「ドラ松CD」の違和感と困惑の味わい

2016年5月31日(火) 緑茶カウント:4杯

おそ松さんにはまってはや半年以上。「面白いよ」と教えてもらって三話から観始め、若干引いたり恐怖したり価値観が揺さぶられてぐらぐらして気持ち悪くなったりしつつものめりこんでいき、気付けばブルーレイディスクを購入し、主題歌のCD、おそ松さんの情報が掲載されている各種雑誌にまで手を出し、最近ではグッズまでちょこちょこ集めるようになってしまった。「アニメージュ」「PASH!」「マーガレット」「TVブロス」「anan」……どれもおそ松さんにはまらなかったら手に取ることがなかっただろう。そう考えると出会いというのは面白い。

そしてもう一つ手にしたものがあった。「お仕事体験ドラ松シリーズ」と銘打たれたドラマCDである。ニートの六つ子達が二人一組になって職業体験をするというコンセプトで、それぞれ組む相手も職業も異なり、全部で七タイトル発売されるという。

当初己はこの「ドラ松」を買う予定はなかった。過去に漫画のドラマCDを買ったことがあり、面白くはあったのだが、情景描写が全て口で説明されることに違和感があり、それがどうにも聴いていて気恥ずかしかった経験があるためである。よって、「ドラマCDはまぁいっかな」とスルーしていたのだが、先月「おそ松さん」のブルーレイディスク第四巻を買いに行ったとき、隣に並べられていたドラマCDのジャケットイラストが妙にツボにはまって大笑いしそうになり、ノリで買ってしまったのだった。

買ったのはおそ松とチョロ松が組む「TVプロデューサー」。で、買ったので聴いたわけだよ。

そしてさらに翌月。カラ松と一松が組む「弁護士」が発売されたので購入したのだよ。で、聴いたわけなのだよ。

発売されている四枚の中で己が聴いたのは二枚だけだが、これはなかなか、変わったCDかもしれない。というのも、恐らく制作側が期待しているのとは異なる楽しみ方を己はしているのである。

この二枚のCDに共通するのは、どちらも「キャラクターの人格がなんか違うこと」である。特におそ松とカラ松。中でもカラ松は顕著である。おそ松は何もかもを自分にとって都合の良い方向に解釈する天然ボケに姿を変じ、カラ松に至ってはまるで別人である。そして何より面白いのが、本編が終わったあとのフリートークで、キャラクターを演じた役者が困惑していることである。

「おそ松とチョロ松」のフリートークでは、おそ松役の櫻井孝宏は「こんなんだっけと思う瞬間があった」「俺は(おそ松というよりも)やや十四松だった」と語り、「カラ松と一松」のフリートークでは、カラ松役の中村悠一は「弁護士だからあんなに喋るのかな……?」「ああやって(ドラマCDの中で)声を荒げたりしたの初めてだったからある意味新鮮だった」と話す。そしてそれぞれの役者がフリートークの中で、アニメとのキャラクターの人格の違いを解釈しようとあれこれ考えながら話すのである。

前述したが、カラ松のキャラの変わりようは特にすごい。アニメではあまり喋らず、何かイタイことを言えば兄弟にスルーされ、自分が悪くなくても相手に強く出られると押し負けてしまう。例外はあるものの、基本的に兄弟に対して暴力的な行動をとらない。

そのカラ松が、特に意味もなくバッシバッシと豪快に一松をビンタをしまくり、さらにビンタをしながら「うえーへへへへー」と笑い、ひたすら叫びつつ揶揄と罵倒を繰り返し、ことあるごとに一松の死刑を求刑するのだからすごい。お前どうしたの? 頭でも打ったの? どうしたらこうなるんだ? と疑問符ばかりが頭上に浮かぶ。

思うに、カラ松はコントに向かないキャラクターなのだろう。フリートークでも言及されているが、カラ松は何かイタイことを言って、兄弟にスルーされるキャラクターである。つまり基本的に会話が成立しないので、コントになりえないのである。よって、どうにかコントを作ろうとすると、カラ松がイタイことを言ってもスルーされなかったり、スルーされても負けずに自らどんどん喋り出したり、自らどんどん動く必要が生じてしまうのである。結果、カラ松とは別人のキャラクターになってしまい、演者も購入者も困惑するのだ。

あとは「型」の問題。「職業体験」をテーマにCDによってそれぞれの職業が設定されていて、その職業をもとに物語が展開するのだが、どうにも物語を展開させるためにキャラクターの方を押しはめてしまった印象を受ける。キャラクターの個性あっての物語ではなく、職業あっての物語が用意されているのだ。

また、「職業体験」と銘打たれているものの、「ニートの六つ子が職業を体験する」内容ではなく、「六つ子が該当の職業に従事している人を演じている」内容なのも違和感の一つだろう。そもそも、テーマと内容が乖離しているのである。

結果、出来上がったのは「こいつこんなキャラだっけ……?」という違和感と、恐らく違和感を解消しきれないまま演じたと思われる役者の困惑が封じ込められたCDである。こんなに困惑をありのままにパッケージングした作品はあまり見たことがなく、そこが実に奇妙な味わいで面白い。

本編のはずの物語は、この困惑を味わわせるために用意された前菜なのかもしれない。そうして己は、決して満足していないはずなのに、その「妙味」を求めてまた買ってしまう未来が見えるのである。

だって変だぜ、このCD。



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