一松事変の感想

2016年1月26日(月) 緑茶カウント:4杯

十月に発売された筋肉少女帯の新譜「おまけのいちにち(闘いの日々)」に収録されている、たった三分ちょっとの楽曲「枕投げ営業」。十月である。三ヶ月前である。三ヶ月前に発売されたにも関わらず、ほぼ三ヶ月間枕投げ営業の歌詞についてあれこれ想像を巡らせてはにやにやし、あぁ何て素晴らしい歌詞なんだ枕投げ営業……! 何て元気になる曲なんだ枕投げ営業……! うっうっ女の子が幸せになって良かった……ありがとうありがとう筋肉少女帯……と感動し続ける日々を送る自分は言うまでもなくはまるとしつこい人間であり、このままでは来週も再来週も三ヵ月後も一松事変の面白さについて語り続けそうなので、ここで思うさま書き連ねようと思う。

アニメ「おそ松さん」第十六話「一松事変」。もうさいっこうに面白かった。深夜にも関わらず最初から最後まで大笑いし、視聴が終わった直後に再生ボタンを押して二周三周と観直してゲラゲラ笑い続けた。テレビの電源を落としたのは三時過ぎだった。よって寝不足の状態で朝を迎えたが、大笑いしまくって寝たおかげか気分は爽快だった。ありがとう一松事変。最高に面白かったよ一松事変。

己にとって「おそ松さん」はちょっと気味が悪くて怖いアニメであった。怖さを感じる由縁については「おそ松さんに感じる恐怖」という記事で書いたが、特に二クール目に入ってからはより一層怖い。分裂して増殖し兄弟の体内に入ってウイルスと戦う十四松や、面接官の頭をかじる十四松を観て、「え? え? 何、このアニメ、どういうこと……?」と胸にざわざわしたものを抱え、不安を感じながら視聴を終えることが多かった。面白いのにスッキリ笑えない、どこかに気持ち悪さや怖さを感じる。そこが面白くありつつ、いつも落ち着かない気分にさせられていた。

その「おそ松さん」でここまで屈託なく笑ったのは久しぶりである。話の筋を簡単に説明すると、自分の服を脱ぎ捨ててソファで眠るカラ松が部屋にいて、それを一松が発見した。一松はカラ松が愛読しているファッション雑誌に興味津々の様子で、こっそりカラ松の服を着てしまう。そこにタイミング悪くおそ松が帰ってきて、一松はカラ松の服を着たことを知られたくないあまりにカラ松になりきろうとするが……というものだ。

この話が面白いのは、しっかりと六つ子の人間関係を視聴者が把握出来ている頃に公開された話であることと、おそ松・カラ松・一松という少ない人数で物語が展開する点にあると思う。十五話かけて、大人になったおそ松さん達はそれぞれどのような個性を獲得し、互いにどういった人間関係を築き上げていったかゆるやかに語られている。何て言ったって六つ子である。六人もいるのだ。六人六様の個性と関係性を限られた時間で表すのは時間がかかる。そうして時間をかけてじっくり舞台が整えられた後に、三人という少人数の、いつもよりも「個」が目立ちやすい状況で物語が展開したら、面白くないわけがない。

また、もう一つの要素として、己がF6の話があまり好みでなかった、というのもあるだろう。十六話では「一松事変」の前に、美青年のおそ松さん達「F6」の物語が描かれたのだが、これの笑いどころがわからなかったのだ。もっと言うとちょっと気持ち悪さを感じていて、退屈していた。F6もじょし松さんも一発ネタとしては笑えるのだが、己はどちらかと言うと普通の形態の六つ子の織り成す物語の方を観たいのだ。

そのため、前半パートでは若干フラストレーションがたまっていた。そこへ来ての一松事変だったので、笑いが爆発したのだろう。

カラ松と一松はあまり仲が良くない。カラ松は一松を嫌っていないようだが、一松はカラ松を毛嫌いし、フォローしたカラ松の胸倉を掴んで涙目にさせ、カラ松が誘拐されれば舞い踊り、クソ松と罵り、カラ松愛用のサングラスを割るなど、お前カラ松に何をされたんだよ何がそこまで気に入らないんだよ……と突っ込みたくなるような言動を繰り返している。

その一松がカラ松の所有する雑誌に興味津々なだけでも面白いのに、こっそり盗み読むのかと思ったら、ちゃっかりとカラ松の服を着てポーズを決めている。この瞬間己は本当に、比喩ではなく、口に含んでいた緑茶を噴き出しそうになった。もしこの話を序盤でやっていたらここまで笑わなかっただろう。一松という人間がわかった、気になった後だからこそ面白いのである。

そこからずっと笑いっぱなしである。死ぬかと思った。

何が面白いって、普段ボソボソ喋る一松が焦るあまりに心の中で絶叫しまくっていることである。お前そんな声今まで一度も聞いたことねーよって声で叫びまくり、焦りつつ叫びつつ合間合間に「俺のことカラ松だと思ってるー! 普段そう思われたら地獄だけどー!」とカラ松を罵倒しつつ、「正しいカラ松のやり方がわからねー! いや正しいカラ松のやり方って何だー!?」と悩みながらカラ松になりきろうとする必死さが滑稽で仕方が無い。

さらに笑えるのが、正しいカラ松のやり方がわからないと言う一松以上に、カラ松のやる一松の真似がへったくそであることだ。カラ松にとって一松と言ったら「猫」のようだが、猫以外に無いのか。何も無いのか、と突っ込みたくなる。それともカラ松の目には一松があのように見えていると言うのか。それはそれでどうかと思う。

あと煮干し。おそ松は一松のポテトチップスを食べた後にも関わらず、一松の隠していた徳用煮干しに手を出して、「すげーうまいんだよな~」「こんなの猫にあげるなんて一松も馬鹿だよな~」「ん~うまぁい」と言ってまるでご馳走を食べるかのように煮干しをむしゃむしゃ食べる。煮干しを。徳用の煮干しを。

そしてこの場に生ずるのは、煮干しの持ち主である一松にマジ殴りされるおそ松と、煮干しを食べられてマジ泣きする一松である。煮干ししか食べ物がないならまだしも、ポテトチップスを食べた後に煮干し。煮干しが火種となって殴り殴られ涙が流されるこの状況っていったい何だよ。

イタイイタイと言われているカラ松のファッションにおそ松と一松二人が興味を持っているのも面白い。おそ松はまだ興味本位な様子だが、一松はわりとお前そういうファッション好きなんじゃねーのって思わされる両者の違いも面白い。何て言ってもトト子ちゃんの部屋にビジュアル系バンドマンの格好をして行った男だ。こいつもなかなか大概である。

一松が、自分はカラ松の服を着ている一松だと告白しようとしたものの、結局出来ず、こうやって素直になれないから自分は友達が出来ないんだと唐突に自己分析をしながら悔やみ始めるあたりも面白い。忙しい男である。というかお前友達いないの結構なコンプレックスなんだな……わりと本気で……。

びっくりしたのはカラ松の機転。眠りから覚めたカラ松が、カラ松の服を着た一松を見て驚いたとき。てっきり「うわー俺が二人いるーどうしてだー!?」とポンコツな驚き方をするかと思いきや。寝起きの頭で瞬時に状況を判断し、一松になりきることで一松をかばおうとする。すごい。何がすごいって、一松が自分の服を着ていることがおそ松にばれたら、一松が社会的に死ぬということを理解している点である。こいつ……本当に可哀想だな。

そうしておそ松が部屋から去り、めでたしめでたしかと思いきや、思いっきり恩を仇で返されるカラ松。すげぇよ。直前まで「神か! 神なのかこいつ逆に死ねェ!!」「マジなんなんだよこいつの優しさ! 逆に死ねよ!」「俺はもうカラ松ボーイズだよ!!」と混乱極まる感謝の台詞を吐いていたくせに、胸倉掴んで逆切れする一松。すごい。普通だったらここでカラ松は感謝の一つもされていいはずなのに……何と言う容赦のなさだろう。

しかも急いで服を着替えようとしたところにおそ松が帰ってきて、もつれ合う二人の様子から誤解が発生。ここもすごい。自分を助けてくれたカラ松を保身のために切り捨てる一松のクズっぷりもひどいが、おそ松もひどい。おそ松はさっき一松扮するカラ松に告白されたときドン引きしていたくせに、「おじゃましましたー」「ごめんねー誰にも言わなーい」と言って、嘘泣きをする一松を置いてその場を去ろうとする。いや助けてやれよそこは! 止めろよ! ちゃんと! これ誤解だったから良いけど事実だったら一松滅茶苦茶可哀想だろ……。いや一番可哀想なのカラ松だけど。

カラ松事変のときはカラ松がひたすら可哀想だったが、今回の一松事変でもカラ松がひたすら可哀想というすごい構図。しかし一松のダメージも計り知れないものだろう。この一連の騒動、夜中に思い出したら死にたくなるんじゃないのか。恥ずかしくて。

と、このように書き上げて見ると己は「すごい」と「ひどい」しか言っていないのだが、普段物静かな一松の全力の絶叫と必死さ、カラ松の意外な機転と不憫さによる怒涛のような勢いがとにかく面白く、己は今もゲラゲラ笑っているのである。「おそ松さん」で一番好きな話になるかもしれない。



日記録4杯, おそ松さん, 日常