殺意

2017年6月17日(土) 緑茶カウント:2杯

署名しました。

十年ほど前の話をしよう。きっと、友人はこのサイトを見ていないはずだから。

十年か九年か八年か。きちんと調べ直さねばわからないがそのくらい前のこと。確か土曜日か日曜日か。己は下宿先のアパートの一室で、カチカチとマウスを操作しながらネットサーフィンを楽しんでいた。そうして何の気なしにクリックした友人のブログ。あの文章を見たときの感情を己は忘れない。初めてパソコンを前にして、「嘘だろ」と悲鳴のような声が出た。

信じられない気持ちでブログを読み直し、スクロールして見直して、また読み直して、己は部屋を飛び出していた。

それは友人の趣味のブログであったが、そこで綴られていたのは、実生活において友人がとてもひどい目にあった告白だった。

部屋を飛び出し、駆け出して、駅ビルのケーキ屋に行った。美しく果物が飾られたケーキを四つ買った。それを持って電車に飛び乗り、友人の実家に向かった。涙がボロボロこぼれた。電車に揺られながら震える手で友人にメールを打った。連絡がとれた。友人は実家にいなかった。別の場所に避難していると知った。そのまま自分は友人の実家がある駅を越え、自分の実家に一度帰った。父と母とケーキを食べ、一泊して下宿先のアパートに戻った。

未だにあのとき買ったケーキ屋を見ると胸が締め付けられる思いがする。以降、そのケーキは口に出来ていない。ケーキ屋は何も悪くないのに。

当時、友人は大学進学のため実家を離れて一人暮らしをしていた。そして言葉に言い表せないようなひどい目にあった。言葉に言い表せないようなひどいことが、ブログに綴られていた。あれを見た自分は、きっと友人は実家に戻っているに違いないと思った。何とか心を慰めたくてケーキを買った。

やりたいことがあって進学した大学だったのに、友人は大学に通えなくなった。心が崩れ、外出もままならない身になった。いろいろなことがあった。しかし友人は生きていくための別の道を見つけた。結婚もした。不安定な精神を抱えながらも、精力的に活動している。それを悲しくも、喜ばしいと思う。

犯人は数年前に出所したらしい。

顔も名前も知らないが、己はその人物を頭の中で何度も殺している。日常の中でふと思い出し、腸が煮えくり返るような思いが沸き起こることがある。友人は努力をした。結果、通常であれば歩まなかった道を歩めているとも言えるだろう。しかしその道へと歩めたことがどんなに素晴らしいことであろうとしても、そのきっかけを作った人物を、己は絶対に肯定しない。絶対に許さない。今も殺してやりたいと思う。

だが。もし、奇跡的なことが起こって、その人物と出会うことがあり、そいつの所業を知ったとして、己はそいつを殺せるのか。殺してやりたいが、殺せるわけもないだろう。また思う。友人は警察でもつらい目にあった。ふざけんなと思った。腹立たしく、悲しかった。

友人のブログを読むまで、自分はずっと、自分の周りの人間がひどい目にあうはずはないと無邪気に信じて生きてきた。生きてきたが、違うことを知った。今も腸は煮えている。

その中で、ある人がこのプロジェクトを紹介し、署名を求めているのを見た。その方も被害者で、経緯を読んでから今日までの一日、ずっと気分が悪く、すごく悲しく、やるせない。己の友人が、家族が、知人が、知らない人が、こんな理不尽なひどい目にあってたまるかと思う。

だから署名した。殺せないまでも、現状をどうにか変えたいので。
どうかそんな、言葉に言い表せないほどつらい目にあう人がいなくなってほしい。仮につらい目にあう人がいたとしても、きちんと糞野郎が裁かれてほしい、と願って。


日記録2杯, 日常