酒好きだがこだわりはあまり無く、無論味の好き嫌いなどはあるものの、この料理を食べるときにはこれ、この酒の味を引き立たせるならこれ、といった選び方はせず、とりあえずビールから始まりエンドレスビール、肉でも魚でもチーズでもケーキでも和菓子でもビールで良し、それどころかつまむものが無くても良し、といった人間で、昨日も一応きゅうりとミョウガを梅干と鰹節と醤油で和えたものを用意したものの、さっさと食べ尽くして後はずっと音楽を肴に酒オンリーで楽しんでいた。
これはこれで楽しい。これはこれで楽しいが、反面、料理によって酒を変え、味わいの変化を楽しむことが出来る人をうらやましくも思うのである。良いなぁ、これぞ酒呑みだよなぁ、と思うのだ。
「ワカコ酒」という漫画を買った。主人公である村崎ワカコは大の酒好きの二十六歳。彼女が酒場や自宅で一人酒を楽しむ漫画……と書くと人によっては寂しく見えるかもしれないが、全くそんなことは無い。「料理」と「お酒」と「彼女」によって一つの世界が構築され、料理の見た目、香り、味が簡潔な言葉で丁寧に描写される。鮭の塩焼き、出汁巻き卵、焼き餃子、ざる豆腐、ポテトサラダといった馴染みの品々の、強く意識することの無い、しかし多くの人が感じているだろう「魅力」が的確に描かれ、納得しつつ引き込まれるのである。また料理の絵がとても美味しそうなんだ。
薀蓄は語らない。大げさな描写も無い。だからこそしっくりくる絶妙なバランスがすごい。日本酒、焼酎、ウーロンハイやサワー類と馴染みの薄い自分でも、「あぁ、これは合うだろうなぁ」と納得する。きっと同じメニューを同じように食べても、この漫画と同じ受け取り方は出来ないだろう、と自身の味覚の幼稚さから察せられるだけに、まるで自分が相性の妙を堪能出来る人間になれたように錯覚出来るのがまた楽しい。酒好きの人は是非。そうでない人も是非。おすすめだ。