今回のライブの正式名称は「大槻ケンヂ生誕祭!ロックLIVE編!!オーケンナイトニッポン~52歳を迎えたオーケンが1月遅れのフリーダムなロックライブ! 豪華ゲストも続々登場して、特撮、電車、絶望少女達、カバー、ソロ、大仏連合その他、賑々しく熱唱します!」。そしてこの長々としたタイトル通りの、濃密かつ贅沢な二時間を楽しむことができたのであった。
本当に素晴らしく楽しかった。楽しすぎて、何時間もずっと余韻に浸り続けている。ただゆらゆらとライブの楽しさを反芻し、ほうとため息をつきながらトポトポとビールを注ぎ、ゆったりグラスを傾けては夢を見ている。叶うならずっとこのまま、永遠にライブ後の夜を過ごし続けたい。
オーケンの生誕祭ということでオーケンはニッコニコで、嬉しそうにはしゃいでいた。今回のセットリストはきっとオーケンが歌いたいもの、歌って気持ちいいものを集めたのだろう。そう感じたのはこの二時間、オーケンがそれはもう気持ち良さそうに歌っていたからで、伸び伸びとした歌声に魅せられながら、この三十年でオーケンが重ねてきた様々な活動から生まれた音楽の多種多様な色合いを味わったのであった。
そのうえロビーにはオーケンの衣装展も開催されていて、特攻服に血まみれ白衣、絶望少女達のジャケットで着た衣装に、仮面ライダーで演じた最上魁星の衣装まで飾られていた。嬉しかったなぁ。特に最上魁星の衣装の格好良さったら! 衣装展の開催を聞いた際にはてっきりガラスケースに入れられるものかと思いきや、立ち入りを防ぐテープは張られるものの手を伸ばせばすぐに触れられるような距離に衣装が並べられ、まさかこんなに間近で生で見られるとは思わず、その質感や細かい意匠をほれぼれと見つめることができて非常に嬉しかった。半身が機械の最上魁星のズボンには中心に穴が開いた鋲が点々と打たれていて、映画でキラキラ光って見えたそれの正体は鋲だったのか! と驚いた。てっきりラインストーンかと思っていた。
チェキも買えた。嬉しい。それもとても格好良いものが! こんなに楽しいこと、嬉しいことが一日にいっぺんに起こってしまって良いのかと心配になってしまうほどだ。
ハッピーバースデーの音楽と共にオーケンとメンバーがステージに現れ、「ジェロニモ」から始まってのっけからヒートアップ。かと思えば二曲目はくるりと調子が変わって「猫のリンナ」。「猫のリンナ」はチープ・トリックの「I want you to want me」にオーケンが日本語の歌詞を自由に乗せたものだ。猫の中にはあたりとはずれがあり、それは舌の裏で見分けられると可愛らしい歌詞を歌うオーケン。そして二番に移ったとき……下手から聴こえる美しい歌声が紡ぐのは原曲「I want you to want me」の歌詞! ベーシストの竜ちゃんこと高橋竜さんが透き通るような美声を響かせてくれた。
最初のゲストはオーケンをリスペクトしまくっているNoGoDの団長! 何と、ヒビワレメイクを入れての登場である! オーケンに代わって客を煽りに煽り、オーケンは「楽だな~」としみじみと喜んでた。曰く、客を煽るのは歌う以上に疲れることもあるそうだ。
団長はオーケンへの愛とリスペクトをまっすぐオーケンにぶつけていて、照れ笑いを浮かべるオーケンが愛らしかった。いかにオーケンから影響を受けたかを語る様子は見ていて非常に微笑ましく素晴らしい。オーケンも嬉しかったろうなぁ。
オーケンと団長が歌う曲は「ヤンガリー」! ここでオーケン、「ヤンガリー! ヤンガリー!」と叫ぶところだけをやりたいと言い出し、団長に「お客さんのところじゃないですか!」と突っ込まれつつ、団長がメインの歌詞を歌ってオーケンが煽る形に。 いやぁこの曲、エディのピアノの迫力とすっとぼけた歌詞の組み合わせが良いよなぁ……!
ヤンガリーの後に団長が退場し、次の曲は電車から「夢みるショック!仏小僧」。この妖しい曲の中で、オーケンがぎゅっと左目を瞑ってウインクをしていたのがやけに印象に残っている。
そして! ありがとうございます!! 死ぬほど大好きな「お別れの背景」を今日聴けたことの嬉しさったら! この曲は何と言っても情景描写の美しさがたまらない。一番と二番で対比される英雄と犯罪者を背景に、それらをただの「その場で見た出来事」とし、あくまでも自分達の人生の外で起こったこと、メインストーリーである自分達の交際の帰結に比べれば何でもないこととして描かれるカラッとしたドライさがものすごく好きだ。「手錠の男は」とオーケンが高らかに歌いながら、ぐっと両腕を胸の前に並べ、手錠をかけられる仕草をしていたことも印象的だった。
あぁ、嬉しかったなぁ……。
二人目のゲストはえんそくのぶぅくん。彼もオーケンをリスペクトしてヒビワレメイクを入れていて、団長は今のオーケンのメイク、ぶぅくんは昔のオーケンのメイクを再現していたもののオーケン自身はこの日ヒビを入れていないうえ、二人のヒビの違いに気づいていなかったことにぶぅくんが物申していて面白かった。本当に大好きなんだなぁ。どうしてもオーケンにヒビを入れて欲しいのか、「マジック持ってきてください!」と袖に向かって言い放ち、今度オーケンにヒビを入れても良いという約束を得るや否や「生入れしていいんですか!?」「自分の誕生日に後輩へのプレゼントを……ありがとうございまーす!!」と大喜びしていて微笑ましかった。
そうそう、先にステージに現れた団長を指して「あいつはにわかですよ!!」「あいつはXも詳しいですが、俺はXは知りません!!」とオーケンにアピールしているシーンもあり、たじたじとなるオーケンが面白かった。愛されているなぁ。
ぶぅくんを招いて歌ったのは「人として軸がブレている」。今日は本当に、オーケンが活動してきた様々なバンドや企画の曲をたくさん味わえて嬉しい。「ブレブレブレブレ!」と手を振る楽しさったら。一番をオーケン、二番をぶぅくんが歌い、それぞれ女の子の声を高い声で表現していて、歌い終わった後に「女の子の声、どっちがかわいいか対決だったね」とオーケンが言い、「大槻さんの方が可愛かったです」と勝ちを譲るぶぅくんに照れるオーケンという一幕も。自分をリスペクトしまくる後輩と相対するオーケンはいつも、偉ぶるでもなくむしろその勢いにたじたじとすることが多くて愛らしいなぁ。
ぶぅくんがいなくなるや否や、一転してステージの空気が変わる。赤と緑の照明に照らされてカウントされる「ワン・ツー・スリー・フォー」の囁く声。じゃがたらのカバーで「タンゴ」だ。
アダルトかつ色っぽく、危うい歌声と演奏。楽しい軸ブレからの展開に息を呑まざるを得ない。さらに続くは「ゼルダ・フィッツジェラルド」! 赤い照明に浮かぶオーケンの物憂い表情、高らかに歌われる詩。この曲も大好きで、圧倒されつつ魅了された。
MCを挟み、竜ちゃんとエディ、そして長谷川さんが始めたバンド「竜理長」の話題へ。竜理長はオーケンの曲もいくつかカバーしていて、今度オーケンと一緒にツアーをやる告知も。これも行ってみたいんだよなぁ。
オーケンと竜ちゃんのツインボーカルで歌われたのは「SWEETS」。竜理長もカバーしている曲である。竜ちゃんの透明な歌声が非常に印象的で美しかった。あと、オーケンの歌をオーケン以外の人が歌うってのが、やはり慣れず、不思議で、楽しいんだよなぁ……。
エディのやわらかな指先から奏でられるピアノの音色から始まるのは……「Guru」だ。「綺麗だ……」とため息を吐くかのような声とともにステージが真っ赤に染まる。幻想的な光景に息を呑んでいると……え、マジか。
語ってくれたんだ。オーケンが。
あの、「春の夜の人のいない伽藍の底に」、と!! 「伝道師よ」、と!!
気づいたら、胸の前で指を組んで聴き入っていた。
まさかこれが聴けるとは。生で。「Guru最終形」でカットされたこの語りを、聴ける日が来るなんて……。
美しさに涙が出そうだった。心臓を鷲づかみにされて仕方なかった。
美しかった。
余韻に浸る……間もなく次のゲストが紹介される。ついに、筋肉少女帯のメンバーが登場だ! 見るからに普段着なふーみん、うっちー、おいちゃんの三人がステージにやってきて、オーケンがあれこれとちゃかす。特に内田さんは普段着も普段着で、ステージ衣装を着ているオーケンと並ぶとギャップがすごかった。ちなみに橘高さんも普段着だったが、髪をくるんくるんの縦ロールにしていた。
やけに積極的にトークを進めようとするおいちゃんの珍しい姿に驚きつつ、「ケーキとか用意してないよね?」と念を押すオーケンがおかしい。曰く、ケーキが運ばれてくると大概段取りが乱れてしまうので、それが嫌だそうだ。そこに内田さんが、嫌がるだろうからやめようと話をしたことを告げ、一番そういったことをやりたがりそうな橘高さんが「嫌がるのが楽しいんだけどね」と笑っていた。
そして四人揃って歌うのは「じーさんはいい塩梅」! えっ「じーさんはいい塩梅」のためだけに来てくれたのか!? 来てくれたのか……!! ある意味豪華である。びっくりした。
メンバーが退場する前にオーケンが言う。「この後にやる曲は筋少以外でこれからやりたいと思っている曲で、良かったら楽屋で聴いて行ってね、でも帰ってもいいよ」と。聴いて欲しそうなのに控えめなところが実にオーケンらしい。
そういった前振りで始まった三曲は「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」「企画物AVの女」だ。
共通するのは、どれも語っているような歌っているような曲であるということ。
あ。だからGuruも今回、語ってくれたのかな、と思った。
追悼の意味合いもあるのかなあ、と思いながら耳を傾ける。何度となく聴いた「ヘイ・ユウ・ブルース」に、初めてオーケンの歌唱で聴く「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」。いつだったか。一時期オーケンは語りを嫌がり、省略することが増えていた時期があった。語りの箇所でオーディエンスを煽ったり、学園天国を入れたり。それは寂しくもあったが、変化は当然のこととして受け入れてきた。
その当時の思いを振り返りながら思ったことは、「語り」の意味合いが変わったのではなかろうか、ということだ。
これはあくまでも己の考えに過ぎずそれ以上でもそれ以下でもない。思ったのは、かつてのオーケンにとって、「語り」とは身の内から溢れる衝動を流れるままに言葉にしたもので、言うなれば自動筆記のような、神がかりに近いものであったのではなかろうか。故にその衝動が収まってからは語りはただのなぞる行為となり、面白みが失せてやる意味が無くなったのではなかろうか。
その「語り」の意味合いが変化した。衝動で流れるものから、一言一言噛み締めるように紡ぐものに。存在する歌を、噛み締め、大事に言葉にすることで顕現させる。そんなものに変わったのではないだろうか。
と、いうことを聴きながら感じたのであった。
「企画物AVの女」は、「あなたがきづいたら、あたし生まれかわる」の箇所でグッと来て涙が出そうになった。ここのオーケンの声、すごく好きなんだよなぁ。
じーんとしている中で現れた、最後のゲストは人間椅子のワジー! 何と! 手に赤い紙袋を持っての登場である。オーケンへのバースデープレゼントとのことで、中身は車の消臭剤。五十を越えたら加齢臭に気をつけねばということで、オーケンもうんうんと頷いていた。そういうところに気を使えるって良いなぁ……。自分も気を使える人間になろう。
ワジーは新しいギターを抱えていて、では何が奏でられるかと言えば……「君は千手観音」! そして下手から現れるは……ダンボールで作った炎を背中にしょい、筋肉を描いたボディスーツを着て大仏連合の執金剛神こと、佐竹雅昭に扮した……NoGoDの団長だーーー!! それも大真面目な表情で!!
ポージングを決めオーケンの方を向く団長に、手を合わせ南無妙法蓮華経を唱えながら折りたたみをするオーケンが実におかしかった。
本編ラストはアベルカイン。ここでドッと人が前に押し寄せ、狂乱のようになってびっくりした。「猫猫猫猫!!!!」「犬犬犬犬!!!!」と拳を振り上げながら大声で叫ぶ。咽喉が枯れそうになった。
アンコールでゲスト全員が出てくるかな……と思いきやそういうこともなく、「テレパシー」を美しく歌っておしまい。「テレパシー」に入る前に語られたのはアダムスキー型UFOで知られるジョージ・アダムスキーの話。彼は七十四歳で亡くなったが、UFOに出会ったのは六十歳で、六十歳からコンタクティーとしての活動を始めた。オーケンは齢五十二歳で、きっとすぐ五十五になり、アラ還を迎えるのもあっという間だ。しかし、六十歳で活動を始めたアダムスキーのように、今からでも始められることはあると。今この場にいるオーディエンスが何歳かはわからないが、六十歳からでも始められると。そう熱く語り、先輩ミュージシャンではなくアダムスキーの話をするのが俺だよね~と照れ笑いをしてお茶を濁す。
だがそれはきっと本気のメッセージだ。五十二歳にして、新たな音楽をやりたいと活動を始めるオーケンの。四十代半ばにしてギターの練習を始め弾き語りをするようになったオーケンの、力強いメッセージだ。オーケンは言う。孤独や退屈から人を救うのは、趣味と教養と仕事だと。オーケンは言う、自分には趣味がないと。さらに言う。自分には教養がないと。そうだろうか? それはきっと彼が、どちらもすごく突き詰めて考えているからだろう。だが、本当はきっとそれを持っている。ただオーケンの思う水準には達していないと考えている。だからこそ、磨くのではなかろうか。
およそ二十歳年下の自分は何を磨くべきだろう。何を研ぎ澄ませ、この先にある孤独や退屈に立ち向かうだろう。今でこそオーケンに助けられているが、いつかその力に頼らなくても生きていけるように。探し求めて行かねばなるまいな、と思った。
と、真面目なことを考えたのは余韻に浸りきって、ちょっと落ち着いたその後だ。しばらくはずっと脳が酩酊している状態で、ライブ会場ではたった一杯しかビールを呑んでいなかったのに頭がゆらゆらしていた。
最高に、とてつもなく楽しい夜だった。
ジェロニモ
猫のリンナ
ヤンガリー(ゲスト:NoGoD団長)
夢みるショック!仏小僧
お別れの背景
人として軸がブレている(ゲスト:えんそくのぶぅくん)
タンゴ
ゼルダ・フィッツジェラルド
SWEETS
Guru
じーさんはいい塩梅(ゲスト:筋肉少女帯)
とん平のヘイ・ユウ・ブルース
ゴロワーズを吸ったことがあるかい
企画物AVの女
君は千手観音
アベルカイン
~アンコール~
テレパシー