2014年11月17日(月) 緑茶カウント:1杯
人は死んだら脈が止まる。冷たくなる。目を開かなくなる。喋らなくなる。そこまでは理解出来るのに、この人の、中に蓄えられた知識と経験と技術が、全て消えてしまったことが、未だに信じられずにいる。
何年前のことだろう。何かで「美味礼賛」という本を知り、これは面白そうだ、読んでみたいと思いながら、そのことを何気なく母に語ったところ、母は居間を出て行って二階へと上り、戻ってきた母の手には「美味礼賛」の文庫があり、己は舌を巻いたのだ。適わないなぁ、と思った出来事である。
母の知識の片鱗が本という形で実家に堆積している。葬儀の後一週間、ひたすら家にこもって母の所有していた本を読んでいた。没頭しながら呆然としていた。これを読んで、様々なことを語り、面白おかしく教えてくれた人の知性が既にこの世に無いのがどうにも信じられなかった。
なるほど、霊魂を信じた人々の気持ちが今ならわかる。たったこれだけのことで、何十年も生きた人の知性が消えてたまるかと思いたくなる。霊媒師にすがりたくなる人もいるだろう。わからなくもない。
わからなくもないが己はそこに向かわないことを自分自身でわかっている。ただ、やはり信じられない。
そしてまた、己は母親と同時に、趣味仲間でありオタク仲間を亡くしてしまったことにたびたび気付き、趣味を共有出来ない寂しさを感じている。たま、筋肉少女帯、平沢進。水木しげる、大島弓子、萩尾望都、山岸凉子、ベルサイユのばら、動物のお医者さん。司馬遼太郎、清水義範、町田康。吉田戦車、いがらしみきお、西原理恵子、みうらじゅん。あぁ、まだまだキリが無い。VOW!やニコニコ動画も母経由で知ったのだ。
母はエディのピアノと橘高さんのギターが好きだった。そのくせ、筋少のDVDが観たいというので一緒に観ても、ずーっと喋ってばかりでろくに観やしないのだ。忌々しく思ったこともあったが、たまに帰省する子と趣味のものを観ながら酒を呑みつつ話すのが楽しくてたまらないのだと理解してからは腹も立たなくなり、DVDを流しながら母の話に付き合うようになった。
また、あの時間を過ごしたかったなぁ。