未分類4杯, 平沢進, 非日常

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平沢進のファンクラブ限定イベント「景観する循環カフェ」に参加した。場所は吉祥寺のスターパインズカフェ。ステージ前に椅子が敷き詰められ、二階席からはステージを見下ろせる構造になっている、と、冷静に書き出そうとしているものの既に脳が爆発しているので指の動きもままならない。

平沢進のファンクラブに入会して六、七年経つが、これまでファンクラブ限定イベントが開催されたことはなかった。故に開催が発表されたときは大いに驚き、ファンクラブ限定の空間で平沢がどのように振舞ってくれるか興味深く思ったものだ。そして迷わず申込みをし、運よく当選し、運よく素敵な整理番号が割り振られ、運よく最前列で平沢進の姿を拝むことができた。

目と鼻の先。たった一メートルの距離に平沢進が存在していた。実在していた。
そうして、こぼれる笑顔を隠すことなく、柔らかな空気でトークをしてくれるのである。

よって己の脳は爆発したのである。幸福だった。

イベントは二部構成になっており、前半では事前に募集していたファンからの質問に答える形でトークが繰り広げられ、休憩を挟み、後半でライブ。楽器や声による音をその場で録音して再生し、次第次第に音を重ねていき、即興の多重録音にボーカルを乗せて歌う姿はミュージシャンの演奏というよりも、職人技を見せ付けられる見事さがあった。曲は「ロタティオン」「電光浴」「CHEVRON」の三曲で、最後の「CHEVRON」ではオーディエンスの声を録音し、楽曲の一部に取り込む催しも。平沢が「さん、はい!」と小声でタイミングを示し、「うーうっ」と会場全体で声をそろえること繰り返すこと数回。集ったファンの声は一つの音と化し、音楽の一部となって会場内をぐるぐる旋回し、さらにその上に平沢の声が重ねられたのであった。

「景観する循環カフェ」の名にふさわしく、演奏された三曲とも「循環」がテーマなこともにくい。上手に声を出せたことを平沢にお褒めいただき、電源を切れば消える多重録音はその空間でのみ旋回したのであった。

第一部と第二部では空気が全く違うのも印象的だ。第一部では眼鏡をかけ、事前に募集したリスナーからの質問が書かれた紙を見つつ、横に座る司会の女性が読み上げる質問に答えながら朗らかに話してくれた。しかし第二部が始まるや一変、眼鏡を外し、照明が落とされたステージで機材に囲まれながらギターを抱くその表情は、まるで弓を引き狙いを定め今にも矢を放つ寸前のよう。張り詰めた空気が漂い、自然と開場もその渦に呑まれたのであった。

かと思えば最後の最後。アンコールを要求されて却下した平沢が、代わりにとプレゼントお渡し会をやってくれたが、その方法がすごい。プレゼントのオリジナルピックについての説明を語った後、「間接的手渡しをする」と宣言した平沢。何が起こるんだとステージを見つめているとスタッフがわらわらと集まってきて流しそうめんのような装置が組み立てられた。

客席に放流するように設置された四本の樋。そして放流する側に立つ平沢。間接的手渡しとはそういうことか! と納得しつつ、このためにわざわざこんなものを作ってしまう平沢に感服しつつ、平沢によって放流されたピックを「ありがとうございます!」と言いながら受け取ったのだった。この光景、二階席から見たらさぞかし異様だったことだろう。こういうちょっと捻じ曲がったファンサービスが愛おしい。

トークでは、アウトテイクは公開するつもりがないからどんどん削除するという話が面白かった。本人はどんどん削除したいので現在はどんどん削除しているが、過去の楽曲は原盤権などの問題で、レコード会社から勝手にアウトテイクをくっつけたCDを販売されることもあり、そういうのは好ましくないそうだ。しかしスタッフから宮沢賢治の全集をプレゼントされたとき、全集の中にあった宮沢賢治のメモや草稿を見て「これが見たかった」と大喜びした話が司会者から明かされる。「私は見たかったけど、宮沢賢治も嫌だったと思いますよ」と笑っていた。

あと使わなくなったアミーガを処分しようとしてスタッフに止められたり、止められるのが分かっているから事後承諾の形でことを進めようとする話もこの流れで語られた。ちなみに過去にPV集を作って販売する話も上がってはいたが、権利問題がややこしく立ち消えになった話も。……PV集……欲しかったな……。

平沢がツイートした造語への質問に対して、「皆よく覚えているね」「みんんさって何のことかと思った」と自分のツイートを覚えていない発言も。そりゃあそうだろうと思いつつ、大勢から「みんんさ」とリプライをもらって首を傾げる平沢を想像すると微笑ましい。

己が投稿した質問も採用された。脳が爆発した。平沢が質問を読み、考えて、答えてくれたこの事実! 間接的にピックをプレゼントしてくれたり、間接的に質問に答えてくれたり、あまりにも贅沢すぎるイベントである。嬉しかった。ありがたかった。今日は良い夢が見られそうである。至福。

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未分類0杯, ウタノコリ, 水戸華之介, 非日常

何て歌のうまい人なんだろう……と今更ながら惚れ惚れした。こじんまりとした温かい色合いのホール。もぎりのおじさんにチケットを渡したとき、「いらっしゃいませ」と上品に半券を返してくれたのが妙に嬉しかった。流れ作業のように半券をもいでいくライブハウスのスピード感もわくわくして高揚するが、この落ち着いた空気も心地良い。そして逸る気持ちを抑えながら、駆け出したい心を制しつつ階段を下りて会場に入る。並べられた赤い椅子はゆったりと配置されていて窮屈さを感じさせない。そして約一時間、空間に流れるボブ・ディランの音楽をそれと知らずに聴きながら、己はうつらうつらしていたのであった。最近どうにも慌しく、とても体が疲れていたので。

そうして始まったアコースティックライブ。ボーカル、ギター、キーボードの三人の編成。己は前から四列目の端に座り、ステージ全体を眺めながら空間全体に響き渡る水戸さんの声に聴き惚れていた。シンプルな編成だからこそ、より一層際立つ水戸さんの歌唱力。広々とした声の豊かさ。気持ちよくその声を全身に浴びながら背もたれに体重をかける安心感。それでいて、シンプルながらも決して物足りなくない音の重厚感。幸せだなぁ、と思った。

そんな、この日のセットリストは下記の通りである。


地図
カナリア

ぶち抜けBaby!!
人間ワッショイ!
ムードは最低

光あれ
大事な人よ
ふたりは

あるがまま
銀の腕時計
ホテルカリフォルニア

奈々
ヴィヲロン
知らない曲(「アモーレ」という言葉が出てきた。イタリアっぽい。カバー?)
天井裏から愛をこめて
でくのぼう
センチメンタルストリート

~アンコール~
知らない曲(インストゥルメンタル。)
雑草ワンダーランド
素晴らしい僕ら

~ダブルアンコール~
袋小路で会いましょう


「ヴィヲロン」の位置にやや自信を持てないが、だいたいこのあたりで間違いないはずである。本編は「地図」で始まり「センチメンタルストリート」で終わったのが印象的だった。一日一日を消費しつつ、地図という名の夢を掴むためひた走る男の歌と、青春の中で挫折を味わい続け、夢を諦めることを考えながらも、何とか前に進もうとする男の歌。前者は力強く勇気付けられ、後者は切なくも願いたくなる。この「センチメンタルストリート」を聴いて、また本編の一曲目に戻りたいと思った。そして自然と、アンコールの手拍子をしながらも、一曲目から順々に反芻したのである。

タイトル通り、アンジーの曲から最新アルバムまで楽しめるアコースティックライブ。アンジーのレア曲では「ムードは最低」が歌われた。セットリストを作るにあたり自分の曲目を見直したところ発掘した曲だそうで、水戸さん自身も忘れかけていたそうである。冒頭の「ムードは最低!」まではわかるにしても、それからどのように繋がるか思い出せなかったそうだ。

「光あれ」は水戸さん押しの一曲で、人生に絶望した男が神に祈ったら、異常に明るい神が下りてきてしまってホンジャラマカホイホイ、な楽しい曲。この一曲の中でのテンションの変わりっぷりはいつ聴いてもすごい。

今回の目玉の一つは「ふたりは」。演歌歌手が握手をしながら客席を回る姿を見て作ったため、ライブでの客席めぐりありきの曲とのことである。ただ、水戸さんが客席を練り歩きながら歌い、手を握ったり顎を持ち上げたりとサービス全開のパフォーマンスを行うため客がそっちに集中してしまい、「曲の良さ」が伝わっていないのではないか? ということで今回だけはパフォーマンスなし、ステージから離れず歌に徹したとのことである。

これがすごかった。「ふたりは」と言えば、あのパフォーマンスがある曲、という印象が強かっただけに、ステージにどっしりと構え、朗々と響く歌声を聴かせてくれる水戸さん。十一回目の不死鳥で、水戸さんとオーケンが「ふたりは」のバラードを歌ったときも、客席めぐりがなかった。そこで「あ、これこういう曲だったんだ」と気付いたことがあったのだが、今日このとき。この曲が本来持っていた魅力を知ったのだった。

そして「ふたりは」以上に圧倒されたのが「ホテルカリフォルニア」。この曲は今までのライブでも一回か二回聴いたことがある。しかし聴いたことがあるだけで、歌詞を把握しているわけではない。だが、歌詞がスッと頭の中に入ってきて、物語が胸に浸透する。水戸さんの歌の言葉の聞き取りやすさに感服すると共に、歌による説得力と声に精神を揺さぶられる。この曲が終わってから、ずっと後ろの席の人が泣き続けていた。

会場全体がしょんぼりした空気に包まれてしまい、水戸さんもそこまでするつもりはなかったと言いつつ、長めのトークで盛り上げて「奈々」へ! 大好きな「奈々」! 楽しかったーー!! この「奈々」の中では客いじりも。皆で「なーななーななななーなー♪」とヴィジュアル系バンドのファンの如く手扇することを求められ、精一杯それをやる! 楽しかった。

「ヴィヲロン」は途中で別の曲になったのだが、何の曲だかわからなかった……。何かのカバーのような気はするのだが……。

「ヴィヲロン」の次、だったかな? これも知らない一曲で、何となく何かのカバーのような気がしたが、違うかもしれない。イタリアっぽい曲で、「アモーレ」などの単語が入った陽気な曲。ここで! 「ふたりは」でなかった客席めぐり! が!

てをにぎってもらえてとてもうれしかったです。

「ティー・アモ」だったかな? 何かを英語で言うと「アイラブユー!」という流れで「天井裏から愛をこめて」に! 久しぶりに聴いた気がするなぁ。この当たり前のように客席が盛り上がる感じ、とても楽しい!

「でくのぼう」「センチメンタルストリート」と盛り上がって終わり、アンコール一曲目はインストゥルメンタル。「名曲!」と紹介されていたものの、どの曲かわからなかった……! カバーだったのかもしれないが、そうじゃないかもしれない。何て言うかな。「大槻ケンヂと切望少女達」の「きまぐれあくびちゃん」冒頭の「デッデッデッデッデッデッデデデッ」という重い音、それが思い出された。

ダブルアンコールは「良い曲で」ということで「袋小路で会いましょう」。客席を練り歩き、歌いながらオーディエンスとタッチをしつつ、水戸さんは後ろのドアーを出て退場する。その後も曲は続き、ギターの澄ちゃんが締めるという珍しい演出。MC以外の場面で、彼がこんなに語っているのを見るのは初めてだった。

そして改めて感じさせられるのが澄ちゃんの声の美しさ。アコースティックで際立つ水戸さんとのコーラスの味わい。好きだなぁ。

水戸さんはボブ・ディランに思い入れがあるそうで、このツアーの中でもノーベル賞を受賞したボブ・ディランに対する祝福の意を込めて歌っていた、と冗談交じりで語っていた。よって開場から開演までボブ・ディランの曲を流したとのこと。先に書いた通り、己はそのときうつらうつらしていたためほとんど耳に残っていなかったが、自分が憧れている水戸さんにも、憧れている人がいる、と思うと急に近しい存在に感じられ、何だかとても嬉しかった。

気持ちよく帰路に着く。雑踏の中を歩きながらも満ち足りていた。



未分類2杯, 町田康, 非日常

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ライブに通い出してから十年経つが、開演前から最前列の柵を握れたのは今日が初めてのことである。視界を遮るものが何もない爽快感と、この先の演奏への期待感。柵にわずかに体重をかけながら、ひたすら開始の時を待つ。

ステージとの距離を目で測る。こんなに近くで観られるんだ、と思うたびに嬉しかった。

オープニング・アクトは「砂漠、爆発」。ステージの後ろに張られた白い布をスクリーンの代用とし、サイケデリックな映像をバックにアジアンテイストの布を被ったボーカルが迫力ある声で歌い踊る。編成はボーカル・ドラム・ギターの三人で、MCによると楽曲にはインドのテイストが入っているらしい。ボーカルはキャップを前後ろに被り、サングラスをかけ、肩にはタトゥー、胸には大きくNIKEと書かれたシャツ、そしてだぼっとしたハーフパンツの下にはレギンスを穿いていて、タトゥーとサングラスを除けば朝や夕方に見かけるジョギングをしている人の格好のようだった。そして運動しやすい出で立ちを充分に生かした熱量溢れるパフォーマンス! バスドラの上に立って煽り出したときは度肝を抜かれつつ興奮してしまった。未だかつてあの上に乗りあがった人など見たことがなかったのだ。

一曲目が終わり、二曲目に入る前にマシントラブルが発生。ドラマーが奮闘する中、ボーカルとギターが話を繋ぐ。その中で観客に気を遣ったのか町田康を話題に出していたのが面白かった。

無事マシントラブルも解決し、大いに盛り上がって「砂漠、爆発」の演奏は終了。メンバーはステージから一旦去ったものの、スタッフと共にすぐにステージに現れて機材を片付け始めた。そうして片付いた後は次のバンドの機材の設置が始まる。バンドメンバーと思われる人物が続々とステージに登場し、あっちやらこっちやらで作業を進める。その様子をぼーっと眺めていたら、実にさらっと、ナチュラルに町田康も入ってきて、メンバーと一緒に演奏の準備を始めたから驚いた。おおー。すっごく普通に入ってきた!

準備が終わると町田康はステージ中央の椅子に腰掛け、まだ準備の終わらないバンドメンバーの様子を見ながらゆるーく存在していた。目と鼻の先、たった二メートルの距離に町田康。その町田康がまるで百貨店のエスカレーター脇に設置されたベンチに腰掛けるようなムードで無造作に存在している。ステージは下手からキーボード、ベース、ドラム、ギター、サックス。そして中央に椅子に座った町田康。

ついに準備は整い、演奏へ。町田康はジャケットを脱ぎ、Tシャツ姿になった。先ほど町田康が座っていた椅子の上には歌詞が書かれているであろう紙の束。演奏はムーディーなジャズを思わせるもので大人っぽい雰囲気である、ちなみに「思わせるもの」と書いたのは己がジャズをよく知らないためだ。

ライブはアップテンポの曲もありつつ、全体的にゆったりとした曲調のものが多かったが、では激しくないかと言えばそうでもない。随所で町田康独特の、あの震えるような叫び声が響き、ぎゅーっとつぶられた瞼には熱量が圧縮されている。去年ライブを観たときも、彼はぎゅーっと目をつぶりながら歌っていた。いったいいつから目をつぶるようになったのだろう。

多くが新曲だったのでどれが何の曲なのかほとんどわからなかったのだが、町田康の公式サイトに掲載されている歌詞を見る限り、今日演奏された新曲は「かくして私の国家は滅んだ」「白線の内側に下がってお祈りください」「試される愛」「いろちがい」「急に雨が降ってくる」である。「かくして私の国家は滅んだ」「白線の内側に下がってお祈りください」が特に格好良かったのを記憶している。ちなみに発売時期こそ明確ではないものの、CD制作への意欲はあるようだ。わあ! 楽しみである。

今回のライブはほとんどが新曲ということもあったのだが、曲の構成として「どこで終わるのか」がわかりづらいのが印象的だった。今の曲が終わって次の曲に移ったものかと思いきや、一曲の中で雰囲気がガラリと変わっただけで、元の調べに戻ったときにようやく「あ、これさっきの曲がまだ続いていたのか!」と気付くのである。その振り回される感じも愉快であった。

MCでは歌詞についての話も。現代のJポップやラップは、日本語で歌いながら、いかに日本語っぽく聴こえないようにするかに注力されているという話から始まり、詩歌について考えるとなると現代だけでは足りず、昭和歌謡やフォークについても考える必要が生じる、という話から浅川マキや憂歌団が好きでよく聴いていたこと、そして考えるだけではわからず、実践をしてみなくてはならない、という流れで憂歌団の「嫌んなった」がカバーされた。

このとき、ぼそぼそっとした喋りのままMCから曲への境目なしにそのまま演奏が開始され、気付いたら知らない世界に突っ込まれたかのような唐突を味わい、息を呑んだ。この曲中、「嫌んなった」のときだけ町田康はギターを抱えて演奏していた。途中、ストラップが外れてギターが落ちそうになり、演奏が中断されるアクシデントもあったがご愛嬌である。このふらっとした何気なさで空気を変える威力と茶目っ気のギャップがキュートだ。

こうして新曲をたくさん聴ける喜びに浸りつつも、知っている曲を演奏してもらうとやはりそれはそれで盛り上がる。特に「犬とチャーハンのすきま」収録の「俺はいい人」。「犬とチャーハンのすきま」が大好きなだけでにたまらなく嬉しかった。あともう一曲は「つるつるの壷」で、確かアンコールだったかな。この爆発力たるや凄まじかった。

「汝、我が民に非ズ」は長い助走期間を経てようやく本格的な活動を開始したとのことで、また二月にライブをやる予定らしい。嬉しいなぁ。あと願わくはCDも。今日聴いた曲を反芻できる日を心待ちにしながら日々を過ごそう。可能であれば、少しでも早く聴きたいものだ。もう一度。



未分類4杯, 筋肉少女帯人間椅子, 非日常

オーケンが「ボヨヨォオオーーーーーーーーーーン!!!!」とシャウトしたとき、己は胸の前で両手の指を交互に組んで、祈るような気持ちでいた。

まさかこの「ボヨヨン」という叫びを聞いてここまで感動する日が来ようとは、誰が思っていただろう。
でも、とにかく嬉しかったんだ。

「私事ですが」と前置きしていた通り、オーケンは五月に声帯ポリープ除去手術を受けている。そしてリハビリを経て、ロックの舞台に戻ってきた。たかだか三ヶ月だが、ずっと待ち望んでいたその声。思い出すのは先日の弾き語りライブで若干、辛そうに歌っていたこと。きっと大丈夫、時間をかけてゆっくり治してもらえれば、と思いつつ。思いつつも。

良かったなぁ。

見所がたくさんある公演だった。人間椅子の重厚な演奏、迫力のグリグリメガネ、いつまでも新鮮な日本印度化計画、ブラックサ・サバスにKISSのカバーに、長谷川さんのドラムがおどろおどろしいりんごの泪に地獄のアロハ、豪華絢爛な釈迦。全力で楽しんでいる大人達の素敵な姿に憧れ、自らもそうありたいと思い、この暗闇の中にある確かな居場所に感謝しつつ、しかし、やはり一番、今回心に残ったのはオーケンの声だった。

座席の都合でステージは遠く、メンバーの表情は読み取れない。それでも必死で目で追って、音を聴き、こうしてまた筋肉少女帯を歌うオーケンを観られることを喜びつつ、まだどこかしんどそうな場面もあって、心が苦しくなりつつも、待とう、と思った。

筋肉少女帯のセットリストは「イワンのばか」「カーネーション・リインカネーション」「日本印度化計画」「週替わりの奇跡の神話」「ワインライダー・フォーエバー」「踊るダメ人間」「サンフランシスコ」。何度も何度も繰り返し聴いた定番曲の安定感が嬉しかった。そしてしっくりくるその歌声に、ただしみじみと幸福を感じたのだった。

ありがとうオーケン。お帰りなさいオーケン。あなたの声が聴けて、とにかく嬉しい。



未分類2杯, 大槻ケンヂ, 非日常

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オーケンが声帯ポリープの除去手術を受けたのは五月の上旬で、己が最後にオーケンの歌声を聴いたのは四月二十三日の筋少ライブ。たったの三ヶ月ちょっとしか経っていないのに、オーケンの歌声を聴けるこの日を随分久しぶりに感じたのは、きっと不安もあったのだろう。

オーケンは時折歌いづらそうにしている場面もあったが、耳馴染んだ歌声とおっとりとした話し声はまさしく己が待ち望んでいたもので、ジーンと感動……するはずだったのだが、サービス精神たっぷりのトークと曲中の仕掛けでゲラッゲラ笑ってしまい、ごく単純に「あー面白かったー!」と非常に楽しい気分でライブを終えたのだった。

よって曲目は覚えているが曲順は覚えていない。最初の「タンゴ」「蓮華畑」「生きてあげようかな」と、本編ラスト、アンコール、ダブルアンコールだけは確かである。あとはもうわからなくなってしまった。


タンゴ
蓮華畑
生きてあげようかな
あのさぁ
アザナエル
おやすみ-END
揉み毬
氷の世界

ロマンティックが止まらない(水戸さん&うっちーテクノユニット)
100万$よりもっとの夜景(水戸さん&うっちーテクノユニット)

日本印度化計画~踊るダメ人間(短縮メドレー?)
愛のプリズン
混ぜるな危険
guru
蜘蛛の糸
香菜、頭をよくしてあげよう

~アンコール~
週替わりの奇跡の神話

~ダブルアンコール~
オンリー・ユー(オーケン、水戸さん、うっちー)


オーケンが声帯の手術を受けると知ったときは、今年はイベントやライブも控えめになるのだろうなと思ったものだが、復帰後怒涛のようにスケジュールが追加されていき度肝を抜かれた記憶も新しい。とはいえ今もオーケンはリハビリ中とのことで、高い声を出すのに難儀しているそうだ。筋肉少女帯の歌を歌えるか不安を抱いているようで、今日のライブでもポツポツと心情を吐露していた。

声が出せなかった期間はやはりつらかったそうだ。声が出せるようになったときは夢から覚めた心地であったと言う。改めて、気持ち良さそうに歌うオーケンを観られることを嬉しく思った。オーケンはたびたび、自分は表現がしたくてロックを始めた人間で、音楽がやりたくてロックを始めたわけではないことを様々な場面で語っている。その印象が強いためか、三十年以上ステージに立ち歌を歌い続けている人であるにも関わらず、オーケンが「歌が好き」であることを己は意識したことがなかった。だからオーケンが歌えないことがストレスだった、歌えることが嬉しいと語るのを聞いて驚いた自分がいた。同時に、驚きを感じる自分についても驚いた。

そういえば、オーケンが「歌が好き」「歌うことが好き」とストレートに語る場面を己は見たことがなかったかもしれない。だからこそ尚更、「好き」と語るオーケンに意外性を感じると共に、何だかむず痒いような可愛らしさを感じたのだった。いいな、と思った。

譜面を前に、アコースティックギターを抱え立ったまま歌うオーケン。今日のライブハウスは椅子席と立ち見席が混在していたため、立ち見の客を慮ってずっと立ったまま歌ってくれたのである。おかげで立見席の自分もオーケンの姿をしっかりと捉えることが出来た。この心遣いが嬉しい。

さらに、立ち見の客のために「ゼリーを撒いて、ゼリーの中でぷかぷかできるようにする」「天井から紐がぶらーんと垂れてきてそれに捕まる」「小学校とかに置いてあるさすまたでお互いを支え合う」などなど、素晴らしいアイディアを出して大笑いさせてくれた。個人的にはゼリーの中をたゆたいたい。

今回のライブでは、一曲一曲にまつわるエピソードや豆知識を歌った後に語ってくれた。「蓮華畑」は仮歌のタイトルが「蓮華畑」で、それをそのまま採用したとのこと。こういうことはたまにあるそうで、問題曲「ドリフター」は内田さんか別の誰かが歌っているのを聴いてそれを歌詞に採用したそうだ。また、「アザナエル」は仮歌の段階で歌詞があり、それをもとに今の歌詞に書き換えたのだが、元の歌詞にあった「放浪」の部分が残されているという。

「生きてあげようかな」では、演奏中、語りに入ったところで「このあたりからわからなくなるんだよね」と言いつつ、わざとらしく思い出し思い出ししながら語るというパフォーマンスも。ちなみに今度発売されるベスト盤に収録される新曲二曲のうち、一曲は「生きてあげようかな」に近いテイストとのこと。楽しみである。

「あのさぁ」では、「お客様の中にユニゾンできる人、コーラスできる人はいますかー?」という呼びかけの後、皆で「あのさぁ、あのさぁ、あのねぇ、あのさぁ」を歌う場面も。「あのさぁ」の「さぁ」は短く切り、「あのねぇ」はいやらしく、という指示が出され、オーケンも「あのねぇ」の場面で顔を作っていやらしさを出そうとしていたようだった。いやらしくはなかった。

曲にまつわるエピソードと言うと、聴き手側は「自分が聴いた状況や環境」が結びつくことが多いが、作り手は「その歌詞を書いていた場面」が印象に残るそうだ。「おやすみ-END」はアルバム「レティクル座妄想」のジャケットを描いてくれた友人の死の後に、友人のことを思いながら描いたもので、書きながら見ていた空の景色が思い出されると言う。

「揉み毬」からスパブームの話へ。一時期スパにはまっていたことがきっかけで「揉み毬」ができたという。ただ、スパに通ううちに「自分は男性の裸を見るのが苦手」であることに気付き、足が遠のくようになったそうだ。あと、風呂場で全裸の状態で従業員に「大槻さんのおかげで救われました!!」と熱意をぶつけられるも全裸ゆえ身の置き所がなく困ることがあったことも原因の一つだと言う。そりゃあなぁ……。

中盤あたりで、ゲストの内田さんと水戸さんが登場! チケットをとったときは水戸さんの出演は決定しておらず、ステージで観るまで水戸さんがゲストであることを己は知らなかったので、これは嬉しいサプライズだった。写真を見返してみれば看板にもきちんと記載されていたのに気付かなかった。まさか二週連続で水戸さんの歌声を聴けるなんて! 今日は何て豪華な日なんだろう!

内田さんはクラフトワークを意識した赤いシャツと黒いネクタイ、水戸さんは電気グループを意識したラフな格好、そして内田さんの機材はMac。そう、まさかの! 100曲ライブでも披露してくれたテクノをやってくれるのである! 今日も!

テクノ談義で盛り上がりつつオーケンは退場し、ゲストの二人だけがステージに残される。テクノ……と言うと100曲ライブ用に作った二十曲しかないはずで、それは全部水戸さん持ち歌のはずである。対バンならともかく、ゲストとして登場して主催者もいないまま自分の曲やるってかなりアウェーじゃないか……? 大丈夫だろうか……? と思っていたら案の定水戸さんも不安に思っていたらしく、3-10でカバーした「ロマンティックが止まらない」で盛り上げた後、自分の曲を始める前に前置きを入れまくっていた。

しかしアウェーも何のその。軽快な音楽と力強い熱唱で思いっきり盛り上げてくれたのである。格好良いなぁ!!

内田さんと水戸さんが退場するとオーケンが入場。このあたりだったかな。長年歌ってきたせいで歌い飽きている「日本印度化計画」と「踊るダメ人間」を端折りつつ繋げてやって、あたかもフルでしっかり歌ったような顔をして「たっぷり歌ったぞう!」と冗談を飛ばして観客を沸かせた。

「蜘蛛の糸」が聴けて嬉しかったなぁ。この曲がオーケンを知るきっかけになったので、とりわけ思い入れがあるのだ。だからこそこの日、改めて「蜘蛛の糸」が聴けたのは感無量だった。

「第二章」についての言及も。ある日、ライブで歌ってみようと思って久しぶりに「第二章」を聴き直したところ、自ら作った歌詞ながら「そういうことしちゃだめだよ!」とびっくりし、現在は封印しているらしい。歌詞の少年が更生したら封印が解かれるかもしれないそうだ。

本編最後は「香菜、頭をよくしてあげよう」。この曲の最後の「一人でも生きていけるように」が高くいため声を出しづらいとオーケンは語った。そうして前奏を爪弾き出す。自然、ドキドキしてしまう。そしてついに問題の箇所に差し掛かった。出た!

見事オーケンは歌いきり、会場は拍手で包まれた。ほっとした。やっぱり、嬉しいものだなぁ。

アンコールでは練習中の曲だから、という前置きをして「週替わりの奇跡の神話」。これの「不変の」も声が高く、なかなか難しいそうで、オーケンは何度もやり直して歌いきろうとしていた。

ダブルアンコールでは、ゲストの内田さんと水戸さんと三人で「オンリー・ユー」。数年前の水戸さんのライブ「不死鳥」でオーケンがゲスト参加したときにオーケンと水戸さんが歌った曲である。あのときはエレキだったが、今回はオーケンのアコギでゆったりと。思えばオーケンの弾き語りをこんなにじっくりたくさん聴いたのは今日が初めてだ。トークイベントで数曲聴くことはあるもののそれも頻繁にではない。だから尚更びっくりした。いつの間にか、人を交えて弾き語れるほど上達していたのだなぁ。すごい。

何年か前まで、全く楽器が出来なかったのが嘘のようである。同じように数年後、声帯ポリープの手術を受けた日が遠い過去にしか感じられない日が来れば良い、と思ったのはライブハウスを出て電車に乗って家に帰って風呂に入って人心地ついた後で、終わった直後はひたすら楽しく、面白かったー笑いまくったー最高だったーという感想しかなかった。オーケンと水戸さんのトークの勢いと面白さは留まるところを知らない。特に二人のMC談義の聞き応えは素晴らしかった。

あ、そうそう。ついにこの日チェキを買ってしまった。二枚。大事にとっておこうと思う。ふふふ。