二泊三日で京都旅行 3
京都旅行三日目。新幹線の時刻はおよそ三時半。ということで駅への集合時間を三時間に設定し、それまでは各々好きなところで好きに過ごすことになった。
さーて、ではどうするか。まぁ、せっかく銀を観たんだから金も行ってみようかな、ってことで、金閣寺に行きたい組三人で、昨日と同じく一日乗り放題の五百円のバス券を購入し、いざ金閣寺を目指すことにした。
宿でチェックアウトを済ませ、駅のロッカーに荷物を預けてからバス乗り場に向かう。だが、チェックアウトを済ませる前、サービスでいただいたコーヒー券を使っておくかとロビーでコーヒーを飲みつつ妄想トークに華を咲かせていたら思わぬ時間の浪費。しかもここから金閣寺まではバスで三十分以上かかる。結果、余裕を持って見積もると金閣寺には一時間ほどしかいられなくなってしまった。
「一時間じゃさっと回るしかないよな」
「あんまりゆっくりはできないね」
「金閣寺本体を観たらそれで良しということにしよう」
人間なら遅刻しても待ってくれるが新幹線は待ってくれない。一同バスに乗り込んで、絶対に長居をしない誓いを立てた。ちなみに我々以外のメンバーは一組は河原町に買い物に行き、もう一組はビル内のゲーセンに行って遊んできたそうである。ゲーセンに行ったのは二日目にサイゼリヤとメロンブックスと京アニを満喫した例の奴である。こいつすげぇよ。
ガタゴトと揺られつつ、乗り換えもなく、ひたすら座ってりゃ目的地に着くんだからこんなに楽なことはない、と思いながら車窓を眺めていたが、思わぬ苦痛が待ち受けていた。しまった。大人になってからは丈夫になったせいか昔ほどなりづらくなったのだが、今日は寝不足、旅の疲れもある。こうなってもおかしくないコンディションだ。
苦痛とは何か。あれだ。バス酔いした。
ぬかった…。子供の頃は常に酔い止めを携帯していたが現在は持ち歩いていない。あぁ、できることならこの場でバスを降りてしまいたい。一人だったらそれもできるが団体行動では迷惑がかかる。それに今ここで降りたところで後はどうするのだ。帰るにもまたバスに乗らなければならない。とはいえ辛い。気持ち悪い。だんだんじわじわと吐き気が感じられてくる。金閣寺はまだか。まだだよ。あぁ、せめて話し相手がいれば気が紛れるのに、バラバラの席に座ってしまったからなぁ。隣のおっさんは知らない人だ。知らない人とフレンドリーに語り合う気力体力は残っていない。
「次は金閣寺」というアナウンスを聴いたときの安堵感は計り知れない。ふらふらしながらバスから降りて新鮮な空気を胸に吸っていると、友人の一人もバス酔いしたことを告白していた。彼は宴会中に突然眠りに着き、二時間ほど経ってから目を覚まして、それからずっと朝まで起きて喋っていた。昼寝ならぬ夜寝をとったとは言えやはり疲れていたのだろう。もう一人は元気そうだった。

本日は雲はあるものの雨が降ることはなく、時折青空も見えたりして三日間で一番良い天気だった。靴が濡れないのも嬉しいが、傘を差す必要がないってことが何より嬉しい。あっちこっちに引っかかりそうになってやはりどうしても邪魔になるのだ。写真を撮るにも苦労するしね。
じゃあ拝観料を払って中に入ろうかとしたところで、一人のおっちゃんに呼び止められた。話を聞くと、ずっと解体工事をしていた金閣寺方丈を今なら特別拝観できるので観て行かないかとのことである。おっちゃんは受付の人らしい。それは運が良い! 我々は迷いもせず中に入ることに決めた。


中に入ってからは係の人が案内をしてくれた。方丈内は撮影禁止だが、方丈から外を撮るのは大丈夫とのことで庭の写真を撮らせていただく。もっと光が差しているときに撮れれば良かったがうまくタイミングがとれなかった。
係の人の解説は丁寧で、杉戸絵の複製の話などもしていただいたのだが、あいにく全部聴いていたら時間が無くなりそうだったので勿体無く思いつつも簡単に見て回らせてもらった。うーん、ロビーでの妄想トークが仇となったな。
外を出て、今度は「金閣寺」の拝観料を払って中に入る。この時点で残り四十分ほどしかない。まぁ、最悪金閣寺を観たら引き返してバス乗り場に戻ろうと話をしたが、そんなことができないだろうことは既に予想がついていた。早足になろうが駆け足になろうが、絶対全部見て回るよな、我々は。

さぁお目当ての金閣寺だ! こいつを見れば今日は万事オーケーの予定である。このあたりから、雲が少なくなって青空がだんだんと顔を出してくるようになった。良いタイミングだ。日頃の行いが良かったかな。
水面に映りこむ金閣寺の影が美しい。

中学の頃にも一度観たはずだが、金閣寺ってこんなに美しかっただろうが。キラキラしてるだけの成金趣味のようなイメージがあったが、本物を目の前にして見事なほどに覆された。いや、中学の時にも目の前にしたはずだが例の如く全く覚えていない。そもそも金閣寺の敷地内がこんなに広いなどとすら思ってもみなかった。一回来たはずなんだがなぁ。
キンキラキンなのに嫌らしさが全く感じられないのは何故だろう。寺だから無くて当たり前だが、ここに朱色の鳥居が交ざってきたら途端にバランスが崩れるな、と想像する。鳥居が自然に溶け込むように金閣寺も風景に溶け込んでいるのは、それがただ一つの「異色」であるせいかもしれない。一つだからこそ風景もそれに順応し、互いに相手の色を生かそうとするのだ。


バスに乗る前、ちょうど昼飯の時間になるから金閣寺周辺で何か腹に入れようと言っていたが、そんな時間をとる暇はなかった。やはり途中で引き返すことなどできずに、カメラを片手に先へ先へと進んでいく。その歩みも急がねばと脳ではわかっているのにのろいもので、時計を気にしつつ、しかし何度も立ち止まっては周囲の光景を眺めていた。

空も真っ青だ!


特に写真を趣味とする友人は大層喜んでいて、時間が不味いとわかりつつも立ち止まらないではいられない様子で、でっかいカメラを構えては「パネェ! マジパネェ!」とわざと馬鹿な若者言葉を真似して興奮していた。それを聞いて面白がったもう一人もその口調を真似し、自分は二人が普段そのような言葉遣いをしないことを知っていたため「ばかだなー」と笑えたが、まー、よその人から見りゃ我々こそがただの馬鹿な若者だよな。はっはっは。
出来ることならもっとゆっくりしていたかったが新幹線は待ってはくれない。最後に警備の人に頼んで三人の写真を撮ってもらい、腹に何も入れないまま大急ぎでバスに乗り、また酔った。知ってるかい? 満腹でバスに乗っても危ないが、空腹でも酔いは来るんだぜ…。だが、今回は三人並んで座れたため、多少は気を紛らわすことができたので行きよりは多少楽だった、気がする。
何とか集合時間までに到着することができ、土産と弁当を購入して新幹線に乗った。買ったのはボリュームたっぷりトンカツ弁当である。依然として気持ちの悪さが続いていたが、バスから降りた後であるし、もしかしたらこれは空腹が原因の一つなのかもしれない。何か食べた方が良いだろうと思ってのことだ。ではいただきます。
蓋を開け、ソースをかけ、ごはんを一口食べて、また蓋をした。やっぱトンカツ弁当は無かったわ。
遅い昼飯はそのまま夕飯にすることにして、たっぷり遊んで疲れた我々は案の定新幹線で眠りに落ちた。自分の場合は車酔いを忘れるために寝ざるを得ないところもあったが、同じことだ。降車駅に到着する一つ前の駅でぽつぽつと目を覚まし、両隣の友人とデジカメ内の写真を見るなどして旅の感想を語り合った。
到着後は即解散。だが、同じ電車に乗る者も多いのですぐに一人になることはない。途中途中で降りていく友人を見送って、最後一人電車の中でふっと息を吐いた。楽しい旅行だった。次に会うのは卒業式か。
2← / 戻る
|