未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

いつか遠足三部作をライブで観てみたいものだとぼんやり夢見ていた自分に教えたい。2017年にその夢が叶うよ、と。
そのうえで思う。あぁ、まさか2017年に、猫のテブクロのライブが観られるなんて、と。

完全再現と言うことで、トレードマークの金髪を黒く染めた橘高さん。今では度の合わなくなった円いサングラスをかけた内田さん。白の手袋を指にはめ、神父を彷彿とさせるかつての衣装に身を包んだオーケン。しかし当時そのままではない。内田さんの髪はまっすぐに伸び、オーケンは短くも美しい銀髪だ。橘高さんは炭水化物の制限を自身に課して頑張っている。発売から二十八年の月日が経ち、メンバーは年齢と経験を重ねた。そしてこの会場にはかつてを知る人と、知らない人が集まって皆一様にステージを見つめている。

「猫のテブクロ」はエディの脱退によりツインギターバンドとなった筋肉少女帯のデビュー作とも言える代物で、カバー以外のほとんどを内田さんが作曲した筋少の中でも異色のアルバムである。新たな筋少として活動を進めるうえでの試行錯誤がこの一枚に詰まっていることが感じられ、その試行錯誤を乗り越えた結果が今の筋肉少女帯である。そしてそれを体言するかのように、一曲目から怒涛のメタル「イワンのばか」に始まり、カーネーション・リインカーネーションに繋がる攻めの姿勢!

あぁ、やはり今は1989年ではない、2017年なのだ!! ますます嬉しくなって噛み締めてしまう。

MCの後のブロックでは意外なところで「みんなの歌」と「吉原炎上」。「吉原炎上」がここで聴けたのは嬉しい。最近の曲だがともすれば忘れられているのではないか、と危惧していたところである。これの「女衒も天仰ぐ」ってところの歌い方がたまらなく好きなんだよなぁ。

「吉原炎上」の後、橘高さんがボーカルをとる宣言をし、オーケンがステージからはけていく。とすると、「おわかりいただけただろうか」か「小さな恋のメロディ」かな……と予想を立てつつ見守っていると、予想だにせぬ一曲が始まり歓声と奇声が湧き起こった。

まさかの「俺の罪」である。橘高さんが。あのメタルの橘高さんが、俺の罪!!

しかも! 内田さんパートにて、内田さんが「歌うよ歌うよ~」とアピールしていたら……下手から聴こえる声! 驚くそぶりを見せる内田さんの視線の先には……マイクを握り分厚いボーカルを響かせるおいちゃん!!

これはびっくりした。とてもびっくりした。そして面白かった……。あの「俺の罪」の歌詞を歌う橘高さんは実にキュートであった……ギャップがあるだけに破壊力がすごかった。

ちなみにこの後、「俺の罪」の歌詞が大好きな長谷川さんにオーケンが「大槻内田版と橘高本城版……どっちが……」と問いかけるシーンがあった。長谷川さんは恐らく「どっちが好き?」といった質問が来ることを予想していたのだろう。ところが、来たのは「どっちの方が罪深い?」という質問で、長谷川さんはずっこけるようなそぶりをし、ドラムスティックで上手と下手を指し、橘高さんが喜び、「喜ぶんだ!?」とオーケンが驚いたのであった。

ステージに戻ってきたオーケンは白手袋をはめ、かつての衣装に身を包んでいた。そしてオーケンにより「猫のテブクロ」部分がこれより始まることが宣言されたのである。部分。部分。

まずは「星と黒ネコ」。短いながらも存在感のある一曲だ。
静かなアコースティックギターの調べに息を呑んでいると、持ち出されるは拡声器。

今までに何度となくライブで耳にした「これでいいのだ」は、初めて観る「これでいいのだ」だった。近年タオル回し曲としての役割を担っている「これでいいのだ」。間奏部分ではコールアンドレスポンスでガンガンにボルテージを上げていくのが常である。それは間違いなく楽しいが、「これでいいのだ」という楽曲が持つ物語性が失われてきたことも事実であった。あの冤罪で収監された男が、やるせなさの中で自問自答をし、ようやく「だがしかし」まで辿り着く。

自分はもしかしたら、初めて本当の「これでいいのだ」を観たのかもしれない。間奏で設置されたキーボードを、背を丸めて弾く内田さんの横で詩を読み上げるオーケンの声。それはかつてのライブ映像で観た景色に似ていて、あぁ、これを今観られるのか、と改めて感慨深く思った。嬉しかった。

「星の夜のボート」にじっくりと耳を傾け、待ちわびた遠足三部作! あぁ、これを聴けるなんて、聴けるなんて思わなかったなぁ! 「最期の遠足」を初めてライブで観たのは「どこへでも行ける切手」の初期曲限定ライブだったと思う。しかしあれはDVDに収録されなかったのだ。今改めてこの場で観られるのが実に嬉しい。あの攻撃的なギターの音色とブラックな歌詞の組み合わせがたまらない。

「月とテブクロ」の静かに展開して爆発する感じはこのアルバムの総括としてふさわしい。「黒ネコの爪を折る」の箇所ではオーケンの癖が強く出ていて、そこだけが少し気になった。

しっとり終わったかと思えばここからまた「週替わりの奇跡の神話」「くるくる少女」「釈迦」と続いてぎゅんぎゅん詰めの中盛り上がり、本編ラストは「愛の讃歌」。ここでオーケン、歌いながらオーディエンスの方に手を伸ばして握手をしてくれるのだが……このとき、手を伸ばしたら、指先と指先が触れた。指先と、指先が、触れた。

瞬間、そのわずかな接触から電撃と歓喜が走りぬけ、心臓がBPM180を記録し、恋に落ちる錯覚をしそうになった。嬉しかった。嬉しかった!!

さらにアンコール一曲目はまさかの「詩人オウムの世界」。「猫のテブクロ」完全再現だけでも嬉しいのに、これをやってくれるなんて! この曲の情景描写の美しさがたまらなく好きで、紫の蝶が空を覆い尽くす妖しさに何度魅せられたことだろうか。ここでもしっかり語ってくれてもうありがたいったら。

面白かったのは「犬はワンワンと吠え、猫はニャーニャーと鳴き」の箇所で、「猫はワンワンと吠え」と言い間違えたオーケンが、「あれ?」と一瞬不思議そうな表情を見せ、次に何の動物の名前を出せば良いか迷っていた場面である。結果、猫は二回登場した。

最後はサンフランシスコで締め。MCでは、アルバム一曲続けてやると昔のことを思い出すね、と昔話に花を咲かせたり、不意に声をかけられた内田さんが「アタシ」という一人称を使ったところ、オーケンが「二十年来の幼馴染の一人称が変わる瞬間!」とびっくりして、その後何かにつけては「アタシ」「アタシ」と自ら称してネタにしていた場面もあった。

興味深かったのは橘高さんが金髪にしたのはオーケンの言葉がきっかけだったこと。「橘高君金髪似合うんじゃない?」とオーケンに言われた橘高さんは、当時バンドに入ったばかりだったので、バンドリーダーがそう言うなら、と金髪にしたのだと言う。無論それは要素の一つであり、ずっと金髪にこだわり続けたのには他の思いもあってのことだと思うが、あの橘高さんの美しい金髪はそうして生まれたのか、としみじみしたのも事実である。オーケンがその発言を覚えていないのもまた良いな、と思った。

あぁ、それにしても。この楽しいライブを明後日また観られるなんて。今回はチケットの整理番号が九十番台だったのでかなり前の方に行けたので、次回はちょっと後ろに下がって観てみようか。と言いつつ、また前に突っ込んでしまうかもしれないが。ふふふ。



イワンのばか
カーネーション・リインカーネーション

みんなの歌
吉原炎上

俺の罪(橘高さん・おいちゃんボーカルver)

星と黒ネコ
これでいいのだ
日本印度化計画

星の夜のボート

Picnic at Fire Mountain 〜Dream on James, You’re Winning〜
Go! Go! Go! Hiking Bus 〜Casino Royale〜, 〜The Longest Day〜
最期の遠足

月とテブクロ

週替わりの奇跡の神話
くるくる少女

釈迦
愛の讃歌

~アンコール~
詩人オウムの世界
サンフランシスコ


未分類0杯, 水戸華之介, 非日常

ゲストの個性により色合いを変える100曲ライブ、中でも異色を放つのが今夜だろう。アコースティックバー「七面鳥」に響き渡るはギターでもピアノでもなく、規則正しい電子音楽と歪んだテルミン、そしてカズー。開演前、しらじらとした誰もいないステージに青い闇が緞帳の如く下りてきて、開演を告げるSEが流れてきたかと思えば耳慣れない電子音、これはもしやと思えば予想のとおり、既に曲は始まっていたらしい。音楽と共に和風テイストの白シャツの水戸さんと、真っ赤なシャツに黒のネクタイを締めた内田さんがステージに現れ、これはいったい何の曲だろうとまるでイントロクイズをするかのように音を探れば正体が見えてくる。「どてかぼちゃ」だ!

そして今夜のセットリストはこちら。とはいえ、「与作」あたりの記憶が曖昧で自信がない。


どてかぼちゃ
できそこなった

人間ワッショイ!
情熱の空手チョップ

クレヨンロケット
I NEED YOU
31のブルース

与作
待ってるのに
ガード下の情景

そういうメルヘン
サカナ
星になるのか

セクシャルバイオレットNo.1
Romanticが止まらない
アストロボーイ・アストロガール

100万$よりもっとの夜景
ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル
そこで何かが

~アンコール~
偶然にも明るい方へ

~ダブルアンコール~
どてかぼちゃ


去年の100曲ライブのセットリストと見比べてみると被るところも多い。(リンク先は水戸さんの公式ブログ「地球日記」。)新しく追加されたのは「クレヨンロケット」「セクシャルバイオレットNo.1」「100万$よりもっとの夜景」「そこで何かが」の四曲だ。ただ大きな変化がないわりに、去年よりもキャッチーでノリやすかった印象がある。

昨年の100曲ライブを思い返してみれば、何度も何度も繰り返し聴いた水戸さんの音楽が奏でられているはずなのに、歌が始まるまで何の曲なのか見当がつかず、知っているのに知らない、わかるはずなのにわからない、そんな不思議な感覚を味わっていた。しかし今年も探り探りではあったにせよ、この混乱が少なかったのは内田さんのスタイルに慣れたからかもしれない。何てったってついこの間、筋肉少女帯を容赦なくアレンジしたものすごいアルバムを聴いたばかりなのだ。あの自由なアレンジも好きだが、原曲のメロディが維持されているだけ水戸さんの曲のアレンジの方が聴きやすいのも事実である。

また、去年と同じ曲でもさらにアレンジが施されているものもあるそうなので、その効果も大きいだろう。よって二年目の今夜は、心構えができていて楽しみ方がわかっている状態だった。何も知らないところにブチかまされる感覚も愉快だが、この安心感も心地良い。そうして安心できるったって、やはり何が来るかは始まってもなかなかわからないのだ!

オーディエンスも探り探りだが歌う水戸さんも手探りのようで、その場の空気や勢いではなく、既に構成された音楽に合わせて歌い盛り上げる様子はやはり普段と違う印象を受ける。いつものように飛んだり跳ねたり派手に動き回りつつ、細部に注意深さを感じさせられた。妙な言い方をすれば、機械の様子を伺っている、というような。

爆発したのが中盤あたりか。あるブロックで水戸さんが起立を促し、オーディエンスが全員その場に立つ。そして水戸さんによる「絶対に盛り上がる一曲を」という前置きの後始まったのが「セクシャルバイオレットNo.1」!

ただし! 一言もの申したい!!

ワジー回の100曲ライブでブルーハーツの「情熱の薔薇」が歌われたときにも思ったことだ。確かに世間で人気がある有名曲はそれらかもしれない。だが自分は水戸さんの歌と声と歌詞と曲が好きでここに来ているのであって、「情熱の薔薇」や「セクシャルバイオレットNo.1」が世間でいかに人気だろうとも、水戸さんによるその歌唱を聴けるのが嬉しかろうとも、水戸さんの曲以上にそれらを聴けて嬉しい! 盛り上がる!! ということはないのだと!! 水戸さんの!! 曲が! 好きなんです!!!!

ちょっとした自虐ネタかもしれないが、水戸さんがそうやって紹介してカバーを歌うとき、己は何とも言えないやりきれなさと寂しさを感じる。あぁ、この気持ちをどうしたら良いのか! ……と思ったのでとりあえずここに書いた。

その後での「アストロボーイ・アストロガール」の楽しさったら。待ってた! これを待ってた! やったー立って聴ける嬉しい楽しい!! と大喜びしながら拳を振り上げた。

特に格好良かったのは「クレヨンロケット」「そこで何かが」「偶然にも明るい方へ」。中でも「そこで何かが」の壮大さは素晴らしく、原曲をさらに膨らませたかのような世界観が広がっていた。いつもの100曲ライブであれば、本編終了後も水戸さん達はステージに残り、いない体でアンコールを要求し、ステージに上がって来た体でアンコールが始まるのがお決まりだが、今回ばかりは普段どおりではギャグになってしまい曲の余韻を損なうため、水戸さん達は楽屋の方へと去って行った。

水戸さんは100曲ライブを越えて内田さんとテクノユニットで活動したいそうで、今ユニット名を考えているらしい。候補としては「ハクビシン○○」や「けっこうマシーン」が出てきていて、「○○マシーン」が今のところ有力だそうである。あとはその○○部分を考えなければいけないそうだ。

ちなみに何故ハクビシンなのかと言えば、MCによるとどうやら内田さんの家にハクビシンが出るらしい。内田さんのおじいさんが建てた家は古い物が山となって地層を築き、庭は水戸さん曰くジブリの森のようになっていて、沼があるわけでもないのに湿度が保たれているそうだ。そのため雨が降ると蛙が出るらしく、内田さんが「水場もないのにいったいどこに」と不思議がっていた。

また、トークのお題が書かれたカードが用意され、水戸さんがカードをめくり内田さんに話題を振っていくという試みも。そこで子供の頃、家の外に締め出された話題に。内田さんはそういった経験はないのだが、水戸さんはあるとのこと。窓から外に出されたがそこにはサボテン棚があって、締め出された悲しさ云々ではなくサボテンの痛みによって声をあげる水戸さんに水戸さんのお母さんが不審がり、サボテンの存在を思い出してようやく救出された思い出があるそうな。よってサボテンの痛みが強烈で、何が原因で叱られたのかは覚えていないらしい。

同じくカードのお題で内田さんが怒らない話題に。水戸さんは内田さんがピリピリしたり、怒ったりしているところを見たことがないそうだ。そんな内田さんが唯一毒を見せるのがオーケンの話題で、オーケンの話をするときにニヤリと笑うことを水戸さんが楽しそうに話していた。あぁ、過去を思い返せば嬉しいことである。そんな風になれて良かったなぁ。

内田さんのテクノサウンドは、今度発売される水戸さんの新譜のプレミアムボックスにミニアルバムとしてついてくるらしく、それまでにはユニット名も決まるらしい。新しいことに対して意欲的な水戸さんと、打ち込みにはまる内田さん。この二人を100曲ライブ以外でも観られるのは嬉しいことだ。是非、対バンをしてもっと多くの人を驚かせて欲しい。あぁ、出来るならアンジーしか聴いたことのない人にも聴いて欲しい! だって、こんな面白いことやってるんだぜ!



未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常

雨の中、傘も差さずに駆け抜けて辿り着いたるは渋谷円山町LOFT9 Shibuya。息を整える間も惜しく、財布からチケットを取り出しながら中に入れば耳に聴こえるオーケンの歌う愛の賛歌。ぎっしりと敷き詰められた人々の後頭部の並ぶ先で、オーケンが一人ステージでギターの弾き語りをしている。開演から三十分過ぎていた。

再結成後の筋肉少女帯による「ファンクラブ的」イベントの記念すべき第一夜。運よくチケットが当たったものの都合により開演に間に合わず、故に途中からの参加となったことこそ惜しいが、今日来ることが出来て実に嬉しかった。聞くところによると自分が到着する前には昔の写真を公開するコーナーもあったそうだ。そしてその後にオーケン、おいちゃん、ふーみん、うっちーの順で一人ずつステージに立って歌とトークを聴かせてくれ、その時点で自分は入場したのだ。オーケンは愛の賛歌、おいちゃんは今度のツアー「猫のテブクロ」の猫にちなんで「お散歩ネコちゃん若き二人の恋結ぶ」、ふーみんは「僕の歌を総て君にやる」を熱唱し、うっちーはウクレレベースをベンベン爪弾きつつ「ベースで弾き語りは難しい」と語りながら「元祖高木ブー伝説」のさわりを弾き語ったかと思えば、袖から持ち出されるは愛用のパソコン! ボコーダーを駆使してテクノアレンジ版の「星の夜のボート」を聴かせてくれた。

オーケンの「愛の賛歌」は歌と歌の間に絶妙な「間」を入れることでオーディエンスの笑いを誘う。おいちゃんは「猫にちなんで」と話していたのでてっきりドルバッキーが来るかと思いきや始まったのは意外な一曲。これをライブで聴いたことはほとんど無いように思う。嬉しいなぁ。ふーみんは「筋肉少女帯の橘高文彦」に変身してはいなかったが、髪をくるくる巻き、目元にはサングラスがなく、遠目に見てナチュラルな印象で、これも一つのステージ用の姿であるはずなのだが、まるで普段着を見せてもらえているかのような不思議さがあった。

うっちーの演奏が終わった後、ステージにメンバー全員が集合する。並び順はいつもと同じで下手からおいちゃん、オーケン、うっちー、ふーみんだ。しばらく内田さんがテクノアレンジした筋少曲の話題で盛り上がり、「ドアーズらしい」との評を受けた「星の夜のボート」は仮歌の段階では「ドアーズ」というタイトルだったことが橘高さんによって明らかにされた。仮のタイトルが「ドアーズ」だったことを内田さんは覚えていなかったらしく、その眠った記憶があったからこのようなアレンジになったかもしれないと語られた。

また、オーケンが「筋肉少女帯でもこういうの作ってよ」と内田さんにリクエストして話が転がり、内田さんがテクノっぽく作ったデモをもとに、エディと長谷川さんがいつものようにガンガンバリバリドコドコピアノとドラムを入れまくって、結局いつもの筋少に戻ってしまうなんてどうだろう、といった笑い話も起こる。そこからさらに、内田さんが今回作ったテクノアレンジ版にメンバー各々が楽器を入れる話も出て、「じゃあ俺は内田のイワンのばかにギター入れるよ」「それじゃあ僕は、戦え!何を!?人生を!!に歌入れるよ」と橘高さんとオーケンが乗ってきて、アルバムをリリースするまでではないけど、そういったお遊びをファンクラブ的イベントでやるのも良いねという話になった。

そしてファンクラブ的イベントと言えば、ということでプレゼント大会! くじが入った箱にメンバーが手を突っ込み、読み上げられた番号が振られた半券を持つ人がプレゼントをもらえる、という素敵な企画である。まず筋肉少女帯関連の品物として、猫のテブクロ時代の靴下、ステッカー、物販Tシャツなどなど。その後にはメンバーの私物がプレゼント! 橘高さんからは歴代のピックに加えておまけでオーケンのピックが入ったセット、おいちゃんからは長年使った機材、オーケンからはポールスミスのカードケース、うっちーからは買ったときから壊れていたライトのようなもの。オーケンはプレゼントを用意し忘れていて、急遽普段使いのカードケースの中に入れていた診察券などを抜いてプレゼントとして出品してくれたそうだが、それこそいかにも「私物」であるのでファンにはたまらない品である。欲しかった。

そうして楽しくプレゼント大会は終わったが、プレゼントが当たらなかった人にもお土産にメンバーの写真をもらえるという嬉しい告知があり、わーもーありがたいなー嬉しいなーとニコニコしてしまったのであった。

それからしばらくトークが繰り広げられ、最後は歌と演奏で終了。「香菜、頭をよくしてあげよう」「少女の王国」から、「じーさんはいい塩梅」で締めくくり。ライブではいつもメンバーが楽器を置いてマイクを持って歌う「じーさんはいい塩梅」の生演奏はさりげなくレアである。終盤ではテンポアップするアレンジもあって、それがまた格好良かった。また別の機会にも聴きたいなぁ。

「ハイストレンジネス・チケットメンバーズ」はチケットの先行発売を名目にスタートした企画だが、今回のイベントで頻繁に出てきた「ファンクラブ」「ファンクラブ的なもの」という言葉から、もともと「ファンクラブ」というものが意識されていたことが窺い知れた。橘高さん曰く、ファンの希望やリクエストによって、今後システムも催しも企画も変化や発展があるかもしれないし、何もなければ企画そのものがなくなるかもしれないとのこと。まずはチケットの先行販売、そこから手探りで楽しいことを始めていこう、という前向きな姿勢にわくわくした。

いつか本当に「ファンクラブ的なもの」から「ファンクラブ」になったら良いな。そうなるように自分もファンとして関わっていきたい。帰路につきながらふわふわ思った。だってずっと筋少のファンクラブに入りたかったのだ。その願いが叶えられかけていて、叶えられそうで、嬉しい。



未分類6杯, M.S.SProject, 非日常

会場に着いて思ったことは、まるで祭りのようだなぁ、ということだった。

九段下駅から徒歩数分で辿り着く日本武道館。改札を出て歩を進めるにつれ、般若の面をキーホールダーの如くぶら下げた人や、メンバーのぬいぐるみや缶バッジをつけた人々が己と同じ方向へ進むさまが目に入るようになる。ここまでは良く見る光景だが、流れに乗ってさくさく歩いて門をくぐった先は普段と異なる様相だ。祭りのように人がごった返し、物販用のテントが連なる先には長蛇の列。テントには「物販の整理券の配布は終了しました」との文字があり、親類縁者関係者仕事先から贈られた花輪の数々の前にも人が集まっていて、拡声器を持った係員があちこちで誘導の声かけをしている。おおおおおお……!

あぁ、そうか、武道館ってのはただのライブではなく、祭りなのだ。祭りなのか! 見渡せばこれまでに観た二回のライブよりも年齢層が広いようで、自分と同年代、それ以上の方々も多く見受けられた。武道館という特別な会場でやるなら是非と意気込んで来た人、せっかくだから都合をつけてどうにか来たいと思った人、いろいろな人がこの場に集まったのだろう。武道館という地の特別さを感じた一シーンであった。

座席は二階席の南西エリアで、売店でコーラを購入してよいよいと席に着いた。荷物を置くのも一工夫いる狭さで、人が行き来するのも一苦労。この広い会場いっぱいに人がぎゅんぎゅんに詰められて、巨大な日の丸の旗の下に設えられたステージに注がれる熱視線の熱量たるや。前回の反省を踏まえ余裕を持って着席した自分は、コーラを傾けながら周囲の興奮に何とはなしに耳を傾けていた。

程なくして暗転し、歓声とともに灯がともるスクリーン。ファンタジーな装いの四人が映り、正体不明の魔王を退治するためにだらだらと旅に出る。途中eoheohがおかしなテンションになって、擬音を駆使してセグウェイに肩車で四人乗りする描写を声だけでしていて、そのテンションとセグウェイ四人乗りの異常さがおかしくてゲラゲラ笑った。

映像が終わるとM.S.S. Projectのメンバーが登場! さてついに! 前回の公演で購入したペンライトをここで振ろうじゃないか! 袋からは取り出してあり、電池も確認済み。動作も家で数度チェックした。よっしゃーペンライトを振るぞ! と思ったものの己の手は止まった。

四人、突出して目立っている人がいない場面では何色を振れば良いんだ……?

例えばKIKKUN-MK-IIのテーマでは黄色にするのはわかる。FB777が歌っているときに青にするのもわかる。しかしこういうこれと言って何もない場面では何色にしとけば良いのだろうか。いわゆる「推し」がいる人であれば通常時には常にその色にしておけば愛と応援をアピールできてよろしいだろう。ペンライトにはそういった使い方もあるはずだ。しかし自分は……赤か? それともここは光の三原色を混ぜて全員カラーを白、と解釈すべきか……?

迷った挙句両隣の人の中間色にした。調和がとれて満足である。

そして満足している間に毎度の如く魔王を倒すためにゲーム実況を開始する宣言がされ、わーっと盛り上がる会場。ここでペンライトを振ろう、と思いつつまた手が止まる。

これって……縦に振るのか? 横に振るのか?

今までずっと盛り上がるときは拳を突き上げることしかして来なかったため、「何かを振る」ことで興奮を表現しようとすると体が混乱するらしい。言ってみれば、自分の体には「興奮」の表現として「ペンライトを振る」動作がプログラミングされていないため、エラーが発生するのである。縦に振ろうが横に振ろうがどっちだって良いじゃないかと今となってみれば思うのだが、エラーの結果自分は「え? え?」と混乱しながら眼下のペンライトの動きを確認していた。横だった。

そんな中で催されたゲーム実況。一つ目はカードゲームの「ナンジャモンジャ」で、単純明快で面白かった。ポップな化け物が描かれたカードをめくり、出た化け物に名前をつける。そして新しいカードをめくったときに既に名前をつけられた化け物が出た場合は、その名前を叫び、一番早かった人がカードを取得できる。カードの枚数が一番多い人が勝ち、というルールだ。これ、自分で作ることも出来そうだしやってみたい。

そうして名づけられた名前は「ライオン丸」「みるからに馬鹿」「うちのおかん」「バブルボンバー」「すね毛がすごい」「小さい方が本体」「バイバイ」などなど。あとうろ覚えなところで「キューティーピンキー」か「プリティーピンキー」、「ブルーサウザンドなんちゃら」「足長男」「もじゃお」と、黄緑色の化け物には白色要素が無いのに「ホワイト」が名前に含められていた。

このゲームは以前にもプレイしたことがあるようで、隣の席の男性がちょくちょくと改名前の名前を呟いていた。

次のゲームはビデオゲームで、M.S.S. Projectがテーマのゲームのようである。詳細は知らないが、小説とコラボしていたことを考えればゲームとのコラボも不思議ではない、と納得しつつステージを観ていると、きっくんに何かを囁かれたあろまほっとが口に含んだ水を勢いよくぶはあと吐き出してびっくりした。わざとやったようだが、何だ? 何か元ネタがあるのか? 衣装びっちゃびちゃだが良いのか???

タオルで拭くこともなくプレイを開始するあたりが潔い。ちなみにコントローラーも水で濡れていたようだ。すごい。勢いが。

ゲームは固定された画面の中で、M.S.S. Projectのメンバーを模したキャラクターが殴り合いをしつつポイント集めをし、ポイントが多い人が勝ち、といった内容だった。何回死んでも良いらしく、死ぬたびにキャラクターの肉片のようなものが画面外から四散されるが、次の瞬間には蘇って殴り合いを再開していた。

ゲームが終わったらメンバーはステージから退場。幕間に流される映像のテーマは「武道館のファンタジー」。なんと今回、eoheoh、FB777、あろまほっとの三人がネタ被りをし、三人とも頭部が武道館の怪人ないしはロボットを描いていた。そんな中で「ブドウ●カーン」という、頭部がブドウで逆日の丸カラーの怪人を描いたきっくんは一線を画していて見事だった。

さて、映像が終わりステージがしんと静まれば……ステージの前方と後方を区切る壁が門を開くように動き、現れるサポートミュージシャン。そして何とステージ中央、何も無い床からKIKKUN-MK-IIがせり上がり、登場する演出が! おおおおお! これは格好良い!

興奮しつつ、これは黄色にせねば! とペンライトを操作するも不慣れゆえうまく動かせない。そしてわちゃわちゃしていたらいつの間にか全員ステージに現れていた。振り回すべきペンライトに振り回されてどうするのだ、自分。

ちなみにペンライトの操作に慣れたのは本編後半に差し掛かった頃だった。そんなこともあり、曲順の記憶はあやふやであるがご容赦を。

一曲目は「Over Road」で、ソリッドなギターが格好良くも気持ち良い。そして二曲目はお約束の「踊れ!」のシャウトとともに始まる「ENMA DANCE」で、大人気「ボーダーランズのテーマ」へと続く。

「ボーダーランズのテーマ」ではステージの上手と下手に設置された櫓のようなものにあろまほっととeoheohがそれぞれ乗り、人力で押される櫓はアリーナ席に作られた通路を進み、大興奮の客席。二人は水蒸気を噴射する銃を構えそれを噴射していて、その様子が何かに似ていると思ったがすぐにわかった。除草剤を撒く仕草だ!

しかし撒かれるのは除草剤ではなく水蒸気。良いなーあれ、あの席の人嬉しかろうなぁ。通路の真ん中では櫓と櫓がくっつき、あろまほっととeoheohは柵を乗り越え乗り換える。ここでまたわーっと歓声が起こり、櫓はゆるゆると元来た道へと戻っていく。黒いジャンパーを着て真面目に櫓を押す人と周囲の空気の対比も面白かった。

四曲目ではちょっと珍しいことが。照明がワントーン暗くなり、サポートベーシストにスポットライトがあたる。一、二、と数を数えるように奏でられるベースソロ、そしてスポットライトはその隣のドラマーを照らし、激しいドラミングが終わるや否や、パッと灯りがついて始まったのは「幾四音-Ixion-」! このアレンジは面白い! 無機質なイントロから始まるイメージが強いだけに意外性があって楽しかった。また、この曲のときにだけ、ペンライトをピンク色に変える人がちらほらいるのも印象的だった。「幾四音-Ixion-」のイメージの由来する何かがあるのか、それともサポートミュージシャンに向けたものなのか。わからないが綺麗だった。

そして今まで思い思いの色で振られていたペンライトが一色に染まる瞬間! 「THE BLUE」だ! この一体感は気持ち良い。今回初めて二階席でM.S.S. Projectのライブを観たので、これまでペンライトによる絶景は後方を振り返らないと見られなかったが、実際目にするとすごい。オーケンが「大槻ケンヂと絶望少女達」の企画でアニメロサマーフェスティバルに出たとき、サイリウムの海の美しい景色を筋肉少女帯のメンバーとファンにも見せたいと思ったそうで、数年後筋肉少女帯でのアニサマ出演が叶い、それを実現できたとき喜んでいた話を思い出した。これか。この景色か。

初音ミクによる現実味のない早口の歌唱が非現実感を盛り上げて尚一層心地良い。暗い海の底から明るい光が差し込む水面を見上げているようだった。

非現実感を味わったあとはFB777が大活躍の「M.S.S.PiruPiruTUNE」! 別の曲でも思ったが、歌、上達してるよなぁ……。初めて観たライブにあった初々しさが徐々に削ぎ落とされて、自信を持って楽しく歌っているように見えて、それがまた素敵なのだ。アンコールの新曲メドレーの「WAKASAGI」でもそうだったが、あらゆるものから解放された歌のおにいさんのような清清しさがある。のびのび歌っていて気持ち良さそうだ。

ゾンビ曲「Phew!」ではあろまほっととeoheohが前回と同様にストーリーを演じるパフォーマンスを披露。狩りのシーンであろまほっとは普通に狩りをしていたが、eoheohはきっくんやベーシストに矢を放つ仕草をし、きっくんは倒れ、eoheohはその肉を喰らっていた。怖い。

この曲のキーボードソロのとき、キーボーディストの周りにメンバーが集まってその指先を眺めているシーンもあって、それが微笑ましかった。あのあたりの音色美しいよなぁ。ゾンビっぽくないよなぁ……。

ちょっと記憶が曖昧なのだが、「KIKKUNのテーマ」のときだったかな? キーボーディストがキーボードを弾きながら楽しそうに拳を振り上げていた姿が印象に残っている。バンドによってサポートミュージシャンの役割の度合いは違うが、自分はこんな風に、ステージにいる皆が楽しそうにしているのを見るのが好きなので何だか嬉しくなってしまった。

「KIKKUNのテーマ」は言うまでもなく盛り上がった。始まる気配がした途端ポツポツとペンライトの色が黄色に変わっていき、あっという間に黄色に塗り上げられる! そんな中でちょこちょこと黄色以外のカラーを固持する人もいて、徹底したこだわりを感じつつ、ふと、自分のペンライトが何色なのかわからない人もいるかもしれない、とも思った。

と言うのは昨日、日記に色覚異常を持つ友人の話を書いたばかりゆえの連想もある。ペンライトのボタンは三つで、「電源」と「色の確定」を指示する四角のボタンと、その左右に色を順繰りに変化させる三角のボタンがついているだけで、色の名称は表示されないのだ。色は全部で十二種類で、濃淡により見分けがつきにくいものもあってややこしい。色の見分けができなくても、今何色が表示されているかわかるペンライトがあったら良いな、と思った。

そして思うのは、この美しい青や黄色の景色もかの友人には別の景色に見えるだろうと言うことで。ライブの帰り道、今まで友人から聞いた話をもとにその景色を何とはなしに想像したのであった。

閑話休題。「KIKKUNのテーマ」が始まる前に、きっくんよりコールの練習タイムが設けられる。その間ずっとリズムを刻み続けるドラマーの仕事たるや! 日常で大声で叫ぶ機会はなかなか無いので、「きっくん! きっくん!」と大声を出してペンライトを振るのは実に楽しい。また、きっくんだけでなくメンバーのコールも行った。「きくえおきくえお!」「あろえびあろえび!」と楽しく叫びつつ、カップリング名称みたいだな、と思った。

特に格好良いと思ったのは「Glory Soul」! 舞台音楽のような曲調で、まるで今にもミュージカルが始まりそうで心が躍る。M.S.S. Projectのメンバー全員が上手と下手に分かれて先ほどの櫓に乗り、KIKKUN-MK-IIとFB777は楽器を担ぎ、あろまほっととeoheohは剣を持って殺陣を演じるパフォーマンス! おお、前回にはない動きも取り入れられている!

しかしこの櫓結構揺れるらしく、酔いそうになったとステージに戻ったKIKKUN-MK-IIは語っていた。

本編最後は「M.S.S.Phantasia」で締め。メンバーがステージからいなくなり、客席から湧き起こるアンコール。これがすごかった。ちゃんと「アンコール!」と叫んでいるのだ。と言うのも自分が行くライブでは「アンコール!」というコールはほとんど無く、手拍子だけでアンコールを要望することが多いのである。こんなアンコールらしいアンコールを聞いたのは久しぶりのような、もしかしたら初めてかもしれないような……。

そうして始まったアンコール一曲目は予想外! 新曲メドレーだった。KIKKUN-MK-IIから始まり、あろまほっとにバトンタッチし、eohoehへと繋がってそれぞれがソロを歌う! あろまほっとはよく通る声だが歌いなれていない様子が感じられ初々しく、eoheohは密閉空間から出しているとは思えない歌声が響いてきてびっくりした。「息もできないくらい」と高らかに歌ったときは「そりゃなあ」と思ったが、息ができているからすごい。

メドレーラストはFB777の「WAKASAGI」。さきにも書いたがすごく気持ち良さそうだった。

最後の最後は明るく楽しく「We are MSSP!」でおしまい。射出された色とりどりのテープが目線の高さまで飛び上がり、一度中空でわだかまった後、キラキラと光を反射させながら下りていく色のかたまりの美しさったら。下から見上げるのも良いが、こうして同じ高さから見下ろすのも美しい。

終演後もしばらくメンバーはステージに残ってくれた。恐らく一番武道館への憧れが強かったであろうきっくんは特にステージを去りがたいのか、ここでも、またその前の場面でも一つ一つ吐き出すようにしながら言葉を語っていた。そこには照れ隠しも混ざりつつ、隠し切れない喜びも滲み出ていて、故に言葉がまとまらず、まとまらない欠片がそのままにポロポロと漏れ出しているようだった。

外に出れば日はすっかり落ちていて、時計を見れば二十一時前。開演時間を思うと、何と長くこの空間に滞在したのだろう! 興奮冷めやらぬ人々がそこかしこで輪を作り感想を語り合う中、祭りの余韻を感じつつ九段下駅へと向かう。あぁ、楽しかった。

しかし最後の最後。うっかり道を間違えて反対方向へと進み、街灯が少なくやけに暗い車道の脇をほてほてと歩いていたら目の前にぼうと浮かぶ般若の面! ぎょっとして目を見開くとリュックサックにキーホールダーの如く般若の面をぶら下げた女性が闇の中で立ち止まり、携帯電話をいじっていた。びっくりした。怖かった。いつか都市伝説が生まれるかもしれない。



未分類2杯, インストアイベント, 内田雄一郎, 非日常

いやあ危なかった。家でだらだらしながら整骨院に行く準備をしていて気付く。そうだ! 今日は内田さんのインストアイベントの日だ! だらだらしている場合ではない、ってんで、一日の予定とルートを決めてさくさく整骨院に向かったのが十三時頃か。それから少々の買い物を終えて家に帰り、曲の感想を手紙にしたためて再度家を出た。目指すはタワーレコード錦糸町店。

ガタンゴトンと電車に揺られながら内田さんのアルバムを聴き返す。筋肉少女帯のベーシスト・内田雄一郎による筋肉少女帯のテクノカバーアルバムがピコピコビヨンビヨンフワフワと耳を震わす。今日はその発売記念イベントであり、内田さんのトークの後にはサイン会が開かれる。もともと予定していた楽しみをうっかり忘れかけていたおかげで降って湧いた楽しみに感じる愉快さ。先週の水戸さんの100曲ライブでも、水戸さんとワジーは自分達の活動や新譜もそっちのけで内田さんのアルバムについて熱心に語り、宣伝していた。同じミュージシャンが衝撃を受け、語らずにはいられなくなる作品の、その生まれた由縁を今日聴けるかもしれない、と思うとわくわくする。

そうして会場に着いたのがイベントの三十分前か。タワーレコードの入り口に足を踏み入れようとしたそのとき、目の前にビートサーファーズの三浦さんが立っていて、己の横をすっと通り過ぎた影はどこか見慣れた背格好。あ、と思ってその背中を見れば今日の主役、内田さんその人であった。ほぼ同時に会場入りすることになろうとは。偶然とはいえちょっと嬉しい。

ステージの前には既にたくさんの人が並んでいて、もっと早く来れば良かったなと思いつつもそれなりに視界は良好であった。イベントが始まる前から内田さんはひょいひょいとステージに姿を現し、機材の設置や調整を行っていて、またひょいひょいと既に消える。そんな様子を眺めつつ待つこと三十分。十八時になりステージに現れた内田さんは着替えを済ませ、何とジャケットと同じ格好に! おおー! 格好良い!

ステージにはパソコンと内田さん愛用のiPad。iPadに画像を映し、トークとともに画像を切り替え、ちょっとしたスライドショーのような楽しさがあった。このアルバムがどうしてこうなったか、と元ネタの解説がメインで、偏った音楽しか知らない自分にはとても新鮮だった。まずジャケットは1968年にリリースされた「Switched on Bach」のパロディをしようとしたが、結果的に今のデザインになったこと。「Switched on Bach」にジャケットに写っているバッハのおじさんこそが作者のカルロスその人かと思いきや、全然違う人だったこと。そしてカルロスが性別適合手術を越え女性に戻ったとき、「あのバッハのおじさんが!?」と内田さんは衝撃を受けたことが語られた。

この話を聞きつつ、もしかして平沢進のアルバム「Switched-On Lotus」のタイトルもそこから来ているのかなぁ、と思った。

ちなみに「Switched on Bach」のセカンドではバッハのおじさんは宇宙に行っているので、「SWITCHED ON KING-SHOW」もセカンドが出たら宇宙に行っているかもしれないそうだ。次回作がますます楽しみである。

元ネタ解説では主に「イワンのばか」について語られた。イントロはELPの「タルカス」とイエスの「危機」を同時に流すイメージで作られたとのことで、それぞれのイントロと、一緒に流したバージョンも聴かせてくれた。ここで内田さん、「自分だったら三十分聴いていられるけど……」というようなことを語って笑いながらスイッチを切った。内田さん、本当に好きなんだなぁ。

また、メタルですごく盛り上がるところをふにゃんふにゃんした感じにしたら面白いんじゃないか、ということでクラフトワークのMIXを元にアレンジしたそうで、このあたり、是非橘高さんの感想を聴きたいところである。

メタルと言えば、筋少のアルバムを取り込むとドドンと「METAL」と分類されるそうで、「SWITCHED ON KING-SHOW」は何に分類されるのだろうと思いつつ取り込んだら「POP」と表示されたそうだ。そこで内田さん「これからはポップミュージシャンとして生きて行きます」と冗談めかして語っていた。

そして楽しい時間は過ぎ、トークライブは終了。いったん内田さんはステージからいなくなり、会場の準備が整い戻ってきたと思ったら……黒い帽子に黒いマスクの黒尽くめ! 何故か目元しか露出していないという徹底振りである。しかしいつもの眼鏡は外されていたので目元に限って言えば若干露出が増していた。何故だろう。緊張していたのだろうか。

手紙を渡し、サインをしてもらいつつ内田さんと会話出来たのが嬉しかった。あぁ、ドキドキしたけどちゃんと話せて良かった! 握手をしてもらってその場を離れ、ふわふわしつつ反芻したのは「こういうのが楽しいお年頃」という内田さんの言葉。良いなぁ。いくつになっても新たな楽しいことを見つけ、遊べる心持ちは実に良い。そうして出来上がったものが同業者さえ驚かせる衝撃の一作という面白さ。筋肉少女帯の内田さんにはいつも安定感と安心感がある。しかしそれだけではない衝撃的なスパイスをぶっこんでくるバランス感。これこそが彼の魅力なのだろうな、とつくづく思った。次回作も楽しみである。