君の選んだ死に場所は
2017年7月5日(水) 緑茶カウント:0杯
それはむしろ、知らない誰かがこっそり部屋に入って、ポトリとイタズラを仕掛けたと考えた方がよっぽど自然な光景だった。
部屋の真ん中でゴキブリの成虫が仰向けになって死んでいた。
時刻は二十三時頃。あー疲れた疲れた早く夕飯を食べて休むとしよう、とコンビニエンスストアーで買ってきたナポリタンを提げ、暗闇の中手探りで玄関の鍵を開けて中に入り、数歩程度の台所を抜けて居間であり寝室でありリフレッシュスペースであり作業部屋である、いくつもの要素を兼ね備えたハイブリッドな六畳間に足を踏み入れ電灯をつけたら、此はいかなる凶事ぞ。部屋の真ん中でゴキブリの成虫が仰向けになって死んでいて、その姿を見止めた己はナポリタンを揺らしながら大きくたたらを踏んだのだった。
彼か彼女かわからぬそれはピクリとも動かない。天井を見上げるも何もない。何も見当たらないそこで仰向けになって死んでいる。動きもしないゴキブリがこんなに堂々と落ちている様を見るのは初めてで、生きたゴキブリを見たとき以上の衝撃と驚きを己は感じた。外傷はない。恐らく部屋中に仕掛けているホウ酸団子の影響と考えられるが、それにしたってこんなに堂々と死体を晒しているとびっくりしてしまう。君よ、何故そこを死に場所に選んだ。いや、選択肢すら持ち得なかったのか。
ホウ酸団子を食べたゴキブリは脱水症状を起こし、水を求めて外へ出て行くと言う。このゴキブリも咽喉の渇きに耐えかねて水場へと向かう途上で力尽きたのかもしれない。するとそこに無念さを感じずにはいられないが、何もここで死ななくっても良いじゃあないかと思うのも性であり、今日この日に呑み会がなかったこと、酔っ払って帰る自分がいなかったことに感謝して、ゴミに出す予定で置いていた古いタオルで彼を包んで捨てたのであった。酔ってたらどうなっていたかって? そりゃあもちろん、足をしっかり洗うはめになっただろうよ。