好きな音楽
2018年4月23日(月) 緑茶カウント:2杯
好きであることと詳しいことはイコールではなく、好きだからこそ興味の範囲が狭いということは往々にしてある。ところがそこで、好き、イコール対象の全てに興味があり、その話題なら何でも好きと思われるとなかなかしんどい。
髪に切りに出かけたところ美容師との会話の中で音楽が話題に上った。休日はよくライブに行くと話したためだ。すると美容師は水を得た魚のように、それはもう嬉しそうに好きな音楽について語り出した。美容師の好きな音楽はファッションビルでよくかかっている、海外の有名ミュージシャンの曲……らしい。
そこからが辛かった。「○○って知ってるでしょ? え? 知らない? 絶対知ってるよ~聴いたら絶対わかるから! ほらここでもよくかけてるやつだって。すっごく人気で~私も大好きで、それでねあれでね云々かんぬん、youtubeに上がってるから聴いてみてよ! 音楽が好きなら絶対好きになるから!」
簡潔にまとめたが、実際はこの十倍の熱量と文量であった。立て板に水とはまさにこのこと。美容師のよく回る舌の前で辟易しながら「いや、音楽全般が好きなわけではなくて、ものすごく好きな音楽が一部あるだけなんで……」と己は答えた。むしろそれ以外にはあまり興味がなく、人に勧められるのが苦手で勧められた時点で絶対に聴かないから無意味ですよ、とまでは流石に続けなかったが飲み込んだ言葉は腹の底に溜まった。
しかし美容師のトークは止まらず、その楽しげな様子を見て思ったことはこんなにも自信を持って人に勧められるのはある意味うらやましいということ。きっとこの人は好きな音楽の話題を出すとき、どこから話そうか、どの程度なら話を聞いてもらえるだろうか、と逡巡したことがないのだろう。
試しに己もマシンガントークを繰り広げてみるかな、と思いつつも実行には移さず、壁をぼーっと眺めて過ごした。語り続ける美容師はいつまでも楽しげだった。