ライバルを増やしたくないので黙っておきたいのだが、やはり言わずにはいられない。水戸さんの百曲ライブにおいて、一番底抜けに面白く楽しいのは吉田一休回である。今夜もさいっこうに楽しかった!
しかし自分が話すまでもない。水戸さん曰く、この回のライブのチケットは売り切れるのが早かったそうだ。吉田さんは水戸さんが言うところの「チャレンジ枠」で、MCも楽屋のノリになってしまいがちとのこと。そのため、これで本当にお客さんは面白いのか、面白いのは自分だけじゃないのかと水戸さんは何度も口にする。いやー水戸さん、それが最高に面白いのですよ!
吉田一休回での水戸さんは、より素に近い姿を見せてくれるように思う。自分を慕ってくれていて、付き合いの長い後輩を相手にニコニコと楽しそうに話し、演奏がストップすれば笑いながらダメ出しをする。とにかく後輩が可愛くて仕方がなく、吉田さんも水戸さんが大好きな様子が伝わってきて実に微笑ましい。そしてシンプルかつ盛り上がる楽曲の数々はカズーと手拍子の大盤振る舞い。シリアスな曲や悲しい曲ももちろん好きなのだが、最初から最後までほぼお祭り騒ぎ、というのも快感なのだ。
トークはどこまでも転がりに転がり、ライブは約三時間と言う長丁場に至ったが、長さを感じさせない楽しさの連鎖がたまらない。アンコールの中、残り一曲というところで喋りたくなった水戸さん。こんなに喋ってて良いのかなと言いつつひたすら面白トークを聞かせてくれて、楽しそうに話す水戸さんを笑い転げながら観るのは実に嬉しく楽しかった。
百曲ライブでお馴染みの舞台、ライブハウス「七面鳥」は改装をしていて、ステージと客席の位置が反転していた。以前は客席の間に出来た道を通って水戸さんはステージに上がっていたが、楽屋のすぐ横がステージに変わったため、客席にあった通り道は無くなっていた。これはちょっと寂しかった。前は盛り上がった水戸さんが客席を練り歩いてくれたりしたが、もう通れなくなってしまっている。うーん、残念。前の方が距離が近く感じて好きだったなぁ。
ハイネケンを呑みつつ、流れる音楽を聴きながらゆったりと開場を待つ。何もせず、ぼーっとステージの奥の壁を眺めるひとときはわりと好きだ。集団の中で一人を楽しむ面白さ。雑踏を歩く気分に似ている。
しかし照明が落とされるや否や、今まで他人だった周囲の人々と息を一つにするのだ。ステージに水戸さんが現れた瞬間、バラバラだった他人達がオーディエンスという群れに変化し、同じように声を上げ、拳を振って手拍子を叩く。一曲目は「唇にメロディ、心に牙を」。やったー! 大好きな曲だ!
と、大喜びした直後。死ぬほど大好きな「家のない子に」が二曲目で演奏されて、心の準備が出来ていなかった己は喜びのあまり「ギャーーー!!!!」と叫びそうになった。叫ばなくて良かった。
吉田一休回ということで、屑の曲が多めである。嬉しい。屑好きなんだよなぁ。アルバム一枚だけなんて実にもったいない。屑のライブも行ってみたかったなぁ。でもこうして聴けるから幸せだー。
「唇にメロディ、心に牙を」「家のない子に」「奈々」「ナイタラダメヨ」「カナリア」「マグマの人よ」「しあわせになれ」を聴けて嬉しかったなぁ。レア曲は「バイキンロック」。演奏後、水戸さんが「当時、何かの思いを込めて歌詞を書いたはずなのに、何を言いたいのかわからない」と言っていて、自分もあの歌詞をどのように受け取れば良いのかわからなかったのでちょっと安心した。
「バイキンロック」では、ミスにより演奏をやり直す場面も。吉田さんがギターのコードを踏んで座ってしまったことで、ギターを動かしたときに不具合が生じたようである。水戸さんはそのミスの原因を指摘しながら、「しょうがない奴だな~」とでも言いたげに楽しそうに笑っていた。微笑ましい。
今回のライブのあらゆるところで活躍したカズーは、水戸さんが今まで使っていたものと違うものだそうだ。曰く、どこの楽器店でも見かけなくなり、調べたところ輸入代理店がなくなったとかで、日本での購入が出来なくなってしまったそうだ。新しいカズーは片面が赤い色をしていて、水戸さんの手の中で存在感を主張していた。
水戸さんは茶色の薄手のカーディガンのような上着を着ていて、下は文様入りの黒Tシャツ。上着を脱ぐと半袖で、下に二の腕まで袖がある衣類を重ね着していたように見えたが、腕を挙げたときにそれがリストバンドの二の腕版のようなものであることがわかった。あれは何と言うのだろう。
吉田さんはオールバックに黒い衣装。初めて見たときが全身真っ赤なジャージ姿で、未だにその印象が強いため「今日は地味だなー」と思ってしまった。
吉田さんは「~ので」という水戸さんの言い回しが好きだと言っていて、ライブの後半で「~から」と水戸さんが言ったとき、「~ので、と言ってくださいよ!」と注文をつけていた。あまりそこに注目したことがないので、今度から「~ので」に注意を払ってみよう。曲については、「A・E・D・D」の歌詞について言及し、水戸さんは「これは九十年代に作った曲だけど、この歌詞に書かれているのはもうちょっと古い時代」と話し、時代性を切り取ることについて語っていた。
印象的だったのは映画についてのMC。以前は家で映画を観ていたが、家だと集中できないため映画館に通うようになった水戸さん。しかし水戸さんがよく利用していた映画館が次々と閉館し、映画を見るためにはちょっと足を伸ばさなくてはならなくなったそうで不便を強いられているそうだ。そんな不便もありつつも、事前知識なしで小劇場に入る水戸さん。するとマッドサイエンティストにより人間がアザラシに改造される奇妙な外国映画や、深刻な家族の物語を描いた重い作品かと思いきやひょっとしてこれはコメディなのか……? と劇場の誰もが困惑する作品などを観たという。それらを面白おかしく語ってくれた。ちなみに前者は実際はアザラシではなくてセイウチで、タイトルは「Mr.タスク」と言うらしい。
あと、果物屋のカットフルーツが、コンビニやスーパーで売っているカットフルーツとは比べ物にならないくらい美味しく、週に二、三度買っていたら店員に覚えられてしまい、「常連さん」扱いをされるのが苦手なために悲しみを覚えたという話や、子供の頃の同級生の印象的なエピソードなどなどが語られた。
「マグマの人よ」は圧巻である。マイクを外し、水戸さんの地声と声に込められた説得力が空間と壁を響かせる。まるで茶の間で語れるようなゆるくも楽しいトークと、歌の迫力のギャップの大きさ。この切り替えの見事さがたまらない。
最後は二十面ダイスを振るい、今回演奏された二十曲の中から一曲を選ぶ。選ばれたのは「しおしおのぱあ」で、吉田さんの意気込みにより、本編とは違うキュートなアレンジで始まり、中盤で爆発し、後半は大盛り上がり、という構成で幕を閉じた。皆で声を出して歌い、手拍子をする。ライブの基本の楽しみをぎゅっと凝縮されたかのような、シンプルな満足感の心地良さを満喫した。
ちなみに今回は「チャレンジ枠」だが、次回は「人体実験枠」とのこと。ゲストは水戸華之介&3-10Chainのメンバーであり、筋肉少女帯の屋台骨・内田雄一郎である。いったい何を見せてくれるのか。二週間後が楽しみでならない。