5月13日(月) 緑茶カウント:3杯

今度仲間と独立することになったので来月でこの店を辞めるんです、と言われたのは数ヶ月前のこと。何回か担当してもらった美容師が髪を切りながら笑う。今度ハガキを出すので良かったら来てくださいね、と、嬉しそうに。新しい店の場所は離れたところだった。自分は店を変える気は無かったので、頑張ってくださいねと返した。

そして一ヶ月半ほど経ち、いつもの店に行ったら驚いた。店にはオーナー一人だけ。聞くと、ここで働いていた美容師全員がごっそり抜けていなくなり、皆で独立して新しい店を構えたのだそうだ。仲間と独立するとは聞いていたが、せいぜい二、三人かと思いきや一つの店から丸ごととは。「突然皆辞めちゃったから手が足りなくて困っちゃって」とオーナーはため息。その日はシャンプーからカット、ドライヤー、床に落ちたゴミの片付けまで全てオーナーが一人でこなした。

どんな事情があったか知らないが、元担当の美容師に対して心象が悪くなったのが正直なところ。だが、まぁ社会とはそういうものなのかな、と思ってから一週間か二週間後。元担当から新店へのお誘いのハガキが届いた。新店の住所から。配達日指定などはされていないごく普通のハガキが。店を辞めて一ヶ月以上経ってから。

……持ち出したのか? 名簿を。

ハガキを出すと言ったとき、てっきり元の店にいる間に送ってくるものと思っていたが。自分は確かに初めて来店した際に個人情報を記入して渡したが、それは店に提出したものであって、美容師個人に渡したものでは無いぞ。

何だかなぁ、と思いつつハガキを処分した。それから髪はオーナーのお世話になることとなった。オーナーはカットが上手く、話が面白く、そしてマッサージの腕が非常に素晴らしいため、美容師が丸ごと抜けてしまったことは気の毒だが、腕の良いオーナーに担当してもらえるようになったので、自分としてはかえって良かったと密かに思っていた。店を変える気はもちろん無い。

それからまたしばらく経ち、ハガキのことなどすっかり意識の外に漏れた昨日、夜道を歩いていたらすれ違いざまに勢いよく呼び止められた。見ればそれは元担当の姿。そこはあの何屋かさっぱりわからない謎の料理屋の店先で、どうやら今から呑み会をするところらしく「仲間」と思われる人が暖簾を潜ろうとするところだった。呼び止めた元担当は叫ぶように言った。

「ハガキ!! ハガキ送ったんですけど、ハガキ見ました? 届きました!?」

見たけど捨てましたよ、とはもちろん言わず。名簿についても特に言わず。ただ彼女の切羽詰ったような表情を見て、彼女の中で自分がその店に通うべきことになっているのが不思議なものだ、と思いつつ、呑み会ですか良いですね楽しんでくださいね、と言って別れた。

他のお客さん達はどの程度新しい店に移っていったのだろうか。わからない。

日記録1杯, 日常