中二病の神ドロシー 筋肉少女帯拡散波動砲2013 FINAL (2013年9月28日)

「カーネーション・リインカーネーション」の演奏時、あまりの苦しさに「筋少が殺しにかかってきている」と思った。

場所は渋谷CLUB QUATTRO。見事な大入り満員で、前方はいつにも増してぎゅうぎゅう詰め。さらに、下手側にはまるでおいちゃんの視界を塞ぐかのようにでっかい柱が建っていてオーディエンスの動きを阻む。四方八方を赤の他人と密着するのはいつものことだが、それにしても余白が少ない。今までの筋少のライブの中で、一番過酷なライブだった。

そして自分の立ち位置はその悪名高い柱の近く。クアトロには邪魔な柱がある、という話は聞いたことこそあったものの、実際にクアトロに足を運んだのは今回が初めてで、一目見てこりゃあ邪魔だと納得。柱の後ろ側からだと下手側のステージが全く見えないのである。

しかし柱を避けて視界の広い位置に立ってもこいつは曲者だった。ノリに乗って跳ね回る観客。自然と立ち位置はそのときそのときで移動する。当初、柱より上手側に立っていた自分も流れに流され気付けば柱のすぐ隣、そして曲は「イワンのばか」。熱気と興奮の渦の中、揉み合ううちに体が飛んで、即頭部を柱の側面にガチンとぶつけたのだった。これには流石に一瞬、命の危機を感じた。いくら筋少ファンとも言えども、筋少のライブに行って柱に頭をぶつけて死にました、と親に報告されるのは避けたい。

幸いにも大したことは無く、コブが出来ることすら無かったが、柱があるのは仕方が無いとして、激しいライブのときには布かスポンジか薄いマットを巻いておいた方が良いように思う。いつか事故が起こるんじゃないか、あれ。

柱の話はここまでにして。今回のライブは筋肉少女帯拡散波動砲2013 FINAL。筋肉少女帯拡散波動砲は、筋少メンバーが在籍しているバンド・グループ・ユニットが二組以上揃った状態を指したもの。そして今回は「FINAL」ということで、ついに、筋肉少女帯のメンバーが全員揃った記念すべき公演とのことだ。

だが、ここでちょっと不思議なのが、筋肉少女帯のメンバーが全員揃っているのに今回の公演のバンド名は「中二病の神ドロシー」ということ。現筋少メンバーではないエディがいない状態を「中二病の神ドロシー」と名づけるのは、まるで筋肉少女帯にはエディの存在が不可欠と言っているようだ。

実際、そうだと思う。

実はここ一週間ほど、内田さんが在籍している水戸華之介&3-10Chainの音楽を聴きながら、筋少は楽器が多いなぁと思っていた。先に言っておくがそれは不満では無い。ただの感想だ。水戸華之介&3-10Chainの構成はボーカル、ギター、ベース、ドラムが基本。そのうえで、ベースの存在感が目立つ曲が結構多いのである。筋少で言えばここはきっとおいちゃんが弾いているだろう、と思うところにベースが入る。

対して筋少の構成はボーカル、リードギター、リズムギター、ベース、ドラム、ピアノ。リードギタリストがピロロロロロロロロと早弾きをする中でリズムギタリストがギュワギュワとかき鳴らし、ドラマーがツーバスをドコドコドコドコドコ踏み鳴らし、ピアニストもこれでもかと弾きまくり、さらにはボーカルがヘイヘイ叫び煽りながらあらゆる隙間を埋めていく。無論ベーシストも弾きまくっているのだが、筋少の後に3-10を聴くと「すごくベースが聴きやすい」と思うのだ。

だから今回、エディがいないライブというものを興味深く感じていた。楽器が一つ減るとどのように印象が変わるのだろう。それを楽しみにしていた。

さてその印象はと言うと。結論から言うと物足りなかった。ピアノのところをギターが補完している箇所に気付いて感動し、普段と違う面白味も感じたのだが、やっぱりどこか物足りない。エディがいないだけで、随分シンプルになってしまったような気がして寂しかった。一曲目は大好きな「モーレツ ア太郎」で、大いに気分は高揚し興奮したのだが、自分が一番好きなのは「どこへでも行ける切手」のライブDVDの、エディがピアノを弾きまくるバージョンなのだ。すごく好きな曲だ、何て格好良い歌詞だ、だが足りない! そう強く感じた。

今回のライブで、聴けて嬉しかった曲は「日本の米」「風車男ルリヲ」「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」「タチムカウ―狂い咲く人間の証明―」、そして「トキハナツ」。特に「トキハナツ」に至っては! 密かに自分はこの曲をやってくれることを待ち望んでいたのだよ!

「タチムカウ」と「トキハナツ」は浪人時代によく聴いていた。ふさぎ込んだりはしていなかったが、鬱屈した気持ちは多少は抱えていて、その気分に合っていたのだ。聴くと気持ちが楽になり、よし頑張ろうと思えたのだ。この二曲をまさか同じ日に聴けるとは。嬉しかったなぁ。

しかし、「トキハナツ」の「OK!」と叫ぶところで、「オイ!オイ!オイ!オイ!」と煽るのは! ちょっとそこにその煽りを入れるのは違う! 「OK!」の方に合わせたい! やりづらい! と思った。そこは別に埋めなくても良いんだよオーケン!

「トキハナツ」を歌い終わった後、この曲は「最後の聖戦ツアー以来やってなかった曲」と語るオーケン。どうやらどんな歌詞だったか忘れていたらしく、あの「アイアムアトップオブブリーダー」について、「サビにアイアムアトップオブブリーダーって! こんな歌詞を思いついた俺はすごいよ、天才だよ」とオーケンが笑いながら言っていたが、自分は本気で「うん天才だ」と思っていた。初めて聴いたとき、「トップオブブリーダー」という言葉にこんな使い道があったなんて、と感銘を受けた。本当に。

「日本の米」に入る前も素晴らしかった。「正直好きなミュージシャンの曲でも飛ばす曲ってあるでしょ?」と観客に語り掛けるオーケン。「俺の曲だから言うけど、日本の米は飛ばされる曲だと思うの」。すると「えーーーーー」と観客から非難の声。「聴きたいの? 聴きたいの? でもなぁ、………え、やるの?」とメンバーにしらじらしく次の曲を確認。メンバーの言葉により、次の曲が日本の米と知るや否や、「いやだ~やりたくない~」と駄々をこね始めるオーケン。

ものすごく面白かった。

「やだ~アラフィフにもなって米米米米とかやだ~」「何で今になって『知らないのか納豆に! ネギを刻むと美味いんだ!』なんて言わなきゃいけないの!」「おらやだぁ~みんながやれって言ってもやだぁ~」と顔面をくしゃくしゃにさせながら、記録媒体でしか知らないナゴム時代を思わせるような奇声を発しつつ、嫌だ嫌だと拒否を続ける。段取りがあったのだろう、見かねた内田さんが助け舟を出す体で、「じゃあ……(僕が代わりに歌うよ)」とオーケンに声をかける。しかし。

「待って! これは俺のエチュードだから!」と制し、小芝居を続行。「やりたくねぇよ~」とイヤイヤしながら散々狭いステージを歩き回って、そしてそのままステージの外へ出て行ってしまった。小芝居だということはメンバーも観客も理解していただろう。しかし、あまりの力の入れようだったため、「え、今の何だったの…?」と、しばしぽかんとした空気が流れた。「帰っちゃったね…」と口火を切る内田さんに対して、「そうだね」と心の中で相槌を入れた。あのときのオーケンはまるで何かが乗り移っているかのようだった。

そしてオーケン抜きの内田さん、おいちゃん、橘高さんで「日本の米」! いやー格好良い! いやー馬鹿な曲! これは確かに、ボーカルは口が飽きそうだ、と納得しつつも嬉しかった。

中盤あたりだっただろうか。「日本の米」のときとは逆に、今度はステージにオーケンが一人。手にはアコースティックギター。そして奏で出すのは「ノゾミ・カナエ・タマエ」! 先日の谷山浩子のライブ「猫森集会」でも披露した一曲だ! また聴けて嬉しい反面、アコースティックギターでの演奏ではシャウトが抑え目になり、原曲よりも寂しげな歌声になるので、通常編成の状態でも聴きたかったなぁと思った。

「ノゾミ・カナエ・タマエ」の終盤でメンバーが入場。オーケンはギターを下ろさず抱えたまま次の曲へ。もしや、と期待を込めれば大好きな「風車男ルリヲ」! 前回ライブで聴いたときはまだギターに慣れていなかった頃だ! すごい。今はギターを弾きながら歌う姿に余裕が感じられる。ただ、慣れないギターに緊張して歌っていた頃の方がルリヲの曲には合っていたようにも感じられた。今回はちょっとゆとりがあったのか、焦燥感が軽減されていたのだ。

ふと思い出したが、「アウェーインザライフ」の「ホームにしてみろ」のところ、CDでは声を張り上げて叫ぶ箇所が、昨今では声を低くして伸ばすように歌うことが多かったのだが、今回はきっちり思いっきり叫んでくれていて思わずガッツポーズをとってしまった。これだよ! やっぱりこれが格好良いんだ!!

「ザジ、あんまり殺しちゃだめだよ」をライブで聴いたのは今回が初めて。改めて、「お祈りをしてあげよう」という言葉を好きだな、と思った。

MCではオーケンがおいちゃんとあまちゃんの話を、内田さんとはマー君の話を、橘高さんとはハードロック芸人の話をしていた。「あまちゃん」はどうやら本日最終回を迎えたそうで、そのことに喪失感を抱く現象を「あまロス」と呼ぶらしい。「あまちゃん」を観ていたのはメンバーではおいちゃんだけで、あまちゃんを観ていないオーケンが断片的な知識を繋ぎ合わせておいちゃんに「合ってる? 合ってる?」と質問していた。案外間違っていなかったらしい。

この後、オーディアンスに向けて「あまちゃん観てる人~」とオーケンが問いかけ、直後破顔。「あんまり観てないんだね」「流石筋少ファンだねえ」と挙がった手の数を見て感想を漏らすオーケン。オーケンの中の筋少ファンのイメージが垣間見える瞬間だ。

「俺内田君とよく知らないものについて話すの好きなの」と言って「マー君」の話へ。「マー君って知ってる?」「あれだよ、ハンカチの…」「違うよぉ~」と互いにおぼろげな知識で適当な会話を繰り広げる様子が非常に面白かったのだが、自分自身「マー君」をよく知らないため、何が正しく何が間違っているのか全く覚えることが出来なかった。野球関係の人で最近何かしらの良いことがあったらしい。

あと、ライブの後半でオリンピックの話題になったとき、筋少は2020年、オリンピックにどう接するか、取り組むか、関わるか、というような質問をオーケンが内田さんに投げたとき、「興味ない」とバッサリ切った内田さんに歓声を上げた一人は自分である。いや、別に良いんだよ盛り上がるのは。楽しそうな人に水を差すつもりは無い。ただ、そこまでスカッと言い切ってくれると嬉しくなるのだ。同じく全く興味が無い人間としては。

他に印象深いことと言えば、これも中盤あたりで、「皆さんがニコニコしていて嬉しいです」とオーケンが言ったこと。オーケンはもともといかにお客さんを楽しませるかを重要視するエンターテイナーだが、最近はそこに使命感さえ抱いているように見える。まれに、「この人は筋少ファンが筋少以外には何も楽しみが無くて常に日々を鬱屈した気分で生きていると思い込んでいるのでは無いか」「そこまで心配してくれなくても大丈夫だよ」と思うこともあるが、こうもストレートに言ってくれると、流石にちょっと射抜かれた。

オーケンの言う「煮込まれたおでんのような客」も「切ったばかりのシャキシャキの大根のような客」も等しく楽しませ、満足して帰ってもらおうとする姿勢が好きだ。「お前たちは『またカレー?』と思うかもしれないけど! 今日初めて来た人は、『わあ! あのカレーの曲が聴けたんだー!』って喜んでくれているんだよ!」「僕もねぇ、バンドをやる前は毎回違う曲をやれば良いのにって思ったけど、そういうわけにもいかないの! 照明さんの都合や音声さんの都合もあるの!」と大人の事情を吐露しつつ、「ザジ」と「トキハナツ」をやってくれるんだからなぁ。たまらないよ。