己はこのサイトにおいて、ライブや旅行の感想を記すときは「非日常」のタグを付け、これは普段の日常と別のもの、と区分けをしているのだが、数年にわたり頻繁に筋肉少女帯のライブに通っていると思うのだ。既にこれは非日常ではなく日常の一部になってしまっているのかもしれない、と。
今回の会場「Shibuya O-EAST」は自分にとって初めてのライブハウスだが、周囲に通い慣れたライブハウスが多いという理由で、よく見知った場所であるため特に緊張感も無かった。昔は行ったことのないライブハウスに向かう際は、内部の構造はどうなっているか調べた挙句、どうにか良い場所から見られますようにと祈るような気持ちでいたものだが、今は一応下調べはするものの「まぁ何とかなるだろう」と軽く構えている。
ライブに行くことが自分にとって既に特別なことではなく、ごく自然なことである以上、やはりそれは「日常」に馴染んだものなのだろう。しかも今日の自分といったらライブTシャツすら着ていない。普段は前方に突っ込むため汗をかいても良いように冬だろうと薄着で参戦しているが、体調があまり芳しくないためしっかり厚着。まるで近所のスーパーにでも行くかのような格好だ。
厚着して、声を出すことも控え、後ろの方で静かにステージを観ていた。静かにと言いつつ拳を振り上げ体を揺らし、サンフランシスコでは飛び上がり、動ける限りは動いていたが、その日自分は開演から終演まで一歩もその場所を動かず、前方で踊り狂う人の群れの塊と、その先で光に包まれながら楽器を鳴らし、歌を歌い、煽りまくる人達を観ていた。
通常自分は前方の踊る塊の一部と化しているため、視点の位置に違いこそあるものの、それは何度も何度も観てきた光景で、とてもよく知った目に馴染んだものであり、そうして眺めて思ったことは、やっぱりこれは日常ではない、非日常の分類だ、ということだった。何度も観て、パターンも覚えて、終演後の喪失感も通うごとに薄れ、特別感が減少しても、これは非日常である。パターンを覚えるほど観て、馴染んで、それでもまた次回観たいと思わされる、決して日常では得られない楽しみを与えられる空間がこれなのだ。どんなに馴染んでもこれは日常には成りえない。
と、いうことを終演後、ハイネケンを呑みつつ、渡されたフライヤーを見てにやにやしながら思っていた。フライヤーには次回のライブの告知。再結成後、恒例となっている十二月二十三日のリキッドルームでのワンマンライブ。今回、さんざん東京でのワンマンライブは今日が年内最後だ、と強調して強調して強調した挙句、やっと発表された待ちに待った公演だ。オーケンのしつこい強調具合にわざとらしさを感じたものの、もしかしたら本当に無いのかもしれない………と、半ばがっかりし、その言葉を信じかけていただけに嬉しい。
今日のライブは殊更良かった。まずオーケンのコンディションが良かった。オーケン自身、「今日のオーケンは若干元気なオーケン」と自らを指して言い、その理由を「五十も近付くとねぇ、バイオリズムっているのがあって、気候に左右されたりするの。おいちゃんわかるでしょ? でね、今日は良い天気だったからちょうどバイオリズムが上り調子のところで、若干元気なの」と手で波線を作りながらにこにこ語る。
実際今日のオーケンは調子が良かったと思う。昨今は歌詞がぶっとぶことがやたら増えていたが今回は、まぁ多少はあったものの大したことは無く、「イワンのばか」定番の歌詞間違い「ロシアのポルカの裏技」も炸裂せず、「サンフランシスコ」冒頭の「さようならさようなら」も、場合によっては極端に省略され、すごいときには「本当に辛い」しか残らないことさえあるが、今日は全部語ってくれた。
何より嬉しいのが「妖精対弓道部」で、ずっと聴きたかった歌詞が聴けたこと。とはいえ、自分が「妖精対弓道部」をライブで聴いたのはこれが二回目で、そもそもライブで聴いた経験すらほとんど無いのだが、DVDが収録されたライブで、その格別気に入っている歌詞が見事に消滅してしまったため印象深くなってしまったのだ。DVDを繰り返して観ていたせいで、当時のがっかり感が何度も何度も上書きされていたのである。また、もし間違えたまま口が覚えてしまって、ライブにおいて正しい歌詞がすっかり消滅してしまったらどうしよう、という危惧もあった。何故なら今の定番曲の中にも、すっかり本来の歌詞が消えてしまっているものがあるからである。ようこそいらっしゃいましょう、とか。
あと印象深かったのは「パノラマ島へ帰る」。六月の中野サンプラザでは演奏されなかったため、ようやく念願叶ってと言ったところ。ライブの後半、証明が落ち、エディがピアノを爪弾き出した。神経を集中させて耳を澄ますも何の曲が始まるのかわからない。「爆殺少女人形舞一号か?」と思いきや、ふと、脳に引っかかるフレーズはあり、あ、これは、と思ったところでオーケンが静かにタイトルを口にした。
CDは儚げな印象の歌い方だったが、今日は力強さを感じた。これはオーケンが「若干元気」だったせいかもしれない。そして演奏の美しさと見事さったら無い。たまに思う。こういう大人な雰囲気の曲だけを演奏する演奏会があっても面白いのでは無いかと。その場合は是非椅子のあるところで、ゆったりしながら聴きたい。
一曲目は「パリ・恋の都」。渋谷が会場ということで「来たぜおおパリ!」と歌う冒頭、地名を「渋谷」に変更。しかしその後の歌詞はもちろん「パリ」だったので、恋人の亡霊と共にパリにやってきたと主張する男が、まるで渋谷をパリと言い張っているかのようで、この男は少し落ち着かせてやらないといけないな………と思わされた。思わず。
二曲目は「妖精対弓道部」。その後MCを挟み、ここでオーケンが「若干元気」であることを強調し、おかしなポーズで飛んだり跳ねたりはしゃいでいた。変だった。そして「今日は休んだりしない!」と高らかに宣言。最近は途中でオーケンがステージから下がり、代わりに他のメンバーがボーカルをとることがあるのでそのことを指しているのだろう。
しかし。宣言したからには覆すのがオーケンである。
また次のMCで、オーケンがオカルトの話を始めた。「ねぇ、知ってる? この間オカルトの番組に出たときに○○さんという人が言ってたんだけどね、太陽系にはラジャサンっていう木星くらいの大きさの星があるの。これは自由に動くことができて、黒い触手を持っててね、その触手で………太陽を妊娠させるんだ」
オーケンよ、あなたは何を言っているのだ。
「でね、地球とか、太陽系の惑星は、ラジャサンと太陽の子供なんだって。でもラジャサンは性に奔放なんだ。だから地球ともそういうことをしてるわけ。それで………今地球は妊娠してるの! 来年には出産するの!! うわあああああ大変だあああああ歌なんか歌ってる場合じゃないよ! 怖いよ怖いようわあああああ~~~~」
そしてオーケンはステージから逃亡した。後に残された戸惑うメンバーと、一人仰け反りながら大笑いするエディの対比が無性におかしい。怪談を語るときのような口調と言ったらわかりやすいだろうか、声を落とし、力強く注意深く、一つ一つ聴き手の理解を確認しながら語っていた男が一変して一人で狂乱し、「怖いよ怖いよ」と喚きながらステージを走り去る。その後、オーケンがいないためおいちゃんが「未使用引換券」を歌ったが、歌い終わってもオーケンは戻ってこず、ついに内田さんに「まだあのキチガイ戻って来ないね」と言われてしまっていた。実に的確だと思う。
おいちゃんの「未使用引換券」は格好良かった。あまり、おいちゃんのボーカルをメインで聴く機会が無かったから知らなかったのだが、ワイルドで色っぽい歌声だと思う。おいちゃんが歌い終わった後に内田さんが「かっこよかったね」と言ったのにはうなづかざるを得ない。ただ、マイクの設定のせいか、若干声のボリュームが足りなかったのが惜しい。
オーケンがまだ戻らないため、今度は内田さん、おいちゃん、橘高さんの三人で交代しながら「日本の米」。格好良い!! これはこのままこの三人で定番化しても良いんじゃないか、と思うほど。だが、日本の米の終わり頃にオーケンがステージに戻ってきて、少しだけ歌ってくれたのだが、このときはやはり、しっくりくるなぁ、と思った。染み付いているのである。
他、ぐっときたのは「ハッピーアイスクリーム」「航海の日」「レセプター(受容体)」「ワインライダー・フォーエバー」。「ハッピーアイスクリーム」は何と言っても掛け合いが楽しい。思い切り声を出せなかったのが非常に残念だったが、それでも久しぶりに聴けて興奮した。
「航海の日」は確かエディの出だしで始まっていたように思う。こうして少しずつ、ライブを重ねるごとにアレンジが加わっていく、というのは個人的には非常に好みなので、今後もどんどん膨らんでいってくれたら嬉しいな、と思う。
「ワインライダー・フォーエバー」は何とアンコールのラストに演奏された。アンコールでオーケンが血染めの白衣を着ていたこと、ライブタイトルが「四半世紀中」であることもあって、「中2病の神ドロシー」が最後に来るだろうと予測していただけに驚いた。全く予想していない一曲だが、多幸感に包まれながら終演を迎えることができたので、これはかなり、すごく良いと思った。
それと、ワインライダーでメンバーがラップに入る際、オーケンが「うっちー!」「ふーみん!」「おいちゃん!」とそれぞれの名前を呼んで盛り上げていて、とはいえこのパターンだとオーケンだけ名前を呼んでくれる人がいないなと思いきや、橘高さんが「大槻!!」と呼んでくれたのが、まるで自分のことのように嬉しかった。オーケンがメンバーに「誰か俺の名前を呼んでー!」とねだっているところを何度か観たことがあるだけに。欲を言えば「大槻」でなくあだ名の「オーケン」だったら尚ナイスだったので、次回はよろしくお願いします橘高さん。
追い出しにかかったのは今度対バンするJUN SKY WALKER(S)の「Let’s Go ヒバリヒルズ」。普段、比較的早くステージを去ってしまうオーケンがにこにこしながらステージをうろうろして、「サビのとこだけ歌いたい!」と言っていたのが印象的だ。そして最後は何故かサビの部分を皆で合唱。どうして筋少のライブの最後の最後で、JUN SKY WALKER(S)を合唱して心を一つにしてるんだ、と思うと笑えてきそうになった。
そういえば。今回、「踊る赤ちゃん人間」を最後の方にやったのだが、前半で元気を使い果たしたオーケンが若干ばてて、半ば義務感で「あばばあばば」言っている様がおかしかった。あんなに陶酔していない状態での「あばば」は初めて見た。貴重なものが見られたと思う。
あとこれも。橘高さんはライブで地方に宿泊する際、ホテルのシャワーの水圧が低くて我慢ならないことが多いため、マイシャワーヘッドを三つ持ち歩いているそうで、シャワーの水圧について力説していたものの、内田さんはステージから完全にいなくなり、おいちゃんはステージの隅で座り込み、あのオーケンのラジャサン云々のオカルトトークでさえ皆ステージに残って聴いてくれていたのに何で橘高さんだけこんなにアウェーなんだ、と思った。
このとき内田さんがいなくなってから、オーケンは「うっちーに話したいことがあったんだけどなぁ」と何度か口にしていた。そしてライブの後半でふとそのことを思い出したオーケンが、「十二月三十一日暇?」「予定が無かったらのほほん学校を年越しでやりたいんだけど」と内田さんを誘った。年越しのほほん! まだ会場の空きを確認していないそうなので確定してはいないものの、内田さんも予定は無いとのことなので実現するかもしれないそうだ。行きたいなぁ。でも大晦日だからなぁ。
ただ、行けなくても楽しそうな催しが次々と現れてくるのは嬉しいことだ。まずは十二月二十三日。年内最後、思いっきり楽しむぞ!