開演から二時間、ずっと大笑いをしていて、笑いすぎて涙ぐむことさえあり、体調を崩しているためにかけていたマスクに涙が垂れて、こんなにも笑い続けられる時間を持てること、そんな人生を歩めることを幸福に思った。
だってさぁ、通常の日常で、二時間ずっと笑い続けるなんてことはそうそう無いことだもの。ケラケラケラケラ、腹を抱えて屈託なく。だから自分は、たびたびそうして楽しんで笑えて喜べる時間を持てることをとても嬉しく思ったんだ。
毎年恒例高円寺フェスでののほほん学校。今回は筋少メンバー全員に、えんそくのぶうくんがゲストに揃い踏みという何とも豪華な内容だ。橘高さんに至っては四年連続出場で、おいちゃんも三回目の登場とのこと。開演前にはえんそくのMVとナゴム時代の筋少の映像、ボーン・イン・うぐいす谷のMVが巨大なスクリーンに映し出され、ふかふかの背もたれに身を委ねながらゆったりとその時が来ることを待っていた。
まずはオーケンが登場して拍手に迎えられながらオープニングトークを始める。曰く、ボーン・イン・うぐいす谷はいける気がする、もしこの曲でヒットしたらもう高円寺を出て代官山生まれ青山育ちを名乗る、ウィキペディアからも高円寺の名前を消す、もちろん来年はこのステージには立たないと言い出し、いきなりの高円寺ディスで笑いをとった。
そしてゲストに迎えられたのは橘高さんとおいちゃんの二名。ここで先日の筋少ライブで起こった機材トラブルの話題が出た。一曲目の「ハリウッドスター」で橘高さんの音が出ないというトラブルがあるも、オーケンは隣の内田さんのベースの音が大きいため気付かない、しかしオーディエンスがざわざわしていて、気付けば橘高さんが舞台袖に引っ込んでいる。続けるか否かと合図を送れば橘高さんはXファンに負けないほど勢いよくバツ印を両手で作り、最後まで終えた後、オーケンの機転により「筋少初のサウンドチェックでーす!」という言葉で笑いをとって、ステージからメンバーがいなくなり、機材の調整後再度一曲目から始められたのだった。
このとき、トラブルがあった一曲目を観ていたにも関わらず、仕切り直しされた「ハリウッドスター」を、さも初めて観るかのように、興奮した目つきで迎え入れたオーディエンスを嬉しく思ったと語られ、何やら照れ臭いような嬉しいような気持ちになった。何となく、信頼関係を明示された気持ちになって。
それからトークが弾み、一度オーケンがはけておいちゃんと橘高さんによる「愛は陽炎」の弾き語りが披露された。これがまた格好良かった……! 橘高さんの全力の歌唱が胸に響いてたまらなかった。
で、この後。オーケンが入場しゲストのぶうくんが呼び出されたとき、オーケンが楽屋のモニターで弾き語りをする二人を観て「全力ですごいなぁ」といったことを口にしたことを橘高さんとおいちゃんにぷりぷりしながら告げ口し、「ステージに立つ人はいつだって全身全霊でしょう!!」とオーケンを詰め、オーケンがたじたじになる場面があって面白かった。
それから高円寺出身のぶうくんとオーケンによるめくるめく楽しいトークが繰り広げられ、オーケンを尊敬しつつ、適度にいじり、その塩梅が実に絶妙なぶうくんの話術に舌を巻き、それはもうげらげら笑った。ぶうくん、今日この日に来てくれてありがとう。ヤバイ客の話は本当にやばくて面白かった。
そして最後のゲストの内田さんが招かれ、オーケン、ぶうくん、内田さんの三人でトーク。このとき、内田さんの発言でオーケンが小説を読めなくなったエピソードが語られた。曰く、「他人の妄想を読んで何が面白いのか」といったことを内田さんに言われ、ガーンとショックを受けたそうである。ただ、内田さんが言うには小説よりも実際に起こったドキュメンタリーに魅力を感じるとのことなので、悪意や他意は無かったと思われる。しかし、オーケンはそのように受け取り、数年小説から遠ざかっていたという。
だがある日、椎名誠の「アド・バード」を手に取った。オーケンはずっと椎名誠のエッセイを大量に読んできていたが、SFには触れていなかったという。ところが「アド・バード」を読んだとき、そこに描かれるめくるめく妄想の世界が、これまでに読んだエッセイから想起されるあらゆる体験が下敷きになっていることが、彼の著作を読み続けてきたオーケンにはわかったそうだ。そして、「たかが他人の妄想」も、膨大な体験があってこそ描かれるものであり、その妄想即ち小説を通して世界にアクセスできると気付いて、また小説を読めるようになったと熱く語っていた。
小説が読めなくなった話を聞いたときはドキドキしたものの、ここに至る話が聴けて良かったなぁと感じた。同時に、些細とも思われる言葉に影響を受け、時間をかけて咀嚼し、自分の中に一つの答えを出せる関係性を羨ましく思った。
オーケンはオケミスに内田さんが来てくれたことを嬉し気に話しつつも、目的がオケミスだけではなく、ゲームのついでであることを追究し、「そうじゃない」もしくは「そうである」答えを引き出そうとする様子を見て、オーケンは本当に内田さんが大好きなんだなと思った。本当に仲直りしてくれて良かったよ……。
そうしてオーケンと内田さんとぶうくんの三人で歌われたのは「最期の遠足」ならぬ「2人と5人」。何と内田さんが空手バカボンバージョンの「2人と5人」で打ち込みを作ったそうで、「今思うとひどい歌詞なんだけど」と言いつつオーケンとぶうくんはしっかり歌ってくれた。声もまさの「2人と5人」の高い声! まさかこれを聴けると思っていなかったからとんだサプライズだ。嬉しかったなぁ。
ちなみにこの曲を内田さんは新幹線で作ったそうで、隣に座るオーケンは「もっと早く作ればいいのに」と思いながら見ていたそうだ。しかし内田さんはちょうど仕事が詰まっていた時期だったそうでこの時にしか作業時間がとれなかったそうである。
最後はおいちゃんと橘高さんもステージに揃い、五人でカラオケを歌って楽しく終わった。夢のような二時間だった。願わくは、うぐいす谷がヒットしても来年もこの高円寺で楽しい時を過ごせますように。あぁ、こんなに笑えるなんて最高だ。