寄生虫とうなぎとケーキ

2020年7月30日(木) 緑茶カウント:2杯

緊急地震速報のけたたましいアラームに叩き起こされ、呆然とスマートフォンを掴む。時刻は朝の十時前。昨夜は深酒をしたために寝たのは明け方の五時頃で、しかし二度寝を決め込もうにも神経が高ぶってしまって眠れない。

誕生日の朝としては、わりと最悪な目覚めであった。

仕方なしに布団から抜け出てパソコンをつけ、だるい頭と体に悩まされながらぼーっとネットサーフィンをすること二時間。するとどうしたことだろう。ポン、とメールがメールボックスに届き、いったい何かねと思いつつ開いてみれば、コロナの影響で延期になっていた筋肉少女帯のライブが中止になった報せであった。

誕生日に受け取る報せとしては、かなり最悪の部類であった。

あぁ、今日は惰眠を貪って昼過ぎに起きてゆるゆる過ごそうと思っていたのに。いったいどうしてくれようかと悲しみながら悩み、これはもう何かで相殺、もしくは上書きするしかなかろうと結論し、やりたいことを考えた。

やりたいこと。やりたいけどできていないこと。とすると浮かんできたのは、好物の鰻。かつては誕生日に鰻を食べることを楽しみにしていたが、絶滅危惧種に指定されていると知ってから鰻を食べないことを自分ルールとして課して生きていて、しばらく鰻を食べていない。鰻。でも、コロナでいろいろ我慢してるし、楽しみも無くなるし、だったら一回くらい、解禁しても良いかなぁとちょっと前から思っていたのだ。年に一回、今年だけ、ちゃんとした鰻屋で食べるくらいは許したい。

で、決めた。今日は鰻を食べよう。そして鰻に付随して思い出すのは、大学の頃友人達と目黒寄生虫館に行って、その帰りに美味しい鰻を食べた楽しいひととき。目黒寄生虫館は年に一度くらいの頻度でちょこちょこ行っているが、また行きたい。で、決めた。よし行こう。寄生虫を見て、鰻を食べて、そしてケーキを買って帰ろうではないか。

嬉しいことに今住んでいる家から目黒寄生虫館はわりと近くにあり、まぁまぁ頑張れば徒歩で行ける距離である。とはいえ駅数個分の距離を何らかの必要な用事以外で移動するのは随分久しぶりで、コロナが蔓延してから自宅と近所の商店街以外ほとんど出歩いていないためにそれだけで心が沸き立って、汗をかきながら歩くことさえ楽しかった。

そうして着いた目黒寄生虫館はなんと独り占め状態。十代の頃から既に何度も見ているため好きなところを好きに眺め、展示の細かな変化を楽しんだ。二階にある人体から回収された九メートル近いサナダムシの標本の隣に、普段であれば同じ長さのゴム紐が設置されていて紐を伸ばすことでその長さを体感できるのだが、感染症対策でその紐が仕舞われてしまっていたことが少し悲しかった。コロナめ…………。

ゆったりと寄生虫館を楽しみ、少額ながら寄付をして次に向かうは思い出の鰻屋。わくわくしながら中に入り、ちょっと奮発して松竹梅の梅を注文して、お茶を飲みながらゆうるりと過ごし、ついにその時はやってきた。

さぁ懐かしの愛しの鰻!

美味しかった。滅茶苦茶美味しかった。ふわふわとやわらかくて、ほろほろしてて、ごはんがあまじょっぱくて、山椒がピリリと良い香りがして。
あーーーー、好きだなぁ、と食べている間頬が緩みっぱなしだった。

ふわふわと幸せな気持ちで鰻屋を出て、ついでに久しぶりに大きな本屋に寄って、あぁもうこれ何ヶ月ぶりだろう、こんな風にずらりと並んだ背表紙を眺めるのは! 楽しくて楽しくて全部の棚を眺めて回って、あぁ図鑑が欲しいなぁと思いつつ我慢して、でも絶対に次は買うぞと胸に誓った。

こんな風に外に出て、様々な品物を見て回るのがあまりにも久しぶりで新鮮だったから、ものすごい贅沢をしている気分になった。不思議だなぁ。かつてはいつでもできる普通のことだったのにね。

ケーキを買って帰ったら、注文していた通販の品が届いた。四半世紀も前に発売されたゲーム「ぷよぷよ通」のグッズがなんと今の時代に発売されることとなって、喜び勇んで買ったもの。七月末発送と聞いていたが、まさか誕生日の今日届くとは思わなかった。なんというタイミングだろうか。

そうして、過去の自分から届いたプレゼントに、ぷよぷよによって人生が良い意味で狂わされたオタクは狂喜乱舞したのであった。
見てくれ、この素晴らしさ。これが令和に手に入ったんだぜ?

Tシャツ!

タオル!

ドット絵のアクリルフィギュア!!

愛らしいグッズを眺めつつ一日の余韻に浸りながら赤ワインを開け、イチゴのタルトと白ブドウのタルトを食べて、その美味しさに悶えた。今ではもう、緊急地震速報に叩き起こされて良かったとさえ思う。何て充実した一日だったのだろう。楽しいなぁ、嬉しいなぁ。

あぁ、最高に楽しい誕生日だった。



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