何屋か語れ

2014年2月27日(木) 緑茶カウント:2杯

もう一年近くは経つだろうか、ある商店街に出来た店らしきもの。いったいここは何屋なのか。入り口は全面自動ドアーのガラス張りで、中は薄暗いものの、店内の奥まで見通せる。奥には入り口と向かい合う形でカウンターらしきものが置かれており、端には大きめの籠とマネキンがあり、一見すると服飾関係のようであり、恐らく服飾関係なのだろうが、その店には看板もなければ説明書きも無く、何を商っているのかさっぱりわからないのだ。

ほぼ毎日店の前を通り過ぎるにも関わらずわからない。まだ店を始める前なのだろうかと最初の頃はこそ思っていたが、何ヶ月経ってもそのままで、あるときから店の中で子犬が遊ぶ姿が見られるようになり、ふと気付くと子犬が普通サイズの犬にまで育っていたが、依然としてその店が何なのかわからないのだった。

そしてわからないまま日々は過ぎ、ある日犬の成長以外の変化が生じているのを発見した。自動ドアーに何か貼り紙らしきものがある。おお、いったい何が書かれているのだろう。

興味を持って近付いてみると、そこには「昼休み中です」と書かれていた。

初めてその店より得られたメッセージには己が欲する情報は無く、これは何の店なんだと首を傾げ、また日々は過ぎ、そして己は二つ目の変化に遭遇することになった。何と、店の前にワゴンが出ており、そこに布状の何かが詰まれているのである。おお、ついにこの店が何かわかるのか! やはり服飾関係だろうか? 自分は今度こそ、と思いワゴンに近付いた。

そこにあったのはキルティングの生地を筒状にした物だった。薄い小さめの座布団を丸めて縫ったようにも見える。表は紺、裏はチェック。その物体が十個ほど詰まれ、「1個500円」と書いた紙が置かれていた。

ついに何かが売られているところを目撃したものの、これが何なのかさっぱりわからなかった。己はまた期待を裏切られた。せめて単価の他に種類や名称も書いておけよ、と思いつつも、いや、これは何か専門的な道具であり、その道に通じる人であれば誰でも知っているものなのかもしれない。きっとこの店はそれの専門店なのだ、と思い込もうとしたが、心の隅で、いや、多分そんなこたないんだろうなと思っていた。

隅で感じていたことこそ当たりだったらしい。一ヶ月ほどワゴンは外に出されていたが、その謎の物体の山が減った様子は見られなかった。無論、減るたびに補充している可能性もある。だがそれ以前に人気が無いのだ。常に。人通りの多い商店街であるにも関わらず、その店に立ち寄る人を己は見たことが無いのである。

ワゴンが外に出されなくなってからまたしばらく経過した。己はしょっちゅうその店の前を通っていたが、やはりずっと、そこが何なのかわからなかった。だが、ついに、自分は三つ目の変化を目撃した。また自動ドアーに貼り紙が貼られていたのである。己は引き寄せられるように近付き、そこに書かれた文字を読んだ。

「自動ドアーが壊れています」

もう一生正体を知ることが無いかもしれない。何か諦めに近いものが胸に去来するのを感じた。



日記録2杯, 日常