未分類2杯, ケラリーノ・サンドロヴィッチ, 初参戦, 有頂天, 非日常

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指でなぞると左側がザラザラしている。スッと投げられたそれは、降って湧いた宝物のように感じた。

有頂天の新譜「カフカズ・ロック/ニーチェズ・ポップ」に心を奪われたのが数ヶ月前か。特に「カフカズ・ロック」が大好きで、何度も何度も繰り返し聴いた。中でも好きなのが「monkey’s report(ある学会報告)」。明るい曲調と歌声により描かれる切なくやるせない物語がたまらなく、胸が締め付けられる思いがする。だから今日、アンコールでこの曲を聴けたとき己はきっと会場の誰よりも興奮したに違いない。思わず爪が刺さるほど、拳をぎゅっと握り締めてしまった。あんまり嬉しかったから。

有頂天は「カラフルメリィが降った街」「でっかち」「カフカズロック/ニーチェズ・ポップ」しかまだ持っていない。ケラさんと言うと有頂天よりも先に空手バカボンでその存在を認識した人間である。ライブに行くのも初めてだ。ほんのちょっと前にケラさんのツイッターでライブの開催を知り、もしかしたら「カフカズロック」の曲を聴けるかもしれない、と期待を胸にチケットをとったのだ。そして自分の念願は、望みどおり叶えられた。あぁ、生で! 「monkey’s report(ある学会報告)」を聴けるなんて!

また、別の理由でも今日この日のライブに行けて良かった、と思った。

昨日の日記を書いてから、己の腹の中では気持ち悪いものがぐらぐらと煮え続けていた。いや、正確には日記を書く前からか。書いたことに後悔はしていない。署名に協力をしてくれた方もいて、すごくありがたいと思う。だが、文章化することにより当時のつらさ、やるせない思い、怒りと憎しみが明確化され、それがどうにも頭から離れてくれず、ずっとしんどかったのだ。

暗闇の中、パステルカラーのライトを浴びて歌うケラさんの底抜けに明るい声。ポップで陽気な音楽。しかし、明るいだけじゃない歌詞。これらがステージから降り注ぎ、浸透した。三曲目では念願の「100年」、「墓石と黴菌」「世界」「幽霊たち」「ニーチェズ・ムーン」「懐かしさの行方」! それに、聴きたくて聴きたくてたまらなかった「monkey’s report(ある学会報告)」! アンコールを受けてステージから戻ってきたクボブリュさんがマイクを前に「学会の諸先生方!」と語り始めたとき、涙が出るかと思った。知らなかった、あの語りはあなただったのか! 何度もCDで聴いた冒頭の文句を生で聴ける喜びで、頭の中が真っ白になった。

あぁ、今日この日この場所で有頂天の音楽が聴けて良かった。

まだ聴いたことがなかった曲もたくさん聴いた。「君はGANなのだ」の勢いと、やわらかい色合いで光るライトの対比が印象に残っている。あと、後半でケラさんが「ビージー!」と叫んだことで始まった猛烈な曲。筋少で言えば「釈迦」か「イワンのばか」か、水戸さんで言えば「アストロボーイ・アストロガール」か、平沢進で言えば「Solid air」か。オーディエンスの爆発と熱狂が凄まじく、この曲のタイトルと成り立ちを是非知りたいと興味が駆られた。

MCは共謀罪の話に始まり、筋肉少女帯の話題が出つつ、有頂天のメンバーの変遷についても。このあたり、詳しくないので興味深かった。夏の魔物に出演する話では町田康の名前も出て、さらに追い出しの音楽も「INU」。素敵な音楽を生でどっぷり聴いた後に、ドリンクチケットと引き換えた発泡酒を呑みながらINUが聴けるなんて、何と言う贅沢だろう。フルコースを喰らった気分だった。

また、筋少ファンとして気になっていたのは「うるささ」だ。ケラさんはたびたび、今の筋肉少女帯はうるさいと言う。話を聴くに橘高さんのギターが好みでないらしい。しかしCDを聴いたところ有頂天も決してうるさくなくはない。賑やかである。自分は音楽は好きだが音楽のジャンルの違いをよく理解しておらず、自分の好きなものは好き、という漠然とした姿勢で生きているため、ケラさんがどのあたりを苦手としているのか、有頂天との違いは何かわからなかったのだ。それをいつか知りたいと思っていた。

念のため断っておくと、己はケラさんの発言に腹を立てているわけではなく、糾弾したいわけでもない。こちらの日記に書いたように、ただただ興味があるだけなのである。自分の好きな対象については何でも知りたい、そういうオタク気質を持っているだけなのだ。

結果、わかったかと言うと、今日ライブに行ったことで何となく理解した。なるほど確かに、有頂天ではギターがゴリゴリ言わない。代わりにベースが存在感を発揮しているように感じる。このあたりの音の違いかな、と言うことが何となくわかった。何だろう、種類が違うのである。双方別の音色を持っている、という話で、そこに好みの差が出るという話なのだ。

と言うと結局ジャンルの違いの話であるが、ジャンルの違いも肌で体験しないと理解できなかったのだ。

MCでケラさんが「アンコールを求められれば何度でもやる」と言い、オーディエンスによる鳴り止まないアンコールが起こり、二回も三回もステージに出てくれた有頂天。最後、ケラさんは笑いながら「何度でもやると言ったけど!」と言いつつも、また演奏をしてくれた。踊る観客、振り上げられる拳、朗々と響く明るい歌声。知らない歌詞を耳で追う。そのときばかりは頭の中が歌と音楽と歌詞でいっぱいになり、考えたくないことを忘れられた。いや、意識しないですんだ。腹の中で渦巻くものの存在を無視することができた。あの声を今日聴けて良かった、と繰り返し繰り返し思った。

雨の中。長靴を履いて辿り着いたロフトプラスワン。新宿ロフトと同じではないことに気付いた瞬間は焦ったが、慌てず地図を探そうと、邪魔にならないよう人通りの少ない道へ向かった先で偶然見つけた本来の会場。路上で開場を待っていると、隣のバーから有頂天の音楽が聴こえた。きっとそれは「良かったら帰りに寄ってね」というメッセージなのだろうが、まるで世間が己に寄り添ってくれているような喜ばしさを感じた。腹の中にはまだ嫌なものが渦巻いている。しかし、二時間半の間意識せずにいられた。それがこのうえなく嬉しかった。



未分類

■6月4日3時「お題リクエストした者です、丁寧かつ読み応えの~」の方へ

リクエストをいただきありがとうございました。結構な時間お待たせしてしまってすみません。少しでも楽しんでいただけたなら何よりです。

普段CDの感想を書くときは、聴いたばかりの興奮に任せて書くことが多いため、こうして時間を置いてからじっくり書くのは自分にとっても珍しい経験でした。こうして冷静に一枚のアルバムを見つめ直すのも楽しいものですね。



未分類2杯, 水戸華之介, 非日常

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とにかく、もう、格好良かったのだ。

新譜「知恵ノ輪」のジャケットデザインを見たときに心が躍った。何て格好良いのだろう! 「楽観 Roll Show!!!」「人間ワッショイ」と賑やかなデザインが続いていて、今回も同じ系統かと思いきや、アスクレピオスの杖を天に向ける水戸さんに、スラリとしたロゴ。うわあ、格好良い! と思わず声が出た。

そうなんだよ。水戸さんは格好良いんだよ!

そして今日のライブはオープニングからしていつもの不死鳥とは違っていた。面白映像も無ければ神輿も無く、祭りの雰囲気は一片も無い。暗いステージに何も言わずメンバーが集まり、大人っぽい雰囲気の中、シックに演奏が始まったのである。水戸さんの衣装は黒の帽子に黒の隈取、白いシャツに緑の唐草文様のネクタイを締め、深い色のオーバーオールで身を包む。それはもう、ドキッとするほど格好良かった。

お祭り騒ぎの中、刀のレプリカを背負って忍者のコスプレで現れて、大いに会場を沸かせてくれる水戸さんも好きだ。しかし。水戸さんの歌詞の力強さと説得力、歌声の響きをより一層魅力的に映し出すのは、今日のような衣装ではないか。背が高く足が長く、体格が良い水戸さんの格好良さが存分に引き出されていて、もしも自分が水戸さんのような恵まれた体格であったなら、即座に服装を真似するに違いないと思うほど魅力的であった。

ゲストは杉本恭一、アキマツネオ、宮田和弥の三名。恭一さんは始まりからメンバーと共にステージに現れ、ゲスト扱いされずに演奏が始まった。今回の不死鳥は新譜「知恵ノ輪」の発売記念ライブを兼ねており、「知恵ノ輪」をプロデュースしたのは他でもない恭一さん。そんなわけで恭一さんは、「大プロデューサー先生!」と水戸さんに何度も呼ばれては、参ったなぁと言うように照れ笑いを浮かべていたのであった。

MCの中で語られていたこと。水戸さん曰く、恭一さんは絵を描くように曲を作る人で、そこで今回水戸さんも言葉で絵を描いてみようとしたそうだ。また、恭一さんはこのアルバムでとにかく水戸さんの格好良さを存分に引き出すことに注力したそうだ。己は新譜を今日のライブで買うと決めていたため、新曲は全てこの日初めて聴いた。そうして思ったことと言えば、確かにどの曲も格好良く、また大人っぽい雰囲気も漂っているということだった。

特に印象的だったのが「可能性はゼロじゃない」。この曲は、ともすれば間抜けに聴こえる楽器「カズー」にスポットライトをあてたもので、序盤から長々と存在感を発揮する。そのカズーの音色が、まるでビブラートを強くきかせ、さらに機械で肉声を無理矢理変質させたような歪みが感じられ、本当に本当に良く知らないのにこんなことを言うのも申し訳ないのだが、椎名林檎を彷彿とさせたのだった。

己はほとんど椎名林檎を知らない。知っているのは友人がカラオケで歌う「歌舞伎町の女王」と「カーネーション」くらい。何も知らないのだ。その断片的な印象により浮かび上がるイメージは、きっと実在の椎名林檎とはかけ離れたものだろう。しかし尚、己はそのように感じたのである。

「涙は空」から「知恵の輪」まで新曲の披露が続き、ドキドキわくわくしながら全身で聴いた。ライブで初めて聴いた曲を、改めてアルバムで聴き返す楽しみが後にあることがとても嬉しい。水戸さんがシングルカットにしたいと思うほどのイチオシ「イヌサルキジ」は、初めて聴くにも関わらずノリやすく、拳を振り上げるのが非常に楽しかった。

このあたりでセットリストを。メドレーの「幽霊」と「S子、赤いスカート」の位置が逆な気がするが、その他は概ね合っていると思う。


無実のためのレインボー
涙は空

失点 in my room
ひそやかに熱く
イヌサルキジ
知恵の輪

泥まんじゅうで腹一杯(一部だけ)
祈り
砂のシナリオ

君と瓶の中
Romanticが止まらない
風船

特急キノコ列車
すべての若き糞溜野郎ども
犬と夕暮れ

可能性はゼロじゃない
蝿の王様からメドレー
~幽霊
~S子、赤いスカート
~泥まんじゅうで腹一杯
~蝿の王様

天井裏から愛をこめて
おやすみ

~アンコール~
まぼろ市立美術館
アストロボーイ・アストロガール

~ダブルアンコール~
ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル


ド派手な衣装のアキマさんがステージに現れ、「君と瓶の中」「Romanticが止まらない」「風船」を独特の歌声で歌ってくれた。MCでは主に野球の話で盛り上がり、応援している球団がアキマさんも水戸さんも不調とのことで、今日のライブが始まる前に残念な試合を観たらしく、テンションが下がったと言っていた。

「風船」の前で、「水戸さんの曲はコードが難しい」とアキマさんが言い、それに対して水戸さんが「俺じゃなくてブースカがそういう曲を作りたがるんだ」と反論。そこから音楽の話になって野球の話になり、Fコードに挫折した奴がギタリストになれなくて、大リーガーや政治家になるんだ! という面白話に発展した。

アキマさんが退場して、JUN SKY WALKER(S)の宮田さんが入場、宮田さんは昔、水戸さんの家に遊びに行ったことがあるとのこと。仲は良かったが機会がなく、今まで不死鳥に呼べなかったがようやく念願叶ったそうだ。そこでまず始まったのが「特急キノコ列車」。この曲を昔、宮田さんが褒めてくれ、宮田さん自身は褒めたことを忘れていたが、水戸さんは「和弥が褒めてくれた!」と今に至るまでずっと覚えていたそうだ。キュートなエピソードである。

宮田さんはハーモニカを吹いてステージを縦横無尽にかけ回り、次の「すべての若き糞溜野郎ども」でもアクティブさを発揮しまくったところ、ステージに立てかけていた自分のギターにぶつかり、ギターが倒れるアクシデントが発生。ギターの無事を確認すべく三曲目の前にMCで繋ぐことになり、ステージにハラハラした空気が立ち込めたのであった。結果、ギターは無事だったらしい。良かった……。

「可能性はゼロじゃない」から怒涛のメドレーに移り、「天井裏から愛をこめて」ではオープニングで綺麗な歌声を響かせてくれたコーラスの二人……と思われるうさぎと蛙の被り物を被った人外が紙袋を持ってステージに乱入。袋から取り出されるは赤いクラッカーで、火薬の匂いとともに赤いテープがオーディエンスの頭上に撃ち出され、天井からは風船が舞い、お祭り騒ぎの中本編終了。もちろん、まだまだ終わらない。

アンコール一曲目は新曲「まぼろ市立美術館」……なのだが、この曲に入る前にちょっと面白いことが起こった。風船を抱えてステージに戻ってきた内田さんがオーディエンスにポンと風船を投げると、バレーボールの如く打ち返されたのである。それを見た水戸さん、「そこはキャーッって言って持って帰るだろ?」と指摘。内田さんも打ち返されるとは思っていなかったようで、「受け取ってよ」とすねたようにつぶやき笑いが起こる。はっはっはっ。条件反射だよなぁ、これは。

アンコール二曲目「アストロボーイ・アストロガール」では、あの印象的なベースソロにピヨピヨと軽やかなテクノサウンドが乗っていて、Zun-Doco Machineの片鱗が垣間見えて面白い。大いに盛り上がって、さてさて帰るかと水戸さんがステージから去っても、残った内田さんがベースを奏でれば引っ張り出されてしまう。そういう構成であることはわかりつつも、まるで内田さんがベースで水戸さんを操っているようで面白かった。

最後の最後、ゲストも登場してのダブルアンコール。さて、何が来るかと思えばびっくり。「大セッション曲を!」という水戸さんの号令のもと始まったのは「ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル」! すごい! 水戸さんのラインナップの中ではまだまだ若いこの曲が最後の最後を締めるとは何たる大出世! こうして曲が成長していく様を見られるのは最高に嬉しい!!

ゲストが代わる代わる歌い、上手側では内田さん、恭一さん、アキマさんが目の前で大サービスを繰り広げてくれて何とも豪華な光景だった。「生涯ラブアンドピース!」と両手を掲げてダブルピースする内田さんに合わせて、思いっきり両腕を高く上げてピースを作る多幸感。切なくもハッピーなこの曲でライブのエンディングを迎えられる嬉しさ。楽しいったらありゃしなかった。

終演後にはサイン会が開かれ、いそいそと新譜のプレミアムセットを買って列に並び、自分の番が来たときに開口一番言ったのは、格好良かったです!! という一言。そうなんだ。水戸さんは格好良いんだ。水戸さんの歌詞も歌声も、たまらなく格好良いんだ。その格好良さが今日のライブでは一際発揮されていて、とても魅力的で、この姿をどうかもっともっと多くの人に見てもらいたい。そう思わずにはいられないのだ。

来年は十五回目の不死鳥で、水戸さんにとっては三十周年の節目とのこと。どうかどうか多くの人に観てもらいたい。この格好良い大人の姿を。きっと、生きる気力になるから。



未分類10杯, 筋肉少女帯, 非日常

楽しかった。楽しかった。楽しかった、が。体力の衰えを実感せざるを得ず、流石にこれはまずかろうと焦る次第である。
何がつらいって、腕を挙げっぱなしにするのがつらいのだ。

「筋少シングル盤大戦!」なるライブタイトルのとおり、シングル曲のみで組まれたセットリスト。シングル限定、なれば定番曲ばかりかと言えばそうでもなく、久しぶりに聴く曲もあればレア曲もあり、「筋肉少女帯のシングルの意味とは」というオーケンのMCに納得しつつも笑いがこみ上げる。ライブのコンセプトゆえ再結成後の曲は少なめで、「混ぜるな危険」「人から箱男」「ツアーファイナル」「仲直りのテーマ」の四曲のみ。前回の「猫とテブクロツアー」はセカンドアルバムの「猫とテブクロ」を完全再現するライブであったこともあり、存分に楽しみつつも再結成後の曲の数々にも恋しさが募る。あぁ、だって欲しがり神様だから!

とはいえ行きの電車の中ではシングルのあれこれを頭に思い浮かべ、あれが聴けるかこれが聴けるかとわくわくし、一曲目で待望の「暴いておやりよドルバッキー」が始まったときはもう喜びもひとしおで、「待ってました!!」と叫び出したくなりながら、内田さんの野太いコーラスに合わせてバッキーバッキードルバッキー! と拳を振り上げたのである。

そしてこれが今日のセットリストである。改めて見ると「これがシングルだったのか」と気付かされて面白い。と言うのも己は筋肉少女帯の活動休止中にファンになってアルバムを買い揃えていったため、リアルタイムでシングルの発売を見てこなかった。故に「シングル曲」への意識が薄いのである。


暴いておやりよドルバッキー
君よ!俺で変われ!

混ぜるな危険
小さな恋のメロディ
僕の歌を総て君にやる(ふーみんver)

人から箱男
バトル野郎~100万人の兄貴~
元祖高木ブー伝説

氷の世界(アコースティックver)
蜘蛛の糸(アコースティックver)

トゥルー・ロマンス
ツアーファイナル
タチムカウ -狂い咲く人間の証明-

サボテンとバントライン
221B戦記

~アンコール~
香菜、頭をよくしてあげよう
仲直りのテーマ
釈迦


立ち位置は真ん中の四列目あたりで、パワフルな人々がぎゅんぎゅんづめのゾーンである。誰かの振り上げた腕で首や顔を圧迫され、腕を下ろすにも下ろし場所がない、そんな密集地帯である。とはいえ最前付近は毎度その様子なので己も慣れていて、無理に腕を下ろすのを諦め、ドルバッキーで挙げた腕をそのまま挙げっぱなしにしていた。していたら。

腕が痛い。じりじり痛い。

今まで挙げっぱなしにしていても何もしんどさを感じることのなかった腕が。無理矢理下ろすよりもむしろ楽に感じることさえあった腕が。痛いのである。特に二の腕がつらい。

これは……明らかに筋力が低下している……。

身に覚えはある。最近運動出来ていなかった。引き締めねばまずいとも感じていた。しかしそれにしてもこの程度で。たかだか腕を挙げているだけで!

下ろせない腕を掲げながらステージの上にいる二十歳年上の方々を観る。パワフルである。パワフルである。鍛えよう、と思った。次の秋のツアーまでには、腕を挙げっぱなしにしても耐えられる筋力をつけようと心に誓った。

このように序盤から腕の痛みに苛まれ体力の低下に絶望的な気分を抱いていたが、腕が痛くても体力がなくても筋少のライブはやはり楽しい。ちなみに今回演奏されなかったシングル盤は「踊るダメ人間」「リルカの葬列」「週替わりの奇跡の神話」の三つ、加えて筋少以外では「ボヨヨンロック」と「地獄のアロハ」。「リルカの葬列」は今日も聴けるかなと期待していたのだが念願叶わず。だが! きっとまた機会があるはずだ!

今回MCが結構長めで、それぞれのシングルにまつわるエピソードを一つ一つ丁寧に語ってくれた。筋肉少女帯は不思議なバンドで、シングルになっているけどPVは作られていない曲、PVは作られているけどシングルにはなっていない曲がある、という話が興味深かった。例えば「ストリートファイターII」のタイアップ曲「バトル野郎~100万人の兄貴~」は、CMがあるからPVはいらなかろう、という判断のもと、B面の「じーさんはいい塩梅」のPVが作られたという。

それにしても何故B面に「じーさんはいい塩梅」を入れたのか、むしろそちらの方が不思議である。ストIIに惹かれてシングルを購入した人はかなり面食らったのではなかろうか。

と言いつつ、そういうことをしてしまう筋少ちゃんが好きなのだ。

PVについての話も。「蜘蛛の糸」「リルカの葬列」「トゥルー・ロマンス」のPVもあるのだが、これらはあまり表に出ていないという。「観たことある人いるー?」というオーケンの問いかけにちらほら手を挙げている人がいたが、数は多くないようだった。これらがあまり露出していないのは、当時「MCAビクター」在籍時に作られたもので、MCAビクターがなくなったことにより、幻の作品になってしまったとのことである。「トゥルー・ロマンス」は石井聰亙監督(現在は石井岳龍の名で活動)の作品で、後にオーケンが石井監督のイベントに呼ばれたとき、オーケンか石井監督が所持していた「トゥルー・ロマンス」のVHSを流そうとしたことがあったそうだ。ところが劣化していて映像は真っ白。観られなくなってしまったそうである。

また、「蜘蛛の糸」のPVはメンバーが回転する映像を撮るために、カメラを回すのではなく実際にメンバーをぐるぐる回したため、撮影後気持ち悪くなったそうだ。そんな中華の回転テーブルの上に立たせるような手法で撮影するとは、何てアナログなのだろうか……。

「小さな恋のメロディ」は最近橘高さんの担当曲になっていたため、オーケンの歌唱を聴くのは久しぶりである。本来は橘高さんの歌唱がレアなはずなのに、「お! オーケンが歌うんだ!」とわくわくする自分がおかしかった。そして意外や意外、次の「僕の歌を総て君にやる」でオーケンがステージからいなくなり、中央にピックがずらりと並んだマイクスタンドが設置される。なんと今回は橘高さんが! 橘高さんの歌を総てくださるそうだ!!

いやー良かった。橘高さん独特の力強く響く声で、噛み締めるように紡がれる言葉。そして「僕の歌を総て君にやるよ」の「君に」のところで指差す手の先がちょうど自分のいる場所で、勝手に総ていただいた気分になれ、ぐわっと胸中から湧き起こり全身に浸透する多幸感。こういうのは思い込んだ方が良い。

思い込みつつも、「僕の歌を総て君にやる」のあるシーンでエディがキーボードに背を向けながら素早い腿上げのような不思議な踊りを踊っていて、熱唱する橘高さんの後ろでそんなコミカルなエディが見えるので、それが大層面白く、このシリアスなだけではなく、一筋縄ではいかないところが筋肉少女帯だよなーなんてことを思ったりした。

「人から箱男」もレコード会社から不思議なタイミングで提案されたシングルだったそうだ。確かに、発表されたときに「嬉しいけど何故?」と思ったものなぁ。この曲は「ボックスマン! ボックスマン!」と畳み掛けていく迫力が最高に好きだ。オーケンの歌いなれていない様子も初々しい。

久しぶりだから対応できるかな、と前置きの後オーケンがマイクをオーディエンスに向け、投げかけられた名前に呼応して力いっぱい叫ばれたのは「ブー!!」の一声。高木ブー伝説! 「高木ブー伝説」はエディのきらびやかなピアノの音色が印象的な一曲で、ライブで聴く機会は少ないものの、聴くたびにエディの音色を耳で追ってしまう。綺麗なんだよなぁ。

アコースティックコーナーでは「氷の世界」と「蜘蛛の糸」。「氷の世界」ではおいちゃん、オーケン、うっちー、ふーみん四人全員がアコースティックギターを爪弾くという貴重なシーンを観ることが出来た。しかしオーケン、ギターは持つものの自信がないのかスピーカーには繋げずにギターを抱いて、「聴かせてあげないよ!」とオーディエンスに笑っていた。

シングルに収録されている「氷の世界」を仮にロック版と言うならば、アコースティックの「氷の世界」は、ロック版の身を削られる苦しさがない代わりに、ゆったりと色っぽかった。ロック版はそれこそ吹雪の中、外で身を凍えさせながら苦しさに叫ぶ姿が想起される。対してアコースティック版は暖炉のある暖かい部屋の中で窓の外を眺めながら、蒸留酒とともに胸中の苦しさを舌の上で転がしている、そんな苦さが感じられるのである。

「氷の世界」の後、内田さんはアコースティックギターからウクレレベースに持ち替え、オーケンが「歴史にたらればは無いですが、もし高木ブー伝説の後にこの曲が発表されていたら、筋肉少女帯はシリアスなイメージを持たれていたかもしれないですね」と語り、でも今の筋少が良い、と笑って一呼吸後に始まったのが「蜘蛛の糸」だった。

「蜘蛛の糸」。昨今は「皆で歌おう!」というオーケンの呼びかけのもと、「大丈夫大丈夫……」と合唱することが多く、歌詞があの内容にも関わらずハッピーな気分になってしまっている曲である。全く大丈夫じゃない状況を「大丈夫大丈夫」と大勢で合唱するのは楽しくもあり、不安感が煽られる怪しい行為でもある。それは楽しくもあり、違和感もあった。

少女の嘲笑はなく、しっとりと始まる。アコースティックギターの調べの中で存在感を示す重いベースの音。ゆったりと暗く紡がれる音色にはゾッとする危うさがあり、少年がぐらぐら心を揺らし、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせながら、眠れないまま布団の中で息をしている様が感じられた。激情に駆られていないだけに、怖い。

「トゥルー・ロマンス」の始まりの、鐘の音を再現した橘高さんのギターの音色が好きだ。あぁ、死んだ恋人がゾンビになって戻ってくる歌なのに、どうしてこんなに多幸感に包まれるんだろう。それはきっと、優しい「肯定」だけがある世界だからだろうか。この明るくあたたかな色合いがたまらなく大好きだ。

「サボテンとバントライン」では緑のライトによってステージが彩られ、底抜けに明るい音楽と寂しい物語の対比が美しかった。

本編最後は221B戦記。もしかしたら初めて聴いたかもしれない。アンコールでは「仲直りのテーマ」で驚いてしまった。そうだ、これもシングルだったんだ! 初めて買った筋少のシングルなのに、シングルという意識が抜けていたのはアルバムで繰り返し聴くことの方が多いからだろう。「なーなーななー♪」と合唱するのが楽しい。

「釈迦」で全力を出し切り大いに盛り上がり、燃え尽きるように終演。ステージから次々とメンバーが立ち去って行く中で、いつものようにおいちゃんとふーみんが残ってピックを投げたりしてくれた。そして! おいちゃんが! 目の前でしゃがみこんで! 手を伸ばすオーディエンスに応えてくれて! おいちゃんの腕を! がっつり! 触れた!!!!

おいちゃんの腕はがっしりしていて熱くて固かった。
鍛えようと思った。

次のツアーは十一月。およそ半年後のその日が来るまでに、挙げっぱなしにしても疲れない筋力を手に入れよう。頑張ろう。頑張る。



未分類

■5月1日0時「初めまして、初めてコメント致します。」の方へ

初めまして。ご覧いただきありがとうございます。ネウロに共感いただけて嬉しいです。ネウロはまさに! とてもよくできた漫画だと思うのです。どうか暗殺教室の波に乗って……と願望を抱いたのも久しく感じます。あぁ。いつか……とこれからも強く願い続けます。願い続けましょう。