「感覚」を与えてくれた人

2015年11月30日(月) 緑茶カウント:1杯

あまりにも悲しい。

縁起でもないことだが、思っていたんだ。もしも水木しげるに何かあっても、きっと彼は生きる世界が変わっただけと捉えられるはずだって。人間でありながら妖怪になりかけているように感じられていたその人なら、きっとあっちの世界でも楽しくのんびり暮らし、たまにこっちの世界に遊びに来てくれるんじゃないかと。だからきっと、そんなに悲しみを感じることはないんじゃないかな。お疲れ様でした、ありがとうと、見送ることが出来るんじゃないかな。

しかしどうだろう。訃報を目にした直後は信じられない気持ちでいっぱいで、信じたくない気持ちでいっぱいで。己は出先に知ったので、家に帰りパソコンをつけてニュースを検索すればトップに記事が掲載されていて。座ったまま、呆然として動けなくなって、悲しみが溢れてきてたまらなかった。心の大事なところが失われたような気さえした。

子供の頃、家にあったゲゲゲの鬼太郎の文庫本を読んだ。地獄の風景を覗ける石の形をしたテレビ、だるまの群れ、悪魔ベリアルが印象的だった。妖怪図鑑のページをドキドキしながらめくった。レンタルビデオ店で借りてもらった第三期ゲゲゲの鬼太郎に夢中になった。暗闇に妖怪がいることと、妖怪を感じることを水木しげるは教えてくれた。

大学生になったとき墓場鬼太郎のアニメが始まり、同時期に第四期ゲゲゲの鬼太郎のDVDボックスが発売された。ある程度自由になるお金を手にしていたので、この頃から水木しげるの本を集め始めた。実家のどこかにあるものと、今まで読んだことがなかったものと、実家にあるけど手元におきたい本と。アニメのDVDボックスを買ったのも鬼太郎が初めてだ。こんな高額の買い物をしてしまうなんて、とドキドキしつつ満足感を得ていた。

今も暗闇には妖怪がいる。電灯が明るく夜を照らしていても妖怪は陰に潜んでいる。その感覚を教わったおかげで、自分はたくさんの楽しみに出会うことが出来た。己の「感覚」に大きな影響を与えてくれた人だった。

きっと今は、鬼太郎やねずみ男達とあの世の散歩を楽しんでいるに違いない。けれど、ただただ、今はとても、悲しい。
水木しげる先生、妖怪の感覚を教えていただきありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。



日記録1杯, 日常