オーケンが声帯ポリープの除去手術を受けたのは五月の上旬で、己が最後にオーケンの歌声を聴いたのは四月二十三日の筋少ライブ。たったの三ヶ月ちょっとしか経っていないのに、オーケンの歌声を聴けるこの日を随分久しぶりに感じたのは、きっと不安もあったのだろう。
オーケンは時折歌いづらそうにしている場面もあったが、耳馴染んだ歌声とおっとりとした話し声はまさしく己が待ち望んでいたもので、ジーンと感動……するはずだったのだが、サービス精神たっぷりのトークと曲中の仕掛けでゲラッゲラ笑ってしまい、ごく単純に「あー面白かったー!」と非常に楽しい気分でライブを終えたのだった。
よって曲目は覚えているが曲順は覚えていない。最初の「タンゴ」「蓮華畑」「生きてあげようかな」と、本編ラスト、アンコール、ダブルアンコールだけは確かである。あとはもうわからなくなってしまった。
タンゴ
蓮華畑
生きてあげようかな
あのさぁ
アザナエル
おやすみ-END
揉み毬
氷の世界
ロマンティックが止まらない(水戸さん&うっちーテクノユニット)
100万$よりもっとの夜景(水戸さん&うっちーテクノユニット)
日本印度化計画~踊るダメ人間(短縮メドレー?)
愛のプリズン
混ぜるな危険
guru
蜘蛛の糸
香菜、頭をよくしてあげよう
~アンコール~
週替わりの奇跡の神話
~ダブルアンコール~
オンリー・ユー(オーケン、水戸さん、うっちー)
オーケンが声帯の手術を受けると知ったときは、今年はイベントやライブも控えめになるのだろうなと思ったものだが、復帰後怒涛のようにスケジュールが追加されていき度肝を抜かれた記憶も新しい。とはいえ今もオーケンはリハビリ中とのことで、高い声を出すのに難儀しているそうだ。筋肉少女帯の歌を歌えるか不安を抱いているようで、今日のライブでもポツポツと心情を吐露していた。
声が出せなかった期間はやはりつらかったそうだ。声が出せるようになったときは夢から覚めた心地であったと言う。改めて、気持ち良さそうに歌うオーケンを観られることを嬉しく思った。オーケンはたびたび、自分は表現がしたくてロックを始めた人間で、音楽がやりたくてロックを始めたわけではないことを様々な場面で語っている。その印象が強いためか、三十年以上ステージに立ち歌を歌い続けている人であるにも関わらず、オーケンが「歌が好き」であることを己は意識したことがなかった。だからオーケンが歌えないことがストレスだった、歌えることが嬉しいと語るのを聞いて驚いた自分がいた。同時に、驚きを感じる自分についても驚いた。
そういえば、オーケンが「歌が好き」「歌うことが好き」とストレートに語る場面を己は見たことがなかったかもしれない。だからこそ尚更、「好き」と語るオーケンに意外性を感じると共に、何だかむず痒いような可愛らしさを感じたのだった。いいな、と思った。
譜面を前に、アコースティックギターを抱え立ったまま歌うオーケン。今日のライブハウスは椅子席と立ち見席が混在していたため、立ち見の客を慮ってずっと立ったまま歌ってくれたのである。おかげで立見席の自分もオーケンの姿をしっかりと捉えることが出来た。この心遣いが嬉しい。
さらに、立ち見の客のために「ゼリーを撒いて、ゼリーの中でぷかぷかできるようにする」「天井から紐がぶらーんと垂れてきてそれに捕まる」「小学校とかに置いてあるさすまたでお互いを支え合う」などなど、素晴らしいアイディアを出して大笑いさせてくれた。個人的にはゼリーの中をたゆたいたい。
今回のライブでは、一曲一曲にまつわるエピソードや豆知識を歌った後に語ってくれた。「蓮華畑」は仮歌のタイトルが「蓮華畑」で、それをそのまま採用したとのこと。こういうことはたまにあるそうで、問題曲「ドリフター」は内田さんか別の誰かが歌っているのを聴いてそれを歌詞に採用したそうだ。また、「アザナエル」は仮歌の段階で歌詞があり、それをもとに今の歌詞に書き換えたのだが、元の歌詞にあった「放浪」の部分が残されているという。
「生きてあげようかな」では、演奏中、語りに入ったところで「このあたりからわからなくなるんだよね」と言いつつ、わざとらしく思い出し思い出ししながら語るというパフォーマンスも。ちなみに今度発売されるベスト盤に収録される新曲二曲のうち、一曲は「生きてあげようかな」に近いテイストとのこと。楽しみである。
「あのさぁ」では、「お客様の中にユニゾンできる人、コーラスできる人はいますかー?」という呼びかけの後、皆で「あのさぁ、あのさぁ、あのねぇ、あのさぁ」を歌う場面も。「あのさぁ」の「さぁ」は短く切り、「あのねぇ」はいやらしく、という指示が出され、オーケンも「あのねぇ」の場面で顔を作っていやらしさを出そうとしていたようだった。いやらしくはなかった。
曲にまつわるエピソードと言うと、聴き手側は「自分が聴いた状況や環境」が結びつくことが多いが、作り手は「その歌詞を書いていた場面」が印象に残るそうだ。「おやすみ-END」はアルバム「レティクル座妄想」のジャケットを描いてくれた友人の死の後に、友人のことを思いながら描いたもので、書きながら見ていた空の景色が思い出されると言う。
「揉み毬」からスパブームの話へ。一時期スパにはまっていたことがきっかけで「揉み毬」ができたという。ただ、スパに通ううちに「自分は男性の裸を見るのが苦手」であることに気付き、足が遠のくようになったそうだ。あと、風呂場で全裸の状態で従業員に「大槻さんのおかげで救われました!!」と熱意をぶつけられるも全裸ゆえ身の置き所がなく困ることがあったことも原因の一つだと言う。そりゃあなぁ……。
中盤あたりで、ゲストの内田さんと水戸さんが登場! チケットをとったときは水戸さんの出演は決定しておらず、ステージで観るまで水戸さんがゲストであることを己は知らなかったので、これは嬉しいサプライズだった。写真を見返してみれば看板にもきちんと記載されていたのに気付かなかった。まさか二週連続で水戸さんの歌声を聴けるなんて! 今日は何て豪華な日なんだろう!
内田さんはクラフトワークを意識した赤いシャツと黒いネクタイ、水戸さんは電気グループを意識したラフな格好、そして内田さんの機材はMac。そう、まさかの! 100曲ライブでも披露してくれたテクノをやってくれるのである! 今日も!
テクノ談義で盛り上がりつつオーケンは退場し、ゲストの二人だけがステージに残される。テクノ……と言うと100曲ライブ用に作った二十曲しかないはずで、それは全部水戸さん持ち歌のはずである。対バンならともかく、ゲストとして登場して主催者もいないまま自分の曲やるってかなりアウェーじゃないか……? 大丈夫だろうか……? と思っていたら案の定水戸さんも不安に思っていたらしく、3-10でカバーした「ロマンティックが止まらない」で盛り上げた後、自分の曲を始める前に前置きを入れまくっていた。
しかしアウェーも何のその。軽快な音楽と力強い熱唱で思いっきり盛り上げてくれたのである。格好良いなぁ!!
内田さんと水戸さんが退場するとオーケンが入場。このあたりだったかな。長年歌ってきたせいで歌い飽きている「日本印度化計画」と「踊るダメ人間」を端折りつつ繋げてやって、あたかもフルでしっかり歌ったような顔をして「たっぷり歌ったぞう!」と冗談を飛ばして観客を沸かせた。
「蜘蛛の糸」が聴けて嬉しかったなぁ。この曲がオーケンを知るきっかけになったので、とりわけ思い入れがあるのだ。だからこそこの日、改めて「蜘蛛の糸」が聴けたのは感無量だった。
「第二章」についての言及も。ある日、ライブで歌ってみようと思って久しぶりに「第二章」を聴き直したところ、自ら作った歌詞ながら「そういうことしちゃだめだよ!」とびっくりし、現在は封印しているらしい。歌詞の少年が更生したら封印が解かれるかもしれないそうだ。
本編最後は「香菜、頭をよくしてあげよう」。この曲の最後の「一人でも生きていけるように」が高くいため声を出しづらいとオーケンは語った。そうして前奏を爪弾き出す。自然、ドキドキしてしまう。そしてついに問題の箇所に差し掛かった。出た!
見事オーケンは歌いきり、会場は拍手で包まれた。ほっとした。やっぱり、嬉しいものだなぁ。
アンコールでは練習中の曲だから、という前置きをして「週替わりの奇跡の神話」。これの「不変の」も声が高く、なかなか難しいそうで、オーケンは何度もやり直して歌いきろうとしていた。
ダブルアンコールでは、ゲストの内田さんと水戸さんと三人で「オンリー・ユー」。数年前の水戸さんのライブ「不死鳥」でオーケンがゲスト参加したときにオーケンと水戸さんが歌った曲である。あのときはエレキだったが、今回はオーケンのアコギでゆったりと。思えばオーケンの弾き語りをこんなにじっくりたくさん聴いたのは今日が初めてだ。トークイベントで数曲聴くことはあるもののそれも頻繁にではない。だから尚更びっくりした。いつの間にか、人を交えて弾き語れるほど上達していたのだなぁ。すごい。
何年か前まで、全く楽器が出来なかったのが嘘のようである。同じように数年後、声帯ポリープの手術を受けた日が遠い過去にしか感じられない日が来れば良い、と思ったのはライブハウスを出て電車に乗って家に帰って風呂に入って人心地ついた後で、終わった直後はひたすら楽しく、面白かったー笑いまくったー最高だったーという感想しかなかった。オーケンと水戸さんのトークの勢いと面白さは留まるところを知らない。特に二人のMC談義の聞き応えは素晴らしかった。
あ、そうそう。ついにこの日チェキを買ってしまった。二枚。大事にとっておこうと思う。ふふふ。