2017年2月17日(金) 緑茶カウント:0杯
仲の良い友人から連絡があった。旅行をしていて、とある縁の地にいると。その縁のものを己がとても好いていることを覚えてくれていて、わざわざ電話をくれたのだ。「ウヲが大好きだったなって思ってさ。お土産買って送るよ! 何色が良い?」と友は言う。ありがたいなぁと思いつつ「ありがとう。それじゃあ青か紺を頼むよ」と返事してとりとめのないやりとり。そうして数日後、届いたのは青とも紺とも程遠いピンク色の品物だった。
それを見た瞬間はあまりの意外さに驚き疑問符ばかりが浮かんだが、はたと気付いて笑い、またずっこけそうになった。友人は「色が全然わからん!」と公言している色覚異常の持ち主なのだ。その彼が色のリクエストを聞き、全く違った色の品物を贈ってきたのである。しかも極めつけはこの品物、よく見ればラベルに「カラー:ピンク色」と明記されていやがるのだ。わからないのに聞くし、わからないのに確認しない自由さ! あぁ、もうこいつのこういうところ、最高に大好きだ! ピンクの品物を手に、腹を抱えて己は笑った。
学生時代、友人の視界の話を聞くのが好きだった。彼の目に見える世界では夏に葉っぱは赤く色づき、秋は緑に変化すると言う。水族館の水槽は電源を消したテレビのように真っ暗で、中の魚など見えやしない。修学旅行で学友が魚に興奮する中でいったい何が面白いのだろうかと思っていたが、何年も経った後に非常に高価な色覚補正眼鏡をかけてようやく水槽の中身が見えたとき、やっと学友の興奮がわかったと語っていた。そのときの彼の嬉しそうな表情と、描写される水槽の美しさ。中で泳ぐ魚の動線まで見える心地がした。
彼は色を認識しづらいためにたまに突拍子もない色合いの服を着ていて、ギョッとさせられることもしばしばだった。しかし上背があり、ハンサムなので不思議と似合うのだからすごい。周囲から「その上着、蛍光ピンクと蛍光オレンジが混ざったような色だぞ」とつっこまれて「まじでー」と朗らかに笑う。彼は面白おかしく自身の視界を語ってくれて、我々もそれを聞いては「なるほど」「へえ」「そうなんだなぁ」と楽しく感想を漏らしていた。そして彼の認識できる色とできない色をさまざま尋ね、彼の視界を想像したのである。
もう一人、別のタイプの色覚異常の友人がいる。彼とは小学校からの付き合いで、大学卒業後も頻繁に遊びに行く間柄だった。しかしあるとき話を聞いてびっくりした。彼の目に己は黒尽くめの装いとして映っていたのである。実際は紺や濃い緑などを好んで着ていたのだが黒として認識されていたらしく、「こいついつも真っ黒だな」と思われていたそうだ。十年以上全身真っ黒と思われていた衝撃に笑ったあの日。こんなことってあるんだなぁ、と思うとおかしかった。
同じように彼らも己の話に対して「はー」「なるほど」「へえ」「そうなんだなぁ」「まじかー」と思っているかもしれない、と考えるのも楽しい。そしてまた、ピンクの品物を見るたびに己はそれを思うのだろう。あぁこのピンク、どこで使えば良いのやら。可愛らしいなぁ、と一人笑い仕舞いこむ。思い出したらまた眺めてみよう。きっと楽しい気分になるから。