思いがけずもこの日は普段の五倍はストレスがかかる日で、「すらすら漢字が書けるなんてすごいですね。パソコン使えないんですか?」という脳が腐ったような問いかけを連発され精神が疲弊していたのだが、ライブ後、蓄積された疲労とストレスは全て霧散し、ただただ楽しかった多幸感を胸に抱きしめ、終演後会場にかけられた「気もそぞろ」を聴きながらふわふわと歩いたのだった。
開演前に物販に並び、欲しかったグッズを手に入れてドリンクカウンターに行き、ホットドッグとビールを両手に持っていそいそとベンチに腰を下ろした。ホットドッグは生地がもちもちしていて思いのほか美味しく、ビールがシュワシュワと咽喉をくすぐり徐々に疲労を溶かしていく。鞄の中には買ったばかりのディオネア模様のTシャツとタオルに、缶バッヂ、そしてオーケン弾き語りCDにオーケン物販のディオネアシャツ。今日は嫌なことがあったがこうして会場に来ることができたし物販も買えたしビールも美味い。よっしゃ。気を取り直してライブを楽しもう!
しかし、気を取り直そうと努力をする必要もなく、最高に楽しいエンターテイメントによって己の笑顔は満開になったのであった。
発売日から毎日毎日、飽くことなく聴き続けた新譜の発売記念ライブ。どのアルバムも大好きだが、とりわけこの「Future!」は自分にとって特別なものに感じていた。それは偏に「告白」の存在が大きいだろう。自分は決して「告白」で描かれる人物そのものではないが、何とも言えない居心地の悪さ、努力して擬態した結果完璧に仲間と勘違いされる自業自得のしんどさに苛まれることが少なくない。この歌は決して救いを提供するものではないが、「あ、オーケンの視界にはいるんだ、こういう人が」と感じさせられることこそが救いそのものなのである。
EXシアター六本木のやわらかな椅子に腰を沈め、開演のときを待つ。そして照明が落とされたかと思うと会場に響き渡るのは歓声と「週替わりの奇跡の神話」! 喜び勇んで席を立てばステージにメンバーが現れ、始まったのはアルバム一曲目の「オーケントレイン」!
ライブで初めて聴いていることが嘘のように自然と合いの手の拳が入るのは、何度も何度も聴き続けたからだ。「ガッタン!」「ゴットン!」「シュポシュポ~」って、なんて可愛らしい合いの手なんだろう! 最後の語りもがっつり語ってくれて嬉しかった。
二曲目の「ディオネア・フューチャー」では何と! マイクを片手に黒尽くめのエディが上手から現れ「無意識! 電波! メッセージ!! 脳! Wi-Fi!!」と低いシャウトを響かせながらステージを横断するサプライズ!! あまりの格好良さに思わず悲鳴が出てしまった。エディに心臓を撃ち抜かれた……。
人から箱男まではアルバム順で、ここから急に「ハニートラップの恋」へ! そして次が意外な一曲「新興宗教オレ教」! 腕を前に出し、両肘を触るあの「UFO」のポーズをとるオーケン。この曲、もしかしたらライブで聴くのは初めてかもしれないなぁ……と思っていたらすごいことが起こった。
オーディエンスに対し、この曲を覚えているかい? と問いかけ一緒に歌うことを促すオーケンだが、思いっきりズレたのである。「あれ? 今日はこういうアレンジ……なのかな?」と疑問に思うもやはり何かがおかしい。しかし流石の筋肉少女帯。ズレたまま完走しきったのである! これ、楽器隊は焦っただろうなぁ……。
「これでいいのだ」でタオルを振り回し、「わけあり物件」「エニグマ」へ! 妖しさと格好良さが共存する素晴らしいステージで、楽器隊に見入りつつ、ドラム台の上でシャウトを続けるオーケンにゾワゾワし、本当にもう、目が足りない! 生の迫力にただただ圧倒された。
「告白」「奇術師」「サイコキラーズ・ラブ」は着席して聴いた。「告白」で無限に繰り返される「テレテレテレテレ」は録音で、さもありなんと思いつつこれも生でやってほしかったなーと思った。
「奇術師」はじっくりと橘高さんのギターが堪能できて幸せだった。以前「家なき子と打点王」をライブでやるときに、冒頭で橘高さんのギターソロがあってあれが最高に好きで、またやってくれないかなぁ、と願っていただけに嬉しい。ミラーボールがくるくる回り、鱗のような白い光が会場をくるくる泳ぎ、その中でしっとりともの悲しい、胸を締め付けられる音色が響きわたる。ほう、と自然ため息が出た。
ついにバンドバージョンで聴けた「サイコキラーズ・ラブ」。聴きながらこれはサイコキラーに向けた曲ではなく、サイコキラーではないけれど、居心地の悪さを感じている人々のための曲なのだろうなぁ、と思った。
「イワンのばか」で立ち上がって大いに盛り上がり、久しぶりの「心の折れたエンジェル」! 「釈迦」でシャララシャカシャカ大暴れし、本編最後は「T2」! 「異議なし!!」と思いっきり拳を振りぬく気持ちよさよ。濁流を泳ぎきったような清清しさがあった。
アンコール一曲目は「3歳の花嫁」で、やはり涙腺が刺激された。「いくら3歳とはいえ人生における大事なイベントを父親とってどうなんだ、大丈夫か」と父親と娘に対し不安になる物語で、最後まで聴いたところで父親の印象が好転することも特にないのに、「空に向かって手を振るちっちゃな手の愛らしさ」で感動させられてしまうこの曲はすごい。
「人間嫌いの歌」が始まったときはニヤッとした。「告白」をやったその日にこの歌をうたう、そんなオーケンが大好きだ。
最後は「サンフランシスコ」で思いっきり飛び上がって締め。座席ありのライブだと前後左右に空間があるので思いっきり飛べて嬉しい。
MCではオーケンが仮面ライダーに出演する話と、ラジオで一番受けるのはパンの話、ということで繰り広げられるパントークにおいちゃんが「物パン」とうまいことを言ってオーケンを驚かせる、などなど盛りだくさんで、毎度のことながら大いに笑い、叫んで、飛んで、そりゃあもうストレスなんかどこかに吹っ飛んでしまうよなぁ。
開演前にドリンクチケットを引き換えたがどうしても余韻に浸りたくてビールを一杯買い、ふわふわしながら呑んだ。咽喉の奥で炭酸がシュワシュワ弾けた。美味しかった。何もかもが心地良かった。
オーケントレイン
ディオネア・フューチャー
人から箱男
ハニートラップの恋
新興宗教オレ教
これでいいのだ
わけあり物件
エニグマ
告白
奇術師
サイコキラーズ・ラブ
イワンのばか
心の折れたエンジェル
釈迦
T2
~アンコール~
3歳の花嫁
人間嫌いの歌
サンフランシスコ