虚無の味
2017年6月7日(水) 緑茶カウント:0杯
作り置きしていたポーク・ソテーを温めながら、何のソースをつけようかと冷蔵庫を開く。目に入ったのはケチャップ、マヨネーズ、ウスターソース、青じそドレッシング、醤油、白だし、マスタード。この間はケチャップとマヨネーズとウスターソースを混ぜて温めたものをつけて食したが、それすらも面倒くさい気持ちが生じている今。で、あればと冷蔵庫の隅から取り出したのはトンカツソース。合わないことはないはずである。
そうして口の中に広がったのは驚くかな、錯覚の味である。これはポーク・ソテーである。しかし、卵もパン粉もついていないのにトンカツの味がするのである。トンカツソースをかけるだけで、脳がトンカツと錯覚するのだ。そう、それはまるで衣を剥いだトンカツを食べているような。そう、それはまるで衣を剥いだトンカツのような味になってしまったのだ。
一時の後、虚無の味が広がった。もともとはポーク・ソテーという一人前の料理だったはずの代物が、衣を剥いだトンカツのようなもの、という悲しい一皿に成り果てた。それはまるで二級品のトンカツのような、トンカツもどきのような、トンカツを食べたい人が無理矢理自分を騙しているような、そんな虚しい味がした。
虚無の味。
皿にあるのはポーク・ソテー。豚肉に塩胡椒を振って、小麦粉をまとわせ、オリーブオイルでソテーした肉料理、だったもの。傍らのトンカツソースは黙って食卓の上で直立している。己はそれを眺めている。脳には虚無が広がっていた。そんな一つの夕食だった。