半年ぶりの筋少ワンマンライブで、己は太陽に焼き殺された。真夏でもなく炎天下でもない九月下旬、ライブハウスの暗闇の中で太陽に焼き殺された。
何の心構えも無く、何気なく開いた封筒から出てきたのは最前列が約束された整理番号。え? あれ? 何だこの番号……とぼーっとしつつ現実を受け止め、「えっ、マジで」と一人部屋の中で呟いた。
再結成から筋少のライブに通い続けているが、今までスタンディングのライブで最前列に行けたことは一度も無かった。ハイストレンジネス・チケットメンバーズが発足されるまではだいたい八百番くらいの整理番号が常で、たまに四百を引き当てると嬉しくて小躍りしたものだ。
故に想像できるだろう。どれほど嬉しかったかを。
何かしらのうっかりで会場に入れなくなることが無いよう、小銭を大量に用意して現地に向かった。そして無事会場に着き、番号を呼ばれていそいそ並び、走り出したい気持ちを抑えて中に入った。
初めて見たよ、ステージの前がぽっかり空いていて、人々がパラパラと吸い寄せられるようにバーに掴まる嬉しげな光景を。
自分も大人だが、大人があんなに嬉しそうにしている背中を見たのは初めてだったかもしれない。
己も同じように吸い寄せられ、しっかりと最前列の柵を握る。わくわくして、そわそわして、落ち着かなかった。後ろを見やれば既に人々の列が出来ていて、まっさらだった空間にどんどん人が詰め掛けていく様子がどうにも不思議な心地がした。
何も遮るものがない視界を楽しみながら、スタッフの方々が準備をする様子を眺める。MC表だろうか、オーケンの手書きと思われる紙を黒いテープで入念にステージの床に貼る様子が見えて、今日はいったいどんなに面白いことが語られるだろうとわくわくしてたまらなかった。
自分が立ったのはちょうどおいちゃんとオーケンの間のあたり。
そして己は、おいちゃんという太陽に焼き殺されたのだった。
すごかった。やばかった。たまらなかった。
おいちゃんと目が合ったという錯覚に陥った瞬間、その一瞬の間、確かに己は恋に落ちた。心臓が止まりそうになった。まぶたの閉じ方を忘れてしまい、目を離すことが出来なくなった。
格好良かった……。
ド迫力の笑顔と時折見せる苦しげな表情。ガシッとスピーカーに足を乗せて前のめりになってオーディエンスを煽れば、そのブーツが己の目と鼻の先にあって、実体の生々しさが凄まじかった。いや、知ってるんだ。おいちゃんが実在することは。知っているのだが、それでもその迫力があまりにもすごくて、ブーツを編む糸目まで数えられるくらい近くて、圧倒されっ放しだったのだ。
そして本編最後。退場しようとするおいちゃんがひょいと投げてくれたピックが。「ディオネア・フューチャー」を演奏してゴリッと削れたピックが、すっぽりと手のひらの中に収まったのだ。
まるで、自分のために投げてもらえたかのように、錯覚しそうになるほどにそれは、すっぽりと手のひらに収まったのだ。
死ぬかと思った。
震えながら手のひらを開くと、本当においちゃんのピックが手の中にあった。おいちゃんのピックを手にしたのも初めてだった。信じられない宝物をもらった気持ちになった。
「ワインライダー・フォーエバー」から始まり、ワンマンでは珍しい「元祖高木ブー伝説」と最近あまり演奏されない「日本の米」が聴けたのが嬉しかった。「日本の米」はオーケンが咽喉の手術を受ける前にメンバーが歌っていたのを聴いたのが最後だろうか。こうしてまた、オーケンの歌う「日本の米」を聴けるようになって嬉しい。あの手術も思えば随分昔のことのように感じる。そう感じられるようになって本当に良かった。
中央にスタンドマイクが運び込まれ、何が始まるかと期待したら大好きな一曲、「僕の宗教へようこそ」! やったーーーーこれを聴けるとは! これ! これを歌うときのスタンドマイクを操る妖艶な手つきが美しくて好きなんだよなぁ。
新曲からは「ネクスト・ジェネレーション」と「オカルト」が披露された。さらに! 「オカルト」はMV撮影もここで行われたのでびっくりである。まず誰もいないステージで「オカルト」の録音を流してオーディエンスが曲の流れを把握し、その後メンバーとカメラマンがステージに現れ、曲を流しながらあて振りを行い、オーディエンスはさながらライブに参加しているかの如く腕を振り拳を突き上げ盛り上がるという演出だった。わー、面白いなぁ。
ちなみにプライバシーを配慮してオーディエンスの顔には全てモザイクをかけるとのこと。ど、どんなMVに仕上がるんだ……? 若干の疑問を残しつつ、最前列ということは己の腕が映っているかもしれない。おお、ドキドキしてしまう。見つけられるかな。見つけられたら嬉しいな。
「ネクスト・ジェネレーション」は歌詞が聞き取りづらかったため全容を把握できなかったが、故にCDで聴くのが尚更楽しみになった。早く歌詞カードをじっくり読みたい。
「ゾロ目」はまさかのおいちゃんと橘高さんの弾き語り! おいちゃんふーみんの弾き語りライブで圧倒されたそれをまさかまた筋少のライブで聴けるとは! 本当に、この曲を弾き語りで、アコースティックギターでやる凄まじさに脱帽する。橘高さんの迫力ある歌声に重なるおいちゃんの分厚いコーラスが美しい。
ちなみに弾き語りライブでは「あなたと愛したあの日まで」と橘高さんはよく歌っていたが、今回は原曲どおり「恋した」になっていた。
「ムツオさん」も久しぶりで嬉しかったし、「ハッピーアイスクリーム」は掛け合いの中で日常ではなかなか言えない言葉を大声で叫べるのが楽しくてたまらない。この叫ぶという行為もライブの醍醐味だよなぁ。
本編最後の「ディオネア・フューチャー」でステージ前に出てきてコーラスを絶唱するエディに夢中になった記憶はあるものの、前に書いたおいちゃんからのプレゼントにより、他の記憶のほとんどは吹っ飛んだ。
アンコールが終わった後、新しい赤い衣装に身を包んだおいちゃんが客席に手を伸ばしてくれて、おいちゃんがちょうど己の真上にいて、おいちゃんの衣装から垂れる何本もの赤い紐が雨のように降り注いで顔や手に触れて、わあ、わあ、わあ、わあ……と声にならないほど興奮して、最後、手を握ってもらえて、死ぬかと思った。
死ぬかと思った。
橘高さんにも手を握ってもらえて、ありがたくて、嬉しくて、頭がポワポワして、興奮でふらふらしながら物販に並んだらオーケンのチェキも買えて、一日にいろんなものを、絶景と握手とピックとチェキと最高の演奏と楽しいMCを一気に受け取ってしまって、ちょうど、今ちょっとへこんでいる時だったから、筋少はいつも、己が参っているときに素敵なものをくれるなあと嬉しくなって、がんばろ、と思いながら家路に着いた。
本当に最高の一日だった。ありがとう、筋肉少女帯。ありがとう、おいちゃん。
きっとこのピックがあれば、辛いときも乗り越えられるに違いない、と信じて。
ワインライダー・フォーエバー
トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
LIVE HOUSE(おいちゃんボーカル)
元祖高木ブー伝説
日本の米
カーネーション・リインカーネーション
僕の宗教へようこそ
ネクスト・ジェネレーション(新曲)
ゾロ目(おいちゃん・ふーみん弾き語り)
サイコキラーズ・ラブ
イワンのばか
ムツオさん
ハッピーアイスクリーム
ディオネア・フューチャー
~アンコール~
オカルト(新曲。演奏はせず完成品を流す)
オカルト(当て振りでMV撮影)
香菜、頭をよくしてあげよう
釈迦