筋肉少女帯12月23日恒例ライブ (2017年12月23日)
クリスマスを前にすると決まってカップルへの呪詛を聞く機会が増える。ある人は交際相手のいない自分をネタにする自虐ネタとして冗談交じりに、ある人は他者から無遠慮にクリスマスの予定を聞かれ笑われることへの不快感を走らせながら、またある人はカップルに呪詛を吐くことそのものをエンターテイメントとして楽しんで、とパターンは様々だ。同じく交際相手のいない自分はそれらの呪詛を傍で聞きクリスマスの予定を問われるも、いつも他人事のように思っていた。何でそんなに呪詛を吐くのだろうとすら思った。それはクリスマスを一緒に過ごす交際相手がいなくとも、己にとっては何のダメージもなかったからである。
しかしふと、十二月二十三日の祝日が今後、天皇陛下の退位とともに平日になる可能性があると聞いたときに、もしかしたらこの毎年恒例の楽しみがなくなるかもしれないと思ったときに、何とも言えない喪失感を抱いたのである。
そして思い出したのだ。クリスマスの予定を聞かれるたびに自分は決まって「筋肉少女帯のライブに行きます」と笑顔で答えていたことを。この毎年恒例のライブこそが自分のクリスマスとありがたく受け取り、ずっとそれを堪能してきたことを。
この楽しみが今後、なくなってしまうかもしれない。
クリスマスという大きなイベントに、何の予定もない虚無感。クリスマスソングが流れ、イルミネーションが輝く街並みに、手を取り合って楽しそうに浮かれ歩く人々。そんな華やいだ空気の中で自分だけが何の予定もなく、いつも通りの日常が淡々と流れている。それは交際相手の有無に関わらず、寂しさを感じても不思議でないことだろう。
そうか。筋肉少女帯のおかげで寂しさを感じる隙がなかっただけかもしれない。筋肉少女帯のおかげでたまたま恵まれていただけなのかもしれない。とすると、クリスマスを前に呪詛を吐く人々に対して己が何かを思うことなどできないよなぁ。
そんなことを考えながら、ゴトゴト電車に揺られ恵比寿へ向かう。財布の中にはツリーとオーナメントで可愛らしくデザインされた、いかにもクリスマスらしいデザインのチケット。しかしクリスマスとはどこにも明記されておらず、ライブタイトルすらない。だがこの日は会場に集うファンなら誰しも知る特別な夜で、いつものライブにはない様々な趣向が用意されている。筋少物販では数量限定の福袋が販売され、橘高さんの物販では終演後に橘高さんとドライブに行ける抽選会のチケットが配布される。開演前にはクリスマスソングが流れ、アンコールではおいちゃんと橘高さんが赤い帽子とリボン、ケープをそれぞれつけてサンタクロースに扮し、お菓子や飴を撒いてくれる。パッと空中に浮かぶ色とりどりのキャンディーに、わっと興奮して手を伸ばす人々。同じように手を伸ばしながら、その光景があまりにも幸せで楽しくて、たまらない気持ちにさせられるのだ。
オープニングSEはまさかの「イワンのばか」。ポコポコとイントロが始まり、「えっ、いきなりイワン?」とどよめくもメンバーはまだステージにおらず、録音された歌声だけが流される。これはどんな風に盛り上がれば良いのだろう……と困惑しつつ拳を振り上げているとメンバーが登場。ぎゅんぎゅんに圧縮され、人の頭に視界が遮られながらも必死に手を伸ばしオーケンの第一声を待てば……「お客様は、神様です!」 オーディエンス・イズ・ゴッドだ!
まだ新しい曲なのにもう懐かしさを感じてしまうのは、それだけ新譜「Future!」を聴き込んでいるからだろう。あぁ、それにしても嬉しい! 今日この日にこの曲をやってもらうと、何だかものすごく甘やかされている気がしてしまう。
セットリストは新旧織り交ぜたバリエーション豊かなもので、一回のライブでこんなに色々聴けて良いのだろうか……と贅沢さに頭がくらくらしそうになる。バッキーバッキードルバッキー! と拳を振り上げる「暴いておやりよドルバッキー」に、スタンドマイクの妖しさが際立つ「僕の宗教へようこそ」、特にこの二曲は「またライブで聴きたいな」と渇望していたものだ。あぁ、嬉しい、嬉しい!!
「カーネーション・リインカーネーション」の後のMCの終わりで、仮面ライダーの最上魁星の台詞をもじって「ファンキーファンキー、鬼ファンキー!」と高らかに演者であるオーケン本人のコールによって「暴いておやりよドルバッキー」が始まったときはニヤニヤしてしまった。最上魁星役、素晴らしかったなぁ。
「週替わりの奇跡の神話」では、最後に高らかと歌い上げる「不変の」の声が出なくて苦しんでいた頃が嘘のように、見事な声を響かせてくれた。オーケンが咽喉の手術を受けたのは去年の五月。回復してくれてしみじみ嬉しい。
「枕投げ営業」に入る前では、「枕、枕、枕、枕、枕……!!」と、枕とシャウトしまくり、こんなに言わなくて良いよね、と自ら突っ込むシーンも。「飛び散るそばがら~」は何度聴いても気持ちが良いし、「がんばるねあたし!!」を聴けば何度だって勇気付けられる。この曲、本当に大好きだ。
特別な一夜ということで、マイクを握ったおいちゃんによる「LIVE HOUSE」の熱唱も! おいちゃんの笑顔と分厚い歌声によって、わぁっと空間が華やぎ、オーケンとはまた別の色に染められる色彩の変化が目に楽しい。
「僕の宗教へようこそ」は中間の語りもバッチリで、オーケンの語りが大好きな自分としてはもう嬉しくてたまらない。うっかりアンテナを屋根の上に立てかける箇所を飛ばしかけ、どうにか軌道修正しきちんとアンテナを立てたあたりは見事だった。そしてこの曲の見所、オペラを歌ってくれるエディ! エディは定位置から移動しておいちゃんとオーケンの間に立ち、ぐっとマイクを握って高らかに雄雄しくバリトンを歌う。格好良い!
エディはオープニングSEの「イワンのばか」でもステージを走って横切ってオーディエンスを驚かせてくれ、「ディオネア・フューチャー」では橘高さん前まで降りてきて、オーディエンスに身を乗り出しながら「無意識! 電波! メッセージ! 脳Wi-Fi!!」と野太いコーラスを聴かせ存分に煽ってくれた。こんなにエディが前に出てきてくれることは珍しいのだ、そりゃもう興奮しないわけがない。まさかエディをこんなに近くで観られるなんて……。
ちなみに終演後に橘高さんの抽選会の列に並んでいたら、エディがふつーに出てきて颯爽と列の横を歩いて去って行ってびっくりした。一瞬脳が追いつかなかったがエディだった。びっくりした。びっくりした。
「俺の罪」はこの曲が大好きな長谷川さんへのクリスマスプレゼントとして演奏されるも、演奏するのはやはり長谷川さんというオチが楽しい。「いつもツーバスをたくさん踏ませてごめんなさい!!」というオーケンの謝罪に大笑いした。
今日はあえて「Future!」の曲は外してくるのかな? と思っていたところで「エニグマ」をやってくれて非常に嬉しかった。そうだよそうそう、今日この日に「トコイトコイ」と呪いの言葉を合唱する楽しさったら! スタンドマイクに寄りかかるように歌うオーケンに、グッと眉根を寄せて真剣そのものの表情でギターを弾く橘高さんの格好良さったら。張り詰める緊張感と、どんどん展開していく音楽の目まぐるしさ。渦に飲み込まれそうになる感覚が心地良くてたまらない。
がっつり盛り上がった後にしっとり始まったのは「夕焼け原風景」。あぁ、これも好きなんだよなぁ。まさかやってくれるとは思わなかっただけにプレゼントをもらった気分だ。優しいギターの音色に感じる郷愁と、よその家から漏れる晩御飯のにおいを嗅いだような、懐かしくも寂しい感覚。やわらかなオーケンの歌声も大好きだ。
そしてここから怒涛の展開。「T2」「オーケントレイン」「ツアーファイナル」「ディオネア・フューチャー」でオーディエンスも爆発し、もみくちゃになり半ばわけがわからなくなりつつも拳を振り上げる。「T2」のハンドクラップの陽気な楽しさに、「オーケントレイン」のどこか可愛らしいコール。あぁ、そうだ! 「ツアーファイナル」で内田さんのベースの存在感が際立つシーンがあって、そこを弾く内田さんの指の動きを見るのが大好きなのに、視界が阻まれて見えなくて残念に思ったんだ。惜しかったなぁ。
アンコールでおいちゃんと橘高さんがお菓子を撒いてくれ、ハッピーな空気になった直後に一転して「労働者M」が始まるあたり、何かこう、夢から現実へ力ずくで引き戻されて辛かった……。「労働者M」は格好良い曲なのだが、曲なのだが! アンコールでは聴きたくない曲である。曲を始める前に「久しぶりに家で聴いたら変な曲だなと思った」と笑うオーケンはキュートだったが。キュートだったが。
これも久しぶり、「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」! 植物に襲われて全人類が危機に晒されているにも関わらず、明るく多幸感に満ち溢れているのは、世界がどうなろうともこの歌の少女は確かに幸せを掴んだからだろう。世界がどんなに希望に満ち溢れていても、自分自身がそれを掴めていなければ幸福になりえないのと同様に。
最後の「サンフランシスコ」では、ぎゅんぎゅんに圧迫されつつも、ここで飛ばなきゃ終われない! と必死になって床を蹴って飛び上がった。青と赤の照明の中、スポットライトを浴びてベースを響かせる内田さんの見せ場は何度観ても惹き付けられる。格好良いなぁ。
印象的だったのは、橘高さんとエディのバトルの最中、上手の、ちょうど己の目の前に立ったオーケンが二人の演奏を眺めつつ、突然にこーっと楽しそうに笑ったことだった。それはもう、自然とこぼれてしまった笑みのようで、何だかとても嬉しくなった。
MCでは、エディが熱く仮面ライダーの感想を語る場面も。オーケンを知っているだけにオーケンを応援してしまったが、ちびっこにとっては憎い敵だよね、と話す。また、最後に変身して強くなったライダーに対して物申すエディが微笑ましかった。
ファンが作った今年一年の筋少ライブ一覧をまとめた紙を手に、この一年の振り返りを行うシーンも。しかしメンバーはほとんどライブの記憶が無いらしく、このままでは朝御飯に何を食べたか思い出せなくなる、翌年には朝御飯を食べたかどうか思い出せなくなる、さらに翌年には朝御飯を二回食べてしまうようになる! と畳み掛けるトークで抱腹絶倒。良い話をしているようで何も言っていないMCを演じる様子も面白かった。
かと思えば前回のライブのMCを引き継いだトークも。若い頃ツアーで博多に行ったときに、オーケンと内田さんの近所の地名と同じ「野方行き」と書かれたバスを見たと話すオーケンに、野方じゃなくて若宮だよと訂正した内田さん。このときオーケンは違うと思いつつもそのまま進行したが、家に帰ってから調べたところ「野方」という地名もあり、博多に「野方行きのバス」はあるが「若宮行きのバス」はない事実を突き止める。オーケンはコミカルかつ大げさな表情で、冗談めかしながら「あのとき本当はもうムカムカしていて、ブッチーンってなりそうだったけど、大人だから我慢したんだ!」と血管が切れる仕草までしつつ内田さんに力説。笑いつつ半ば圧倒されつつも「若宮行きのバスはない」という事実を突きつけられた内田さんは「ブッチーン!」と同じように血管が切れる仕草でオーバーに怒る真似をしていて、その様子が非常に面白くもあり微笑ましくもあり、五十代になってもこんな風に遊びあえる友人ってのは良いものだなぁ、としみじみ思った。
オーケンとおいちゃんがライブで徳島に行った話も面白かった。その会場の楽屋は普通のマンションの一室のようで、風呂もあればトイレもあるのだが、何故か電気だけ無いそうで、豆電球だけがぽっかりついているもののほぼ暗闇だったそうだ。その真っ暗闇の中一時間近く、おいちゃんは一人で出番を待たなければならなくなったそうで、あまりゲームをしないため詳しくないが、まるでバイオハザードのようだった、と語っていた。……すごい楽屋があるものだなぁ……。
毎年恒例の橘高さんのドライブに触れ、抽選に参加する男性ファンに言及するシーンも。ドライブ中の選曲は何か、ドライブ中に何を話すのかと尋ねるオーケンに、車内では自分の曲を流し、ロックの話をするよと答える橘高さん。そこへオーケンがそれではダメだ、と突っ込んでもっとムーディーにするよう熱く語れば、「ロックの話をしちゃいけないのぉ!?」と橘高さんが困惑していて面白かった。
この抽選会には自分も参加した。残念ながら当たらなかったが、なかなか面白い体験ができた。終演後スタッフの誘導を受けて列に並び、入ったのはさっきまで爆音が鳴り響き、オーディエンスが踊り狂っていた場所のちょっと手前の空間。あの熱気と興奮が嘘のようにシーンとした場所に、ガラガラーン、ボトッ、ガラガラーン、ボトッという音だけが寂しく響く。見れば列の先頭では福引のガラガラが回されていて、脇にはベルを置き当たりの玉が出るのを待つスタッフ。まるで商店街の一角だが、自分を含め商店街ではあまり見かけない人々が列を成している。金髪の人、黒ドレスの人、汗だくで髪がボサボサになっている人。彼ら彼女らがあのガラガラを回している。不思議な光景だった。
ガラガラを回して階段を上ればここにはまだライブの余韻が残っていて、飲み物を片手にライブの感想を語らう人、余韻に浸りながら煙草をふかす人、ドリンクカウンターに並ぶ人が大勢いる。夢の世界から商店街を経由して夢と現実の間に戻ったような心地がした。
さぁ、ここからまた現実に戻るのだ。しかしまた一月に会員限定ライブ、三月にもワンマンライブが予定されている。さらにその先の一年後の今日にはきっと特別な非日常が待っているのだろう。では、その先の十二月二十三日はどうだろう。
わからないが、ずっと続いて欲しいと思う。きっとこの日が心の支えになっている人は、大勢いるに違いないのだから。
それはもちろん、自分も含めて。
オーディエンス・イズ・ゴッド
カーネーション・リインカーネーション
暴いておやりよドルバッキー
週替わりの奇跡の神話
香菜、頭をよくしてあげよう
枕投げ営業
LIVE HOUSE(おいちゃんボーカル)
僕の宗教へようこそ
俺の罪(内田さんボーカル)
エニグマ
夕焼け原風景
T2
オーケントレイン
ツアーファイナル
ディオネア・フューチャー
~アンコール~
労働者M
トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
サンフランシスコ