回=回(Kai equal Kai) (2018年11月16-17日)

毎回のように書いている気がするが、それでも何度も書きたくなるのはライブ会場で目にするたびにひしひしと実感してしまうからだろう。

あぁ、平沢進はこの世に実在するんだ、と。
そして、それをリアルタイムで観られる喜びを。

「回=回」東京公演の二日間に参戦し、のっけから喜びで心が爆発して、その瞬間だけは胸の中に溜め込まれていた様々な日常の不安や悩みが霧散し、その代わりとばかりに注入され充填されたのは感動と興奮で、固く手を握り締め、ずっと聴きたかった、でも聴けないと思っていた、今のヒラサワの声による「いまわし電話」に涙が流れそうになった。

だって、核P-MODELのライブで、今この平成が終わろうとする世で、「いまわし電話」が聴けるなんて誰が想像できるだろう。全くできなかった。予想も期待もしていなかった。だから嬉しかった。

白髪のヒラサワから奏でられる伸びやかな歌声をただただ全身に浴びる一時間半とその二日間。時折水を飲む以外は休むことなくステージに立ち続けるエネルギーと、オーディエンスを楽しませようとする様々な演出。今回はヒラサワの代名詞とも言える楽器レーザーハープの登場はなかったが、それを思い出させたのはライブが終わってしばらく経ってのことだった。それ以上に印象的だったのはあの「ギター嫌い」を強調するヒラサワがずっとエメラルドグリーンのギターを抱えていたこと。「幽霊飛行機」で両脇の会人と共に揃いの赤いギターを抱え、膝を折り首を振るコミカルな動きを挟みながら演奏する様を見て、誰が彼の人がギター嫌いと信じられるだろうか! と思わずにはいられない。無論、己も信じていない。

核P-MODELのライブの感想で恐縮だが、一日目は「いまわし電話」「Zebra」、二日目は「2D or not 2D」「OH!MAMA」に興奮せざるを得なかった。特に二日目は一曲目が「2D or not 2D」で、でかでかとステージ上のスクリーンに映し出されたあの懐かしの情緒あるCGを目にした瞬間の興奮は忘れられない。あぁ、この曲を聴けるのか! 今のヒラサワの歌声で聴けるのか、歌ってくれるのか! と!

「Zebra」の伸びやかな声はいつまでも聴いていたい美しさで、「OH!MAMA」はこれまた予想していない一曲だっただけに咽喉から悲鳴が搾り出されてしまった。ヒラサワのアルバムでは「LIVEの方法」が死ぬほど好きで、これを何度も何度も繰り返し聴いている身としてはたまらないものがある。あぁ、こうなると、いつか、「ATOM-SIBERIA」を聴きたいと欲を出してしまう。そして、いつか聴けるのではないかと希望を持ってしまう。

ありがとう、ヒラサワ。

「回=回」ではギターを横に倒し、まるで銃口を突きつけるかの如くネックをオーディエンスに向け、「遮眼大師」では下手に立つ会人「鶴」が在宅オーディエンス用のカメラを抱えて振り回し、オーディエンスやヒラサワを映し出す。あのカメラも凝っていたなぁ。てっぺんに大きく「回」の文字があしらってあって、カメラというよりも銃器か何かのような迫力があった。

そう、今回のライブではヒラサワを挟んで両脇に白会人の「鶴」と「松」がいた。鳥の頭を彷彿とさせるデザインの人物で、ヒラサワ曰く第9曼荼羅の会人とは中身が違うそうだ。ということで、会人は合計四人いる。しかしヒラサワの数には敵わないとうそぶくあたりが面白い。自らそれをネタにしてくるのか。

話が逸れたが、この会人二人のパフォーマンスがコミカルで実に良かった。己は一日目は下手側、二日目は中央寄りの上手側に立っていて、ステージ全景が見渡しやすかったのは一日目、ヒラサワだけをひたすら凝視しやすかったのは二日目だった。故に、会人の動きは一日目の方が印象に残っている。主に鶴。嘴をくいっくいっと動かすかわいらしい動きに、「それ行け! Halycon」で熱狂のキーボードソロを奏で終わると思うか否か、もとの立ち位置に戻り「あぁ~」とばかりに何かを後悔するかのように頭を抱える仕草。そうそう、会人二人にはふかふかの座り心地の良さそうな黒い椅子が用意されていたのも印象的だった。そこに座り、会人二人はタッチパネルのような楽器を奏で、立ち上がってはギターを爪弾き、カメラを抱え、キーボードを弾き、大忙しに動き回っていた。それでいて、忙しさを感じさせない動きが実にキュートだった。

二日目の「それ行け! Halycon」は特別だった。なんと、ギターソロを奏でる以外はほとんど中央の立ち位置から動かない平沢が、棒状のカメラを掲げ、頭上で振り回しながらゆったりとステージを上手から下手へ、下手から上手へと歩き回ったのである! 考えてみるとただステージを移動しているだけとも言えるのに、飼い慣らされたオーディエンスは大興奮で、己も日常では出したことのないような声を出し、拳を振り上げ、ぐるんぐるんカメラを回しながら歩きながら歌うヒラサワを凝視した。

ちなみにアンコールのMCでこれがカメラであるとヒラサワから説明を受けるまであれが何かわかっていなかったため、己は本当にただの棒をヒラサワが振り回していると思っていた。ヒラサワ曰く、今後使う人が増えそうなので今のうちに使ってしまえ、とのことである。振り回すカメラが映すのはヒラサワだそうだ。どんな映像が撮られているか興味深い。

新曲もかつての曲もたっぷり聴けて最高の二日間だった。核P-MODELとしてはまだアルバムが三枚しか出ていないためにまだまだ新人と名乗るヒラサワのおかしさったら。大混雑するドリンク列を抜け、ビールで咽喉をうるおしながらせっせとスタンド花から花を引き抜く人々を見て思う。あぁ、これから日常へ帰るのか。ZEPP 東京の頭上には巨大観覧車が非日常の光景を訴えかけてきているが、これから己は電車に乗って日常へと帰る。それでも、このひとときを、ヒラサワという非日常の存在を間近で観られた喜びを胸に、しばらく夢見心地を味わえそうで、それを反芻しながら生きていきたいと思う。

本当に楽しい二日間だった。



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