日記録2杯, 日常

2017年8月19日(土) 緑茶カウント:2杯

雨が降っているせいか、今日はやけに眠い日だった。天気と眠気、二つの理由によりずっと一日部屋の中にいたいところだったが、図書館の返却期限日であったので、雨脚が弱まった頃を見計らって外に出た。

外階段を上る緑の蔓草の先は玄関ドアーの隙間にゆるりと手をかけていて、中に入りたそうに手を差し出していて愛らしい。蔓草の分岐の先は郵便受けにも届いていて、元気に生長している様子が実に嬉しい。鮮やかな緑を横目に三冊の本を提げてカンカンと階段を下る。遠くで雷が鳴る音が聞こえた。

二十分歩いて図書館に着き、返却の後ぐるりと中を見て回ってすぐに退出した。予約している本は明日届く予定なので明日もここに来なければならない。まぁ、良い散歩になるので良かろう。

家に帰り、「ゴールデンカムイ」の新刊と「宝石の国」を読んだ。「宝石の国」は宝石ブランドのTASAKIとのコラボレーションを知って興味を持ち、このたび発売されている七巻まで買って読んでみた。主人公の姿がどんどん変わっていくことに驚いている。美しい宝石達の戯れや月人とのバトルは是非アニメーションで見てみたい。色がついたら尚更綺麗だろうなぁ。

話の筋は全く違うが、少年と少女の中間を行き来する宝石達を見て、萩尾望都の描く「ポーの一族」や「トーマの心臓」の世界を連想した。まだ大人になる前の、性別のない少年達のしなやかさ。そんな彼らが衝撃により割れて砕けるもろさと儚さと、決して死なない強靭さ。彼らを装飾品として扱う残酷な月人の存在により、まるで彼らが箱庭の中に閉じ込められているような、そんな閉鎖性を感じさせられる。月とはどのようなところなのだろうか。

眠気に負けてうとうとと寝ていたら夜になっていた。風呂に入り、洗って冷やしておいたプチトマトを食べて緑茶を飲んだら少し頭がすっきりした。とはいえどうにも眠いので、布団に入って小説か漫画を読みながらそのまま寝てしまおうかと思う。そして明日は予約の本を受け取りに図書館に行き、ついでに美味しい昼食を食べてちょっと豪華な一日をスタートすれば良い。

というわけで今日は、充電日。



日記録2杯, 日常

2017年7月30日(日) 緑茶カウント:2杯

スポーツを観戦しながら熱心に応援している人は今までに何度も見たことがあるが、口汚く罵倒し続ける人の姿を見たのは初めてで、己は面食らったのだった。

例え自分のことではなかろうとも、罵声というものは聞いていると嫌な気分がするものだ。商店街の外れにある小さな電器店の前、道路に面して設置せられた大きなテレビの前でその男性は声を荒げていた。己はその向かいの店に用があって曇り空の下ポテポテ歩いていたところで、「ざまあみろ!!」「下手くそが!!」「死ね!!」と叫ぶ声を聞き、何か事件か何があったかとびっくりして声の主の方に目をやって、ただ野球観戦をしていただけ、ということを知ったのであった。

その声は電器店の向かいの店に入ってからもしばらく聞こえていて、それを聞きながら買い物をしつつ抱いていたのはじんわりとした違和感と嫌悪感。この人を見たのは初めてだが、よく来るのだろうか、店の人も困るだろうなぁと思いつつ気付いたのは、罵声を放つ男性の視点である。大概スポーツ観戦をするときは贔屓のチームに感情移入をして、彼らに対して声をかけるだろう。ところがその人は終始相手方のチームに対して声を挙げ、ひたすら罵倒し続けている。攻守交代も関係なく、視線の先はひたすら相手方のチームで、ただただ彼らのミスをあげつらい、罵倒し、呪っているのであった。

プツリと声が途絶えたのは店主がチャンネルを操作したからかもしれない。あの人は何がきっかけであのように試合を観るようになったのだろう。買い物袋を提げて外に出ればそこはいつもの商店街の風景で、電器店の前には誰もおらず、テレビは真っ黒にうつむいていた。



未分類2杯, ケラリーノ・サンドロヴィッチ, 初参戦, 有頂天, 非日常

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指でなぞると左側がザラザラしている。スッと投げられたそれは、降って湧いた宝物のように感じた。

有頂天の新譜「カフカズ・ロック/ニーチェズ・ポップ」に心を奪われたのが数ヶ月前か。特に「カフカズ・ロック」が大好きで、何度も何度も繰り返し聴いた。中でも好きなのが「monkey’s report(ある学会報告)」。明るい曲調と歌声により描かれる切なくやるせない物語がたまらなく、胸が締め付けられる思いがする。だから今日、アンコールでこの曲を聴けたとき己はきっと会場の誰よりも興奮したに違いない。思わず爪が刺さるほど、拳をぎゅっと握り締めてしまった。あんまり嬉しかったから。

有頂天は「カラフルメリィが降った街」「でっかち」「カフカズロック/ニーチェズ・ポップ」しかまだ持っていない。ケラさんと言うと有頂天よりも先に空手バカボンでその存在を認識した人間である。ライブに行くのも初めてだ。ほんのちょっと前にケラさんのツイッターでライブの開催を知り、もしかしたら「カフカズロック」の曲を聴けるかもしれない、と期待を胸にチケットをとったのだ。そして自分の念願は、望みどおり叶えられた。あぁ、生で! 「monkey’s report(ある学会報告)」を聴けるなんて!

また、別の理由でも今日この日のライブに行けて良かった、と思った。

昨日の日記を書いてから、己の腹の中では気持ち悪いものがぐらぐらと煮え続けていた。いや、正確には日記を書く前からか。書いたことに後悔はしていない。署名に協力をしてくれた方もいて、すごくありがたいと思う。だが、文章化することにより当時のつらさ、やるせない思い、怒りと憎しみが明確化され、それがどうにも頭から離れてくれず、ずっとしんどかったのだ。

暗闇の中、パステルカラーのライトを浴びて歌うケラさんの底抜けに明るい声。ポップで陽気な音楽。しかし、明るいだけじゃない歌詞。これらがステージから降り注ぎ、浸透した。三曲目では念願の「100年」、「墓石と黴菌」「世界」「幽霊たち」「ニーチェズ・ムーン」「懐かしさの行方」! それに、聴きたくて聴きたくてたまらなかった「monkey’s report(ある学会報告)」! アンコールを受けてステージから戻ってきたクボブリュさんがマイクを前に「学会の諸先生方!」と語り始めたとき、涙が出るかと思った。知らなかった、あの語りはあなただったのか! 何度もCDで聴いた冒頭の文句を生で聴ける喜びで、頭の中が真っ白になった。

あぁ、今日この日この場所で有頂天の音楽が聴けて良かった。

まだ聴いたことがなかった曲もたくさん聴いた。「君はGANなのだ」の勢いと、やわらかい色合いで光るライトの対比が印象に残っている。あと、後半でケラさんが「ビージー!」と叫んだことで始まった猛烈な曲。筋少で言えば「釈迦」か「イワンのばか」か、水戸さんで言えば「アストロボーイ・アストロガール」か、平沢進で言えば「Solid air」か。オーディエンスの爆発と熱狂が凄まじく、この曲のタイトルと成り立ちを是非知りたいと興味が駆られた。

MCは共謀罪の話に始まり、筋肉少女帯の話題が出つつ、有頂天のメンバーの変遷についても。このあたり、詳しくないので興味深かった。夏の魔物に出演する話では町田康の名前も出て、さらに追い出しの音楽も「INU」。素敵な音楽を生でどっぷり聴いた後に、ドリンクチケットと引き換えた発泡酒を呑みながらINUが聴けるなんて、何と言う贅沢だろう。フルコースを喰らった気分だった。

また、筋少ファンとして気になっていたのは「うるささ」だ。ケラさんはたびたび、今の筋肉少女帯はうるさいと言う。話を聴くに橘高さんのギターが好みでないらしい。しかしCDを聴いたところ有頂天も決してうるさくなくはない。賑やかである。自分は音楽は好きだが音楽のジャンルの違いをよく理解しておらず、自分の好きなものは好き、という漠然とした姿勢で生きているため、ケラさんがどのあたりを苦手としているのか、有頂天との違いは何かわからなかったのだ。それをいつか知りたいと思っていた。

念のため断っておくと、己はケラさんの発言に腹を立てているわけではなく、糾弾したいわけでもない。こちらの日記に書いたように、ただただ興味があるだけなのである。自分の好きな対象については何でも知りたい、そういうオタク気質を持っているだけなのだ。

結果、わかったかと言うと、今日ライブに行ったことで何となく理解した。なるほど確かに、有頂天ではギターがゴリゴリ言わない。代わりにベースが存在感を発揮しているように感じる。このあたりの音の違いかな、と言うことが何となくわかった。何だろう、種類が違うのである。双方別の音色を持っている、という話で、そこに好みの差が出るという話なのだ。

と言うと結局ジャンルの違いの話であるが、ジャンルの違いも肌で体験しないと理解できなかったのだ。

MCでケラさんが「アンコールを求められれば何度でもやる」と言い、オーディエンスによる鳴り止まないアンコールが起こり、二回も三回もステージに出てくれた有頂天。最後、ケラさんは笑いながら「何度でもやると言ったけど!」と言いつつも、また演奏をしてくれた。踊る観客、振り上げられる拳、朗々と響く明るい歌声。知らない歌詞を耳で追う。そのときばかりは頭の中が歌と音楽と歌詞でいっぱいになり、考えたくないことを忘れられた。いや、意識しないですんだ。腹の中で渦巻くものの存在を無視することができた。あの声を今日聴けて良かった、と繰り返し繰り返し思った。

雨の中。長靴を履いて辿り着いたロフトプラスワン。新宿ロフトと同じではないことに気付いた瞬間は焦ったが、慌てず地図を探そうと、邪魔にならないよう人通りの少ない道へ向かった先で偶然見つけた本来の会場。路上で開場を待っていると、隣のバーから有頂天の音楽が聴こえた。きっとそれは「良かったら帰りに寄ってね」というメッセージなのだろうが、まるで世間が己に寄り添ってくれているような喜ばしさを感じた。腹の中にはまだ嫌なものが渦巻いている。しかし、二時間半の間意識せずにいられた。それがこのうえなく嬉しかった。



日記録2杯, 日常

2017年6月17日(土) 緑茶カウント:2杯

署名しました。

十年ほど前の話をしよう。きっと、友人はこのサイトを見ていないはずだから。

十年か九年か八年か。きちんと調べ直さねばわからないがそのくらい前のこと。確か土曜日か日曜日か。己は下宿先のアパートの一室で、カチカチとマウスを操作しながらネットサーフィンを楽しんでいた。そうして何の気なしにクリックした友人のブログ。あの文章を見たときの感情を己は忘れない。初めてパソコンを前にして、「嘘だろ」と悲鳴のような声が出た。

信じられない気持ちでブログを読み直し、スクロールして見直して、また読み直して、己は部屋を飛び出していた。

それは友人の趣味のブログであったが、そこで綴られていたのは、実生活において友人がとてもひどい目にあった告白だった。

部屋を飛び出し、駆け出して、駅ビルのケーキ屋に行った。美しく果物が飾られたケーキを四つ買った。それを持って電車に飛び乗り、友人の実家に向かった。涙がボロボロこぼれた。電車に揺られながら震える手で友人にメールを打った。連絡がとれた。友人は実家にいなかった。別の場所に避難していると知った。そのまま自分は友人の実家がある駅を越え、自分の実家に一度帰った。父と母とケーキを食べ、一泊して下宿先のアパートに戻った。

未だにあのとき買ったケーキ屋を見ると胸が締め付けられる思いがする。以降、そのケーキは口に出来ていない。ケーキ屋は何も悪くないのに。

当時、友人は大学進学のため実家を離れて一人暮らしをしていた。そして言葉に言い表せないようなひどい目にあった。言葉に言い表せないようなひどいことが、ブログに綴られていた。あれを見た自分は、きっと友人は実家に戻っているに違いないと思った。何とか心を慰めたくてケーキを買った。

やりたいことがあって進学した大学だったのに、友人は大学に通えなくなった。心が崩れ、外出もままならない身になった。いろいろなことがあった。しかし友人は生きていくための別の道を見つけた。結婚もした。不安定な精神を抱えながらも、精力的に活動している。それを悲しくも、喜ばしいと思う。

犯人は数年前に出所したらしい。

顔も名前も知らないが、己はその人物を頭の中で何度も殺している。日常の中でふと思い出し、腸が煮えくり返るような思いが沸き起こることがある。友人は努力をした。結果、通常であれば歩まなかった道を歩めているとも言えるだろう。しかしその道へと歩めたことがどんなに素晴らしいことであろうとしても、そのきっかけを作った人物を、己は絶対に肯定しない。絶対に許さない。今も殺してやりたいと思う。

だが。もし、奇跡的なことが起こって、その人物と出会うことがあり、そいつの所業を知ったとして、己はそいつを殺せるのか。殺してやりたいが、殺せるわけもないだろう。また思う。友人は警察でもつらい目にあった。ふざけんなと思った。腹立たしく、悲しかった。

友人のブログを読むまで、自分はずっと、自分の周りの人間がひどい目にあうはずはないと無邪気に信じて生きてきた。生きてきたが、違うことを知った。今も腸は煮えている。

その中で、ある人がこのプロジェクトを紹介し、署名を求めているのを見た。その方も被害者で、経緯を読んでから今日までの一日、ずっと気分が悪く、すごく悲しく、やるせない。己の友人が、家族が、知人が、知らない人が、こんな理不尽なひどい目にあってたまるかと思う。

だから署名した。殺せないまでも、現状をどうにか変えたいので。
どうかそんな、言葉に言い表せないほどつらい目にあう人がいなくなってほしい。仮につらい目にあう人がいたとしても、きちんと糞野郎が裁かれてほしい、と願って。


未分類2杯, 水戸華之介, 非日常

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とにかく、もう、格好良かったのだ。

新譜「知恵ノ輪」のジャケットデザインを見たときに心が躍った。何て格好良いのだろう! 「楽観 Roll Show!!!」「人間ワッショイ」と賑やかなデザインが続いていて、今回も同じ系統かと思いきや、アスクレピオスの杖を天に向ける水戸さんに、スラリとしたロゴ。うわあ、格好良い! と思わず声が出た。

そうなんだよ。水戸さんは格好良いんだよ!

そして今日のライブはオープニングからしていつもの不死鳥とは違っていた。面白映像も無ければ神輿も無く、祭りの雰囲気は一片も無い。暗いステージに何も言わずメンバーが集まり、大人っぽい雰囲気の中、シックに演奏が始まったのである。水戸さんの衣装は黒の帽子に黒の隈取、白いシャツに緑の唐草文様のネクタイを締め、深い色のオーバーオールで身を包む。それはもう、ドキッとするほど格好良かった。

お祭り騒ぎの中、刀のレプリカを背負って忍者のコスプレで現れて、大いに会場を沸かせてくれる水戸さんも好きだ。しかし。水戸さんの歌詞の力強さと説得力、歌声の響きをより一層魅力的に映し出すのは、今日のような衣装ではないか。背が高く足が長く、体格が良い水戸さんの格好良さが存分に引き出されていて、もしも自分が水戸さんのような恵まれた体格であったなら、即座に服装を真似するに違いないと思うほど魅力的であった。

ゲストは杉本恭一、アキマツネオ、宮田和弥の三名。恭一さんは始まりからメンバーと共にステージに現れ、ゲスト扱いされずに演奏が始まった。今回の不死鳥は新譜「知恵ノ輪」の発売記念ライブを兼ねており、「知恵ノ輪」をプロデュースしたのは他でもない恭一さん。そんなわけで恭一さんは、「大プロデューサー先生!」と水戸さんに何度も呼ばれては、参ったなぁと言うように照れ笑いを浮かべていたのであった。

MCの中で語られていたこと。水戸さん曰く、恭一さんは絵を描くように曲を作る人で、そこで今回水戸さんも言葉で絵を描いてみようとしたそうだ。また、恭一さんはこのアルバムでとにかく水戸さんの格好良さを存分に引き出すことに注力したそうだ。己は新譜を今日のライブで買うと決めていたため、新曲は全てこの日初めて聴いた。そうして思ったことと言えば、確かにどの曲も格好良く、また大人っぽい雰囲気も漂っているということだった。

特に印象的だったのが「可能性はゼロじゃない」。この曲は、ともすれば間抜けに聴こえる楽器「カズー」にスポットライトをあてたもので、序盤から長々と存在感を発揮する。そのカズーの音色が、まるでビブラートを強くきかせ、さらに機械で肉声を無理矢理変質させたような歪みが感じられ、本当に本当に良く知らないのにこんなことを言うのも申し訳ないのだが、椎名林檎を彷彿とさせたのだった。

己はほとんど椎名林檎を知らない。知っているのは友人がカラオケで歌う「歌舞伎町の女王」と「カーネーション」くらい。何も知らないのだ。その断片的な印象により浮かび上がるイメージは、きっと実在の椎名林檎とはかけ離れたものだろう。しかし尚、己はそのように感じたのである。

「涙は空」から「知恵の輪」まで新曲の披露が続き、ドキドキわくわくしながら全身で聴いた。ライブで初めて聴いた曲を、改めてアルバムで聴き返す楽しみが後にあることがとても嬉しい。水戸さんがシングルカットにしたいと思うほどのイチオシ「イヌサルキジ」は、初めて聴くにも関わらずノリやすく、拳を振り上げるのが非常に楽しかった。

このあたりでセットリストを。メドレーの「幽霊」と「S子、赤いスカート」の位置が逆な気がするが、その他は概ね合っていると思う。


無実のためのレインボー
涙は空

失点 in my room
ひそやかに熱く
イヌサルキジ
知恵の輪

泥まんじゅうで腹一杯(一部だけ)
祈り
砂のシナリオ

君と瓶の中
Romanticが止まらない
風船

特急キノコ列車
すべての若き糞溜野郎ども
犬と夕暮れ

可能性はゼロじゃない
蝿の王様からメドレー
~幽霊
~S子、赤いスカート
~泥まんじゅうで腹一杯
~蝿の王様

天井裏から愛をこめて
おやすみ

~アンコール~
まぼろ市立美術館
アストロボーイ・アストロガール

~ダブルアンコール~
ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル


ド派手な衣装のアキマさんがステージに現れ、「君と瓶の中」「Romanticが止まらない」「風船」を独特の歌声で歌ってくれた。MCでは主に野球の話で盛り上がり、応援している球団がアキマさんも水戸さんも不調とのことで、今日のライブが始まる前に残念な試合を観たらしく、テンションが下がったと言っていた。

「風船」の前で、「水戸さんの曲はコードが難しい」とアキマさんが言い、それに対して水戸さんが「俺じゃなくてブースカがそういう曲を作りたがるんだ」と反論。そこから音楽の話になって野球の話になり、Fコードに挫折した奴がギタリストになれなくて、大リーガーや政治家になるんだ! という面白話に発展した。

アキマさんが退場して、JUN SKY WALKER(S)の宮田さんが入場、宮田さんは昔、水戸さんの家に遊びに行ったことがあるとのこと。仲は良かったが機会がなく、今まで不死鳥に呼べなかったがようやく念願叶ったそうだ。そこでまず始まったのが「特急キノコ列車」。この曲を昔、宮田さんが褒めてくれ、宮田さん自身は褒めたことを忘れていたが、水戸さんは「和弥が褒めてくれた!」と今に至るまでずっと覚えていたそうだ。キュートなエピソードである。

宮田さんはハーモニカを吹いてステージを縦横無尽にかけ回り、次の「すべての若き糞溜野郎ども」でもアクティブさを発揮しまくったところ、ステージに立てかけていた自分のギターにぶつかり、ギターが倒れるアクシデントが発生。ギターの無事を確認すべく三曲目の前にMCで繋ぐことになり、ステージにハラハラした空気が立ち込めたのであった。結果、ギターは無事だったらしい。良かった……。

「可能性はゼロじゃない」から怒涛のメドレーに移り、「天井裏から愛をこめて」ではオープニングで綺麗な歌声を響かせてくれたコーラスの二人……と思われるうさぎと蛙の被り物を被った人外が紙袋を持ってステージに乱入。袋から取り出されるは赤いクラッカーで、火薬の匂いとともに赤いテープがオーディエンスの頭上に撃ち出され、天井からは風船が舞い、お祭り騒ぎの中本編終了。もちろん、まだまだ終わらない。

アンコール一曲目は新曲「まぼろ市立美術館」……なのだが、この曲に入る前にちょっと面白いことが起こった。風船を抱えてステージに戻ってきた内田さんがオーディエンスにポンと風船を投げると、バレーボールの如く打ち返されたのである。それを見た水戸さん、「そこはキャーッって言って持って帰るだろ?」と指摘。内田さんも打ち返されるとは思っていなかったようで、「受け取ってよ」とすねたようにつぶやき笑いが起こる。はっはっはっ。条件反射だよなぁ、これは。

アンコール二曲目「アストロボーイ・アストロガール」では、あの印象的なベースソロにピヨピヨと軽やかなテクノサウンドが乗っていて、Zun-Doco Machineの片鱗が垣間見えて面白い。大いに盛り上がって、さてさて帰るかと水戸さんがステージから去っても、残った内田さんがベースを奏でれば引っ張り出されてしまう。そういう構成であることはわかりつつも、まるで内田さんがベースで水戸さんを操っているようで面白かった。

最後の最後、ゲストも登場してのダブルアンコール。さて、何が来るかと思えばびっくり。「大セッション曲を!」という水戸さんの号令のもと始まったのは「ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル」! すごい! 水戸さんのラインナップの中ではまだまだ若いこの曲が最後の最後を締めるとは何たる大出世! こうして曲が成長していく様を見られるのは最高に嬉しい!!

ゲストが代わる代わる歌い、上手側では内田さん、恭一さん、アキマさんが目の前で大サービスを繰り広げてくれて何とも豪華な光景だった。「生涯ラブアンドピース!」と両手を掲げてダブルピースする内田さんに合わせて、思いっきり両腕を高く上げてピースを作る多幸感。切なくもハッピーなこの曲でライブのエンディングを迎えられる嬉しさ。楽しいったらありゃしなかった。

終演後にはサイン会が開かれ、いそいそと新譜のプレミアムセットを買って列に並び、自分の番が来たときに開口一番言ったのは、格好良かったです!! という一言。そうなんだ。水戸さんは格好良いんだ。水戸さんの歌詞も歌声も、たまらなく格好良いんだ。その格好良さが今日のライブでは一際発揮されていて、とても魅力的で、この姿をどうかもっともっと多くの人に見てもらいたい。そう思わずにはいられないのだ。

来年は十五回目の不死鳥で、水戸さんにとっては三十周年の節目とのこと。どうかどうか多くの人に観てもらいたい。この格好良い大人の姿を。きっと、生きる気力になるから。