未分類0杯, ウタノコリ, 水戸華之介, 非日常

新大久保駅から歩いてしばらく行ったところにあるこじんまりとしたライブホール。去年も訪れたにも関わらず道に自信がなく、地図を片手に雨の中よちよちと歩いた。

赤くやわらかな椅子に腰を下ろし、ゆったりと開演を待ちながら、しばしうつらうつらと舟を漕いだ。去年の日記を読み返したところ、当時も己はこの会場でまどろんでいたらしい。夏の暑さから急激に寒くなり、ちょうど体が疲れるタイミングなのかもしれない。

会場の照明が落とされて生まれる期待感のこもったざわめきを耳にしながら瞼を開ける。ステージにぼうと光が灯り、夢から夢へと移動するかのような不思議な感覚を得た。そして程なくして現れたのはギターの澄田さん、キーボードの扇さん、そして本日の主役・ボーカルの水戸さんこと、水戸華之介である。

「猛き風にのせて」から始まり、新譜「知恵ノ輪」の一曲「イヌサルキジ」へ。「イヌイヌイヌイヌ!」「サルサルサルサル!」と拳を振り上げるのが楽しい。毎度のことながら、水戸さんのアコースティックライブはアコースティックという概念を覆す熱量が凄まじい。どんな会場であれ汗だくで跳ね、飛び、歌う水戸さんは芯からロックボーカリストなのだ。

「イヌサルキジ」は桃太郎のお供である三匹の動物に対し、良い気になっているようだがお前らなんか本当は大した存在じゃないくせに、と苦言を呈す曲である。さて、ではこの動物達に厳しい言葉を投げつけているのは誰だろう? 己は鬼ではないかと思う。桃太郎が来るまでは鬼も畜生も似たような存在だったはずなのに、桃太郎に黍団子をもらった途端、あたかも自分は立派な存在ですよ、と言わんばかりに正義面をしやがって、本当は俺らと大差ないくせに! と怒る鬼の歌ではなかろうか。

三曲目は「抱きしめる手」。「手!」とパッと手のひらを開いて腕を挙げるとき、自然と笑顔になってしまう。「ヨイヤサコラサ」の後はアンジーの「サカナ」で、明るく気楽な曲調から一転して暗い海の底のような雰囲気に。この緩急がたまらない。

しっとりどんよりしてしまった観客に、そこまで落ち込まなくてもと笑う水戸さん。そしてまたここで空気が変わる! 「腹々時計」のダッダッダーッ! という明るいイントロでわっと沸き立つ観客。何度か出し惜しみをする水戸さんと、歓声を上げるオーディエンスのやりとりを経て、熱く歌う水戸さんの声の迫力! 熱気がむんむんと伝わってくるようである。

「腹々時計」の後は「涙は空」へ。今日はあいにくの雨模様だったが、「知恵ノ輪」のジャケットのように、美しく晴れ渡った青空をイメージさせる曲が多かった。次の「ドラゴンパレード」もそうである。開いた絵本から明るい色彩が広がり、そのまま空を染め上げていくような。やさしく、軽やかで明るい歌だ。

歌詞を読めば決して底抜けに明るい内容ではない。死の近づきを感じさせる曲だ。雨雲を砂漠へ運ぶため、銀色の鱗を落としながら年老いたドラゴンが空を飛ぶ。千羽のヒバリが後を追い、若い天使達がエールを送る。このドラゴンは間もなく死ぬだろう。しかしヒバリと天使に愛されたドラゴンは砂漠に雨が降るのを見届けたらきっと満足して眠るのである。そこに悲しみはなく、あるのは充実した生の終わりだ。その温かさが感じられるからこそ、この曲は明るく軽やかなのである。

ここに来るまで気付かなかったが、己はこの「ドラゴンパレード」を今日一番、聴きたかったのかもしれない。

空つながりでもう一つ。水戸さんが小さな手帳を取り出し、じっと見つめながら人々のあだ名を読み上げていく。それはきっと小学校のクラスメイトや幼馴染のような、そんな幼いあだ名で、そんな彼らが四十代五十代の大人になり、今どんな状況であるかを端的に紹介していく。大工をしている人、教師になった人。子育てを終えた人、多重債務により自己破産をした人、リハビリ中の人、ガンで亡くなった人。そして彼らの名前を読み上げて、続く曲は「青空を見たとき」。

ここで連ねられる名前は恐らく架空の人物である。水戸さんは十五年前からこの曲を歌うときにかつて幼かった人々のあだ名を読み上げるようになったそうだ。だが十五年経ち、自分と観客が歳を重ねたことで手帳の人物の年齢が歌に合わなくなってしまった。そこで十五年ぶりに年齢と近況を更新したそうである。「また十五年経ったら書き直すかもしれないけど、その頃には(手帳の人物は)みんな死んでるかもしれない」と水戸さんは冗談を飛ばして笑っていた。今五十五歳の水戸さん、十五年後ともなれば七十歳だ。深い皺を刻み、指を舐めながらページをめくる水戸さんを観られる未来。きちんと生き残らねば、と思う。

「蝿の王様」の曲中、「可能性はゼロじゃない」に変化し、そこで澄ちゃんによるアコギによるギターソロ、扇さんによるキーボードソロ、そしてカズーで歌い踊る水戸さん!! どこかアダルトな雰囲気漂う妖しい時間の美しさ!! かーっこよかったなぁ!!

水戸さんがステージを下りて客席を練り歩くとき、扇さんもマラカスを掲げて赤いスカートを翻し、水戸さんの後について踊っていたシーンがあり、それがどうにもあでやかで格好良かった。キーボードを弾く力強さも美しい。

アンコール一曲目は、以前にも水戸さんのライブで聴いた覚えがあるものの曲名がわからないもの。「アモーレ!」と叫ぶ水戸さんのお気に入りの曲だそうで、水戸さんは今日この曲を歌いたくて歌いたくて、早くこの曲の時間になって欲しい! と願っていたそうだ。どなたか、タイトルをご存知だったら教えてほしい。

「ひそやかに熱く」は水戸さんによるストレートな応援歌だ。これも頭上に広がる青空を連想させる。水戸さんの伸びやかな歌声をこれでもかと堪能できて気持ちが良い。何度も書いていることだが、本当に水戸さんの歌声は素晴らしい。素敵だ。たまらない。

ダブルアンコール、最後の一曲は明るく「雑草ワンダーランド」。そうだ、これも青空の歌だ。夏の高い湿度、草いきれ、直撃する太陽光。アメニモマケズ、祝福せよ。あぁ、水戸さんに強烈な太陽光の、夏の日差しの祝福がありますように、と心から願う。水戸さんの歌がもっと多くの人に届いてほしい。そう願わずにはいられない。

そうそう。アンコールのときだっただろうか。澄ちゃんがハンドスピナーを得意げに回しながらステージに現れて、その様子が実にキュートだった。機材車移動をしている最中、どこかのインターチェンジか道の駅で五百円で購入したものだそうで、ストレスの溜まりやすい機材車の中でハンドスピナーは小さな癒しになったらしく、シュルシュル回る様子を見ているうちに水戸さんも欲しくなったそうだ。次回見かけたら俺は千五百円のやつを買ってやる! と意気込んでいた。

そしてダブルアンコール終了後、澄ちゃんはハンドスピナーを回しながらステージを去って行った。楽しそうで実に良いな、と思った。



未分類0杯, 平沢進, 非日常

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その日空に上がった花火は、まるで九万音符の調べの降臨を祝福しているかのように見えたのさ。

楽しかった。全ての言葉がこの一言に凝縮されてしまう。そんな素晴らしいライブであった。

「Archetype Engine」から始まり、「サイボーグ」へと繋がる容赦のない展開により一曲目から打数カウントの回ること回ること。第9曼荼羅最終日の当日は開演前から人でいっぱいで、前へ詰めるように詰めるようにとスタッフに促され、1800番台の己もそこそこ前方に進むことができた。今回は下手側の中央寄りに立ち位置を決め、会人の二人をじっくり観ようと意気込んだのであった。

そんな己の出で立ちとしては、首にはポケットマフラータオル、上半身はロングスリーブカットソー、下半身はMANDALA-MINOなるオリジナルラップパンツ、そして黒のパンツに黒のブーツという完全なる様相。ラップパンツなど履いたのは生まれて初めてで、恐らく今後履くことも二度となかろうと思ったが、せっかくの機会だと意気込んで買ってみた結果、あれ意外と似合うじゃん、と新たなトビラが開いたのであった。そうでなくとも今日この日、全身をヒラサワで包み込んでの参戦、後悔など一つもなく、ただただ馬鹿になって良かった、満喫して良かった、と心から大いに満足した。

楽しかった。とんでもなく楽しかった。一曲目から「Archetype Engine」と「サイボーグ」、そして「灰よ」へ続く出し惜しみのない構成。「灰よ」で真っ赤に染まったステージが、ヒラサワが「灰舞え」と叫んだ途端真っ白に色が変わる。それはまるでステージから客席まで真っ白な灰が舞ったようで、その演出効果に息を呑んだのであった。

かと思えば、「確率の丘」では入りを間違えるチャーミングな場面も。こういったところを観ると、ヒラサワも人間なのだなぁと安心してしまう。そして次の「アヴァター・アローン」では打数モジュールが増設され、上領さんのドラムソロが炸裂する。先日の公演でムービーの前に打数モジュールが増設されたことに違和感を抱いたが、どうやらこれはこれで問題ないようだ。

打数モジュール増設は「アヴァター・アローン」と「アディオス」の二曲で行われた。どちらも上領さんを応援すべく手拍子が湧き起こり、めっちゃ盛り上がって良いなーと思いつつ、いや何か手拍子でドラムソロ聞こえづらいな、ドラムソロの迫力のわりに手拍子が牧歌的だな……と違和感を抱きもした。

「人体夜行」はアルバムと全く違った印象だ。ヴァイオリンとチェロの重い響きが愛おしい。そしてこの曲の後にステージが真っ暗になり、ヒラサワ、上領さん、会人の二人松と鶴が退場し、打数カウントが表示されていたモニターに映像が映し出される。内容は昨日と同じで、ヒラサワならではの難解な言い回しをしていたが、「ヒラサワがTwitterをやる前の世界には戻れなくなった善男善女善LGBTX」と呼ばれ、沼扱いされたことは理解できた。このように男女だけでなく。LGBTXを言葉に挙げてくれるヒラサワの何とありがたいことか。彼の視界には男女以外も映っている。それは希望以外でありよすがである。ありがたい。

打数モジュール増設の許可が下ろされるもしばらく増設はされずに進む。「トビラ島」では真っ赤に照らされたステージでヒラサワがアコギを爪弾き、定位置に戻ったかと思えばステージは青に照らされ、上空には七つの赤い月が浮かぶ。そして力強く叩かれるドラムの迫力! 先日の感想にも書いたが、トビラ島一曲で一つの映画を観たかのような満足感があり、たまらない。

「聖馬蹄形惑星の大詐欺師」では例の箇所で例の如くオーディエンスによる合唱が起こったが、面白いことに昨日のは違う発声が聴こえた。この箇所には歌詞がない、ゆえに皆それぞれの解釈がなされ、それぞれの解釈で発声しているのだろう。故にそんな違いが起こるのだ。面白いなぁ。

次の「アディオス」で打数モジュールが増設された。「アヴァター・アローン」では細かく刻まれ、音が小さくなるも途切れることなくひたすら続くドラムの丁寧さが印象的で、「アディオス」はより力強く感じた。

「ホログラムを登る男」でだっただろうか? 気付けば、会人の鶴が弾くヴァイオリンの弓の弦が切れて、ふぁっさーとたなびいていた。しかし鶴は演奏を中止することなく壊れた弓で弾き続ける! いつの間にそんなことになった……!! 驚きながら彼を見つめた。

そして最後の曲「オーロラ」へ。この時点で打数は85000あたりだっただろうか。とても90000には届かない。しかし、何と言うことだろう! アウトロでちょちょいと指先を操り煽るヒラサワ、終わらないドラムソロ、熱狂するオーディエンス!! ドラムソロが始まるや否やオーディエンスはドッと飛び跳ね、興奮し前へ詰めかけ、大声で「ワタルー!! ワタルー!!」と叫びながら、9万打へと駆け上るドラムソロが展開されたのである!!

まさかこのオーロラという曲で。この、美しく、駆け上がるような多幸感がある曲で、こんなに格好良いドラムソロが延々と繰り広げられることになろうとは! 曲の雰囲気も何もかもぶっ飛ばして、我々はひたすら飛び跳ね、拳を振り上げながら「ワタルー!! ワタルー!!!!」と応援した。それはもう、先日ヒラサワに指示されたとおりの呼び名で忠実に。ワタルこと上領さんはリズミカルにひたすらにドラムを叩き続け、しかし鬼気迫る様相は全くなく、最後まで涼しげで、美しくも完璧に、九万打ぴったりを叩ききったのであった。

美しかった。

彼の人が男性であることは知っている。当初、確かに見間違えたが男性であることは知っている。しかしここまで来て、美しいお姉さんにしか見えず、それでいてこのパワフルで涼しげなドラム捌きが鮮烈で、己は息を呑むしかなかった。

かくして九万音符の調べは降りた。楽曲はリアルタイムで配信され、無人のステージに新曲が流された。それに聴き入りながら、待望の一曲を耳にしながら、好きなミュージシャンのライブに行って無人のステージを目の前にしながら新曲を聴くって妙な状況だな、と思った。

アンコールは「現象の花の秘密」と「鉄切り歌(鉄山を登る男)」。MCでヒラサワが上領さんを指して「流石元P-MODEL」と言ってくれたのが嬉しかった。

年々、ステージに演奏陣が増えている。それはDVDを観るファンを飽きさせないようにというヒラサワの工夫であり、サービスだと思う。その中でついに、生ドラム。するとどうしても、P-MODELの再結成を期待してしまう自分もいる。

だが同時に思う。きっと今が一番良いバランスなのだと。P-MODELのヒラサワと、ソロのヒラサワが綺麗に両立している今。長い月日を経てやっと、ちょうど良いバランスに行き着いたのではないか、と短いファンながらに思う。

また思う。白髪のヒラサワの美しさを。それは髪の色だけではなく、スタイルも、そして顔の皺も込みでの美しさだ。齢六十三歳の彼は、紛うことなく美しい。

しかし過去を顧みると、歳を重ねた人の美しくあろうとする努力を己は笑ったことがあった。それは十五年ほど前で、今では本当に恥じているが、確かにそれは事実であった。五十を手前にダイエットを志し、ダンベルを振った亡き母が「おばちゃんなのにダイエットなんておかしいよね」と言ったとき、口にこそ出さなかったものの「そんなに頑張らなくても」と思ったのだ。

だがあのとき、本当は「そんなことないよ」と言うべきであり、そう言われることを母も望んでいたはずなのである。

美しくあろうとすることはいくつになろうとも何もおかしいことではない。自分に手をかけることは抗うことではなく、自分自身を大事にすることだ。それに何故当時気付かなかったのだろう。背筋を伸ばし、レーザーハープを操るヒラサワ。にこにこ笑いながら涼やかにスティックを振る上領さん。二人とも美しく、二人とも違うように美しい。彼らがそれを目指していたかはわからないものの、結果として美しいことは確かである。

あのように生きたいものだ、と思った。帰り道の橋の上には人だかりがあり、彼らの視線の先にはまんまるに光る白い月と、ドーンと上がる花火があった。まるで九万音符の調べの降臨を祝福しているかのような夜空。ほうと眺めつつ、魅せられつつ、まっすぐに進もう、と思った。



未分類0杯, 平沢進, 非日常

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第9曼荼羅が開く時、9万音符の調べが降りる!

「9万打」と「曼荼羅」をかけた駄洒落のようなライブタイトルは、ヒラサワのツイッターのフォロワーが九万人に到達したことを記念した企画である。大阪・東京の全五公演を通してスネアドラムの打数が九万打に達すれば、九万音符により構成される楽曲が配信される。故に、我々オーディエンスはドラマーを精一杯応援するミッションが課せられている。

そしてまぁ、ステージの豪華なことと言ったら!

上手には曼荼羅が描かれたバスドラムの存在感が際立つドラムセット、中央にはヒラサワのギターとレーザーハープ、下手には会人の奏でるサイレントチェロ、エレキヴァイオリン、シンセサイザーにボタン類。ステージの奥には高々と曼荼羅が掲げられ、その下には打数をリアルタイムでカウントする巨大なモニター。いったいどこを見れば良いのやら。たった二つの目玉ではとてもじゃないが足りえない。

開場から開演まで、場内に流れる音楽を聴きながらゆるゆると待っていると、スタッフが機材のチェックのためにステージに現れてついそわそわしてしまう。よし、そろそろかそろそろか。時を経てスモークがもくもくと焚かれ出し、開演直前のアナウンスが流れる。そしてついに照明が落とされ、あぁ、待ちに待ったライブの時だ!

そうしてステージをぐっと見つめていると、下手側から髪のサラリとした真っ黒い衣装の美しい女性が現れ、中央を横切っていく。誰だろう、スタッフ……には見えないが、妙だなぁ……と思っていたら、その女性はドラムセットの前で体の向きを変え、着席した。

仰天した。女性ではなかった。元P-MODELのメンバーであり、本日ドラマーを務める上領亘さんだった。

P-MODELは聴いていたが、美しいとは耳にしていたが、己は彼の外見を知らなかった。故に驚いた。非常に驚いた。さらに、ライブが終わった後上領さんについて調べ、年齢を知って驚いた。五十三歳とな。見えない。全く見えない。

はーー……とびっくりしつつ暗闇の中でステージを見つめる。そういえば暗くなったがオーディエンスに動きがない。前に詰めないのだろうか……と思っていると、銀髪のヒラサワがステージに登場。瞬間、歓声とともにドッと人々が前へと詰めかけ、なるほどこのタイミングか! と納得しつつ足場を確保。前から五列目あたりの見晴らしの良い位置に立つことができた。

出囃子とともに始まったのは「オーロラ」。初っ端からヒラサワのデストロイギターが炸裂し、ギターへの膝蹴りが放たれる。二曲目は「確率の丘」、そして三曲目のイントロが始まった瞬間、ゾクゾクと喜びがこみ上げた。大好きな「CODE-COSTARICA」! この曲からヒラサワの咽喉が開き、ぐっと声量が増したように感じた。あぁ、何て美しいのか!

ずっと、いつかヒラサワのライブで生ドラムを聴いてみたいと思っていたが、まさか叶う日が来ようとは。ビリビリと地を這うリズムの衝撃が足の裏から背骨に響き、実に気持ちが良い。音が体にぶつかってくる圧力がたまらない。また、前に立つ人がちょうど体格の良い人で、その方がぴょんぴょんと飛び跳ねるたびに間近の振動が伝わって、その迫力も心地良かった。

「アディオス」では「空、空」と歌うところで会人の松と鶴がチェロとヴァイオリンの弓を高々と掲げ空を指差し、ステージいっぱいに真っ白な光が降り注ぐ。美しい光景だった。「罵詈喝采罵詈喝采」の箇所はレーザーハープにより奏でられていて、曲の終わりにヒラサワがひょいっと光線に触れ、「罵詈っ」をサービスしたのが実にライブらしくてわくわくした。

「灰よ」は流石の迫力で、そのままの勢いに乗って「聖馬蹄形惑星の大詐欺師」へ。驚いたのがまさかの! 「ハーイッハイッ! エハライェエッ!! ハーアハッハー フゥウウ~?」がオーディエンスによる合唱パートになったこと! ちなみにこの箇所の発声は歌詞カードに載っていないので耳で聴いたものをなるべく忠実に文字に起こしているが、人により違いがあるはずである。そのわりに声が揃っているのが何というか、不思議であった。

そういえばこの曲が発表されてからのライブでこの曲は必ずセットリストに入っているように思う。ヒラサワのお気に入りなのだろうか。

「人体夜行」で六万打寸前までいき、ふとステージから人がいなくなる。すると打数がカウントされていたモニターに映像が映し出され、ヒラサワとヒラサワの会話が展開される。何を言っているのかわからないかもしれないが、画面のヒラサワが画面外のヒラサワと会話しているのである。つまりヒラサワがヒラサワと会話しているのである。ご理解いただきたい。

平均して一日一万五千打で、このままでは九万打に到達しない。そこで打数モジュールを増設する許可をヒラサワがヒラサワに求め、予算がかからないという理由により許可が下ろされた。端的に言えばタイミングが訪れたときにドラムソロパートが追加されるとのこと。おおー!

と盛り上がりつつも気になることが。ん? あれ? この映像が流れる前に、どっかで「打数M増設」とモニターに映し出されたような……良かったのだろうかそれは。

「トビラ島」では下手側にヒラサワが座ってアコギを弾いて歌っていたのだが、残念ながら己の立ち位置からはよく見えなかった。レーザーハープと上領さんはよく見えるのだが、会人は見えづらいのである。明日はもっと会人も観たい。

とはいえ何と言っても「トビラ島」は後半の展開の迫力だ。ちょうどこのとき六万カウントを記録していたことにより、曼荼羅には六つの明かりが点灯していて、まるで闇夜の空に赤い月が六つ浮かんでいるようだった。重々しいドラムとヒラサワの歌声の迫力と相まって、怪しく恐ろしく、美しかった。

このときドラムと同じリズムで松と鶴がボタン類を押して演奏していた。正方形の方眼ノートのようなモニターがあり、一つ一つの四角のマスには赤や青や黄色や緑の色がついていて、タッチすると色のつく場所が移動し、またタッチすると移動する。あのボタン類が何の音を担当しているのかはわからなかったが、とにかくデフラグ中の画面にそっくりだった。

「トビラ島」は一曲で一つの映画を観たかのようなボリュームがあるが、もちろんここで終わらず息つく間もなく曲は展開していく。このスピード感が贅沢で、もったいなくて、心地良い。

「Archetype Engine」が始まった瞬間、脳が爆発するかと思った。ヒラサワの響く声の伸びやかさの美しさったら。そして「サイボーグ」! これ! これを生ドラムで聴きたかったんだよおおおおおお!! 今日演奏された中で一番期待していたものかもしれない。もともとオリジナルが生ドラムなこともあり、このタイプを聴いてみたいと思っていたんだよなぁ。念願叶って嬉しい。

「ホログラムを登る男」「白虎野」で本編は終了。大歓声によるアンコールを受けてステージに現れたヒラサワに「お足元の悪い中……」と言っていただきついどよめきそうになる。そんな風に言ってくださるとは……。

アンコールは「Wi-SiWi」と「鉄切り歌(鉄山を登る男)」。「鉄切り歌」では「鉄はだんだん切れ」がオーディエンスによる合唱パートになっていて楽しい。知らない人々と大勢で声を揃えて好きな歌を歌う多幸感に酔いしれた。

上領さんはどんなときもニコニコしていて、軽やかにドラムを叩いている姿がとても格好良かった。ヒラサワを観て、上領さんを観て、やはりとても目が足りない。明日は最終日。今日でやっと68,400に到達し、残り21,600打。さぁ、あともう少しだ! 九万打の達成をこの目で見届けるべく明日も新木場に向かおう。どうか9万音符の調べが降りますように。

ちなみに物販は小雨の降る中一時間並んで待った甲斐あって全種類購入することが出来た。はっはっはっ。ガラケーユーザーなのにスマートフォンケースまで買ってしまったぜ。ガラケーユーザーにまでスマートフォンケースを買わせてしまうヒラサワの魔力たるや何と恐ろしいことか。「唯じゃない」の一件で知って以来、ずっと魅せられ続けている。あれから八年か。早いような短いような。

無論これからも魅せられ続ける所存である。きっと予想だにせぬ世界を見せてくれるに違いないから。

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未分類0杯, 初参戦, 大槻ケンヂと橘高文彦, 非日常

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そもそも自分は対バンにもあまり行かない方だ。それは好きなミュージシャンをひたすらがっつり観たいから、そして転換の待ち時間が苦痛であるから、この二つの理由によるものである。そしてまた、夏フェスなるものにも行ったことがなかった。興味はあるものの、好きなバンドが複数出演することがあまり無く、行くとすれば一つのグループのために参戦せざるを得なくなってしまうためだった。だとすれば、ワンマンの方が己の性質に合っているだろう。故に夏フェスの空気に興味を抱きつつも、それはずっと自分とは関係のない催しであった。

そんな自分がついに、生まれて初めて夏フェスに参戦した。イベント名は「夏の魔物」。開催地は川崎。

それはもう、最高に楽しかった。

そりゃあもう驚いたものだよ。己が夏フェスに足踏みする一番の理由、「好きな出演者がそんなに出ない」が解決されてしまったのだ。大槻ケンヂ、橘高文彦、町田康、有頂天、人間椅子、戸川純、遠藤ミチロウ、ROLLY、ニューロティカという錚々たる面々! まるで自分の妄想が具現化したかのような顔ぶれである。何だこれ。何だこれ!?

しかも、去年までは青森で開催していたのに今年は川崎。近い。すごく近い。サッと行ってサッと帰れる距離である。何だこれ。何だこれ!?

何か、天からご褒美をもらえるようなことをしていただろうか、と思った。頭の中で遊びで作っていた、もし自分が紅白歌合戦の出演メンバーを決められるなら、という空想が現実になったかのような不可思議。出演者の名前を見ながら何度も、「何だこれ、えー、何だこれ」と己は呟いた。

そうして今日この日、由縁のわからぬ素敵なご褒美を全身で受け取って、たっぷり満喫して、最高に楽しんだのだった。
それはもう、素敵な一日だった。

川崎駅からシャトルバスに揺られ、会場に着けば頭上には眩しいほどの青空が広がり、賑やかな音楽が出迎えてくれる。わくわくしながら手首に巻いた入場券代わりのリストバンドを係員に見せてゲートをくぐれば、真夏を駆け抜けるかのようなニューロティカ・あっちゃんの歌声! 初めて聴いたときから思っていたが、あっちゃんは何でこんなに若々しく、青い青年のような声で歌えるのだろう。すごく晴れやかで格好良いなぁって思うんだよなぁ。

曲名がわからないものの、「パンクやめてもいいですか?」「ダメですか、わかりました!」と叫ぶ歌が面白かった。この年代のミュージシャンが好きなだけにニヤニヤ笑ってしまうな。やめないでくださいお願いします!

「ア・イ・キ・タ」で大興奮し、のっけからハッピーな気持ちになりながらブースを移動。途中フードエリアでポカリスエットかアクエリアスかを購入し、腰にぶら下げているシザーバッグに入れた。ちなみにこの日は筋少Tシャツに筋少ラバーバンド、筋少タオル、そして背中に小型のショルダーバッグをかついで、腰にシザーバッグをぶら下げ、スニーカーを履いていた。初めての夏フェスなので他にも用意がいるかと悩みつついつも通りの軽装にした次第である。ただ、ショルダーバッグにペットボトルは入らないので急遽シザーバッグを追加したのだが、これは正解だった。やはり両手が空く状態の方が身軽で良い。

あとゴミ袋代わりになるかと思いスーパーのビニール袋を持って行ったのだが、こいつがレジャーシートの代わりになってくれて意外と重宝した。一人参戦の場合大きなシートはいらないので、ちょいと敷けるものさえあれば充分なようだ。

さて、そんなわけで飲み物をゲットし大槻ケンヂと橘高文彦を観るべく「ホワイトの魔物」ステージへ移動すると、隣の「イエローの魔物」ステージから異様に可愛い声が聞こえた。誰だろうと印刷してきたタイムテーブルを見れば上坂すみれのステージだった。あぁ! アニメ「鬼灯の冷徹」のエンディング「パララックス・ビュー」を歌った彼女! あの曲はオーケンが歌詞を書いているので印象に残っている。そしてその後だったかな、オーケンやヒラサワとも対談したことを知って名前を覚えていたのだ。

彼女はステージで動物の耳と尻尾をつけて元気に歌い踊り、オーディエンスを煽って煽って煽りまくって大いに盛り上げていた。よく知らないがこのノリ、観ているだけで楽しい! 気付けば見よう見まねで腕を振りまくっていた。

ニューロティカから移動してきた頃には上坂すみれのステージはほぼ終盤だったらしい。もうちょっと観たかったなと思いつつオーケンふーみんの開演を待っていると、上坂すみれが踊っていたステージのさらに隣、「レッドの魔物」ステージから大盛り上がりのロックが聞こえてきた。見ればステージに立つのは若者で、タイムテーブルを確認すればこのイベントの主催者「THE 夏の魔物」のステージだった。

あぁ、こうして待っている間に他のステージのライブを楽しめるのはありがたいなぁ、としみじみしつつ聴いていると、「グミ・チョコレート・パイン」と歌う声。あ、これ、オーケンが歌詞提供したやつだったかな? と思いつつ注意深く耳を傾けた。しっとりとした空気を楽しんでいると、間髪入れず雰囲気は転換! 「ボンバイエ!!」と叫ぶ大騒ぎの曲、ステージで跳ねる若者達、同じく跳ねるオーディエンス達! 拳を振り上げつつ盛り上がる人々を見て、まるで自分を俯瞰しているような不思議な感覚を得た。

「THE 夏の魔物」の公演が終わり、じりじりと待っているとついに、ステージにオーケンとふーみんが現れる! 開演SEは何と「アングラ・ピープル・サマー・ホリディ」! 特撮だー!?

そして一曲目は「ジェロニモ」! まさか橘高さんの弾くジェロニモを聴ける日が来ようとは……。実にレアである。オーケンは「筋少」の文字を背負った真っ白な特攻服で、顔にヒビは無い代わりに目元のメイクにいつもよりも力が入っていた。橘高さんは網タイツの露出が激しい白と黒の衣装。ちなみにこの日、アングルの関係かもしれないがかなり際どいところまで見えてセクシーだった。すごい。橘高さんすごい。

二曲目も意外な一曲「猫のリンナ」。チープ・トリックのカバーである。特攻服を着た人が歌うにはあまりにも可愛らしい選曲だ。竜ちゃんがコーラスで原曲の方を歌っていて、それがまた愛らしさに拍車をかけていた。

三曲目に入る前にMCでオーケンがオーディエンスを「どうかしている人々」といじるいじる。あぁ、そういえばフェスのライブ映像を観て、こうしていじられるのを羨ましく思っていたのだった。ついに夏フェスでいじられた! 嬉しい!!

「皆でこの先の海を渡って、転覆させてやろうぜー!」という物騒なMCに続くのは「時は来た」か? と思いきや、始まったのは「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」! 意外尽くしの選曲に驚きを禁じえない。この暗闇の中で歌うのにぴったりな曲をこの青空の下で歌うのか……とギャップを楽しんでいると、ステージの前を蝶がひらひらと横切るのが見えて、いつものライブハウスでは絶対に見られないその小さな来訪者の異物感を嬉しく思った。

四曲目は今度発売されるアルバムに収録される新曲の「サイコキラーズ・ラブ」。虫や鳥や人などを手にかけてしまう人々を歌った曲で、演奏の前にオーケンから曲の説明があった。この曲を今日この日まで己は聴いたことがなく、ライブやイベントで聴いた人々の感想や評判を聴いて一刻も早く聴きたいと思っていたので、ついに念願叶って嬉しい。ちなみにちょうど昨夜、あまりにもこの曲を聴きたいあまりに、実在のサイコキラーと呼ばれる人々の犯歴を読み漁った挙句気持ち悪くなったという醜態を己は晒している。よむんじゃなかったとおもいました。

オーケンもふーみんも椅子に座り、しっとりとした調べが奏でられ、優しい歌声が青空に広がる。また一匹、ふわふわとトンボがオーケンとふーみんの前を横切って行った。鳥や人だけでなく、虫も「手をかけられる犠牲者」の対象にオーケンは数えてくれるんだなぁ、とホバリングするトンボを眺めて思った。

まだ発売される前なので、歌詞については語らないでおこう。今はゆっくりと記憶した歌詞を反芻している。最後の言葉がとても好きだ。

ラストは「踊るダメ人間」で青空の下盛大にダメジャンプ! ふーみんの手によりバラ撒かれるピックの雨を頭上に浴びたのに一枚も取ることができなかったが、青空に舞うピックの光景の美しさは目に焼きついている。

「大槻ケンヂと橘高文彦」と銘打つからには「踊る赤ちゃん人間」やハードな曲が来るかと思いきや、そこに縛られないあたりが自由で実に気持ち良かった。いつもとは違うものが観られる、これもフェスの醍醐味だろう。楽しかった!!

次の「The MANJI」までやや時間が空いていたので、フードエリアに行ってタコライスとバジルソーセージとビールを買ってかっ込むように食べた。美味しかった。ちなみにこの後混ぜそばを食べて、最終的にビールを四杯、ポカリスエット的なものを二本飲んだ。結構水分を摂ったが腹がチャポチャポになることはなく、ほとんど汗で流れて行ってしまったようだった。

あと人間椅子が終わって有頂天を待つ間にまた時間ができたので、「もし平沢進が夏の魔物を観に来ていたらいったい何を食べるかゲーム」を一人で行った。特にルールはなく、肉嫌いでベジタリアンなヒラサワが食べられるものを探すたけの遊びである。そうしてビールを呑みつつぶらぶら歩いた結果、見つかったのは「フライドポテト」だけだった。これだけか……。

飲食物持ち込み禁止の会場でこれはちょっと可哀想だなぁ。己は肉も魚も食べられるが、友人にも肉や魚を食べられない人がおり、すると彼らがここに来て食べられるものはポテトだけ。せっかくのお祭りなのに楽しみが半減するのは悲しいことだ。そのあたり、今後はもう少し慮ってくれたらいいな、と思った。

お腹を満たして「ブルーの魔物」ステージへ行く。人だかりに集まると、程なくして演奏が始まった。華やかなROLLYにベースの音色がド派手なサトケンさん! かっけーと思ったら歌っているのは五十肩の曲! あぁ年齢を感じさせる!!

二曲目はファンキーな曲で、ブリブリと主張する野太いベースの格好良さが素晴らしい! シンプルな編成ゆえ尚更ベースが目立ち、ものすごく聴き応えがある。特にベースソロは圧巻だった!

それと印象に残っているのは、話によるとセカンドに入っている曲だったかな? アルファベットをaから順番に歌っていく曲で、多分胸のサイズか何かの歌のようだった。

それにしてもこの人達が谷山浩子と組んでいるのか……。いったいどういうきっかけなのだろう……。

The MANJIの次は戸川純 with Vampilliaへ。スタートが十分か十五分ほど押すものの無事始まった。知っている曲の中で演奏されたのは「バーバラ・セクサロイド」と「好き好き大好き」。ヴァイオリンの色っぽい調べと男性の咆哮のような声と、指揮をするように舞う人の仕草が印象的だった。そして何と言っても純ちゃんの迫力。CDの歌声とは明らかに変わっていて、可愛らしさから一転して、よりドスが利いた恐ろしさを感じさせる瞬間の、ゾクッとする感じ。「可愛らしいアイドル」から「妖艶な女性」に化けるギャップと、「可愛らしいアイドル」から「情念の化け物」に変異するギャップ。そんな違いを感じさせられた。

戸川純 with Vampilliaが終わり、少しは聴けるかなと人間椅子のステージに移動すると、硬質な爆音がビリビリと体にぶち当たってきた。見上げればステージには風を受けながら演奏をする人間椅子と、興奮し拳を振り上げる大勢のオーディエンス。

このとき己は本当に純粋に、ただただ格好良いな、と思った。

何だろう、戻ってきた感覚だ。楽しい音楽をたくさん聴いて、自分のルーツの近くに戻ってきたようなしっくりした感覚。これが不思議だ。自分は人間椅子を聴くものの熱狂的なファンというほどではない。それなのに何故、こんなにしっくりとはまる感じがしたのだろうと思って気付く。あぁ。ハードロックも聴きたかったんだ。きっと。

ワジーの袴が風であおられ、フレアスカートのように綺麗に膨らんでいて、その袴の線のスラリとしたまっすぐさがいやに綺麗でびっくりした。

人間椅子から有頂天までしばらく時間が空くので腹ごしらえに混ぜそばを食べ、ビールを呑む。この日のビールは水のようにあっさりしていて実に呑みやすかった。外で呑むにはちょうど良いかもしれない。

そうしてゆったりと芝生に腰掛けながらラフィンノーズの演奏を聴きつつビールを呑んでいる背中で、多いに酔っ払ったらしいカップルがデスボイスで小突きあいをしていて怖かった。いや、本人達は楽しんでいるようだったのだが。ようだったのだが!!

腹ごしらえも終わり、有頂天のステージへ。始まりは明るかった空がみるみるうちに色を変え、ミラーボールが煌びやかに回り、終わる頃には真っ暗な夜に。涼しい夜風が汗ばんだ肌をすり抜けていって気持ちが良い。曲は「オードリー・ヘプバーン泥棒」「フィニッシュ・ソング」「アローン・アゲイン」のほか、新曲の「城」「monkey’s report(ある学会報告)」も! どちらも好きだが、特に「monkey’s report(ある学会報告)」は本当に嬉しかった! この曲は何度聴いても切なさで涙腺が緩む。まさか今年二回も生で聴けるとは……ありがとう、ありがとうケラさん!

有頂天の次は町田康率いる「汝、我が民に非ず」。前から二番目という素敵な位置で観られることができてとても嬉しい。町田康は前に観た時よりも痩せているように感じた。片手には歌詞を書いた紙を持ち、目をぎゅーーっとつぶって歌う。まだライブでしか聴いたことがないのにもう耳馴染んだ曲があって、早くアルバムを入手したいと切に思うばかりである。「貧民小唄」、歌詞カードを見ながらじっくり聴きたいなぁ。

「インロウタキン」でぎょろりとした目が見開かれ、ドキッとする一瞬も。迫力があった。怖かった!

最後は「THE END」。遠藤ミチロウのバンドである。思えば町田康の直後に同じステージで遠藤ミチロウを観られるってとんでもないな……。しかも一曲目はザ・スターリンの「虫」で、最後は「ワルシャワの幻想」。もしここで町田康がINUの「メシ喰うな!」を歌っていたら……と空想するが、流石にそれは出来すぎか。

「ワルシャワの幻想」が拡声器の音から始まるのは知っていたが、よくよく考えれば生で観るのは初めてだ。それはオーケンから得た知識であり、生で知ったものではないからである。

還暦過ぎ。最近の六十歳は若いとはいえ、こんなに叫べて、歌えるんだなぁ……。まだ己は半分しか生きていないが、もう半分生きてあんな風に格好良く活動できる人間になれるだろうか。

うん、目指す方向性は違えど頑張ろう、と思った。

そうして後で知ったのだが、文中で「若者」と表した「The 夏の魔物」のメンバーは己と同年代であった。その若者とはあくまでも、今日己が観て回った出演者と比較してのことであるが、いつまでも若者と思っちゃいられないなぁ、と自分自身に対して感じた次第である。

ゴトゴトとシャトルバスに揺られ帰路に着く。体は汗でべとべとで、足は流石に重くなっていた。しかし楽しかった。最高の夏の思い出ができた。ついに夏フェスを体験できて嬉しい。ありがとう、夏の魔物。楽しかったよ、夏の魔物!

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■9月1日22時「実況に興味がないのに~」の方へ

あなたの愛はよくわかりました。ただ自分はあなたと違う視点を持っています。例え話をしましょう。己は大槻ケンヂ、通称オーケンの熱狂的ファンです。オーケンは音楽活動の他、エッセイや小説を書いています。そして中には音楽に全く興味がないけど文章は好き、というファンもいます。己はオーケンの音楽と文章の両方を愛するファンですが、片方だけを愛する人の存在があることはとても素晴らしいと思います。ある方面で興味を持てない人が全く別の角度からは夢中になれる、それはその対象の多様性を意味するからです。一つだけではなく、多方面に分岐しているからこそ可能性が広がる。己はそのように思います。

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