宮川企画「マイセルフ、ユアセルフ」 (2015年11月21日)

この「宮川企画」の趣旨を全く把握しないままにチケットを取ったのは憧れの町田康が出演するから。「汝、我が民に非ズ」というプロジェクト名にて、ついに町田康がライブをやってくれるから。

そして。結局己はこの「宮川企画」が何を意図した企画だったのか知ることなく帰路に着いたのだが、ただただ多幸感。あぁ、だって、やっと町田康の歌を、姿を、生で堪能出来たのだから!

前から二列目で視界も良好。町田康の前に三組の出演者がステージに現れ、それぞれ楽しんだり合わないなーと思ったりしながら町田康の登場を待ちわびた。リアルタイムでサンプリングしながら歌う「UHNELLYS」は面白く、日本語ラップの「MOROHA」は、言葉と声に力強さを感じつつも自分の好みには合わなかった。台詞量が非常に多いので、西原理恵子や新井理恵のふきだしみたいな密度だな……と思ったことは印象に残っている。「行方知れズ」はすごかった。というか客の盛り上がりがすごかった。叫びながら踊り狂うはステージに乱入するはダイブが発生するわと直前までの空気から一変。横を見ればステージに背を向けて携帯電話を片手に自撮りを行う者もいる。おいここ写真撮影禁止だろうが、だめじゃないか何だこれ。今までこういうノリのライブに参加したことが無かったためちょっと戸惑った。

そして最後の出演者が町田康。グレーのジャケットに黒のシャツ、ダメージジーンズという出で立ちで、片手には歌詞が書かれた紙。長い髪が邪魔になるのか、たびたび髪を耳にかける仕草をしていた。眼鏡はかけていない。近年、書籍などで町田康の写真を見るときは眼鏡がかけられている姿が多かったので、ちょっと意外で嬉しかった。

一曲目は「305」。INU時代の曲で、何度となく聴いた曲である。この日は町田康名義ではなく「汝、我が民に非ズ」名義ゆえ、一曲目から知った曲をやってくれるとは思いもしなかったので興奮してしまった。

町田康と言うと目をかっと見開き、ギョロギョロさせながら歌うイメージを持っていた。しかし今目の前にいる本物の町田康は目をギューッとつむって力強く叫びながら歌っていた。時折、楽しそうに笑顔を見せながら歌うとき開かれる目がキュートである。膝を軽く折り、スタンドマイクを握り、叫ぶ声歌う声を聴く。危うさよりも穏やかさが感じられ、楽しそうだなと思った。

タイトルは不明だが、「遠く離れていても大丈夫ー遠く離れていても仲間だよー」といったような歌詞を歌っていたとき。きちんと聴き取れなかったので歌詞の全体像を把握出来なかったのだが、多分単純にハートフルな曲では無いのだろうな、何かあるのだろうなと思いながら聴いていたとき。曲中でぼそっと「俺から離れられると思うなよ」といった内容の言葉を町田康が呟いて、このときそこここから悲鳴が上がった。この一瞬の表情がとても格好良かった。

「305」の他、INUの曲では「フェイド・アウト」と「つるつるの壷」を歌ってくれた。「お前の頭を開いてちょっと気軽になって楽しめー」と歌うとき、町田康は両手を広げ、にこやかに楽しそうにしていて、それを見ている自分も楽しくなって、そしてこのフレーズが大好きな自分を再確認して、自分の頭を開いてちょっと気軽になりたい気分になった。

終始、楽しそうで嬉しかったなぁ。しつこい野次もあり、ちょっと黙ってろよと観客に対し腹の立つ場面もあったが、町田康本人は拾うところは拾って上手にいなしていた。「INU--!!」としつこく叫ぶ客がいれば「最近は猫の本も書いていまして」と言って笑いを誘う。歌詞を覚えていないと告白し、歌詞の書かれた紙を用意するも風に飛ばされしっちゃかめっちゃか。床に散らばった紙を拾いつつ、次の曲の歌詞がなかなか見つからず、本当に困ってしまったようで、「二分待ってください」「しばしご歓談を」と弱りながら観客に声をかけてまた笑いが起こる場面も。

最近野球に興味を持てない、何故なら誰が誰だかわからず感情移入出来ないから、というMCから、では誰が誰かわかった方が楽しめるでしょうから……とメンバー紹介が行われる場面も。他、告知もあったがアルバムやライブの予定については特に無かった。

新曲を聴ける嬉しさと、新曲を反芻出来ないもどかしさがない交ぜになる。リアルタイムで、今まで聴いたことが無かった町田康の曲が聴けるのは嬉しいのに、それを今度いつ聴けるかわからないなんて! ただ、新しくプロジェクト名を名乗るからには、きっと今後もちょこちょこと活動があるんじゃないかしら、あってほしいなぁと願いつつ。思えば聴きたい曲は他にもたくさんあって、「犬とチャーハンのすきま」の曲も聴きたいなぁそういえば新曲に「チャーーーーハーーーーーン!!!」「ラーーーーメーーーーーーーン!!!」って絶叫する曲があったなぁあれはいったいどんな歌詞だったのだろう読みたいなぁ、と思う夜。

思えば今週は二回も夢に町田康が出てきた。いったいどれだけ楽しみにしていたんだよと我ながら思ってしまう。初めて町田康を知ってからそろそろ十年。最初はエッセイから入り次にCDを買って文章も音楽も好きになった。特に文章にはちょっとどうだろうと思うくらいに影響を受けてしまった。大学の頃は町田康の詩集を常に鞄に忍ばせていた。あの頃も、一度観てみたいと思っていたのだ、そういえば。ついに叶ったんだなぁ。

最後に。今日、楽しそうに穏やかに歌う町田康の姿を観たとき。感動し興奮すると同時に、様々な人の口から語られる、昔の狂気じみた頃の姿、それはもうイメージでしか無いのだが、そのイメージがふっと出てきて、きっと全然違うのだろうな、と思った。だがそれを求めている人もいるのだろう。自分も全くゼロでは無い。ただやはり今こうしてここにいる町田康が好きで、その履歴も好きで、その先も観たいと思う。ギューッと目をつむって歌う姿から感じられる必死さをまた観たい。きっといつか、またどこかでやってくれることを願って。願って!



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