋もわからない。ただ寂しい。男も愛も恋もわからない。ただ生きづらい。そこに人間モドキが提案する。ずっと一緒に生きていこう、と。だからこそ、最後の二行の言葉が出たのではないか、と。

「わけあり物件」は優しい曲だ。物件は売りに出された瞬間は新築だったものの、年数を重ねるにつれどんどん価値が低くなる。ここにおいて抗う術はない。時間を巻き戻すしかないからだ。

だが、この曲で歌われる「曰く付き」の描写の何と優しいことだろう! 赤い血にまみれるならまだしも、涙を流す程度で曰く付き認定。つまり、物件になぞらえられる人間の、過去を持つ全ては必ず曰く付きであり、わけのない物件なんぞないのである。それこそ新築の、産まれたての物件以外は! つまり、人は誰しもわけありで、それを肯定しているのである。

誰かがではなく誰しもわけあり。こういった視点が優しいなぁ、と思う。

アルバムの最後の一曲「T2」はプロレスラー入江茂弘選手の入場曲として作られた。故に力強く、勢いがあり、格好良い。そのうえで、この「Future!」というアルバムから浮くことなく、最後の締めを飾るにふさわしい一曲として機能している。退路を断たれようとも、天使の羽をもがれようとも、見下されようとも前へと進む意志。曲中の「曼荼羅」は「悟り」に言い換えられるだろう。我々の結論は何だ、まだ悟っていないままか? 我々の結論は何だ? まだ悟っていないふりか?

「曼荼羅」について、旺文社古語辞典第八版によると「(1)多くの仏・菩薩を安置する祭壇 (2)(1)に祭られた仏・菩薩のすべての徳のそなわった悟りの境地を一定の形式で絵にしたもの」とある。悟ったか、悟ったことをなかったことにしたいか、それでもタチムカウか、未来へ向けて!

タチムカウしかないのだ、我々は。未練や執着があっても。美しい過去や忘れられない思い出があっても。ただ、断ち切れない人を否定もしない。抱えたままでいたい人も否定しない。ただ示すだけなのである。そして同時に、それは人間モドキにも掲げられる未来なのである。それが「Future!」というアルバムであり、だからこそ優しく鮮やかなのだ。よって自分にとって、かけがえの無いアルバムになった。

しかし、周囲を見渡してみるとこの「Future!」にショックを受けた人も少なくない。その理由をなるべく追うようにしているが、まだピンと来ない状況である。人によってはザックリと胸を抉られた人もいるらしい。何故だろうか。知りたい。知りたいが。面と向かって聞けないままでいる。だってそれは、心のやわらかい部分に触れる行為だから。

よって。多分この先も、ずっと。



未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

思いがけずもこの日は普段の五倍はストレスがかかる日で、「すらすら漢字が書けるなんてすごいですね。パソコン使えないんですか?」という脳が腐ったような問いかけを連発され精神が疲弊していたのだが、ライブ後、蓄積された疲労とストレスは全て霧散し、ただただ楽しかった多幸感を胸に抱きしめ、終演後会場にかけられた「気もそぞろ」を聴きながらふわふわと歩いたのだった。

開演前に物販に並び、欲しかったグッズを手に入れてドリンクカウンターに行き、ホットドッグとビールを両手に持っていそいそとベンチに腰を下ろした。ホットドッグは生地がもちもちしていて思いのほか美味しく、ビールがシュワシュワと咽喉をくすぐり徐々に疲労を溶かしていく。鞄の中には買ったばかりのディオネア模様のTシャツとタオルに、缶バッヂ、そしてオーケン弾き語りCDにオーケン物販のディオネアシャツ。今日は嫌なことがあったがこうして会場に来ることができたし物販も買えたしビールも美味い。よっしゃ。気を取り直してライブを楽しもう!

しかし、気を取り直そうと努力をする必要もなく、最高に楽しいエンターテイメントによって己の笑顔は満開になったのであった。

発売日から毎日毎日、飽くことなく聴き続けた新譜の発売記念ライブ。どのアルバムも大好きだが、とりわけこの「Future!」は自分にとって特別なものに感じていた。それは偏に「告白」の存在が大きいだろう。自分は決して「告白」で描かれる人物そのものではないが、何とも言えない居心地の悪さ、努力して擬態した結果完璧に仲間と勘違いされる自業自得のしんどさに苛まれることが少なくない。この歌は決して救いを提供するものではないが、「あ、オーケンの視界にはいるんだ、こういう人が」と感じさせられることこそが救いそのものなのである。

EXシアター六本木のやわらかな椅子に腰を沈め、開演のときを待つ。そして照明が落とされたかと思うと会場に響き渡るのは歓声と「週替わりの奇跡の神話」! 喜び勇んで席を立てばステージにメンバーが現れ、始まったのはアルバム一曲目の「オーケントレイン」!

ライブで初めて聴いていることが嘘のように自然と合いの手の拳が入るのは、何度も何度も聴き続けたからだ。「ガッタン!」「ゴットン!」「シュポシュポ~」って、なんて可愛らしい合いの手なんだろう! 最後の語りもがっつり語ってくれて嬉しかった。

二曲目の「ディオネア・フューチャー」では何と! マイクを片手に黒尽くめのエディが上手から現れ「無意識! 電波! メッセージ!! 脳! Wi-Fi!!」と低いシャウトを響かせながらステージを横断するサプライズ!! あまりの格好良さに思わず悲鳴が出てしまった。エディに心臓を撃ち抜かれた……。

人から箱男まではアルバム順で、ここから急に「ハニートラップの恋」へ! そして次が意外な一曲「新興宗教オレ教」! 腕を前に出し、両肘を触るあの「UFO」のポーズをとるオーケン。この曲、もしかしたらライブで聴くのは初めてかもしれないなぁ……と思っていたらすごいことが起こった。

オーディエンスに対し、この曲を覚えているかい? と問いかけ一緒に歌うことを促すオーケンだが、思いっきりズレたのである。「あれ? 今日はこういうアレンジ……なのかな?」と疑問に思うもやはり何かがおかしい。しかし流石の筋肉少女帯。ズレたまま完走しきったのである! これ、楽器隊は焦っただろうなぁ……。

「これでいいのだ」でタオルを振り回し、「わけあり物件」「エニグマ」へ! 妖しさと格好良さが共存する素晴らしいステージで、楽器隊に見入りつつ、ドラム台の上でシャウトを続けるオーケンにゾワゾワし、本当にもう、目が足りない! 生の迫力にただただ圧倒された。

「告白」「奇術師」「サイコキラーズ・ラブ」は着席して聴いた。「告白」で無限に繰り返される「テレテレテレテレ」は録音で、さもありなんと思いつつこれも生でやってほしかったなーと思った。

「奇術師」はじっくりと橘高さんのギターが堪能できて幸せだった。以前「家なき子と打点王」をライブでやるときに、冒頭で橘高さんのギターソロがあってあれが最高に好きで、またやってくれないかなぁ、と願っていただけに嬉しい。ミラーボールがくるくる回り、鱗のような白い光が会場をくるくる泳ぎ、その中でしっとりともの悲しい、胸を締め付けられる音色が響きわたる。ほう、と自然ため息が出た。

ついにバンドバージョンで聴けた「サイコキラーズ・ラブ」。聴きながらこれはサイコキラーに向けた曲ではなく、サイコキラーではないけれど、居心地の悪さを感じている人々のための曲なのだろうなぁ、と思った。

「イワンのばか」で立ち上がって大いに盛り上がり、久しぶりの「心の折れたエンジェル」! 「釈迦」でシャララシャカシャカ大暴れし、本編最後は「T2」! 「異議なし!!」と思いっきり拳を振りぬく気持ちよさよ。濁流を泳ぎきったような清清しさがあった。

アンコール一曲目は「3歳の花嫁」で、やはり涙腺が刺激された。「いくら3歳とはいえ人生における大事なイベントを父親とってどうなんだ、大丈夫か」と父親と娘に対し不安になる物語で、最後まで聴いたところで父親の印象が好転することも特にないのに、「空に向かって手を振るちっちゃな手の愛らしさ」で感動させられてしまうこの曲はすごい。

「人間嫌いの歌」が始まったときはニヤッとした。「告白」をやったその日にこの歌をうたう、そんなオーケンが大好きだ。

最後は「サンフランシスコ」で思いっきり飛び上がって締め。座席ありのライブだと前後左右に空間があるので思いっきり飛べて嬉しい。

MCではオーケンが仮面ライダーに出演する話と、ラジオで一番受けるのはパンの話、ということで繰り広げられるパントークにおいちゃんが「物パン」とうまいことを言ってオーケンを驚かせる、などなど盛りだくさんで、毎度のことながら大いに笑い、叫んで、飛んで、そりゃあもうストレスなんかどこかに吹っ飛んでしまうよなぁ。

開演前にドリンクチケットを引き換えたがどうしても余韻に浸りたくてビールを一杯買い、ふわふわしながら呑んだ。咽喉の奥で炭酸がシュワシュワ弾けた。美味しかった。何もかもが心地良かった。


オーケントレイン
ディオネア・フューチャー

人から箱男
ハニートラップの恋
新興宗教オレ教

これでいいのだ
わけあり物件
エニグマ

告白
奇術師
サイコキラーズ・ラブ

イワンのばか
心の折れたエンジェル
釈迦
T2

~アンコール~
3歳の花嫁
人間嫌いの歌
サンフランシスコ