筋少シングル盤大戦! (2017年5月20日)

楽しかった。楽しかった。楽しかった、が。体力の衰えを実感せざるを得ず、流石にこれはまずかろうと焦る次第である。
何がつらいって、腕を挙げっぱなしにするのがつらいのだ。

「筋少シングル盤大戦!」なるライブタイトルのとおり、シングル曲のみで組まれたセットリスト。シングル限定、なれば定番曲ばかりかと言えばそうでもなく、久しぶりに聴く曲もあればレア曲もあり、「筋肉少女帯のシングルの意味とは」というオーケンのMCに納得しつつも笑いがこみ上げる。ライブのコンセプトゆえ再結成後の曲は少なめで、「混ぜるな危険」「人から箱男」「ツアーファイナル」「仲直りのテーマ」の四曲のみ。前回の「猫とテブクロツアー」はセカンドアルバムの「猫とテブクロ」を完全再現するライブであったこともあり、存分に楽しみつつも再結成後の曲の数々にも恋しさが募る。あぁ、だって欲しがり神様だから!

とはいえ行きの電車の中ではシングルのあれこれを頭に思い浮かべ、あれが聴けるかこれが聴けるかとわくわくし、一曲目で待望の「暴いておやりよドルバッキー」が始まったときはもう喜びもひとしおで、「待ってました!!」と叫び出したくなりながら、内田さんの野太いコーラスに合わせてバッキーバッキードルバッキー! と拳を振り上げたのである。

そしてこれが今日のセットリストである。改めて見ると「これがシングルだったのか」と気付かされて面白い。と言うのも己は筋肉少女帯の活動休止中にファンになってアルバムを買い揃えていったため、リアルタイムでシングルの発売を見てこなかった。故に「シングル曲」への意識が薄いのである。


暴いておやりよドルバッキー
君よ!俺で変われ!

混ぜるな危険
小さな恋のメロディ
僕の歌を総て君にやる(ふーみんver)

人から箱男
バトル野郎~100万人の兄貴~
元祖高木ブー伝説

氷の世界(アコースティックver)
蜘蛛の糸(アコースティックver)

トゥルー・ロマンス
ツアーファイナル
タチムカウ -狂い咲く人間の証明-

サボテンとバントライン
221B戦記

~アンコール~
香菜、頭をよくしてあげよう
仲直りのテーマ
釈迦


立ち位置は真ん中の四列目あたりで、パワフルな人々がぎゅんぎゅんづめのゾーンである。誰かの振り上げた腕で首や顔を圧迫され、腕を下ろすにも下ろし場所がない、そんな密集地帯である。とはいえ最前付近は毎度その様子なので己も慣れていて、無理に腕を下ろすのを諦め、ドルバッキーで挙げた腕をそのまま挙げっぱなしにしていた。していたら。

腕が痛い。じりじり痛い。

今まで挙げっぱなしにしていても何もしんどさを感じることのなかった腕が。無理矢理下ろすよりもむしろ楽に感じることさえあった腕が。痛いのである。特に二の腕がつらい。

これは……明らかに筋力が低下している……。

身に覚えはある。最近運動出来ていなかった。引き締めねばまずいとも感じていた。しかしそれにしてもこの程度で。たかだか腕を挙げているだけで!

下ろせない腕を掲げながらステージの上にいる二十歳年上の方々を観る。パワフルである。パワフルである。鍛えよう、と思った。次の秋のツアーまでには、腕を挙げっぱなしにしても耐えられる筋力をつけようと心に誓った。

このように序盤から腕の痛みに苛まれ体力の低下に絶望的な気分を抱いていたが、腕が痛くても体力がなくても筋少のライブはやはり楽しい。ちなみに今回演奏されなかったシングル盤は「踊るダメ人間」「リルカの葬列」「週替わりの奇跡の神話」の三つ、加えて筋少以外では「ボヨヨンロック」と「地獄のアロハ」。「リルカの葬列」は今日も聴けるかなと期待していたのだが念願叶わず。だが! きっとまた機会があるはずだ!

今回MCが結構長めで、それぞれのシングルにまつわるエピソードを一つ一つ丁寧に語ってくれた。筋肉少女帯は不思議なバンドで、シングルになっているけどPVは作られていない曲、PVは作られているけどシングルにはなっていない曲がある、という話が興味深かった。例えば「ストリートファイターII」のタイアップ曲「バトル野郎~100万人の兄貴~」は、CMがあるからPVはいらなかろう、という判断のもと、B面の「じーさんはいい塩梅」のPVが作られたという。

それにしても何故B面に「じーさんはいい塩梅」を入れたのか、むしろそちらの方が不思議である。ストIIに惹かれてシングルを購入した人はかなり面食らったのではなかろうか。

と言いつつ、そういうことをしてしまう筋少ちゃんが好きなのだ。

PVについての話も。「蜘蛛の糸」「リルカの葬列」「トゥルー・ロマンス」のPVもあるのだが、これらはあまり表に出ていないという。「観たことある人いるー?」というオーケンの問いかけにちらほら手を挙げている人がいたが、数は多くないようだった。これらがあまり露出していないのは、当時「MCAビクター」在籍時に作られたもので、MCAビクターがなくなったことにより、幻の作品になってしまったとのことである。「トゥルー・ロマンス」は石井聰亙監督(現在は石井岳龍の名で活動)の作品で、後にオーケンが石井監督のイベントに呼ばれたとき、オーケンか石井監督が所持していた「トゥルー・ロマンス」のVHSを流そうとしたことがあったそうだ。ところが劣化していて映像は真っ白。観られなくなってしまったそうである。

また、「蜘蛛の糸」のPVはメンバーが回転する映像を撮るために、カメラを回すのではなく実際にメンバーをぐるぐる回したため、撮影後気持ち悪くなったそうだ。そんな中華の回転テーブルの上に立たせるような手法で撮影するとは、何てアナログなのだろうか……。

「小さな恋のメロディ」は最近橘高さんの担当曲になっていたため、オーケンの歌唱を聴くのは久しぶりである。本来は橘高さんの歌唱がレアなはずなのに、「お! オーケンが歌うんだ!」とわくわくする自分がおかしかった。そして意外や意外、次の「僕の歌を総て君にやる」でオーケンがステージからいなくなり、中央にピックがずらりと並んだマイクスタンドが設置される。なんと今回は橘高さんが! 橘高さんの歌を総てくださるそうだ!!

いやー良かった。橘高さん独特の力強く響く声で、噛み締めるように紡がれる言葉。そして「僕の歌を総て君にやるよ」の「君に」のところで指差す手の先がちょうど自分のいる場所で、勝手に総ていただいた気分になれ、ぐわっと胸中から湧き起こり全身に浸透する多幸感。こういうのは思い込んだ方が良い。

思い込みつつも、「僕の歌を総て君にやる」のあるシーンでエディがキーボードに背を向けながら素早い腿上げのような不思議な踊りを踊っていて、熱唱する橘高さんの後ろでそんなコミカルなエディが見えるので、それが大層面白く、このシリアスなだけではなく、一筋縄ではいかないところが筋肉少女帯だよなーなんてことを思ったりした。

「人から箱男」もレコード会社から不思議なタイミングで提案されたシングルだったそうだ。確かに、発表されたときに「嬉しいけど何故?」と思ったものなぁ。この曲は「ボックスマン! ボックスマン!」と畳み掛けていく迫力が最高に好きだ。オーケンの歌いなれていない様子も初々しい。

久しぶりだから対応できるかな、と前置きの後オーケンがマイクをオーディエンスに向け、投げかけられた名前に呼応して力いっぱい叫ばれたのは「ブー!!」の一声。高木ブー伝説! 「高木ブー伝説」はエディのきらびやかなピアノの音色が印象的な一曲で、ライブで聴く機会は少ないものの、聴くたびにエディの音色を耳で追ってしまう。綺麗なんだよなぁ。

アコースティックコーナーでは「氷の世界」と「蜘蛛の糸」。「氷の世界」ではおいちゃん、オーケン、うっちー、ふーみん四人全員がアコースティックギターを爪弾くという貴重なシーンを観ることが出来た。しかしオーケン、ギターは持つものの自信がないのかスピーカーには繋げずにギターを抱いて、「聴かせてあげないよ!」とオーディエンスに笑っていた。

シングルに収録されている「氷の世界」を仮にロック版と言うならば、アコースティックの「氷の世界」は、ロック版の身を削られる苦しさがない代わりに、ゆったりと色っぽかった。ロック版はそれこそ吹雪の中、外で身を凍えさせながら苦しさに叫ぶ姿が想起される。対してアコースティック版は暖炉のある暖かい部屋の中で窓の外を眺めながら、蒸留酒とともに胸中の苦しさを舌の上で転がしている、そんな苦さが感じられるのである。

「氷の世界」の後、内田さんはアコースティックギターからウクレレベースに持ち替え、オーケンが「歴史にたらればは無いですが、もし高木ブー伝説の後にこの曲が発表されていたら、筋肉少女帯はシリアスなイメージを持たれていたかもしれないですね」と語り、でも今の筋少が良い、と笑って一呼吸後に始まったのが「蜘蛛の糸」だった。

「蜘蛛の糸」。昨今は「皆で歌おう!」というオーケンの呼びかけのもと、「大丈夫大丈夫……」と合唱することが多く、歌詞があの内容にも関わらずハッピーな気分になってしまっている曲である。全く大丈夫じゃない状況を「大丈夫大丈夫」と大勢で合唱するのは楽しくもあり、不安感が煽られる怪しい行為でもある。それは楽しくもあり、違和感もあった。

少女の嘲笑はなく、しっとりと始まる。アコースティックギターの調べの中で存在感を示す重いベースの音。ゆったりと暗く紡がれる音色にはゾッとする危うさがあり、少年がぐらぐら心を揺らし、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせながら、眠れないまま布団の中で息をしている様が感じられた。激情に駆られていないだけに、怖い。

「トゥルー・ロマンス」の始まりの、鐘の音を再現した橘高さんのギターの音色が好きだ。あぁ、死んだ恋人がゾンビになって戻ってくる歌なのに、どうしてこんなに多幸感に包まれるんだろう。それはきっと、優しい「肯定」だけがある世界だからだろうか。この明るくあたたかな色合いがたまらなく大好きだ。

「サボテンとバントライン」では緑のライトによってステージが彩られ、底抜けに明るい音楽と寂しい物語の対比が美しかった。

本編最後は221B戦記。もしかしたら初めて聴いたかもしれない。アンコールでは「仲直りのテーマ」で驚いてしまった。そうだ、これもシングルだったんだ! 初めて買った筋少のシングルなのに、シングルという意識が抜けていたのはアルバムで繰り返し聴くことの方が多いからだろう。「なーなーななー♪」と合唱するのが楽しい。

「釈迦」で全力を出し切り大いに盛り上がり、燃え尽きるように終演。ステージから次々とメンバーが立ち去って行く中で、いつものようにおいちゃんとふーみんが残ってピックを投げたりしてくれた。そして! おいちゃんが! 目の前でしゃがみこんで! 手を伸ばすオーディエンスに応えてくれて! おいちゃんの腕を! がっつり! 触れた!!!!

おいちゃんの腕はがっしりしていて熱くて固かった。
鍛えようと思った。

次のツアーは十一月。およそ半年後のその日が来るまでに、挙げっぱなしにしても疲れない筋力を手に入れよう。頑張ろう。頑張る。



未分類10杯, 筋肉少女帯, 非日常