橘高文彦 デビュー30周年記念LIVE“筋肉少女帯” (2015年10月12日)
我らがギターヒーロー橘高さんのデビュー三十周年記念ライブであり、半年ぶりの筋少ワンマンライブであるのだが、この日己はちょっと疲労が蓄積して微熱が出ていたので、本来であれば前に突っ込んでわーわー騒ぎたいところであったが、柵に掴まりながらゆったりわーわー騒ぐに留めた。
体調不良ゆえ、流石に体力の低下を実感しつつの参戦ではあったものの、大好きな音が奏でられるこのキラキラした空間にいるとやはり元気が出るし、どうしたってニコニコ笑ってしまう。しかも何て言っても今回は特別なライブ。橘高さんのデビュー三十周年記念ライブなのだ。己が筋少を知ったのはおよそ十年前で、橘高さんを知ったのも同じ頃。あれから十年。橘高さんの活動時間の三分の一をリアルタイムで追えていることが嬉しい。そして今後、その割合は徐々に大きくなっていくに違いないのである。
今回は全曲橘高さんの曲、ということでメタル尽くしのメタル祭り。演者も観客もハードである。あのいつもニコニコ笑顔のおいちゃんですら、あまりのハードさゆえに「今日は笑えないかもしれない」と言ったほどである。ただ、それを言うおいちゃんはやっぱりいつもの笑顔だったが。
とはいえ、ステージに立つ人も見上げる人も、それを全力で楽しんだに違いない。新譜から三曲の新曲と、定番の人気曲にレア曲。そして橘高さん一人がステージに立っての渾身のギターソロ。ブゥウウウウウウンと地を這うような重低音が響き(残念なことにそれが何の音なのか己にはわからなかったのだが)、メキメキと早弾きを始める橘高さん。どこか「家なき子と打点王」を連想させるフレーズで、奏でたギターソロがサンプリングされて、時間差で流れる中さらにソロを奏で続け、会場が橘高さんの音で一杯になった。そして「愛のリビドー」のフレーズが入り、まさか「愛のリビドー」のためにこのギターソロを…!? と「愛のリビドー」に対してちょっと失礼なことを考えていると、「スラッシュ禅問答」のフレーズに移行し、迫力の中始まったのは「再殺部隊」。圧巻である。
このギターソロ、今日が橘高さんが主役の橘高さん祭りだからこその催しだろうが、これ、毎回とは言わないので、たまに筋少のライブでもやって欲しいなぁ。
新曲もバッチリ格好良かった。「おわかりいただけただろうか」を橘高さんのボーカルで聴けたのは嬉しいサプライズである。あと、今日のオーケンのボーカルはすごかった。最近はシャウトの場面でも、声を抑え目にすることが多いが、「球体関節人形の夜」でがっつりバッチリ叫んでくれたのである! オーケンのシャウトが大好きな人間としてはたまらなかった。
不意打ちだったのは「ノゾミのなくならない世界」。しかも今日、偶然「ノゾミのなくならない世界」の物販Tシャツを着ていたので尚更嬉しかった。これの「あなたあたしの~」からの疾走するようなドラムとギターが大好きなのだ。
このあたりでセットリストを。
ゾロ目
くるくる少女
ノゾミのなくならない世界
踊る赤ちゃん人間
レジテロの夢
球体関節人形の夜
おわかりいただけただろうか(ふーみんボーカル)
小さな恋のメロディ(ふーみんボーカル)
交渉人とロザリア
レティクル座の花園
再殺部隊(「家なき子と打点王」を連想させる長尺のギターソロから始まり、「愛のリビドー」「スラッシュ禅問答」のフレーズに移り、「再殺部隊」へ移行。)
詩人オウムの世界
パブロフの犬
アデイインザライフ
~アンコール~
Thank you(ふーみんボーカル)
影法師
少女の王国
イワンのばか
トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
「ゾロ目」の後で橘高さんを祝うオーケン。祝いつつもちゃかすのが実にオーケンらしく、「おめでとうおめでとう!」と散々言った後に何がめでたいのか橘高さん本人に問い、「そこからぁ!?」と笑いながら呆れる橘高さん。そしてデビュー三十周年と言えば、「二十四歳で三十周年だなんて計算が合わないよ!」とお約束の反応。このやりとりが微笑ましい。
嬉しいことにめでたいことは続くもので、今回のライブではオーケン、うっちー、ふーみんそれぞれの五十歳記念ライブ、さらには毎年恒例十二月二十三日の筋少ワンマンライブの開催も発表された。そして、来年には再結成してからの活動期間が、再結成前の活動期間を超えるという話も。(※これは仏陀LからSAN FRANCISCOではなく、猫のテブクロからSAN FRANCISCOを指すと思われる。)オーケンがニコニコしながらオーディエンスに向かって、みんな年をとりましたね、といったことを言ったが、そうやって年を取れるのはありがたいものだよ、と思う。
また、今回嬉しかったのが、エディが橘高さんの曲について、嫌いな曲が一つも無い、ピアノを弾きまくれるから楽しいと言っていたこと。橘高さんがエディへの愛と尊敬を語る場面を何度も見てきたことがあっただけに感動してしまった。
同時にエディの嫌いな曲ってどれだろう……? という興味も湧いた。何だろう、ピアノの出番が全く無い曲かな。
そういえば今回の「小さな恋のメロディ」も、後半でオーケンがマイクを持って入ってきたのだが、歌心が邪魔されることは無かったようである。オーケン、気を遣ったのだろうか。一応。
忘れてはいけないのが「影法師」。メンバー間が微妙な時期に作られたため、今まで筋少メンバーで演奏されたことが無かった曲だ。五年前の二十五周年記念ライブで期待しつつも演奏されなかったので今回は諦めていただけに嬉しい。当時の気まずい空気も既に笑い飛ばせるようになっているというのは素敵なことだな。
余談だが「影法師」の語りは語られず、間奏中オーケンが神妙な顔で間奏終わりの出番を伺っていたのが何か面白かった。
本編ラストは「アデイインザライフ」、アンコールラストは「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」で、明るいライトがパァーッとついて、気分がふわっと広がるような楽しさの中で終わるのは実に気持ちが良いなと思った。いやトリフィドの場合は大勢が食人植物に食い殺されていて好きな男と二人っきりになりたいがために全人類見殺しにしている状態なんだけどね。そういう状態ではあるのだが、特にこういう記念ライブで多幸感に包まれながら終息を迎えるのは、続きが感じられて満ち足りた思いがするのだ。
全ての曲が終わり、流れるSEは「航海の日」。橘高さんは最後までステージに残ってピックをばら撒き観客と握手をし、まだまだ橘高さんのヘヴィメタルギタリストとしての航海の日々は続いていくことを感じつつ、いつもはさっさと家に帰るのだが、ゆっくりとビールを二杯呑んで、苦手なタバコの煙が充満する中余韻に浸った。幸せな時間だった。