不死鳥~十全(2013年5月25日)

非常に素晴らしいライブだった。

水戸さんのライブは今までにも何度か参戦したことがあったが、曲の盛り上がりのわりに観客が落ち着いていて、押しもほとんど無く、まったりと自分のスペースを確保しながら騒ぐことが出来る。それは快適でありつつも、いつも小さく物足りなさを感じていた。無論アコースティックライブでそれを求めることはしないが、バンドなら、この曲なら、こんなに格好良い曲なんだから! もっと弾けたい! と常々思っていた。

そして二十五周年記念のこの興行。当日券は若干数販売の大入り満員。己の整理番号は百番以内。入場後しばらく経つと後ろの方まで人人人。さらに、開演前にスタッフから、入り口付近が混雑しているので一歩ずつ前に詰めてください、とアナウンスがあった。

これはもしかして、今回はすごいんじゃないか?

予想は的中。ステージに水戸さんが現れた途端前へ押し寄せる人、そして「祈り」「すべての若き糞溜野郎ども」で初っ端から爆発する観客。やったよ! これを望んでいたんだよ! と心の中でガッツポーズをしながら、しかしいつもの様子を想定して来たと思われる、あのご年配の方は大丈夫だっただろうか、と右前方に立っていたご婦人を思ったが、気付けば自身もぐんぐん押され、あー念の為ロッカーに荷物を預けていて良かったと思いつつ、拳を振り上げ、押しに耐えながら力の限り叫んだ。

楽しかった。

水戸さんは冒頭で「デビュー二十五周年」なんて所詮自称だからね、デビュー二十五周年と言ったって、デビューする前から頑張ってるわけだから、ここをスタート地点と思っているわけでは無いと思う、と話し、二十五周年に駆けつけた観客に対し、皆キリの良い数字が好きだな! と茶化して笑っていたが、やっぱり二十五周年、四半世紀ってのはすごいよな、と思った。

これは後の方のMCだったが、水戸さん達がデビューした頃は四十代のロックミュージシャンなどいなかった、ロックは若い人の音楽で、それをいつまでもやっている姿など想像が付かなかった、だから今この世代のロックミュージシャンは前人未到の領域に到達しつつある、という内容のことを話していた。

会場には水戸さんと同年代か、それよりも少々下の人達が多く見られた。筋少よりも年齢層が高い印象を受けた。しかし若い人もたくさんいた。水戸さんではなく、ゲストを目当てに来た人もいるだろう。だがそのゲストも皆水戸さんとほぼ同年代。いわゆるアラフィフのロックミュージシャン達だ。

筋肉少女帯の大槻ケンヂ、レピッシュのMAGUMIに杉本恭一、人間椅子の和嶋慎治、そしてアンコールで飛び入り参加の橘高文彦。橘高さんは本日XYZ→Aのライブがあったが、終演後わざわざ水戸さんのために駆けつけてくれたのだ。水戸さんはそんな橘高さんに対し「律儀な子なので来てくれました!」と言って大喜びしていた。

各々が自分の音楽の道を歩みながら、その中で築かれた縁。二十五年間自身の道を進みながら築いていった縁。特に今回集まった人達に関して言えば、戦友であり盟友のようなものだよな、と思う。

自分は今年二十七歳。何も考えていない赤ん坊の頃から数えてようやく二十七年経つが、自我が芽生え、育ち、自立して生きていく二十五年はまだまだこの先にある。五十歳になったとき、己は自信を持って二十五年を振り返ることが出来るだろうか。特に自分は結婚をする気も無ければ子供を作る気も無いので、何の節目も迎えずに、だらだらと生活し続けてしまいそうな恐ろしさを若干抱いているのである。

などと思うのはあくまでもライブが終わって落ち着いてから。ライブ中はそれどころではなく、大いに盛り上がって楽しんだ。

今回一番グッと来たのは「ゴルゴダ」だ。「ゴルゴダ」はゲストでワジーが参加し、ギターを思いっきり弾き鳴らした。これが美しいのなんのって! また、あのワジーの独特の歌声が実に絶妙に合っていたのだ。「ゴルゴダ」はアンジーのアルバムでも聴いていたが、これはこんなに美しい曲だったのか………と驚きながら再認識させられた。直後にゲストで登場したオーケンが絶賛したのも納得である。

オーケンは「蝿の王様」「31のブルース」を歌ったが、MCも出番の一つとして数えられていたのではないか、と思うほどよく喋った。MCの内容は主に「ミミズ」の話。水戸さんはオーケンに「ミミズ」を歌ってほしいと依頼したが、「生理的に受け付けない」という理由で断られたというもの。ここだけ聞くとオーケンがひどい人のようだが、「生理的に受け付けない」理由は曲がどうこうじゃなくて、「ミミズ」という生き物自体がどうしても苦手なためとのこと。オーケン曰く、「ミミズ」という言葉を口にするのも耐え難いそうで、「ミミズは畑を耕しているんだよ!」「役に立っているんだよ!」と水戸さんが言うたび、顔をくしゃくしゃにしてイヤイヤしていた。

いやーでもオーケンのミミズ聴きたかったなぁ。オーケンは女言葉のボーカルが合うから、絶対ぴったりだと思うんだよなぁ。

あと面白かったのが、オーケンがステージに登場するや否や、オーケンは水戸さんに「今日人見知り大丈夫?」と心配されていた。何でも数ヶ月会わないと人見知りしてしまうらしい。だが今回のオーケンは自信満々。「ワジーとは一緒にバンド(白髪鬼)やってるから大丈夫だよぉ!」とニコニコしていたが、あろうことか内田さんに対し人見知りを発動していた。内田さんに「一昨日会ったよ」と言われるとパァッと顔を綻ばせて「そうだぁ!一昨日会ったねぇ!」と元気になっていたが、三十年以上付き合っている幼馴染くらい慣れてくれよと思わざるを得なかった、例えネタだしとしても。

「蝿の王様」では「銭ゲバ!」と叫び、「31のブルース」では「ヘイユウブルース」を熱唱し、オーケンは退場。まさか不死鳥のライブでヘイユウブルースを聴くとは思わなかったのでびっくりした。オーケン本当にヘイユウブルース好きだなぁ。

「天井裏から愛をこめて」を中盤にやり、大盛り上がりの後MC。今はアコースティックとバンドを半々くらいでやっている。アコースティックは若い頃には出来なかったこと。でも、出来るか出来ないかは別として、自分の中ではまだまだ「やりたい」気持ちがある。そして今回二十五周年記念ライブをやるにあたり、一番やりたいことがあった。

と言って始まる次の曲は、重たいベースの音が地響きのように振動する曲。「ミミズ」だ!

中盤で天井裏をやるのはもったいないんじゃないか、と思った自分が愚かだった。まさかの「ミミズ」「¥10」「分解マニア」「バンビはどこだ」のメドレー! このあたりはほんっとうに……楽しかった!!

本編ラストは「袋小路で会いましょう」。良い曲だが、「え、二十五周年の本編ラストで袋小路………」と思ったのも本当の話。

和やかに終わってアンコール。アンコールでは内田さんが帽子を脱いで、不死鳥バンダナを頭に巻いて登場。アンコールの曲は何だったか。楽しすぎて忘れてしまった。

そしてダブルアンコールでは橘高さんが駆けつけてくれたってんだから驚きだ! ギターも持たずに歌うために駆けつけたギターヒーローを大笑いするオーケン。完全にリラックスしている(ように見える)オーケンは自身の携帯電話を取り出して記念写真を撮影。写真は公開せず、待ち受けにすると言い張っていたが、ちゃんと大ブログにアップしてくれていた。

最後は全員で「素晴らしい僕ら」を熱唱。この曲はとにかく何もかもを全肯定してくれる多幸感がある。それこそ「金もないコネもない体は病弱で頭も悪い」どうしようもない人間も「素晴らしい」と言い切ってくれる。現実的でシビアな歌を多く歌う水戸さんが歌うからこそ、グッと来る歌である。ただ違和感もあった。とても有難い曲だけど、どうしてそこまで言い切ってくれるんだろう? と言うような。

もし同じ疑問を抱く人がいるなら、「不死鳥Rec.」のインタビューに「素晴らしい僕ら」に対する水戸さんの思いが語られているので是非ご覧頂きたい。ライブはあまりに盛り上がりすぎて、途中後方の人の歌声ばかりが耳に入って水戸さんやゲストの声が聴こえないことすらあったが、それもどうでも良くなるくらい夢中になってしまった。「一緒に歌おう」と促されたところでは大声を出し、アンコールも全力で叫んだので咽喉が枯れてしまっている。その結果がまた嬉しい。

「二十五周年を半分と考えて、五十周年を目指すから、お前ら死ぬなよ!」と言い切る水戸さんはバツグンに格好良く、頼もしかった。三十年、三十五年どころか五十年! 何て有難いんだろうか! はまったミュージシャンのほとんどが、二十も三十も年上なので尚更嬉しい。たまに、あと何年この人達の活動を見られるのだろうか、と思わされてしまうから。例えリップサービスだとしても、すごく喜んでしまうのである。

終演後には水戸さんがサイン会を開いてくれて、一言二言お話しする時間があったのだが、そのとき初めて自分の声がガラガラになっていることに気付かされた。水戸さんの手は大きくて温かかった。

日記録3杯, 不死鳥, 水戸華之介, 非日常