未分類6杯, M.S.SProject, 非日常

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そろそろ新しいブーツを買わねばなるまいな、とライブチケットを財布に入れて家を出たのが十四時頃か。そして本日のライブ会場「パシフィコ横浜」のあるみなとみらい駅とは反対方向の電車に乗って靴屋めぐりをした。スタンディングではなく、座席ありの会場なら靴を買ってそのまま直接現地へ向かえば良い。

しかし思い出してしまったのである。布団を干しっぱなしにしていたことを。

悩んだ。このまま布団を放置してライブに向かうか。確か今日は降水確率がゼロパーセント。とはいえ、万が一のこともある。何より布団の生死を危ぶみながら、そんな心境でライブを心から楽しめるのか。目の前にはステージがあるのに頭の片隅には布団が存在し続けていいのか。だが間に合うのか。間に合うか? 間に合うか!? 間に合うのか!!?

足に馴染んでいない固いブーツに苛まれながらみなとみらい駅からパシフィコ横浜まで全力疾走した。
疲労困憊で席に着き、ゼーゼーと息を整えている間に開演。ギリギリである。死ぬかと思った。死ぬかと思った。

そんなこんなで自業自得のトラブルに見舞われつつも無事パシフィコ横浜に到着。今回で二回目のMSSPライブである。前回参加した公演もパシフィコ横浜で、あれがちょうど一年前。あのときは福山雅治のライブも近くでやっていて、帰り道がえらく混雑した覚えがある。懐かしいものだ。

構成は前回と同じで、まずスクリーンにオープニング映像が映し出され、映像が終わるとメンバーが登場し、ゲーム実況に移行。実況が終わるとメンバーがステージから退場し、幕間(まくま)ではライブ会場をテーマにしたお楽しみ映像が繰り広げられる。そしてわっと盛り上がった後、ステージセットが動き出し、MSSPメンバーとサポートミュージシャンが登場! という流れだ。

オープニングでは、MSSPのメンバーが冒険をする映像が流され、その上にご当地ネタを織り交ぜた音声が乗せられていた。やはり横浜といえば中華街らしく、何故かeoheohが「肉まん食べたあい!」「チャーハン食べたあい!」と抑揚の無い声を張り上げながら漲る食欲をアピールしていた。あなたそういうキャラでしたっけ。

ここに限らず、他の場面でもeoheohは棒読みのようなそうでないような、何とも言えない抑揚の無い声を元気よく発する場面が多く見られ、元気いっぱいなのかヤケッパチなのかわからないあたりが面白かった。

映像の後MSSPのメンバーがステージに登場し湧き起こる歓声。ここで中華街トークが続き、KIKKUN-MK-IIにより肉まんを胸に例えた下ネタが発せられ、FB777が両手を挙げて距離をとり、「私は何も関係ありません」という顔をしていた。FB777のこのあたりの感覚、ちょっと好きだ。

ちなみに映像そのものは魔王を倒す云々という話だったのだが、上記のeoheohの様子があまりに印象的だったので話の筋を忘れてしまった。だが、筋を忘れても覚えているのは、これが後のゲーム実況に繋がるということ。魔王を倒すためにゲーム実況を開始する、と高らかに宣言され、スクリーンが五分割され、中央にはゲーム画面、左右の小窓にはMSSPメンバーが一人ずつ映し出された。

今回プレイするゲームは二つ。まずプレイされたのがインベーダーゲームとパックマンを足して二で割ったような素朴なもの。碁盤上の画面にブロックや草、川が一マスごとに配置され、敵の戦車がうろうろしている。敵を全て撃破できれば勝ち。敵の攻撃により残機が無くなったり、自陣にある鳥マークを敵に破壊されたら負け。同時に二人までプレイできるので、ジャンケンでチーム分けを行い、FB777・eoheohチームと、KIKKUN-MK-II・あろまほっとチームに分かれ、順番に対戦を行った。

このチーム分けで、チョキとパーで分かれると言っているにも関わらず、あろまほっとがグーを出してしまう場面があり、それについてメンバーが突っ込み、あろまほっと自身も不思議そうにしていたのが学生のやりとりのようで微笑ましかった。

このゲームをプレイしたことは無いものの、インベーダーに親しんでいたこともあり、楽しく観戦出来て嬉しかった。ゲームをする大人四人に会場中から飛ぶ歓声と応援。FB777が二度も自陣の守るべき鳥マークを破壊して自らゲームオーバーへと転がり落ち、思わぬ展開にどよめく会場、「お前はスパイか!」「何でだよ!」と突っ込むメンバーに起こる笑い。あぁ、これ酒呑みながら眺めたい。ゆるーく背もたれに身を預けながらビール呑みながら観たい。パシフィコ横浜がドリンクありの会場だったらなぁ……!

もう一つのゲームは何だかわからなかった。薬局の店頭に置いてある蛙の人形みたいなものが踊ったり戦ったり殺されたりするゲームだった。モンスター退治をしていたので、前回のライブで観たモンスターハンターに近い系統と思われる。欲を言えばゲームの前に簡単な説明が欲しかったが、多分ここに来ている人にとっては蛇足なのだろう。

ちなみにFB777だけ本人の容姿に近い、サングラスをかけた人間のキャラクターで、KIKKUN-MK-IIは完全な二足歩行の蛙、eoheohは頭が蛙で首から下が人間の男性、あろまほっとも頭は蛙だが一人だけ皮膚がピンクで飾りにおリボン、首から下は人間の女性のキャラクターだった。そして蛙達は各々楽しげにゆらゆら踊り、唯一の人間FB777はその様を呆れながら眺めるのであった。ここでふと、般若面が嫉妬と恨みに身を焼いて鬼女に成り果てた女を表すことを思い出し、一人愉快な気持ちになってしまった。ゆらゆらと楽しげに踊る鬼女は恨みも復讐心も昇華していそうだ。代わりに蛙の呪いをかけられているが。

そうそうついでに。最近読んだ「鬼の研究」(著者:馬場あき子)という本に般若についての記述があって、それがなかなか面白かったので紹介しておこう。般若に興味のある方はどうぞ。

話を戻そう。そうして人間と蛙のパーティーはモンスター退治に挑み、巨大な武器を振るって攻撃をしかけたり殺されたり殺されたりした。ファンシーな蛙頭が大振りの武器を打ち下ろし、モンスターからはビシャアと血飛沫が飛んでこれが意外とえぐくてびっくりした。またモンスターの動きが気持ち悪いのである。こいつらがいない世界に住んでいて良かったと心から思った。(蛙も含む。)

ゲーム実況が終わり、メンバーがステージから退場。代わりにスクリーンには「SOUND ONLY」の文字が並ぶ。そして始まるのはご当地ネタのトーク! 音楽ライブを始めるにあたってステージの準備を整えるまでの間、こうして楽しませてくれるのは本当にありがたい。観客を退屈させない仕掛けと心配りが見事だなぁ。

トークは、ツアータイトルにかけて横浜の幻想をメンバーが一人一人手描きのイラストつきで発表するもの。FB777は頭が肉まん、肩がシュウマイ、腕が月餅、胴がレーズンサンド、足がバウムクーヘンで、両手に赤と青のスカジャンを持って鳩サブレを踏みつけた怪人を描き、KIKKUN-MK-IIはシュウマイが美味しそうで遠近感が不安な孤独のグルメ、あろまほっとは頭がカップヌードル、左肩に観覧車、胴が赤レンガ倉庫で、白目を剥いたドラえもんが頭半分だけ見えた怪人、そしてeoheohは「仏の顔も三度まで」を三コマ漫画で示した大仏ゴーレムなる横浜の守護者を爆誕させた。大仏の絵が妙に上手かった。

トークが終わったらいよいよだ。ステージにスモークが焚かれ、「MSSP」と描かれたステージセットがまるで門を開くようにじりじりと動き出す。その先にいるのはもちろん言わずもがな。楽器を抱えたKIKKUN-MK-IIとFB777が中央に立ち、上手と下手にはeoheohとあろまほっと、後方にはサポートミュージシャン! 

そして始まった一曲目がシングル収録の「Over Road」。驚いた。これまで結構な数のライブに通ってきたが、インストゥルメンタルから始まるのは生まれて初めてだ。ギターが音を刻み、ドラムが駆ける硬質な音。緑の細い照明がレーザービームの如く客席に照射され、煽る声も何もないままに駆け上る高揚感が楽しい。

二曲目は「幾四音-Ixion-」で、KIKKUN-MK-IIとFB777が歌唱をとる。前回歌いづらそうにしていたことを記憶しているが、今回は前よりもこなれた感じがあってわくわくした。ただ、後の曲の方がより伸び伸び歌っている印象を受けたので、この曲は音程が二人には低すぎるのかもしれない。

このあたりでセットリストを。後半若干自信が無い。間違っていたらご容赦を。

Over Road
幾四音-Ixion-
Shadow Hearts

ENMA DANCE
Arrival of Fear

THE BLUE
Phew!

KIKKUNのテーマ
Egoist Unfair

M.S.S.Phantom
M.S.S.Party
M.S.S.Phantasia

~アンコール~
ぴるぴるちゅーんへいへい! と言っていた曲
ボーダーランズのテーマ
We are MSSP!


一曲目の「Over Road」ではもう一つ驚くことがあった。パフォーマーであるあろまほっととeoheohが、揃った動きで一曲一曲に合わせた振り付けを行っていたことだ。前回のライブでは、二人は曲ごとに揃いのアイテムを持ちつつも、各々好きにステージを動き回っていて、時には手持ち無沙汰にしている場面もあり、その自由さが観ていて楽しかった。

ところが今回、二人揃っての振り付けが曲の中に構成されることによって、ステージの印象がガラリと変わった。パフォーマーが担う曲の役割が明確化し、世界観がカチッと完成され、全部に意味があるように見える。今回のライブを観た後になって思えば、前回の二人は光る棒や旗、スモークを吐き出す銃といったアイテムによって助けられていた。しかし今回はパフォーマーとしてアイテムを活用しているのである。この違いは大きい。

光と闇のファンタジアツアーの前に、パフォーマンスライブが行われていたことは知っている。参戦してはいないが、ダンスを踊ったらしいことは耳にしていた。詳細は知らないが、もしかしたらそのライブをきっかけに練習をしたのだろか。

つい考えてしまう。己はMSSPとほぼ同年代だが、今この歳でダンスとパフォーマンスを練習しろと言われたら出来るだろうか。ものすごく頑張れば出来るかもしれないが、ものすごく頑張らないと出来ないだろう。もともとダンスの素養があるならともかくも、全く無い文化系インドア人間なのだ。感嘆せざるを得ない。

すごいなぁ。こういうのって実に良い。己が今年行ったライブは筋肉少女帯と平沢進と水戸華之介、町田康。上は六十二歳、下は五十歳のミュージシャンである。活動暦に至っては三十年から四十年。皆熟練者達であり、進化や変化はありつつも、完成されたスタイルを持っている人達だ。

だから自分は、今まさにぐんぐん成長し、今後も変貌を遂げるだろうと期待させるグループを観たことがなかった。そして今それを目の当たりにしている。これはライブの醍醐味ではなかろうか。

三曲目の「Shadow Hearts」では和風の文様がステージに映し出され、パフォーマー二人は太鼓を持って登場。初音ミクの歌声が響き渡る空間は実に心地良かった。この曲好きなんだよなぁ。

MCが入り、KIKKUN-MK-IIによりタイトルが発表され「踊れ!!」とシャウトが響く。「ENMA DANCE」だ! ここでパフォーマー二人は長い棒を持って登場。くるくると回転させると「ENMA DANCE」と文字が浮かび上がったり、まるで燃え盛る炎がついた棒を振り回すかのような演出も。さらに、ステージ中央にやってきた二人、あろまほっとがeoheohの後ろに立ち、eoheohが膝を折って屈む。あろまほっとがeoheohの頭上に手を掲げ、掴みあげる仕草をすればマリオネットのごとくeoheohが引っ張られる。また、前後に並んで立った二人が腕を重ならないよう左右に突き出し、さながら千手観音のようなパフォーマンスも披露! 面白いなぁ! これは見入ってしまう。

「Arrival of Fear」では光る棒から「MSSP」と大きく書かれた旗に持ち替え、出だしからKIKKUN-MK-IIのギターソロ。曲中で「うふふ」と聞こえる箇所が別の音になっていたが、あれは何だったか。ちなみに「To Deep」の箇所は省略されていた。

「THE BLUE」では、観客が次々と手元のペンライトを青にする準備をしている姿が見えたのが面白かった。今回自分は一階Bブロックの前の方にいたので、ペンライトによって彩られる景色も堪能することが出来たのだ。青色に染め上げられ、光の粒のような照明がプラネタリウムのように回転する。美しかったなぁ。

あと、ボーカロイドならではの早口の歌唱も楽しい。スピードに乗ってそのままスタンディングで揉まれたい!! と身の内から沸き起こる衝動は抑えがたいものだった。抑えたけどな!

それと他の場面だったと思うが、あろまほっととeoheohが体を前後に揺らしているシーンがあり、己はライブハウスのノリよろしく思いっきり折りたたみをしようとしたのだが、周りの誰もやっていなかったので「やっべ」と踏みとどまった。危なかった。

ゾンビ曲「Phew!」ではあろまほっととeoheohが手を前に突き出し、キョンシーのようなポーズをとった。なるほど二人はゾンビを演じているらしい。観ていると動きに物語があり、朝起きて、重い何かを運び、どこかに積み上げる動作をしていた。あぁ死体を運んで積み上げて、壁に塗りこんでいるんだな、と解釈。しかしその後弓矢を持って狩りを始め、御飯を食べ出してしまった。え? ゾンビなの? ゾンビじゃないの? そうこうしているうちに二人はまたゾンビのポーズをとって去って行った。多分己は物語の解釈を間違えている。

さてさて。次が楽しみにしていた一曲である。「KIKKUNのテーマ」! これ楽しいんだよなぁ。アルバムを聴いたらライブで「きっくん! きっくん!」と叫ぶところが完全にインストになっていて驚いたものだ。

曲に入る前に予行練習を行い、KIKKUN-MK-IIの掛け声に合わせて「きっくんきっくん!」「えふびーえふびー!」「あろまあろま!」「えおえおえおえお!」とコールアンドレスポンス! 一声で四回も続けて「えお」と叫ぶってそうそう無い体験だな。さらにメンバー二人の名前を合体させた掛け声もKIKKUN-MK-IIの先導によって行われ、「順番が云々」という発言にFB777がオープニングの肉まん騒動のときと同じしらっとした無表情を浮かべKIKKUN-MK-IIを見やっていて笑ってしまった。まぁあるよな。

このトークと予行練習の間、体感で軽く五分以上ドラマーはずっと同じリズムを刻み続けていた。お疲れ様です。

ハイテンポの曲が駆ける中、皆がペンライトを黄色に変え、「きっくんきっくん!!」と大声で叫ぶ快感。曲中ではメンバー紹介も行われた。サポートメンバーはギター、ベース、ドラム、キーボードの四名。そういえば今回サポートメンバーのトークは無かったな。

「Egoist Unfair」はKIKKUN-MK-IIとFB777が伸び伸びと歌っていて、すごく気持ち良さそうだった。高い声の方が合うのかもしれない。

「M.S.S.Phantom」ではステージが暗い赤に染められ、重々しい空気に。「ズ、ズ、ズンズンズンッ」という音の中でメンバーは腰を下ろし、楽器を構える。パフォーマーのあろまほっともギターを、eoheohはサンプラーを操り八人での演奏が行われた。

「M.S.S.Party」の前のMCではちょっとしたお遊びも。「M.S.S.Phantasia」は恐らく新曲である。盛り上がりの中本編が終了し、アンコール一曲目はFB777が熱唱。手を左右に大きく広げ、とても気持ち良さそうに歌っていた。表情が特に晴れ晴れしていた印象である。「M.S.S.PiruPiruTUNE」はセルフカバーと思って保留していたが、多分あのアルバムに入っている曲だな。多分というか間違いなく!

「ボーダーランズのテーマ」でとりわけ大きな歓声が起こったあたり、皆が待ち望んでいた曲なのだろう。終わった後KIKKUN-MK-IIが「こんな曲で盛り上がっちゃって……」と言った内容を語って笑っていたが、どんな歌詞か気になるところである。

最後の曲に入る前にKIKKUN-MK-IIより真面目なMCが。しかしここでKIKKUN-MK-II、しっとりした話を二周三周と続ける。次の曲に入るかな? と思うタイミングでまた話が始まり、会場がどよめく。するとKIKKUN-MK-IIが後ろのスクリーンにFB777が映りこんで笑いが起きているのか? と不思議がったりする場面も。生で観ていたときはどうしたのだろうと思ったが、後になって思う。KIKKUN-MK-IIはこの後に予定している告知が胸にあり、より一層感極まっていたのかもしれない。

最後は「We are MSSP!」で締め。皆で「MSSP!」と声を張り上げる一体感の楽しさ! しかもアルバムでは歌っていないのに、あろまほっととeoheohがソロを歌うサプライズも! このときの会場の興奮はすごかった。

盛り上がりが最高潮に達したところでオーディエンスの頭上に降る銀に輝く色とりどりのテープ。これが射出される瞬間、いったいどこから出てくるのか見たいと思っていたのにやはり見逃してしまったなぁ。そりゃあそうだ。アンコールラストで天井を見つめているわけにはいかないのだから。

そうして公演は終了。と思いきや。誰もいなくなったステージの上に掲げられたスクリーンに映る文字。何と二月にアルバム発売! さらに、武道館公演決定の発表が!! 

びっくりした。すごいな。すごいな!? 成長していく様子を目の当たりにする楽しさ、とさきに書いたが、まさか武道館公演が発表されるとは思いもよらなかった。KIKKUN-MK-IIは今日ずっと、このことが胸にあったのだろうなぁ。そりゃあもう、いつまでもいつまでも感謝を語りたくなるだろう。

会場を包むどよめきと熱狂は、明らかに前回のライブとは違う性質のものだった。泣いている人もそこかしこで見られた。あぁ、良かったなぁ。長く応援してきた人は特にたまらないものだろう。だって武道館だぜ。すごいよなぁ。

楽しくありつつも、唯一布団を取り込むためにペンライトを持っての参戦が出来なかったことが心残りだったので、終演後にようやく購入した。次回の発表がされているので使いどころの予定があるのも嬉しい。次こそはこれを振ってやるぞ! と意気込んで。

余談だが、前回あんなに恐ろしく映ったあろまほっとが今回全然怖くなかった。何故だろうと考えてみたのだが、前回はピンクのシャツという普段着に近い装いにも関わらず、般若面をつけてステージを楽しそうに動き回っている様が異様だったからではないか、と思う。対して今回は漫画「ドリフターズ」の島津豊久を連想される赤と黒の衣装で、般若面と衣装のギャップが無く、しっくりきているのである。そしてeoheohと揃ったカチッと決まった動き。そのあたりが印象を左右したのかもしれない。


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2016年8月7日(日) 緑茶カウント:6杯

食べ過ぎてぼーっとしている。

昨日の昼からずっと冷麺を食べたかった。しかし冷麺を食べるのは難しい。ラーメンが食べたければラーメン屋に入れば良く、うどんを食べたければうどん屋に入れば良く、蕎麦を食べたければ蕎麦屋の暖簾をくぐれば良い。しかし冷麺を食べたくても冷麺のみを供してくれる店はなく、焼肉屋に入るか自分で拵えるかのどちらかしか選択肢がないのである。

暑かった。日差しがカンカン照りだった。
嫌だった。蒸し風呂のような台所で熱湯を沸かすのは。
そして焼肉屋は閉まっていた。時刻は午後の二時。半端な時間だったのである。

厳しい日差しの中をうろうろし、ようやく観念してつけ麺屋の暖簾をくぐった。味玉をトッピングしたつけ麺はうまかった。しかし、満たされなかった。

そうして満たされなかった昼。夜になるとさらに執着が増し、コンビニを回るも何故か冷麺は品切れ。いっそ焼肉屋に入ろうかと思うも焼肉屋に入ったら焼肉を食べたくなる。時刻は二十三時過ぎ。そこまでがっつり食べたいわけではない。

結局己はろくに夕飯を摂らずに寝て、昼過ぎに起きた。未だ冷麺への執着は消えなかった。こうなればもう自炊するしかない。どうせピクルスのストックも切れているのである。常備菜も作っておきたい。せっかく台所に立つのなら一気に作ってしまえば良い。

勢いに乗じてピクルス、ピーマンとツナの和え物、きゅうりの和え物、豚汁、おにぎりを作り、野菜を刻み、ゆで卵を切り、キムチをスタンバイさせて熱湯に麺をくぐらせた。勢いがあった。とにかく勢いがあった。勢いがあったから二人前の冷麺を作った。だって空腹だったのだ。昨日の昼から渇望していたのだ。いけると思ったのだ。だって勢いがあったから!

丼にこんもりと盛り付けられた冷麺は美しかった。ハム、きゅうり、トマト、キムチの彩が食欲をそそる。早速箸をつけた。食べた。食べている間に思った。一人前で良かったな、と。だってさ、冷麺って固いから。よく噛むから。噛んでいる間に満腹中枢が刺激されるんだよね。

とはいえ食べすぎに感じるのも一時的なものだろう、しばらくすれば落ち着くはずだ、と思ったものの、空きっ腹に詰め込んだ冷麺はなかなか重く、消化のために胃袋に多量の血液が集まっているのか、食後ずーっとぼーっとしていて、何だか眠くなってきて、あぁ、このまま布団に入って本を読みながらうつらうつらするのも悪くないかもしれない、と思い始めている。

そんな日曜の夜である。



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2016年7月24日(日) 緑茶カウント:6杯

たかだか一時間と少し歩いた程度で筋肉痛に見舞われるあたり、運動不足がたたっているなぁと思う。

と、言うと巷で流行りのポケモンGOを始めたのかと思う人もいるかもしれないが、ポケモンGOに関係なくただなんとなく散歩を始めた結果、見事に道に迷い彷徨うはめになったのが実際だ。己は天王洲アイル駅で潮の香りを嗅いでいた。何でこんなところに着いてしまったのだろうと思いながら。

散歩の最中、いくつかの川を渡ったが、あるときから川が川ではなくなり、海水のにおいを感じるに至って己が見当違いの方角を歩いていることに気付いたのである。己が住まう場所に海はない。ついでに言うと川もない。いったいここはどこなんだ、と若干不安を抱きつつあったが焦ってはいなかった。大丈夫。ここは東京である。どこに行ったって必ずどこかの駅に辿り着くのだ。安心して彷徨うことができる土地なのである。

そうして己はモノレールに乗って浜松町へと向かった。モノレールは好きだ。普段は用事があってモノレールに乗るが、今回は純粋にモノレールを楽しみながら乗ることが出来て少し嬉しかった。何と言ってもこの先に何の用事も目的もない。気楽だなぁ、と思う。

疲労した体を座席に埋め、車窓を眺めながらひそかに笑う。こんなに歩いて移動したのにポケモン一匹捕まえられないなんて、なんて愉快なんだろう。今まで散歩をしながらそこに損を感じたことなどなかったのに、ポケモンGOが配信されたとたん、ポケモンGOをプレイしていない自分まで、散歩の目的に「ポケモン」の存在を意識してしまうのだ。この意識の変化が楽しい。

ガラケーユーザーの自分には見えないが、きっと己が歩いた道々にもたくさんのポケモンが潜んでいたのだろう。小学生の頃夢中になり、必死に捕まえ育てたモンスターが潜んでいるかもしれない世界を三十手前の自分は歩いている。彼らの気配を感じながら歩いている。

見えないのに、いる。二十年の月日を経て、彼らは電子の世界を抜け出し、妖怪に近付いたのかもしれない。



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2016年5月13日(金) 緑茶カウント:6杯

膝の上に乗る一つの重みは頭脳の重みである。いわゆるところの膝枕を己は他者に提供していて、その他者は膝の上で苦しそうにうめいているので、背中やら肩やら頭やらを撫でさすりながらただ静かに座っていたのであった。

そういえば他者に膝を提供したのはこれが生まれて初めてのことであるなぁ、と思いつつ髪を撫でる。撫でられる人は完全に酔っ払っていて、道路で寝ようとしているところを何とか説得して、結果己の膝に納まったのだ。提供したわけではなかったが自然その人は頭を預けてきたので供した結果その人の吐瀉物を処理するに至ったのだが、近しい人であれば意外と抵抗ないものだなぁということを発見した次第であった。

思えば七、八年ほど前には急性アルコール中毒に陥った友人の吐瀉物が服に塗れたなぁ。人生のうち何回かはこういうことがあるのだろう。そうして今日こそが二回目なのだろうなぁ、と思いながら洗濯をしたのであった。



日記録6杯, M.S.SProject, Thunder You Poison Viper, アルバム感想, ケラリーノ・サンドロヴィッチ, 日常, 町田康

2016年2月11日(木) 緑茶カウント:6杯

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このサイトを始めて今日で十三年。早いものである。やっていることは少しずつ変わっているものの、基本的にはずっと日記を書いている。恐らくこのまま二十年三十年と過ぎていくのだろう。素敵じゃん。

さて、個人的に記念日である今日は何をするかと考えて、せっかくなので買いためていたCDをゆったり聴いて過ごすことにした。

「心のユニット」(町田康&佐藤タイジ)
「M.S.S Phantom」(M.S.S Project)
「Broun,White&Black」(KERA)
「Impromptu」(Thunder You Poison Viper)

いつになく横文字が多くて書き写すのに苦労した。そういう意味では珍しいラインナップである。

今日はイヤホンを使わず、部屋に音楽を流してリラックスしながら音を楽しむことにした。イヤホンは細かい音まで聴き取れるが、どうしてもコードによって行動が制限される。しかもコードがそんなに長くないのでまさに繋がれた犬状態。これはこれで楽しいが、今日は足を伸ばしてくつろぎたい。

というわけで緑茶を片手にこたつでだらだらしながらたまにパソコンに向かっている。楽しい。


■「心のユニット」(町田康&佐藤タイジ)
中古屋で手に入れた廃盤のアルバム。とにかく町田康の音源が欲しくて入手した。この二人がユニットを組むに至った経緯や曲調、事前情報を知らないままディスクを音楽再生機器に入れたら三曲しか表示されなくて驚いた。さらに、再生するとやけに穏やかな曲が流れてきて驚いた。

しかし曲調が穏やかとはいえ詩も同じとは限らない。「空にダイブ」の「ああ、空にダイブをしたらやばいかな」という歌詞には怖さがある。連想したのは町田康の短編「ゴランノスポン」の、惨めでぐっちゃぐちゃな現実の中あくまでも物事を前向きに捉えようとする若者の薄ら寒いポジティブさと、ポジティブを維持しきれなくなり爆発する悲惨さ。

そして三曲目の「光」もよくよく歌詞を読むと前向きでも何でもなかった。町田康はポジティブで前向きな言葉を並べて、地を這うようなどうにもならない絶望感を描写する名手である。

このCDは三曲で一つの物語が構成されていた。やるせない物語だった。

余談だが、CDケースを開けたらCD購入者のみが見られる特別映像のURL・ID・パスワードが書かれた小さなカードが入っていた。アクセス有効期間は2002年までだった。歯噛みした。だが、救いもあった。カードの下には「このカードはしおりとしてご使用ください」とも書かれていたのである。ありがとう、そうするよ。


■「M.S.S Phantom」(M.S.S Project)
ライブに行ってから何度もアニメイトに足を運んだものの、ずっと売り切れていて買えなかったアルバムをようやく入手した。一番の目当ては「KIKKUNのテーマ」である。あれはとても楽しかった!

アルバム裏面を見ると初音ミクがボーカル扱いになっているのが面白い。楽器ではなく、あくまでもボーカリストなのだな。

ボーカロイドを使用した音楽を己はあまり聴いたことがない。故に耳慣れないせいだろう、歌詞が歌われている認識はあるのに、言葉が音に分解されて、歌のある曲でありながらインストゥルメンタルとして耳が捉えていることがある。流石に何度も繰り返し聴くと初音ミクが初音ミクとして己の中で確立されてそのような効果はなくなるので、そういった楽しみが出来るのは最初のうちだけなのだが。

「THE BLUE」や「CELESTIAL」のような、初音ミクが人間を超えた早口で歌う曲は、言葉が音に融解していて、その声か音かわからなくなりかける音の妙を楽しむのが気持ち良い。

目当ての「KIKKUNのテーマ」は衝撃的だった。アルバムを始めから通して聴くといきなりポップな曲が始まり、その曲調の変わりようもびっくりだが、「きっくん! きっくん!」って、声、入ってないんだな! てっきりCDには声が入っていて、ライブではファンがその部分を歌う構成になっているのかと思っていたのだが……。ちゃんと「きっくん! きっくん!」って聴こえるのが面白い。

「We are MSSP!」について。初音ミクのボーカルを続けて聴いた後、最後に人間の歌声が始まったので変に新鮮味を感じてしまった。歌声の初々しさが可愛らしい。


■「Broun,White&Black」(KERA)
ケラさんによるジャズアルバム。ジャズ! 縁の遠い音楽である。無論「ジャズ」という音楽がこの世にあることはよくよく知っているが、ではジャズとはどのような音楽か、と問われると何も説明できない。何も説明できないが、聴いてみたくなったので欲望のまま購入した。

CDケースを開けて、まずCDがどこにあるのかわからなくて困惑した。パタパタッと三面鏡のような形に開かれた三面全てにケラさんの顔、顔、顔。あれCDはどこ? って思ったら側面に口が開いていて右と左にCDと歌詞カードが封入されていた。安心した。

前述の通り己はジャズを全く知らないということもあり、このアルバムは有名なジャズのカバーアルバムなのかな、と思っていたのだが、作詞作曲を見るとケラさんオリジナルらしき曲と、カバーの両方があるようだ。

そうしてわくわくしながら再生ボタンを押すと、「あぁ、こういう音楽か!」とジャズがわからないなりに納得した。イントロからグッと来て、これはツボだ! 大好きなやつだ! と直感し的中したのが「学生時代」。こういう音楽をどこかで聴くたび、好みだなと感じていたのだが、これが何なのかわからなかったんだ。これか!!

ケラさんの歌声がまた良いのだなぁ。この明るく跳ねながら走り抜けるような声。喜びと悲しみが同居しているような。笑いながら涙が滲んでいるような声が好きだ。鼻の奥がジンと痛くなるんだ。

「半ダースの夢」「学生時代」「復興の歌」「地図と領土」が好き。二周目は歌詞カードをじっくり見ながら聴いてみよう。


■「Impromptu」(Thunder You Poison Viper)
ベーシスト内田雄一郎・ピアニスト三柴理、ドラマー長谷川浩二によるピアノトリオによる、オフィシャルブートレグ、ということで公式海賊盤。アルバムに詳細が書かれていないのだが、ライブ演奏と、ライブでの即興演奏を音源化したもののようである。ジャケットの内側には文字と絵による設計図が載っていて、その図をもとに即興で演奏された曲が二つ入っている。……ただ、歓声や拍手の音が入っていなかったら、ライブ音源とは気付かないんじゃないか、これ。

音楽を聴き始めた頃は「演奏」にほとんど注目しておらず、歌ありき、もっと言えば歌詞ありきで聴いていたので、インストゥルメンタルには興味がなかったものだが、いつの間にか楽器の音を一つ一つ追いかけたりするようになって、インストゥルメンタルも大好きになった。サンダーユーも大好物である。大好物だが、音楽に関する知識がないので「すごい」「かっこいい」「めっちゃ好き」といった、小学生の作文めいた言葉しか出てこない。無念である。ただただ思うのは、集まるべくして集まったのだな、ということだ。

他三枚のアルバムもそうなのだが、特に「Impromptu」はイヤホンを使ってがっつり聴くべきだと思った。細かな音まで追いかけたい。


四枚のアルバムを聴きながら六杯の緑茶を飲んだ。特に何をするでもなく、音楽を聴きつつ、思ったことをたまにタカタカ書く穏やかな時間。なかなか贅沢な休日の過ごし方ができて嬉しい。歌詞カードとにらめっこをしながら、一曲一曲をしつこく聴き込むという楽しみがまだ残っているのも良い。実に気持ちの良い一日だった。