「20×5=100 LIVE」第三公演目に行ってきた。今回の楽器はピアノで、奏者は枕本トクロウさん。水戸さん曰くゲーム仲間であり、何かの後輩にあたる人らしい。澄田さん、ワジーに比べると元気いっぱい! という感じの人で、MCでの話し方もまるで「はい!」と挙手して話すような、勢いのある人だった。
楽器がピアノということで本日はバラード中心。計五日間の公演の中でもちょっと特殊なものになるとのこと。ただ、最初からしっとりと落ち着いてばかりではお客さんが死んでしまうので最初はノリノリなものから始まった。そして中盤からしっとり系が続き、その総まとめとして歌われたのが「ジョンのうた」。もし百曲の中に含まれるなら今日だろうと予測はしており、聴きたいとも思っていたが、やはりつらい。
「ジョンのうた」はアル中の父親から逃げるため、母と子が必要最低限の荷物を持って家を出るところから物語が始まる。子供は犬のジョンを飼っていたが、連れて行くことが出来ず父親のもとに置き去りに。酒びたりの父親は当然犬の世話などせず、子供がたまに目を盗んでジョンの様子を見に行くと犬小屋はひどい有様。うんちまみれになっているのに、子供の姿を見ると尻尾を振って喜ぶジョン、でも連れていくことは出来ない。そしてある日ジョンは父親によって保健所に連れて行かれ、そのことを知った母と子は急いで保健所に駆けつけたが既にジョンは処分された後だった。
迫力を感じるとともに、心臓を直に掴まれてぎゅうっと引っ張られるような歌だ。この迫力を是非その身に感じたいが、しんどい曲なのでなるべく聴きたくないのも本音。歌う水戸さんはもちろん、聴き手にも体力がいる歌だ。
またピアノの演奏が悲しさに拍車をかけるんだよなぁ………。
水戸さんの歌う「どうにもならない」と「やるせない」悲しい感情が、わかりやすく、それでいて共感しやすい形で集約されている歌だと思う。これはちょっとずるい。ひどい。ライブが終わって何時間も経つのに、あのジョンの悲しく吼える声が今も脳に木霊する。引きずられるなぁ。
そして今日ライブの帰り道にふと思ったのだが、既に処分された後と知ったとき、母親の方は内心ほっとしたんじゃないかなぁ。例え生きていたとしても飼うことは出来ない、里親のあてがあるなら放置せずに済んだだろう、と思ったら。
あと、「処分ってなに?」と子供は母に尋ね、「遠くのお山に放してあげたのよ」という答えをもらうが、………「処分」という言葉は理解出来なくても、死んでしまったことはわかったんだろうな、と思うんだ。あぁ、だめだあまり「ジョンのう」たについてばかり考えない方が良い。せっかく楽しかったのに落ち込んでしまうじゃないか。
あちこちで聞こえる啜り泣き。しんみりとした空気の中で、水戸さんがこれからノリノリの曲をやる、と言いつつ、いくらなんでもこの状態じゃ感情がついていかないだろうから、と前置きして正月に温泉に行った話に。普段は空いているその温泉も正月は流石に混んでいて、聞き耳を立てていたわけでは無かったが近くにいた男性二人組みの話が聞こえてきたそうだ。二人はパワースポットなどのスピリチュアルな話をしていたが、会話の流れでカップルだったことが発覚、不意を突かれてびっくりする水戸さん、さらに驚くべきことはその温泉、実はゲイが集まる有名スポットだったそうな。
脱衣所のところに『携帯電話を出していたら盗撮と見なします』といった、他の温泉施設ではまず見たことの無い貼紙があり、「男風呂の脱衣所で盗撮………?」と違和感を抱いていたそうで、真相を知って納得したらしい。そして「でも良いお湯だからまた行くけどね」と朗らかに締めくくり、恋愛繋がりで客いじりの定番曲「ふたりは」に! この曲では水戸さんが歌いながら客席を練り歩いて手を握ったりしてくれるのである。今回自分はちょうど良い席に座っていたので、運良く頬を撫でてもらった。嬉しかったが「ジョンのうた」で泣いた直後だったので若干恥ずかしかった。
他、今回の目玉は「天国ロック」と「ラブソング」だろうか。「天国ロック」はCD発売以来ずっと存在を忘れていた曲で今日は二十数年ぶりの演奏だったらしい。水戸さん曰く、「オチが無いのでライブではやりづらい」らしい。「でくのぼう」だったら「で、で、でくのぼー!」と皆で盛り上がることができるが、「ててててんごく~?」と自己完結してしまうので、中盤で盛り上がったテンションを爆発させることが出来ず、扱いに困るらしい。
「ラブソング」は「でくのぼう」の別歌詞バージョン。何かのおまけでカセットに入れて出したらしい。普段のライブなら、「これをやるならでくのぼうをやってくれよ……」という空気になることが予測されるので出来ないが、今日みたいな「濃い人達」ばかりが集まっているライブなら出来るとのこと。「で、で、でくのぼー!」の合いの手が「ラブ・ラブ・ラブソーング!」に変わり、もちろん他の部分の歌詞もまるっきり「でくのぼう」とは違うもので、すごく新鮮で面白かった。
そうだ。「サカナ」は当時すごく嫌なことがあって、そのネガティブな思いがはっきり表れていると水戸さんが言っていた。水戸さん曰く、珍しいくらい暗い歌、とのことだった。
最後のアンコールは前回前々回と同じく、二十面あるサイコロを振り、本日の曲順から選ぶ方式。サイコロを振る前に水戸さんが「二十番目が出るのが最悪だけど、ジョンのうたが出ても辛いな。今回は地雷が多い」といった内容を喋り、カップに入れてサイコロをかき混ぜ、さぁ、丁か! 半か! という勢いで数字を見ると………十三番。
十三曲目、ジョンのうた。
流石に振り直しというか、ちょっとサイコロに衝撃を与えることになった。水戸さんは自分に課したルールを破ることに抵抗があったようだが、恐らく観客も全員振り直しを望んでいたことだと思う。枕本さんはルールを破ることに対し、「いやいやそれはだめでしょう」とばかりに不服な態度を見せていたが、そしてそれも水戸さんを困らせるための演技だとわかってはいたが、「ジョンのうた」は良い曲だが、一日に二度聴くのはつらい。
振り直しの結果サイコロが選んだのは「電波塔の丘」。本編では寂しさが強調されていたが、アンコールは楽しく終わりたい、ということで水戸さんが枕本さんに楽しい曲調にリクエスト。もし振り直しをしなかったら「ジョンのうた」もちょっと楽しい感じになったのだろうか。いやそれは………無理か。
そういえばどの歌か忘れてしまったのだが、枕本さんがノリノリ系の曲でピアノから立ち上がり、まるで地団太を踏むように、バンバンバンバン激しく床を踏み鳴らしてリズムをとっていたのだが何だかすごく面白かった。ピアノというと落ち着いて着座して弾くイメージが強いのだが、何でもありなんだな。