第9回 東京うたの日コンサート (2014年6月17日)
出演者はROLLY、大槻ケンヂ、谷山浩子。大槻ケンヂは言わずもがな大ファンであるし、谷山浩子も大好きで、ROLLYについては突っ込んで聴いたことは無いものの、ROLLYと谷山浩子とのバンド「からくり人形楽団」のアルバムは、「谷山浩子の楽曲がロックになったら面白いだろうなぁ」という夢想を実現してくれて、そりゃあもう素晴らしかったし、たまにテレビで見かけるそのキャラクターも好きである。いつかきちんと聴きたいものだと思いつつすかんちにまで手を広げられていない状態というか。そんな自分が、この三名が同じステージに立つと聞いたら行かないわけが無いだろう。
ところで。実はこのコンサートについての詳細を把握していなかったため、てっきり谷山浩子が二人を招いたのかと思っていたのだが、逆だったことを会場で知った。「東京うたの日コンサート」という催しが毎年あり、ROLLYとオーケンがここ数年は恒例で出演していて、両名の共通の知り合いということで谷山浩子がゲストに招かれたという流れだそうだ。
さて。今日のライブの感想はと言うと。非常にゆるゆるとゆるかった。
前半はゆったりしながらもサクサク進んだが、谷山さんが退場し、ROLLYとオーケンが二人でステージの椅子に腰をかけた途端、コンサート会場はまるでオーケンのトークイベント「のほほん学校」のような雰囲気に化け、二人の話はいつまでも止まらない。昔の音楽番組の話やら雑誌の話やらでいつまでもゆるゆる盛り上がるのである。
またROLLYがすごい。話が突拍子も無く、繋がったような会話をしつつも繋がっていない、ということがたびたびあるのだ。そこで突っ込みやら笑いが起き、遠回りしつつ元の話に戻ったかと思えば、またぶっ飛んだ方に話が戻ってしまうのである。どちらかと言うと順序良く話すイメージがあったので驚いた。
すごいと言えば、今日ここに来るまで谷山さんは、何の曲をやるか聞いていなかった、という話もすごい。いつかのオーケンと石川さんのコンビ「ケンヂ浩司」のライブが行われた際も、石川さんは当日まで何をやるのか何も聞いていなかったそうだが、まさか谷山さんまでとは思わずこれには本当にびっくりした。
さらに。何と三人揃ってリハーサルしたのは当日の今日が初めてだったそうで。そんなわけで今日は、出だしを間違える、やり直す、といった巻き戻し作業が何度と無く発生した。一回のライブでこんなにやり直すのを見るのは初めてだったと思う。
とはいえそれで空気が険悪になることも無く、それはそれでアリでしょう、気楽にやりましょ、とでも言うような、ゆるゆる~とした肩の力が抜ける、まるでぬるま湯に浸かってまどろんでいるような心地良いライブであった。
客電が落ち、ステージに現れたのはオーケン一人だった。オープニングSE無しでほてほてと歩いてステージの中央へ。ギターを肩から下げ、のほほ~んとした空気のまま口を開き吟じ出す。「二日酔いのぉぉ~、無念極まる僕のためぇ、もっと電車よ、真面目に走れーーーーーッ!!」
えーーーーーーっ!!? アコースティックでスラッシュ禅問答やるの!?
マジかよどうすんだよ何これ、とびっくりしていたら始まったのは「死んでいく牛はモー」だった。弾き語り中、オーケンはたびたび変なタメをつくり、生まれる無音の空間に笑いが生じる。テレビのオーケンしか知らない人は「大槻ケンヂってこんな人だったんだ…」と驚いたかもしれない。
歌詞は「春はそこまで~カム~」の部分だけすっぽ抜けていた。全体的に馬鹿っぽい歌詞だが、「カム~」は中でもとりわけ馬鹿っぽくて気に入っているので、消失したことが印象に残っていたので覚えていたのだ。
続いてタンゴ、オンリー・ユー、香菜、ノゾミ・カナエ・タマエをオーケンが一人で歌う。オンリー・ユーと香菜は順序が逆だったかもしれない。オンリー・ユーについては先日水戸さんのライブで、水戸さんとオーケンが歌うロックなオンリー・ユーを聴き、「そうだよこれが聴きたかったんだ!!」と大いに感動したばかり。そして今日は聴き慣れたゆったりとしたアコースティックなオンリー・ユー。やっぱり、「君の子供生んでみたい!!」と男性視点で叫ぶ熱情の歌は、ロックバージョンの方が個人的にはしっくり来るなぁ、と思った。
オーケンはステージに上がる際、いつものようにオープニングSEを流す予定だったのだが、谷山さんに「そのまま入ればいいのよ~」と言われ、「え、あ、はい」と今日はSE無しでほてほて歩いてステージに上がったことを語った。なるほどそれでふら~っと入ってきたのか。SEが無いだけでのほほん加減が増すから面白い。
これは光栄なことに谷山さんがすごく気に入ってくれた曲なので、今日やります、という前置きの後始められたのが「ノゾミ・カナエ・タマエ」。おお、これを今日も聴けるとは嬉しい。意外とこの曲、筋少のライブでもあまり聴いたことが無いんだよなぁ。
それにしてもオーケン、本当ギター上手になったな…。アコースティックなオーケンを観る機会が少ないとはいえ、観るたびに上手になっている気がする。すごいものだなぁ。愛だなぁ。
「ノゾミ・カナエ・タマエ」の後、谷山浩子が登場! 待ってました! まさかまたこの二人がステージに立つ姿を観られるとは…。嬉しいことがあるものだよ。
オーケンと谷山さん、二人で歌ったのは「戦え! ヌイグルマー」と「機械」の二曲。オーケンがギター、谷山さんがピアノを弾き、二人の声が重なり合う。
前回オーケンが谷山さんの「猫森集会」にゲストとして招かれたとき、ほんの二、三曲歌う程度だと思っていたらたくさん歌うことになってびっくりした、というエピソードが話され、だから今回は僕の歌を歌っていただきます、という前置きで始まったと記憶している。また、谷山さんの「機械」がとても素晴らしいので、これは是非僕のファンに聴いてもらいたい、という内容のことも。オーケン、筋少のライブDVD「4半世紀 LIVE」の特典についていたオーディオコメンタリーでも谷山さんの「機械」を絶賛していたものなぁ。
ただ、「機械」も素晴らしかったが、谷山さんの歌う「蜘蛛の糸」も鳥肌ものだった、ということをここに明記しておく。あれは是非、どこかで音源に残して欲しい。筋少の「蜘蛛の糸」は「熱」だが、谷山さんの「蜘蛛の糸」は、ピアノの音もあいまって、とても冷たい印象で、その違いがまた面白いのだ。
谷山さんのノゾミ・カナエ・タマエも聴いてみたい。いつか聴けないだろうか。
ここでオーケンが退場し、谷山さんがステージに一人立つ。今回の「東京うたの日コンサート」は最後に「暗黒編」の仮題が付いているので、そんな曲を探してみました、と言って「SAKANA-GIRL」。
「SAKANA-GIRL」を歌い終わった谷山さんは、「これはよく、人間を食べる歌なの? と聞かれることがあるけど違うんです。男の子が、スーパーかどっかで買ってきたパックに入っているムロアジの開きか何かに、"何故君は僕を見ない…”ってぶつぶつ言いいながら食べる歌です」と言ってた。谷山さん、それカニバリズムよりも怖いです。
続いて「鳥籠姫」「卵」「終電座」。「鳥籠姫」はよく「ウーロン姫」と読み間違えられるそうで、カラオケでも「ウ」の欄に入っていたこことがあったそうだ。
「終電座」が聴けたのは嬉しかった。前回の猫森集会でオーケンは「終電座」も歌いたかったのだが、当時カラオケに入っておらず、練習が出来ないため見送られたらしい。ところが、その話が広まった影響かカラオケでリクエストがどんどん集まり、今は配信されているとのこと。と、いうことはいつかオーケンの歌う終電座が聴けるかもしれないということだろうか。よし、期待をして待とう。
それにしても谷山さんはCD音源とのブレがほとんど無いというか、声が安定していてすごいなぁ…。何度か水を飲みつつ咽喉の調子を整えている姿が見られたので、もしかしたら咽喉の調子が良くなかったのかもしれないが、それを感じさせない声だった。
「終電座」を初めて聴いた人はあの物語にきっと衝撃を受けたことだろう。あぁ、その反応を見たい。と思いつつ、次に入場するはROLLY! 人生初の生ROLLYである。口ひげをつけて頭には黒のシルクハット。からくり男爵の姿である。格好良い!!
ROLLYの持つ楽器はギターシンセサイザー。マイクに向けて出した声を増幅させ、ギュンギュンと歪ませながら音に変えていく。すおぎなーハイテクだなーと思いつつ始まったのは「ねむの花咲けばジャックはせつない」。この曲の谷山さんの歌声がやけに可愛いと思っていたので生で聴けて嬉しかった。
次は、まだ聴いたことの無い曲だった。確か冒頭で「The March Of The Black Queen」をROLLYが遊びで少し弾いたかな?
確かこの後谷山さんが退場し、ROLLY一人に。ROLLYの曲はほとんど知らないのでわからなかったのだが、歌が上手くて華のある人だと思った。それでいてキュートである。よし、今度すかんちのCDを聴いてみよう。
印象に残ったのは「ROLLYちゃん♪」と歌う何やら愛らしい歌と、アヴェ・マリアにROLLYがオリジナルの歌詞を載せたもの。手塚治虫の漫画「ザ・クレーター」の主人公の視界を歌った曲、だったかな。曲の始まる前に「ザ・クレーター」の物語の粗筋が語られた。地球の滅亡を月面で見守る人類最後の男の曲である。
ROLLYのソロが終わって、今度はオーケンが入場。ここからがすごかった。急にステージがのほほん学校の空気になり、トークがいつまでも止まらない。そのうえ、谷山さんがいないことを良いことに結構な下ネタが飛び出す。いや、でもROLLYはこの後谷山さんが入場してからも下ネタ叫んでたな…。
この二人で歌った曲はルパン三世の曲が一つと、後を覚えていない。カバーだったような気がする。
そうそう。このときROLLYはオーケンのギターを弾いていて、「このギターすっごく良い」とROLLYが絶賛。するとオーケン、「そのギターは僕以外の人が弾くと良い音がするんですよ」と自虐。それに対しROLLYは「いや、上手になったよ!」とオーケンを褒め、「いや~下手なギターですよう」と謙遜するやりとりが観られた。
歌詞カードを離して見るROLLYに、オーケンが「見えなくなってきましたか」と尋ねると、ROLLYは「そうだよ~大槻君より年上だからね」と言って、その流れで眼鏡の話に。オーケンは言う。「俺はずっと眼が良くて、最近見えなくなって眼鏡をかけるようになったんだけど、レンズが薄いの。するとね、ずっと眼鏡をかけてる人達が僕に眼鏡貸してって言って、かけて、鼻で笑うんだよ!! こんな度が低いの? 何も見えないよ? って感じで!」と。あぁ、それはわかる。目が悪いことなんて別に自慢することでも何でも無いんだけどね。つい見えないことを自慢してしまうんだよな…。
谷山さんが入場し、ステージに三人揃う。谷山さん交えてのトークという名のゆるゆるとしたおしゃべりはさらに続き、谷山さんとオーケンが知り合ったきっかけについて話された。オーケンの弾き語りライブのゲストに六角精児さんが出演するということで、谷山さんは六角さんを目当てにライブを観に行った。すると「こんなにゆるくて良いんだ」と驚くほどのゆるゆるした雰囲気で、その雰囲気とオーケンの曲「ノゾミ・カナエ・タマエ」を気に入り、谷山さんが自身のライブ「猫森集会」のゲストにオーケンを招いたことで、繋がりが出来たのである。
ただ、谷山さん、それまで親交こそ無かったものの、人に勧められて筋肉少女帯のアルバムは聴いたことがあったそうだ。そして、歌詞カードが縦書きになっているのを見て、「良いな~」と思って縦書きの歌詞カードを真似たのだと言う。縦書きと言うと、「サーカス団パノラマ島へ帰る」だろうか。
これを聞いていじけ出したのがROLLYである。突然谷山さんのことを「谷山様」と呼び始め、「大槻君は、今まで谷山様と親交が無かったって言っても…良いじゃないですか! アルバム聴いてもらえてたんだから! 僕なんか…」
曰く。谷山さんのライブのゲストとして、ROLLYはどうか、とスタッフから聞かれていたそうなのだが、当時谷山さんはタレントとしてのROLLYしか知らず、断り続けていたらしい。それを聞いて大笑いするオーケン。「タレント風情が! 私のライブのゲストになんてってことですか!」と大げさな口ぶり。ROLLYはROLLYで「谷山様が! 谷山様が!」とこれまた大げさにいじけ、谷山さんは「あああ~違うのよ~」と、その姿はまるで調子に乗ってふざける後輩を落ち着かせようとする部活の先輩のようで、ここは本当に面白かった。
三人揃って歌ったのは谷山さんの「フィンランド」。このフィンランドのゆるゆるっぷりがすごかった。オーケンとROLLYはわかるところしか歌わないという潔さ! 三人揃って合わせたのは今日が初めて、というのもある意味納得である。でももうちょっと練習しても良かったんじゃないか…と正直思った。
フィンランドの後はカバーで、「亜麻色の髪の乙女」と、街の片隅で膝を抱えてる人を柔軟体操無しで海に放り込む歌だった。海に放り込む歌を歌い終わった後、「そんな膝を抱えている人をいきなり海に連れ出しちゃいけないよね」と語る三人が、いかにも非体育会系といった感じで非常に親近感を覚えた。何でこの曲を選択したんだろう。
アンコールが起こったが、持ち歌が終わってしまったということで、挨拶をして終演。三時間オーバーの非常に内容の濃いライブであった。体感では四時間くらいあったなぁ。またこの三人でのライブを観たいものである。そのときにはもっとROLLYの曲を知っている状態で参戦したいものだなぁ。
そうそう。オーケンとROLLYが昔の音楽番組の話をしていたとき、オーケンの口から「P-MODEL」という単語が出てちょっと興奮したんだった。思わぬところから思わぬ名前が出ると喜んでしまうね。
余談だが、万が一谷山さんと平沢さんが組んだらすごく面白いだろうなぁ、と密かに思っている。自分の中では谷山さんと平沢さんは同じカテゴリーに入っているのである。これもまた、なかなか無いだろうが、いつか観てみたい。