2014年2月21日(金) 緑茶カウント:0杯
黒い鞄の一面どころか全面に、等間隔で配置された銀の鋲。それを持つ人はパンクスでは無く、非常にラフな格好をした、三十代前半あたりの成人男性だった。髪型も特筆すべきところは無く、耳が隠れる程度の長さの黒。体型は中肉中背の「肉」が若干標準を越えたあたり。ピアス穴は無く、指出しグローブもしておらず、靴はスニーカー。鞄だけがトゲトゲに光っているのである。
最初にその人、いや、その鞄を見たのは階段を上っているときだった。自分の前を歩くその人が手に提げる鞄がちょうど目の前にあり、まず、変わったデザインの鞄だなと思い、踏んだら痛そうだと思い、次にどういう経緯でこの鞄を購入したのだろうと疑問を抱き、それからたびたびその鞄、いや、鞄を提げて歩く人と遭遇し、心の中でひっそりと「鋲付き鞄の君」と呼ぶようになった。
鋲付き鞄の君はいつも自分の前方を歩いているので、きっと己の存在には気付いていない。それがまた、ひそかに楽しい。最近は鞄を見ると嬉しさすら感じる。一方的な愛着を抱いている。いつまでも鞄を買い換えないで欲しいと願っている。