彼女の周りは人外ばかり

親指を除いた四本の指を両頬にあて、まるで百面相を作るかのようにぐりぐりとこねくり回す。頬を上げ、揃えた指先をくるくる回転させながら頬骨を通過しおでこをなぞり、まぶたも念入りにこね回し、小鼻まで指を下ろすとほうれい線のあたりをくるくる。そしてまた肉を思いっきり寄せたり上げたりを繰り返す。恐らくフェイスマッサージをしているものと思われるが、何故よりにもよってここでやるのだ、おい。

電車の中、一心不乱に自身の顔面をこねくり回す女性が斜め前に座っていた。

そもそもこの女性は真横に立っていたのだが、吊革に掴まらず両手で何かをやっている。不思議な動きをしているな、と思っていたら、目の前の窓にうっすら映る女性の百面相。驚いた。化粧をする女性は何度となく見たことがあるが、フェイスマッサージをする女を見るのは初めてだった。

あんなにこねくり回して化粧が落ちないのだろうか、とどうでも良いことが気になったが、もともとフェイスマッサージをするつもりで乗車したなら化粧はしていないのかもしれない。自分が女性の不思議な挙動に気付いてから程なくして、女性の目の前にいた乗客は席を立って下車した。入れ替わりで座る真横の女性。そして腰を落ち着けたことでさらに本格化する女性の両手。さっきまでは窓越しだったが今度はダイレクトに視界に飛び込んできやがり、おい歯茎を露出するわ鼻の穴をおっぴろげるわいくら何でもそれは人前に出してよいものじゃないだろう、と制止したくて仕方が無いが、この女性にっては所詮、自分も他の乗客も人にカウントされてないのだろうなぁ、と思いつつ、出来るだけ視線を逸らして窓の外を見ていた。

日記録0杯, 日常