いやあ楽しいひと時だった。オーケンののほほん学校のスペシャル版。ゲストは水戸華之介、和嶋慎治、ゆるキャラの方々、そして飛び入りで向かいのライブハウスでライブを控えているにも関わらず体を張って参加してくれたニューロティカのあっちゃんに、そのあっちゃんの尻に重い蹴りを叩き込んだアクション女優武田梨奈。基本はオーケン、水戸さん、ワジーが三人で、お題に沿ってだらだらとトークをし、思い出したかのように歌を歌うというもの。「ミュージシャンはこういうとき歌を歌えるから便利だよね!」「歌っとけば何と無く仕事したって感じがするからね!」と笑う面々。確かに、トークだけでも十二分に楽しいが、間間に歌が入るとメリハリがついて楽しいなぁ。
スペシャルということで今回の会場はいつものパイプ椅子が並べられたライブハウスではなく、背もたれとクッションのついた椅子がゆったりと並べられたホールである。ホールでのほほん学校に参加したのは今回が初めてだが、思いのほか快適だった。体がすごく楽である。現在進行形で体調を崩しているため、普段よりも体力が落ちていることも関係しているだろうが、背もたれの存在が非常にありがたかった。何せこの十月、外出は必要最低限に抑え、休みの日はひたすらベッドで眠るという日々を過ごしていたのだ。電車を乗り継いで高円寺に向かうだけで息が上がってびっくりした。
会場につき、ホールの中へ足を進めると薄暗闇の中からオーケンの絶叫が聞こえた。見ればステージの上に設置された巨大なスクリーンには花道を歩き堂々と歌うオーケンの映像が流されている。おお、これは何の映像だろう、と見ればDDTの文字。DDTプロレスに筋肉少女帯がゲスト出演したときの映像のようだ。観たことが無い映像を見られてラッキーと思いつつ座席に深々と座り休息を得る。ライブ映像が終わるとオーケンがその歌詞に衝撃を受けたと言う「アイドルばかり聴かないで」のPVが流れ、映像が終わると同時に開演の合図か、筋肉少女帯の「そして人生は続く」が大音量で流れ、マイクを持ったオーケンがステージに現れた。
おお! この歌を歌ってくれるのか! と喜びかけたがすぐに違和感に気付く。オーケンはマイクを持ち、口を動かしつつステージの中央に設置された譜面台をチラチラと確認してはいるが、どう見ても口と歌が合ってない。そのうちわざとマイクを遠ざけたり、変なポーズをとったりしてニコニコしながらふざけ出した。隠す気の無い公然の口パクという名の、本人による余興である。
曲が終わるとゲストが登場。「水戸華之介&3-10Chainの水戸華之介、人間椅子の和嶋慎治!」というオーケンの呼びかけに応じて二人が壇上に姿を現す、がワジーは何故か一輪車を持参。しかも乗ろうと試みてはみたものの、乗れなかったらしくそのまま転がしてやってきた。そして一輪車はまるで楽器の仲間であるかのように、ギターの隣に置かれた。この一輪車の謎は後ほど明かされることになる。
まずは冒頭の口パクの説明へ。開演前に流していたPV「アイドルばかり聴かないで」のアンサーソングは、筋肉少女帯の「そして人生は続く」ではないかとオーケンは考え、よって「アイドルばかり聴かないで」を流した後にこれを歌おうと思ったが、カラオケが無いため曲をそのまま流すことになり、よって口パクをすることになったとのこと。この流れで、口パクは普通に歌うよりも技術が必要となるという話題になる。まぁ、特にオーケンの場合はそうだろうなぁ。口パクだときっちりしっかり歌詞を覚えなくてはならないのだから。「だからねぇ、○○とかはすごいよ!」とあれやこれやの名前が出てきて場内爆笑。あれやこれやの名前は記憶しているが、一応ここでは伏せておこう。
口パクトークの後、今回の「のほほん学校」について説明。前にも書いたが、お題に沿ってトークをしつつ思い出したかのように歌を歌おうというもの。では、お題を見てみましょうとスクリーンを見上げると表示されたのは「飛び入りゲスト」。こんな、今さっきゲストを紹介した直後にいきなり飛び入りゲストが来るのか、と驚いたのが本音である。
ゲストはオーケン原作の映画「ヌイグルマーZ」で「ヌイグルマーZ」役を務めるアクション女優の武田梨奈さん。呼び込み前にいかに武田梨奈さんがすごいか熱弁するオーケン。何と武田梨奈さんをオーケンに紹介したとある映画監督は、いかに武田梨奈さんがすごいかを伝えようとして、狭い会議室の机を端に寄せ、その中央で監督VS武田梨奈でいきなり殺陣を始めた、という衝撃エピソードを披露。そのうえで、武田梨奈さんが監督に実際一発食らわせて勝利したそうだ。
いったいどんな人が来るのだろう、と会場の期待が高まる中、「武田梨奈さーーーーん!」とオーケンが高らかにお招きすると、上手から現れたのは道化のメイクを施した茶髪のおっさん。そのおっさんは全力疾走で上手から下手へと走り去り、呆気にとらせる暇もなく、また全力疾走でステージを横断した。
言うまでもなく武田梨奈さんではない。ニューロティカのあっちゃんだ。
向かいのライブハウスで七時からライブがあるとのことで、飛び入りでのほほん学校に参加してくれたそうだ。おどけたピエロは高らかに倖田來未の物真似をし、水戸さんが腹を抱えながら大笑いしつつ「それ九月に俺のライブでやって受けなかったのにまだやってんの!」と突っ込みを入れていた。自分もまさか十月の終わりにあれを再度見ることになろうとは思っていなかったので驚いた。せいぜいあの数日で消失したネタだったと思いきや、まさか生き残っていたとは。
あっちゃんの後に本物の武田梨奈さんも登場。びっくりするくらい華奢だった。ところが侮る無かれ。空手の熟練者で、曰く「大抵の男には勝てる」とのこと。そして得意技はハイキック。すると突然、「はい」と挙手する人がいた。あっちゃんだ。しかし皆、その挙手の意味が読み取れない。何だろうとオーケン達が促すと、あっちゃんはリアクション芸人のようなことを口にした。
何とハイキックを受けるというのである。ロックミュージシャンとしてデビューして二十九年であるにも関わらず、そこまで体をはるかと驚きを隠せない面々。しかしあっちゃんは穏やかに笑いながら「ここはやっとくとこかと思いまして」と言う。
とはいえ武田さんは本日スカート姿。ハイキックはまずい、ということであっちゃんの尻に蹴りを入れることになった。中腰になり、武田さんに尻を向けるあっちゃん。そんなあっちゃんを見つめるオーケン、水戸さん、ワジー。直後、「ドンッ!!」という低い音が響いた。あっちゃんは本気で痛がった。
「もっとこう、パンッて軽い音がするかと思ったら、ドンッって」と言ったのは水戸さんだったか。「あれが腰に入っていたら骨をやられていたよ」「ライブの前なのにお尻蹴られちゃって…大丈夫?」「良いMCネタが出来て良かったね」と口々に皆が喋る中もあっちゃんは痛そうだった。その後ライブで飛んだり跳ねたりできたのだろうか。
この後だったかな。オーケンが武田梨奈さんについて、彼女はこれからもっと大きくなって、来年には我々の手の届かない存在になるかもしれない、と言う。武田さんは恐縮するがオーケンは続ける。「僕ののほほん学校にお呼びした方の中にもねぇ、その後すごーい人になっちゃってもう近付けないってことがあるからねぇ」といった内容のことを語ると、水戸さんが「そして我々はいつまでも大槻の手のひらから抜け出せない」と自虐して笑いをとり、オーケンがあわあわと慌てていた。
「でもねぇ、そうしてビッグになって、何十年後か、死ぬ間際にふと思い出すんだよ。………そういえば、あのときピエロの尻を蹴ったわ…」って、と未来の武田さんの回想シーンを捏造して場内爆笑。確かに、ピエロの尻を蹴るなんてことは一生に一度、いや、普通に生きていたらまず無い体験だろう。ちなみにあっちゃんの尻は結構硬かったそうである。
武田さんはその後予定があるとのことで、十八時半に退場。あっちゃんはその後、皆にせがまれて「香菜、頭をよくしてあげよう」を歌って退場したが、「それなりに歌えていた」ためオーケンと水戸さんからはブーイングの嵐。どうやらあっちゃん、これまでにも何度も「香菜」を歌っていたのだが、いつまでも全然覚えられずにいて、それが面白かったとのこと。だから「それなりに歌えていた」状態がつまらなかったそうだ。
「せっかく来てくれたのに、お尻を蹴られて、つまらないって言われるなんて!」とあっちゃんの境遇を的確に表すオーケン。ごもっともである。尻は大丈夫だったのだろうか。
飛び入りゲストが去り、次のお題が「笑っていいとも、アンパンマン、あまちゃん」だったが、あまちゃんについては全く触れられなかった。「笑っていいとも」については、オーケンが何度かいいともにゲスト出演した話と、いいとものテレフォンショッキング繋がりで井上陽水と接点が出来た話が語られた。あと、「笑っていいとも」が始まる前に起きたら合格、始まった後に起きたら人間として不合格、という風潮が昔あったという話が語られた。水戸さんはこのところずっと不合格だそうである。
アンパンマンの話が面白かった。アンパンマンを知らないワジーにオーケンと水戸さんがアンパンマンについて説明するのだが、オーケンの語る独自解釈がたっぷり入ったアンパンマンの面白さったら! これをアンパンマンを知らないワジーに聞かせて良いかと思うほど。主題歌の歌詞「何のために生まれて、何をして喜ぶ」がすごいという話から始まり、ドキンちゃんが好きなばいきんまんと、しょくぱんまんが好きなドンキンちゃんが何故か一緒に暮らしている不可思議さについて、ドキンちゃんは今はわがまま放題だが、彼女は「若くて可愛い」以外の取り得が無いので、数年後にばいきんまんと立場が逆転すること、ねむねむおじさんはガンジャを決めている、などなど。たまに水戸さんがオーケンの暴走を軌道修正するように、訂正・修正を挟むのだが、オーケンにかかるとアンパンマンもカニバリズムやガンジャが組み込まれる物語になってしまうのだなぁ。
そういえばどの流れだったか忘れたが、オーケンは黒目のフチが白くなってきたそうで、白内障ではないかと思い眼科にかかったそうだ。結果はどうか。幸い白内障では無かったが、老人性のものだそうで、医者が「老人性と言っても、昔は四十代で老人でしたから」とフォローを入れたそうだ。異常が無いのは喜ばしいが何とも切ない話である。
しかし。白内障の心配は無いが緑内障の気はあるとのことで。オーケンはそれすらもネタにして「格好良くなっちゃう」と笑っていたが、いやはや。気をつけて欲しいものである。
この日歌われたのは「香菜、頭をよくしてあげよう」「あのさぁ」「オンリーユー」「氷の世界」「日本印度化計画」「踊るダメ人間」だったかな。「香菜」はあっちゃんが前半で歌ったが、後半にオーケンもきっちり歌った。「オンリーユー」はオーケンが水戸さんを絶賛し、水戸さんも「じゃあ持ち歌としてもらおうかな」と笑うが、直後これはオーケンの歌ではなくばちかぶりの田口トモロヲの歌だと気付き爆笑、という場面があった。そう、これオーケンが歌いまくっているからオーケンの歌のような気がしてしまっているが、トモロヲさんの歌なんだよ。
あと素晴らしかったのがワジーのポエトリーリーディング。中原中也の「断言はダダイスト」を語るように歌いながら壇上で一人ギターを爪弾いていく。このとき、オーケンと水戸さんはステージから退場し、ワジー一人が残されて、赤いライトに照らされながら朗々と語り歌っていた。この怪しい迫力は今回の一番の目玉と言っても過言では無い。当初、言葉の意味を追おうとしたが、自分はそれを早々に放棄し、ただ声と音の作る迫力の世界にどっぷり沈むことを選んだ。ワジーは「眠ってもいいですよ」というようなことを始める前に口にしたが、あんなものを目の前にして眠れるわけが無いじゃないか。
水戸さんの氷の世界も格好良かった。三人で分担して歌っていたのだが、水戸さんが全部歌う氷の世界もいつか一度聴いてみたい。水戸さんの作る歌詞に自分は大きな魅力を感じているが、同時にその歌声もたまらなく好きで仕方が無いのだ。
歌詞と言えば、追い詰められて書くか否かの話。オーケンとワジーは追い詰められないと書けないタイプで、水戸さんは追い詰められる前に書くタイプとのこと。何でも、アンジー時代にロンドンでレコーディングを行ったとき、せっかくだからロンドンの空気を吸ってから歌詞を書こうと思い、歌詞を書かずにロンドンに行ったものの、ロンドンがあまりに楽しくてはしゃぎすぎて歌詞を全く書けず、大いに焦ったという経験があるからだそうだ。対してワジーは追い詰められて追い詰められて追い詰められると何かのスイッチが入るのか、書けるようになるそうだ。
トークについては、ひどい名前のバンドの話や、昔は馬鹿なバンドがいっぱいた話などが語られ、そうそう忘れてはいけないのがワジーの一輪車の話。ワジーは去年、筋肉少女帯と人間椅子で対バンをしたとき、筋少のステージを見て、大いに感銘を受けたそうだ。格好良いのに、どこか怪しく、それでいてコミカルでサーカス的。とにかくすごく良いと思ったそうで、その要素を取り入れようとして買ったのが「一輪車」。「一輪車に乗りながらギターを弾こうと思ったけど、結局乗れず部屋の片隅に置いてある」とのこと。それに対しオーケンと水戸さんが口々に、せっかくオズフェスで再ブレイクしてるのにそんな要素を取り入れなくても、というような内容のことを言っていた。
最後はゆるキャラが壇上に登場。頭部が巨大なナン、体が女性の「ナン子ちゃん」に、にんにくと猫のキメラ「十和田にんにん」に、長芋の「十和田ねばっち」のお三方を招き、「日本印度化計画」と「踊るダメ人間」を歌う。「踊るダメ人間」の前では、「ダメダメ~パパパヤ~」で手を振る動作と、ダメジャンプのやり方をゆるキャラの三人にオーケンが指導。結果、限りなく人間に近いナン子ちゃんは卒なくこなせたが、にんにんとねばっちはその体の形状から困難を極めたものの、にんにんは新しい萌えポーズ、ねばっちは猪木の物真似という特技を新しく習得した。成り行きで。
オーケンのすすめによって座っていた観客も立ち上がり、アコギに合わせてゆるゆるとダメジャンプ。イベント名にふさわしく、のほほ~んとした空気の中で和やかにイベントは終了。ステージから退場しようとするも、巨大なねばっちが舞台袖の通路につっかえてしまい、後ろの三人が前に進めなくなって苦笑するという場面もご愛嬌。およそ二時間半の楽しいイベントだった。