初めての仮面ライダー
2017年12月9日(土) 緑茶カウント:0杯
どうしてか、これまでの人生で仮面ライダーに触れる機会がなく、一度も仮面ライダーを観ることなく大人になった。わりとテレビは自由に見せてもらえて、アニメもたくさん観て育ったのにどうしてだろう。我ながら不思議に思う。
それはあなたが幼少の頃は、ちょうど仮面ライダーが放送されていない期間だったからだよ、と同年代の方に教えてもらったのが少し前。しかしその同年代の方は仮面ライダーを観ている。曰く、再放送を観ていたらしい。
なるほどなぁと納得しつつ、三十一歳の今、映画館でビールを片手にポップコーンを食べながらスクリーンを見上げる。一つ空けて隣の座席にはパンフレットをくちゃくちゃに握り締めた男の子とそのお父さん。「誰々は出ないんだね、最近ドラマで忙しいからかな」と大人のような口ぶりで話す様子が愛らしい。公開初日だが、十八時開始の回を選んだため人がまばらで過ごしやすかった。ざっと見渡してみるに、時間帯のせいか子供よりも大人の客の方が多いようだ。
さて。何故今、わざわざ劇場に足を運び仮面ライダーを観ようとしているのか。どうして今日、自分はポップコーンを食べながらゆったりした座席に身を沈めているのか。答えは一つ、大槻ケンヂが出演するからだ。
まだ言えないけど、みんながびっくりする情報がそのうち公開されるよ、ともったいぶっていたオーケンからその情報がついに公開されたときの驚きたるや。えっ。えっ? えっ!? どうして、何がどうしてオーケンが仮面ライダーの敵役に? 何でまたオーケンが劇場版仮面ライダーに出演を?
オーケンが熱心に俳優活動をしていたならここまで驚くこともなかっただろう。そう、オーケンは過去にドラマや映画に出演したことこそあるものの、あくまでも職業はミュージシャンで作家なのだ。そしてまた、演技が苦手であることを公言している。故に楽しみであり、心配であり、楽しみであり、心配であった。
とにかく劇場に足を運ぼう、と心に決め公開を待つ日々。オーケンファンであり仮面ライダーファンの方から事前におすすめの仮面ライダーを教えてもらったものの、迷いつつもあえて予習をせずに映画を観ることにした。数回劇場に足を運ぶことは目に見えているので、せっかくなら何も知らない状態で観てみたいと思ったのだ。
あぁ、劇場が暗くなる。スクリーンに映し出される東映の文字と岩を打つ海。初めての仮面ライダー。ほとんど知らない仮面ライダー。いったいどんな映画なのだろう。
まず初めに驚いたのは、この世界には「仮面ライダーの成分」なるものが存在するということだった。何だ仮面ライダーの成分って? 仮面ライダーの成分を抽出し、ボトルに詰め、そのボトルをベルトに入れることで変身できるらしい。仮面ライダーの成分……面白い言葉である。
「仮面ライダーの成分」という耳慣れない不思議な言葉を味わいながらも、わっと心が弾んだのは変身シーンの格好良さ! ベルトを操作することでプラモデルの骨組みのようなものが展開し、ガチャンとパーツがセットされて変身する。これはすごい! 一度でもプラモデルを組み立てたことのある人ならきっとわくわくするだろう。そしてまた、このシーンを観た子供もプラモデルに憧れを抱くに違いない。
それぞれモチーフが異なるだけに仮面ライダーによって演出が全然違うのが面白い。なるほどなるほど、今はバッタの要素はほとんど無いんだなぁ。ゲームがモチーフの仮面ライダーは昔懐かしいスーパーファミコンの操作ボタンのようなデザインが胸を飾り、攻撃をすれば格闘ゲームのようなギミックが出て目を楽しませてくれる。どこかのシーンで一度やられたとき、土管のようなものから出てきてコンティニューが宣言されたときは笑ってしまった。
表情や台詞の一つ一つがコミカルかつオーバーで、子供にもわかりやすく演じているようだ。オーケンの演技が浮かないかハラハラしていたが、うまい具合にマッチしていて安心した。高らかに「ファンキー!」と叫び顔を歪めて笑う白い衣装の最上はライブのMC中にハイになってふざけているオーケンのようで、体の半分を失い、じっとりとした雰囲気を醸し出す青い衣装の最上は特攻服に身を包み、暗い歌をシャウトするオーケンのようだった。
オーケンファンとしては、この二人の最上を観たときに全てが腑に落ちた。「何故オーケンが仮面ライダーの敵役に抜擢されたのか」という謎が消えたのだ。パラレルワールドの二人の最上を合体させることで、不老不死の体を手に入れようとする最上魁星。パラレルワールドの二人の最上の陰と陽。ストーリーが先にあり、大槻ケンヂという人物が適任と見出されたのか、大槻ケンヂという人物から二人の最上が生まれたのか、気になるところである。
個人的に好きなのは二つの地球が衝突しそうになるとき、空に逆さまになったビルが映し出されるシーン。現実であればああいった光景が生まれることがないと予測は出来るが、わかりやすく、それでいて面白い画面になっていてとても好きだ。
かすり傷の描写はあるものの、流血シーンや直接的に人が死ぬシーンは無い。とはいえ、ビルがあれだけ派手に崩れたということは、最上魁星は結構な犠牲を出しているよなぁ。
しかし応援してしまう。最上魁星を。つい。何故ならオーケンファンだからだ。
左の席に座る男の子が、身を乗り出して画面を見つめる姿が視界の隅に映る。きっと拳を握り締め、ライダーを応援しているのだろう。あぁ、ごめんよ少年! 君には悪いが己は最上魁星を応援する! 頑張れ最上!!
応援しつつ思うことは、最上はいったいどうやってあのエニグマを作ったのか、ということ。あの資金はどこから出たのだろうか。そう、あのエニグマも格好良い。地球からぐっと手が伸び、近付くもう一つの地球から伸びる手へ、今か今かと渇望するように指先が伸ばされ、ぐっと握り締められた瞬間の美しさ! 思い出されるのは、劇中で崖から落ちそうになるライダーを助けようと手を伸ばすシーン。二つのエニグマが手を握り合うシーンは人類にとっては絶望的とも言える瞬間なのに、何故こうも美しく、感動的な描き方になっているのだろう。
エニグマの登場にもニヤニヤした。タイミング的に映画が先なのだろうか、十月に発売された筋肉少女帯の新譜「Future!」に「エニグマ」というタイトルがあるのである。呪文のような歌詞が並ぶプログレッシブ・メタル。これがまた妖しく格好良いのだ。
しかし最上の野望は潰える。あぁ最上よ、もっとこう、セキュリティーの方にも気を配っていれば。あんなに簡単に侵入される仕組みにしてさえいなければ。侵入されても勝てると驕ってしまったのだろうか。もっと注意深く生きようぜ最上。
襲撃を受けた白い最上が、ライダー達の心のやわらかいところを抉る攻撃を仕掛けたシーンでは、あぁーやっぱりここはきちんと前作を知らないとわからないなぁ、と惜しい思いをした。しかしわからないながらも、アイスがすごく好きな人と共闘し、再度別れるシーンは感じ入るものがあった。あれはソーダアイスかな……。
派手なアクションと爆炎、格好良く心躍る変身シーンに、数々の武器やアイテム、仲間との共闘。バイクでバッタバッタと敵を轢き倒しながら前進するライダーに対し「あれって乗り物じゃなくて武器だったんだな」と笑いつつ、初めての仮面ライダーを堪能した。面白かった。子供向けの作品だからと言って妥協せず、なるべく子供にわかりやすい言葉やシーンを選びながら物語を組み立てているのが素敵だ。例えばひたすらパソコンのキーボードをうるさいくらいカタカタ叩いているシーンとか。若干不自然にも見えるが、あれは「必死で調べている」ことをわかりやすく伝えようとしているのだろう。もう一つの地球が迫ってくるシーンも子供に「パラレルワールド」をわかりやすく伝えようとした結果の描写に違いない。
もしかしたら、この映画を夢中で観た子供も物語の全てを理解しきれなかったかもしれない。パラレルワールドが何だかわからなかったかもしれない。しかし、好きなものについて知りたい気持ちが自然に起こるように、背伸びをしながら物語を理解しようと齧りつく子供は絶対にいる。だからきっと、ちょっと難しいくらいがちょうど良いのだ。
次回は登場人物の関係図も頭に入れて、もう一度この映画を観てみようと思う。その後はそうだな、おすすめしてもらった仮面ライダーオーズを観ることにしよう。
それにしても研究所を追い出される前の最上の横顔が非常に美しかったことと言ったら。ブルーレイが出たら絶対買おう。うん。