未分類3杯, 平沢進, 非日常

照明演出の豪華さとスクリーン映像のシンプルさが印象的なライブであった。二階席からの観覧により、ステージの平沢とアリーナ席が視界に収まり、ぐるりとホール内を見渡せばどの席もぎっちり満員御礼で、立見席にまで人がずらり。己が初めて平沢のライブを観たのは2011年の東京異次弦空洞だが、年々動員が増えているように感じるのは気のせいだろうか。

ステージの脇に近い座席からはステージのスクリーン映像が見えにくくなっているが、天井近くにモニターがあり、そこにスクリーン映像とステージの様子が映し出される配慮もあった。流石にインタラでスクリーンが見えなかったら物語が把握出来ないし辛いものなぁと納得。ありがたいことである。

今回はいったいどんな物語だろう、いったい何人の平沢が物語に組み込まれるのだろうか、とわくわくしていると開演の合図。しかしいつもとちょっと様子が違う。ステージの下手にスタッフのお姉さんが立ち、分岐の方法について解説と練習を行うとアナウンスが。何だ何だ? と思うとスクリーンに映し出されたのは機械的なデザインの円二つ。左が赤で、右が青。

ストーリーで分岐が発生した際、今までは右に進みたい人は右の表示が出たとき、左に行きたい人は左の表示が出たときに大声を出し、その声量の強さよって進むべき道を定めるパターンが多かった。しかし今回は、赤はメジャーコード、青はマイナーコードと定められ、自分が行きたい道の方の音程で大声を出し、その響きによって進むべき道を判定すると言う。

おおーう面白いけど難しそうだなーと思いつつ練習。実際、面白いけど難しかった。まず赤の円が存在を主張し、メジャーコードのサンプル音が鳴り、それを真似して大声を出す。次に青のマイナーコードを練習。そして赤と青、交互に声を出し、最後に赤と青が同時に点灯。無論メジャーとマイナーを同時に発生することなどできないので、ここで自分が進みたい道の音を選び、大声で叫ぶのである。

ホール中に響く二種の音。やってみるとわかるが、どうしても多い方に釣られそうになる。探り探りにもなる。こいつぁ大変だ、頑張らなきゃなと気合を入れたところで練習終了。ついに本当の開演と相成ったのである。

無人のステージに掲げられた巨大スクリーンに白髪のヒラサワこと「過去向く士」が映し出され、ストーリーが語られる。ものすごくざっくり言うと、この世界の存亡に関わる「WORLD CELL」が停止してしまったので、再稼動させなければならない事態になった。そこにやってきたのが「過去向く士」こと別の世界のヒラサワ。さらに、「過去向く士」を追ってやってきたのが「アヴァター」で、これもまた別の世界の平沢だが、主体性がなく常に不安を抱えて右往左往している。「過去向く士」はそんなアヴァターを利用して「WORLD CELL」を再稼動させようとしているのだが……。

ちなみに今回の公演ではバッドエンドのルートを辿り、アヴァターがいなくなった後いつの間にか現れて鉄を切る平沢と、背中に黒い羽の生えたヒラサワが空を飛んでいく映像が映し出された。過去向く士、アヴァター、ステージの平沢、Σ-12、鉄を切る平沢、黒い羽の生えたヒラサワ、この公演だけで六人の平沢が発生している。今までインタラを全て合計したら何人になるのだろうか。この無数の平沢を見分けることを考えたらおそ松さんを見分けるなんて余裕のよっちゃんなんじゃあないか? などとエンディングのスタッフロールを見ながら思った。

「断崖を登る」シーンがメインなこともあり、今回の映像は比較的シンプルである。崖と空と平沢と、宙に浮かぶ奇抜な登場人物。前回の「ノモノスとイミューム」に比べると随分あっさりしているが、準備期間の短さを考えるとよく間に合わせたな……と思わざるを得ない。

対して照明の豪華さはすごかった。ステージから客席に放たれるレーザーハープの美しさはもちろん、曲に合わせて色とりどりの光がホール中を旋回するのである。多彩な光の演出は息を呑む美しさで、音楽の美しさをより一層引き出していた。溢れる光と音の中、豊かな声で叫ぶ平沢を観て、光と音の魔術師というどこかで聴いたようなフレーズが脳裏に浮かんだ。

一曲目は「舵をとれ」で、二曲目から「アヴァター・アローン」「アディオス」「回路OFF 回路ON」と続いた。「ホログラムを登る男」以外で演奏されたのは「舵をとれ」「オーロラ」「橋大工」の三曲。「オーロラ」のとき、オレンジの光が照射されていてそれが実に美しかった。

「MURAMASA」では助っ人のPEVO1号が刀を持って登場し、振りかぶってレーザーハープの弦を切るという演出が! 切られた弦からイントロの「ビーッ!」という音が流れ、スクリーンには断崖を登るアヴァターの頭上に無数の刀が降り注ぐ。そして何故かアヴァターの眼下にはタコ! 巨大なタコ! スクリーンとステージ、どっちを観れば良いんだ、そもそも何故断崖にタコが……。このとき己は若干混乱していたと思う。

どの曲か忘れたが、ギターの出だしを間違えたのか、無音の中で「ピョーンッ」と響いた後、何事もなかったかのように弾きなおしたり、曲の入りがちょっと不安定だったりといった場面があって満足した。いやあやっぱり人間なんだなぁ……と思ってしまうのである。重々承知しているはずなのだが、未だに。

ド迫力だったのは「ホログラムを登る男」。始まりの声のパワーの強さに圧倒された。他の曲ももちろんすごいのだが、この曲が一等抜きん出ていた。生の歌声であることを強く実感した瞬間だった。CDも迫力があるのだが、あれはあえてやわらかく抑えているのか? わざと? と思うほど。脳と心臓を突き抜けていくというか。すごかった。

あと「オーロラ」のアレンジ。ライブで聴く機会が多い曲は、そのたびごとに別のパターンを楽しめるのが嬉しい。何とも得した気分である。

帰り道で「Wi-SiWi」の歌詞を反芻する。あのエンディングから考えるに、「起きろ外道」「笑え邪道」の「外道」と「邪道」は罵倒語の意味合いではなく、主体性なく道に迷いながら何となく周囲の空気に合わせて歩まれる「正道と言われているもの」の反対を表しているように思う。そしてあの谷底に落ちつつも目覚めたアヴァターのように、意思を持ってあえて外れた道、邪とされる道を進むことこそを祝福しているのだろうか。あぁ、でも歌詞カードをまだ読み込んでいない。

ライブの余韻に浸りつつ、反芻しながら今日は歌詞カードを味わおう。もしかしたら明日の公演で新たな発見を得られるかもしれない。



日記録2杯, アルバム感想, 平沢進, 日常

2013年11月5日(火) 緑茶カウント:2杯



核P-MODELのセカンドアルバム「гипноза (Gipnoza)」を手に入れた。発売日は明日だが、一足早く手に入れることが出来たので、逸る心を抑えながら湯を沸かし、とっておきの玉露を淹れ、いそいそと準備をし、正座をしてCDを取り出した。

そして気付いたときには、正しい温度で淹れた玉露はすっかり冷め切っていたのだった。

「突弦変異」「変弦自在」「現象の花の秘密」はよりシンフォニックさが強調され、「現象の花の秘密」は分厚いコーラスも優しい音の重なりでどこか女性的。やわらかい布を幾重にも重ねたような音。対して「гипноза (Gipnoza)」は硬質的かつ男性的。重厚なコーラスは魔王のような威圧感。鉄柱でぶん殴られるような衝撃だ。それでいて、ヒラサワソロらしさもしっかり残っていて、P-MODELで言えば「big body」が好きな人は特にぐっとくるのではないかと思う。

まだ二周目に入ったところで、歌詞もろくに読み込めていないが、表題曲の「гипноза (Gipnoza)」に関していえば、こちらは公式サイトで先行配信されていたため、歌詞を知らない状態で何度も聴き、ヒラサワの言葉のセンス、譜割りの自由さを考えながら自分なりに歌詞を聴き取ろうと努力して、まあ何だかんだ言ってもヒラサワの曲も大分聴き慣れた身であるので、なかなか良いところまで行けたんじゃないか、と思いつつ答え合わせをしたのだが、見事に全然違った。せいぜい、良くて正解率二割と言ったところである。「何のかんの逡巡逡巡」と聴きとっていたところなんぞ「何なくUnlock 瞬時に転換 瞬時に払拭」である。「坦懐の美を乗せ」は「坦懐のビヨンセ」と聞こえていた。ビヨンセって誰だよ。

パッと聴いた限りでは「гипноза (Gipnoza)」「それ行け!Halycon」「排時光」「Parallel Kozak」「Timelineの東」が特に好き、と言いつつ特にも何も半分書いていやがるね。「Timelineの東」のある箇所には色気とサービス精神を感じた。今更な話であるが、美しい声だなぁ。

ヒラサワの作るやわらかな印象の曲も大好きだが、そろそろ、久しぶりにこういうものを欲しい、と思ってたことを強く実感させられる。無意識の欲求が満たされる喜びが心地良い。最近のヒラサワはちょっと好みとずれるんだよな、と感じている人にも聴いて欲しい。その上で「いややっぱ違うわ」と思うかもしれないが、それもまた、ということで。



未分類平沢進, 非日常


 
 
「ノモノスとイミューム」最終日。公演終了後、公演祝いの花を自由に抜き取って良いとアナウンスされていたので、記念に有難く頂戴した。これまで我が家に花が飾られたことが無かったので気付かなかったが、花がある景色というのもなかなか良い。玄関にイミュームが配置される家。家を出入りするたびに己のサファオンがイミュームに影響し、イミュームがサファオンに影響して物語が生成されるのだ、と思うと愉快な気持ちになる。

初日と二日目は同じエンディングを迎えたが、三日目の今日は異なるルートを辿り別種のエンディングを観ることが出来た。思わぬ歌謡ショーにオーディエンスは大爆笑。ハンドマイクを握るだけで笑いが取れる男ヒラサワ。つくづく面白い人だ。

興味深かったのがエンディングの後のMC。細部を失念してしまったが、「これからはSP-2のヒラサワから、Amputeeのヒラサワに」という言葉。「Amputeeのヒラサワ」の後に続く言葉が「なった」か「なる」か「なったと思われる」か「なったと思われている」か忘れてしまったのだが、最初会場でこれを聞いたとき意味がわからなかったのだ。SP-2のヒラサワ? Amputeeのヒラサワ? ヒラサワはSP-2でもAmputeeでも無いだろう?

と、思ったが、あれはヒラサワ自身がSP-2やAmputeeという意味では無く、SP-2やAmputeeに「傾倒する」「影響を受ける」「尊敬する」「愛する」「愛される」という意味合いなのだろうと咀嚼した。いわゆる「ふつーの人達」の枠外にいて、両者とも、外見的な美しさも魅力だが、それ以上に困難を乗り越えて、力強く生きる人達。無論、性同一性障害者や切断者の全てがそれに該当するわけではない。彼ら彼女らの中で、そういった精神を持った人にヒラサワが強く惹かれているのだろうと思う。

この「枠の外にいる人」は「ノモノスとイミューム」の中に登場する「幽霊船」も該当する。「幽霊船」は公式サイトの用語解説から引用すると、”有意義な「反射」になり得るサファオンでも「前例が無い」「飛躍的過ぎる」などの理由で社会から暗黙のうちに拒絶されるサファオンがある。そうしたサファオンが採用される可能性に賭けて10年後の世界へと運ぶ船”である。あくまでも「サファオン(感情、思考、記憶の混合物に生じるある種のパターン)」であり、人間では無いが、それを乗せるのが「幽霊船」とは何とももの悲しい。

つい、幽霊船に乗せたサファオンを秘めた人は、彼ら彼女らが受け入れられない時代で生きていかざるを得ないことを考えて、しんみりしてしまうのだ。そしてそういった人々は「ノモノスとイミューム」の外にそれはもういくらでもいるのである。

だが、幽霊船が乗せたサファオンは役立てられ、物語は危機を脱出する。このあたりがヒラサワの描く希望なのかなぁ、と思うのだ。思えばヒラサワ自身も「ふつー」という枠の外で生きてきた人で、それ故に苦労もしてきたそうだが、反面枠の外にいるからこそ多くの人に愛されている。それを本人が知っているから、幽霊船を登場させたのだろう。だってサファオンを補充するならばドナーに要求すれば良いだけなのだ。

類推ばかりの文章だが、枠の外の人であり、枠の外の人を尊敬する人だからこそ、自分はヒラサワの音楽や文章、キャラクターに惹かれるのだ。昨日今日二日間参戦出来て良かったと思う。

未分類平沢進, 非日常



インタラクティブライブ「ノモノスとイミューム」に行ってきた。ヒラサワのライブに参戦するのはこれで二度目だが、一度目はいわゆる普通のライブコンサート、通称「ノンタラ」こと、ノン・インタラクティブライブであるので、インタラに参加するのは初めてである。

インタラとは物語形式のライブコンサートであり、途中途中に分岐が与えられ、観客の選択により物語が変質していくというものだ。さらに、インターネットとも連携をしており、会場にいなくてもネット環境さえあればライブのストーリーに関与することが出来る。参戦したことは無いものの、インタラのDVDは一枚持っており、若干ではあるがその雰囲気は知っていたので、今日の日をとても楽しみにしていた。

が、不安もあった。自分はヒラサワの作る物語を一発で理解出来るのだろうか。それというのも公演前に公開された「ノモノスとイミューム」の特設サイトに、今回の物語の概要や用語などが記されていたのだが、多いのである。造語が。ヒラサワ独特の造語が。本で読むなら前のページに戻ることも出来るが、ライブに巻き戻し機能は無い。置いていかれないか心配だった。特に、唯一所有しているインタラのDVD「白夜野」も、初見では物語を把握しづらかったので。

この心配に関して、結論から言うと杞憂だった。無論、細かいところは理解しきれていないが、物語の大筋には付いて行くことができた。むしろシンプルだったように思う。エンディングもびっくりするような大サービスで腹を抱えて笑った。あんなに格好良く殺虫スプレーを噴射する男を自分は他に知らない。

さて、今回のライブの感想を簡単にまとめてみようか。まず驚いたこと。物販の列が長い。ものすごく長い。物販は開場後に販売が開始されるのだが、まず開場待ちの列がとんでもない。そして並んでいる人々のうちのほとんど、と感じられるくらいの人間がそのまま物販に並ぶのである。すごかった。この施設は階段が入り口から向かって右と左の両端にあるのだが、まず一階から右手側の階段で二階へ上がり、二階の右端から左端へ移動して、左手の階段から三階に上り、三階の左手側から右手側の端まで移動しUターン、さっきのぼった階段を使って二階に降り、また端から端へ移動しUターン、二階から一階に降りてようやく物販に辿り着く、という非常に長い道のりで、物販の列で左手側の階段の人口密度がえらいことになっているのである。こんなに並んでまで欲しいのか、と問うならば欲しいと答える。自分が買ったのはカレンダーとタオルとハットピン。欲しいものを全て買えて満足した。並んだ甲斐があったというものだ。

物販を購入してからは大人しく席で待っていた。場所は一階後方下手側。何をするでもなくゆったり待っていたのだが、開場十分前あたりだろうか。音楽がいかにも、物語が始まる前奏のようなものに変化して、まだ人が席に立ったり座ったりする中、このまま開演の合図も無く唐突に始まってしまっても面白いなと思った。実際はきちんとブザーが無り、照明が落とされたので非常にわかりやすかったが。

特筆すべき点は今回のゲスト、折茂さんだろう。とはいえ自分は折茂さんのことをほとんど知らない。彼女の曲もヒラサワのソロCDボックス「ハルディン・ドーム」に収録されている一曲「ガーベラ」しか聴いたことが無い。ただ、ヒラサワのツイートや、特設サイトにある物語の記述などから、「ノモノスとイミューム」は彼女無しでは発想されなかっただろうとは感じていた。この物語におけるもう一人の主役と言っても過言ではないだろう。

折茂さんの姿は初めて見たが、年齢がよくわからない人だと思った。声からは甘い雰囲気の女性をイメージしていたが、どちらかというと格好良いと言う言葉の方がふさわしい。そして赤いスカートから見え隠れするスラリとした黒い義足が美しいのだ。この義足から着想された物語について思ったことを書きたいが、材料が少ないのでそれについては明日の公演を観てからにしよう。

ところですごく驚いたこと。まさか今回の物語に、あの白虎野に登場した強烈な印象を見る人に与えるキャラクター「Σ-12」が再登場するとは思わなかった。しかもほとんど出ずっぱりの大活躍。あのビジュアルをDVDで初めて見たときの衝撃は忘れられない。白虎野で分岐マニアとして主人公であるヒラサワを導いたΣー12は、外見は人ではないものに変えられていたが、人間的な感情を持っていた。それが「ノモノスとイミューム」ではサファオン(思考、感情、記憶の混合物に生じるある種のパターンを指す物語中の造語)を持たない存在になってしまっていたのが、何だか寂しい。

映像について思ったこと。比較対象が「白虎野」しか無いが、コミカルと言うか、ギャグ要素が多かったように思う。エンディングも綺麗にオチがついてあの大サービス。異空間に幽閉されたヒラサワが正しい分岐を辿ることにより、元の世界に戻ることが出来たが、注文していた果物の入った箱を開けると中身がすっかり腐ってしまっていて、ハエが大量発生。スクリーン上を飛び回るハエの群れを両手に構えた殺虫スプレーを武器にスタイリッシュにポーズを取りつつ戦いながらステージ所上を練り歩きつつ歌うヒラサワ。それはダンスのようにも見え、どうしたらこんなことを思いつき、かつ実行しようと思うのだろうかと考えつつゲラゲラ笑った。

笑うといえば「Amputeeガーベラ」で、歌い出しを間違えて固まるヒラサワを見られてすごく得をした気分になった。しかもこの後、折茂さん演ずる「サンミア」が、「台無しだわ!」と言ってのけるのである。この「台無し」はあくまでも物語上の台詞なのだが、まるでヒラサワのミスを言っているようで笑ってしまった。グッドタイミングと言うか何と言うか。

だが、歌い出しを間違えたからこそヒラサワの声のすごさがわかるわけで。固まった途端に当然のことながらヒラサワの歌が聞こえなくなり、あんな声が人間から出ているのだなぁ、と改めて思わされたのだった。

そういえば三曲目、四曲目あたりでは咽喉を振り絞って無理矢理歌っているように見え、だいぶ辛そうで心配したのだが、五曲目六曲目と進むにつれ悠々と声が出るようになっていた。そういうところを見るとあぁ、ちゃんと人間なんだなぁ、と思う。ただアンコールの「Aria」は歌いづらそうだったな。

初日は行けなかったが、MCによると初日と二日で同じエンディングを迎えてしまったそうなので、明日は別のルートに行けるよう試行錯誤しようと思う。殺虫スプレーもまた見たいが、それではDVDになるときボーナストラックが減ってしまって寂しい。まぁ成功ルートを選べているので三日連続バッドエンドでDVD化されず、などという真の意味でのバッドエンドを迎えずに済むのは確定しているのでちょっと気楽だ。明日も楽しむぞ。

未分類初参戦, 平沢進, 非日常


 
行ってきた。平沢進のライブ、「東京異次弦空洞」二日目に。ライブが終わって既に何時間も経っているというのに未だぼうとしたままだ。しかし体内では神経が興奮し、心臓がドクドク動いていて落ち着かない。ライブの興奮と感動と、一年間に渡って続けられた還弦イベントが終わってしまったことを惜しむ寂しさと喪失感、これらがない交ぜとなるが故の作用である。

あぁ、終わってしまったんだなぁ。

思えば一年半ほど前か。Twitterで何やら騒がれている人がいるぞ、と知って興味を持ったのがきっかけだ。どんな人物かよくわからないままにフォローして、興味を持ち、氏の情報を調べて公式サイトに辿り着き、彼の書く文章に魅力を感じてSP-2本を購入。そうだ。音楽よりも先に文章を好きになったんだ。後にアルバムに手を出して、どこかで耳にした夢の島思念公園の歌声を思い出し、「あぁ、この人か」と気付きはしたが、最初は文章だったのだ。

まず平沢進という人の情報を得ようと検索をかけ、Wikipediaなどでざっと調べたときは、「師匠」「エコ」「反戦」「ベジタリアン」「メンバー変更が頻繁」といったキーワードのコンボから、若干引いたのも今となれば懐かしい。「どうしよう。変な人なのかもしれない…」とこれ以上深入りして良いものか迷ったが、結局変な人ではあるものの、大変好ましいタイプの変な人であることがわかった。今、自分にとって一番「興味深い人」は平沢進である。好奇心がそそられる。何て面白い人なのだろうか。

そうして平沢進という人物にはまり、アルバムを買い、DVDを買い、ついに念願のライブに参戦することが叶ったこの喜び。ライブハウスという一つの空間、同じ空間にこの興味深い人がいて、己の目の前で実在することを証明してくれている。何て素晴らしいことだろうか! そのうえ、大好きな音楽を、歌声を! 生で聴くことが出来るのだ!!

あぁ、だめだ。興奮が収まらない。サイン会で初めてオーケンを見た後も、こんな感じだったなぁ。あのときも数日体内で異常作用が働き続けていたなぁ。

そろそろライブの感想を書こうか。以下、公式サイトから持ってきたセットリストである。

「凝集する過去 還弦主義8760時間」フィナーレ

東京異次弦空洞

2011年1月14日(金) 18:00 開場 19:00 開演
会場: SHIBUYA-AX
ゲスト: Neng, Rang

01: アート・ブラインド (Neng & Rang) / 突弦変異
02: DUSToidよ歩行は快適か? / 突弦変異
03: CHEVRON / 突弦変異
04: MOTHER / 変弦自在
05: Another Day / 突弦変異
06: ミサイル / 突弦変異
07: サイレン*Siren* / 変弦自在
08: 金星 / 変弦自在
09: GOES ON GHOST / 突弦変異
10: 夢みる機械 (Neng & Rang) / 変弦自在
11: バンディリア旅行団 / 変弦自在
12: LEAK (Rang) / 突弦変異
13: Solid air / 突弦変異
14: ASHURA CLOCK / 突弦変異
15: 環太平洋擬装網 / 変弦自在
16: トビラ島(パラネシアン・サークル) (Neng) / 変弦自在

EN
17: WIRE SELF / 突弦変異
18: ルクトゥン OR DIE (Neng & Rang) / アルバム未収録 (2001)

FCの先行販売で入手したものの、番号は千より先の遅い方。それが己のチケットだったが、何だかんだで前から五列目に行くことが出来た。下手側の中央寄りで、特にASHURA CLOCKからは波が動いてびっくりするほど視界良好。それまでも平沢さんの胸から上や、ギターを弾く手元を見ることは出来ていたのだが、ASHURA CLOCK以降は常に頭から爪先、周辺の機材まで、ばっちり眺めることが出来た。感無量である。

ところで、今回はライブ慣れしていない人が非常に多かったように思う。平沢ライブに来たのはこれが初めてなので今までどうだっだかは知らないのだが、それにしても大荷物をスタンディングスペースに持ち込んで足元に置いたり、上着を抱えたまま立っている人が多かったなぁ。開演直後の押しでも、「ちょっとこれどういうことなの?」「信じられない!!」と憤慨している人がいた。自分も初めて筋少のライブに行ったときは波に飲み込まれて「何じゃこりゃ!?」と驚いて慌てたものだが、今日は「何じゃこりゃ!?」な人が大勢いたために、ライブ慣れした人々の波に乗せて何となく皆あわあわ移動とならずに、塊と塊が衝突してしまっていたように感じられた。動くことを前提としている人達としていない人達の衝突である。ちょっとした混乱が起きていたよな。

閑話休題。さて、「凝集する過去 還弦主義8760時間」のフィナーレを飾るこのライブ。当然8760時間中に作られた二枚のアルバムの曲が演奏されることになるわけだが、中でも己が一番期待していて、一番聴きたかったのは、「金星」である。

本当に嬉しかった。

椅子に座り、組んだ足の上にアコギを乗せ、爪弾きながら歌う平沢進を目の前にしたときの感動は並大抵のものでは無かった。一音ちょっとおかしかったな、と感じられたところもあったが、そんなことはどうでも良い。あのギター嫌いを自称する平沢が。泣きはしなかったが、泣くかと思った。愛らしい音色だ。優しい声だ。胸がいっぱいになった。

金星の他でも、アコギを爪弾くシーンはあった。「あの」平沢進が珍しいことである。さらには、トビラ島でアコギを爪弾いた後、機材が設置されたステージセットが退場し、スタンドマイク一本を前に歌い叫ぶ姿には、圧倒以外の言葉は出ない。様々な怪しい機材に囲まれ、それらを操る姿も格好良いが、だからこそのシンプルイズベストの演出。音楽使い平沢進が、ボーカリスト平沢進の面を曝け出した瞬間を見せ付けられたように感じた。この人の歌が素晴らしいことは知っている。知っているが、こうもまざまざと見せ付けられると、ついには、圧倒されるより他に無くなってしまうのか。

書きたいことはたくさんあるが、どこから手をつければ良いのかわからない。「DUSToidよ歩行は快適か?」「MOTHER」「Another Day」が前半に出てきたときには、「もうこれをやってしまうのか!」ともったいなくも感じたものだ。「夢みる機械」のイントロはライブ用にアレンジされていて、あのイントロがピアノの重低音で奏でられる中、NengさんとRangさん、そしてテスラコイルが登場する。そして同じテンポのまま機械的な音に変貌し、平沢進の語りが始まるのだ。ゲストであるNengさんとRangさんのパフォーマンスがまた面白く、平沢を見たり二人を見たり、しまいにはどっちを見れば良いのかわからなくなって楽しかったなぁ。

イントロが変わっていたものと言えば「LEAK」である。言葉で説明できないのがもどかしい。原曲よりもずっと長くなっていて、始まりは原曲とは違うものなのだが、だんだんと近付いてきて「LEAK」になるのである。このバージョンの音源も欲しいくらい、格好良いものだった。

「Solid air」のギタープレイは凄まじかった。一段高いステージからぴょんと飛び降り、客の近くにやってきてくるりと回ってくれたときには凄まじい大歓声が起こった。

ただちょいと残念だったのは、曲と曲の繋がりがあまり無いというか、一曲一曲が全て分断されているように感じたことだ。もうちょっと繋がりがあったらより燃えただろうなぁ。

それと、「あれ、ここも音源に歌わせてしまうのか」と感じる部分が結構あった。平沢さんの生の声で聴きたい部分が音源で流されるとやや、寂しい。とはいえ、もしかしたら体力的な問題なのかもしれない。五十六歳だものなぁ。無論、それにしたって十二分にすごいのだが。

そうそう、「DUSToidよ歩行は快適か?」のオリジナルの「でぃーやっでぃーやっでぃーやいやいやい」にあたる部分での、レーザーハープの手振りが優雅で非常に美しかった。舞っているような手の動きに思わず見惚れてしまったよ。あの動きはDUSToidだけだったなぁ。

レーザーハープを見るのは初めてだったので興味深く眺めていたのだが、あれには「切る」「握る」「はたく」「くすぐる」「すくう」動きがあるようだ。個人的には「切る」と「すくう」が好きである。

大合唱が起こったのは「Another Day」と「ルクトゥン OR DIE」。特に最後の「ルクトゥン OR DIE」では、タガが外れたかのように観客が大爆発。一曲中ずっと飛び跳ね、拳を振り上げての「ルクトゥン OR DIE!」の大合唱。それにしてもアルバム未収録曲がキラー・チューンってのもすごい話である。あんまり無いと思うのだが。

最後のMCはNengさんとRangさんの紹介から始まり、Twitter継続の嬉しい告知と、Twitterでの「唯じゃない」発言によりフォロワーが増えて開催するに至った今回のライブを「思わぬアクシデント」と称され、「マイナーなのにこんな大勢の前に引きずり出されて憤慨」といった素敵な発言をいただいた。ステージから一度下がりながらも、また戻ってきて客席に向かってサービスするRangさんと話すときには、大変珍しい笑顔なんてものも見られて嬉しくも驚いてしまった。平沢進の笑顔だ!

あと、今回のライブに隠されたメッセージを教えてくれもした。それは「使ったものは片付けましょう」であるとのこと。そうそう。ステージ上に、機材やアコギの設置された「動かせる」ステージがあり、それが曲に合わせて幕の中から出てきたり引っ込んだりしていたのだが、まさか平沢進本人がせっせとステージを引っ張ってくるなんて誰が予想するだろうか。特に、本編ラストのトビラ島でスタンドマイク一本のみとなったステージに、アンコール後せっせとでかいステージを運んできたときには笑ってしまった。あの灼熱の歌に圧倒された直後のことだから、特におかしかったんだな。全くサービス精神旺盛な人である。

このメッセージに歓声が上がり、「当たり前のことを言っただけですよ」としれっと答える平沢進。面白いなぁ。最後の最後には「帰りなさい」と帰宅を促し、「えーーーー!!」という声が起こる中、颯爽とステージから去っていった。ヒラサワさんがいなくなった後も拍手はしばらく鳴り止まず、ダブルアンコールを望む声が続いたが、終演のアナウンスが流れ、惜しまれながらライブは終了した。

あぁ、本当に楽しかった! 日記に吐き出して少々落ち着いたが、まだまだ余韻の中にいる。この人のライブを観ることが出来たことが心から嬉しい。平沢進は実在するんだなぁ、なんて言ったら笑われるかもしれないが。実感し体感出来たことがこの上なく嬉しいのだ。この様子ではなかなか平静に戻れそうにないな。